この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい
22.予想外の出来事
坂本講師からの電話がかかってきたのは、俺のあのコメントが掲載された日だった。
深い眠りの森に迷い込みそうになっていた俺を呼び起こすように、見慣れない番号が俺の携帯の画面に表示されていた。
「ふぁい…もしもし?」
「もしもし、お休み中だったかしら。こちら雨宮透君の番号でよろしいかしら?」
「あ…はい」
見慣れない番号の持ち主は、聞き慣れた声をしていた。
「こんな時間にごめんなさいね。私はジェンダー論の講師の坂本です。わかるかしら?」
「はい。えっと、何の御用でしょうか?」
なんで先生から電話がかかってくるのだろう。
そもそも、どうやって俺の番号を知ったのだ?
あ、そうか…そういえば、いつかの講義の後に自分のアドレスと番号を書いたっけ。
それでも、俺なんかに用事がある理由が全く思い当たらない。
「いつもコメントありがとうね。実は、今日掲載されたあなたのコメントがあったでしょう?あれを見た例の子が、どうしてもあなたに一目会いたいって私に言ってきて…」
え?
「それでね、あなたさえよければ、来週の講義の後にでも二人で会ってみてあげてくれないかしら。もちろん私としても、そう言ってきたのが男性の方だったならそういったお引き合わせには応じられないのだけど、今回の場合は女性の方からだったから」
なんだって?
「…こっちは、構いませんけど」
「そう、良かった。先方にもそう伝えておくわね。それじゃあ来週の講義の後、講師室まで来てくれるかしら」
「わかりました。それでは失礼いたします」
自分の口が発する言葉とは裏腹に、頭の中は全く今の状況を把握していなかった。
「えぇ、よろしくお願いします。夜分遅くに失礼しました」
プー、プー、という電子音が、頭の中を通り抜ける。
まだ完全に目の覚めていない俺にとって、その電話を現実なのか夢なのか判断するにはまだ時間が必要だった。
俺に会いたいと言っている?
誰が?
彼女が?
思考をフル回転させて、先ほどの電話の内容を反芻する。
言った。
確かに言った。
彼女が俺に会いたいと言っていると。
来週の講義の後、お引き合わせしたいと。
なんで俺に?
確かに、俺の書いたコメントは他人に書けるような内容のものじゃない。
自分の体験を元にした、彼女と同じ告白文だ。
だけどこんな展開になるなんてまるで予想していない。
あれを書いたのはただの気まぐれにすぎなかったし、彼女に御礼を言われたくて書いたわけでもない。
ある意味それは自己満足に近かった。
俺は混乱した。
自分の行動が想像以上の結果をもたらしたことに、恐怖すら覚えた。
俺は混乱した。
彼女と会うことを考えるだけで、自分の傷から血が滲み出す気さえした。
それでもなぜか俺の心は、高揚していた。
会おう。
傷が開いたっていいじゃないか。
血が滲んだっていいじゃないか。
彼女の真新しい傷に比べれば、こんな古傷の痛みなどなんてことはない。
会おう。
それで彼女の傷を少しでも癒せるのなら。
少しでも彼女の支えになれるのなら。
大丈夫だ。血があふれ出したら、この手で抑えればいい。しっかりと握り締めればいい。
大丈夫だ。
深い眠りの森に迷い込みそうになっていた俺を呼び起こすように、見慣れない番号が俺の携帯の画面に表示されていた。
「ふぁい…もしもし?」
「もしもし、お休み中だったかしら。こちら雨宮透君の番号でよろしいかしら?」
「あ…はい」
見慣れない番号の持ち主は、聞き慣れた声をしていた。
「こんな時間にごめんなさいね。私はジェンダー論の講師の坂本です。わかるかしら?」
「はい。えっと、何の御用でしょうか?」
なんで先生から電話がかかってくるのだろう。
そもそも、どうやって俺の番号を知ったのだ?
あ、そうか…そういえば、いつかの講義の後に自分のアドレスと番号を書いたっけ。
それでも、俺なんかに用事がある理由が全く思い当たらない。
「いつもコメントありがとうね。実は、今日掲載されたあなたのコメントがあったでしょう?あれを見た例の子が、どうしてもあなたに一目会いたいって私に言ってきて…」
え?
「それでね、あなたさえよければ、来週の講義の後にでも二人で会ってみてあげてくれないかしら。もちろん私としても、そう言ってきたのが男性の方だったならそういったお引き合わせには応じられないのだけど、今回の場合は女性の方からだったから」
なんだって?
「…こっちは、構いませんけど」
「そう、良かった。先方にもそう伝えておくわね。それじゃあ来週の講義の後、講師室まで来てくれるかしら」
「わかりました。それでは失礼いたします」
自分の口が発する言葉とは裏腹に、頭の中は全く今の状況を把握していなかった。
「えぇ、よろしくお願いします。夜分遅くに失礼しました」
プー、プー、という電子音が、頭の中を通り抜ける。
まだ完全に目の覚めていない俺にとって、その電話を現実なのか夢なのか判断するにはまだ時間が必要だった。
俺に会いたいと言っている?
誰が?
彼女が?
思考をフル回転させて、先ほどの電話の内容を反芻する。
言った。
確かに言った。
彼女が俺に会いたいと言っていると。
来週の講義の後、お引き合わせしたいと。
なんで俺に?
確かに、俺の書いたコメントは他人に書けるような内容のものじゃない。
自分の体験を元にした、彼女と同じ告白文だ。
だけどこんな展開になるなんてまるで予想していない。
あれを書いたのはただの気まぐれにすぎなかったし、彼女に御礼を言われたくて書いたわけでもない。
ある意味それは自己満足に近かった。
俺は混乱した。
自分の行動が想像以上の結果をもたらしたことに、恐怖すら覚えた。
俺は混乱した。
彼女と会うことを考えるだけで、自分の傷から血が滲み出す気さえした。
それでもなぜか俺の心は、高揚していた。
会おう。
傷が開いたっていいじゃないか。
血が滲んだっていいじゃないか。
彼女の真新しい傷に比べれば、こんな古傷の痛みなどなんてことはない。
会おう。
それで彼女の傷を少しでも癒せるのなら。
少しでも彼女の支えになれるのなら。
大丈夫だ。血があふれ出したら、この手で抑えればいい。しっかりと握り締めればいい。
大丈夫だ。
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