この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

25.扉の先

そんな俺のイライラを吹き飛ばすかのように、講義終了を告げるチャイムが鳴り響く。
一瞬にして俺の思考は切り替わった。


ついに、この瞬間が来た。


何を話そう。
どんな言葉を語りかけよう。
いやそれよりも、どんな顔をして会えばいいのだろう。


とりあえず、講師室に向かわなければ。
幸い今回は総ちゃんがいないので、自分の行動を他人に関知される心配はない。
俺と彼女が会うことは、なるべく他人には知られない方がいい。


そう思っていた俺は、人目を忍ぶような気持ちで講師室へ向かった。
悪いことをしているわけでもないのに、妙な気分だ。


講師室というのは、本館の二階にあった。
普段ジェンダー論の講義が行われているのが四号館。
この二つの建物は、ちょうど中庭と呼ばれる大きなグラウンドを挟んで斜めに位置している。


この中庭というのが実は厄介で、普段使用しない人にとっては邪魔以外の何物でもない。
百メートル四方の鉄網に囲まれたグラウンドは砂嵐を発生させ、通る度に服を汚してくれる。
目に砂は入るし、当然のことながら横切ることもできない。
さらには、事前に申請しないと使用することができないので、一年以上この学校に通っている俺も使用したことがないという代物だ。


そんな中庭を横目に、大回りをしながら本館に向かう。巻き上げられる砂をなんとか避けようとするが、無駄な努力であることにすぐに気付いた。


本館は、滅多に来ることがない。
一階に学生課と教務課があるので用がある時は使用するが、それ以外にはこの場所に訪れる機会がない。
理事長室や校長室、何かしらの実習室などが立ち並んでいるが、普段の行動範囲に組み込まれていない場所なので、一階以上に昇るのがとても新鮮だ。
太陽の光をいとも簡単に跳ね返す硬質の外観は、古めかしさを残した他の建物とは明らかに一線をかしている。


あまり人通りのないその場所では、聞き慣れた自分の靴の音がいつもより大きく聞こえる。
すれ違う人がいようものなら、反射的に体中の細胞が萎縮してしまう。


茶色い大きな扉には、開けていいのかすらわからない雰囲気が漂っていた。
一応ノックを試みるが、その行為にどれほどの意味があったのだろうか。


返事がないので、恐る恐るドアノブを捻る。
ホラー映画にありがちな音をたてて扉は開かれた。

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