この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

39.それぞれの道

南の風がすり抜ける。


キャンパスは一年で最も多くの人でにぎわう。
桜の花びらが頬を撫で、新しい門出を祝いながら夢を見る。
希望に満ちたその輝きは、どんなに錆びれた心をも高揚とさせてくれる。




新学期。
俺は、三年生となった。
このキャンパスでこの雰囲気を感じるのは三回目だ。
いい加減慣れてくるとも思ったが、やはり俺は春が好きみたいだ。
逆に後一度しか味わえないと思うと、胸が張り裂けそうなぐらい切なくなってくる。


そういえば、今年から就職活動をしなければならない。
この二年間遊びつくしてきたかどうか思い返してみても、どうにも自信がなかった。
まだまだ遊びたい盛りだったし、自分が社会人になることなんて想像することもできない。


それでも確実に時は経つ。
自分の意思とは関係なく、俺達は年を重ね続けなければならない。






大人になることがこんなにも簡単なことだったなんて、あの頃は思いもしなかったんだ。






「お、久しぶり」


「おぅ、総ちゃん!久しぶり」




校門から伸びる赤レンガに彩られた道。
その先に佇む大きな木の下のベンチで彼は待っていた。




「春だねぇ」


「気持ちいいな、ポカポカとした陽気が。総ちゃんなんか余計眠くなるんだろう?」


「よくわかったじゃん」


「もう何年の付き合いだと思ってんの?三年目突入だよ俺等?」


「なんかそれ、恋人同士の年数の数え方みたい」


「似たようなもんじゃん」


「キモーイ」




お互いの笑い声さえも、春の風には流されてしまう。
空を飛ぶような感覚で、いつものようにくだらない雑談をしながら歩き出す。




まずは三号館に行って、履修計画を立てるための時間割などを受け取りにいかなければならない。
その後は指定された四号館の教室に行ってガイダンスだ。
そんな面倒なことも、この季節だからこそ楽しんでやることができる。


それも三回目となれば慣れたもので、体は自然とその歩みを早める。
特に講義の絶対数が減ったので、以前とは比べ物にならないほど履修計画が楽だ。




「今年はもう就活だねぇ」


「あ、俺は就活しないから」


「え!そうなの?」




予想外の総ちゃんの答えに俺は少し大きな声で反応してしまった。




「うん。起業しようと思って」


「へ~!そうなんだぁ。すごいな、頑張れよ」


「ありがとう」




こんなにボ~っとしていても、ちゃんと考えているんだなぁと妙に感心してしまった。
俺も負けてられない。
みんなそれぞれ、自分の歩む先を見つめている。


小一時間でガイダンスが終わる。
総ちゃんを含めた何人かの仲間達と、近くのファミレスで一緒に履修計画を立てることにした。
皆、足並みを揃えて校門の方へ歩き出す。

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