この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

23.告白

『十一月十一日配布のコメント集四十三番の方へ。貴方の勇気に敬服します。貴方がこのコメント集にその事実を公表したことで、そのような現実本当に身近で起こっていることを改めて知って、ただ驚き、考えさせられました。おそらくここにいる誰もがそう思ったはずです。私も貴方の勇気を見習い、告白したいと思います。私は男ですが、男だからといって安全と考えるのは間違いです。私は中一の時、男に刃物でおどされて、性行為を強要されたことがあります。私の性器はその男の口や手でしごかれ、そこで私は人生ではじめての射精をしました。私は最後まで強要されましたが、それだけは死んでも嫌だったのでスキを見計らって必死で逃げました。そのまま直接交番に駆け込みましたが、いまだに犯人は見つかっていません。その時の傷は、いまだに私の心の奥底に深く根付いています。もしあの時、逃げるという選択をせずに相手の要求に最後まで応じていたら、今私はここにはいないと思います。(二年男)』






















自分の書いたコメントを、もう一度読み返してみた。


全く、お人好しもいいところだ。
彼女の告白に刺激されて、自分の体験談も書いてしまうとは。
今考えると自分の行動が不思議で仕方ない。
そのお人好しの行動がもたらした、彼女と会うという結果を良しとするべきなのか否か。
そればっかりは、神様にだってわからないのではないだろうか。


それにしても総ちゃんの勘の鋭さには驚かされたな。
誰にはバレたくなかった俺は、わざわざ先生に頼んで「哲学科」という部分を省いてもらったのに。
「二年男」というキーワードと、文体だけで俺が書いたコメントと見抜いたのだから。
まぁ確かに、昔から俺の文体には癖があると言われていたが…。


だけど、意外と後悔はしていなかった。


確かに、彼女と会うことが恐くないと言ったら嘘になる。
自分が隠し続けてきた傷が、どうなってしまうのか全く予想できなかったからだ。
だけどそれ以上に、この傷に変化を与える良いチャンスだと思った。
いつまでも心の奥底に抱えているのも嫌だったし、どうせ完全に忘れることなんてできやしないのだから。


かさぶたが剥がれ、出血多量で死ぬか。


それとも?












…それも、一興か。




それにしても今日のジェンダー論の講義は終わるのが遅い。
いつもと同じ時間しか行っていないはずなのに、三十分が一時間、一時間が二時間程の長さに感じる。


俺は彼女と会うことを、楽しみにしているのか?


正直、自分の気持ちはわからなかった。
だけどこの体で感じる時の流れの遅さが、俺の深層心理を表している気がする。






俺がもし女だったら、もっと彼女の気持ちを深く理解できただろうか。



コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品