この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

18.灰人と廃人

ちょうど夕日の日差しが頬を染める頃に、自宅の扉を開いた。




さて、今日は何をしよう。
いつものことだが、俺は家に帰っても特にすることがない。
音楽を聴くわけでもなければパソコンも滅多に開かない。


趣味というものがないのだ。
読書はそれなりに嗜んでいたが、本を読むのは通学中の電車の中だけと自分の中で勝手に決めていた。


テレビは好きだったが、ゴールデンタイム以前のテレビにはまるで興味がわかない。
つまり、夕飯までの時間をどう潰すかが俺の人生の暇つぶしの鍵となる。いっそのことバイトに入る日を増やそうか。でも、それもダルイな。






そういえば俺はいつも何をして過ごしているのだろう、とふと不思議に疑問に駆られる。






俺は自分の生活も認識していないのか。
だけど、なぜか思い出せない。
こういうものは気になりだすと思考が止まらなくなる。


物事というのは、意識をすると途端にうまくいかなくなる。
自然な行為が不自然になり、当然結果も伴わない。
意識する分、なおさらその結果を気にしてしまう。


漫画でも読もうか。
いやしかし、所持している漫画はもう見飽きている。ならば漫画喫茶でも行こうか。でもお金がない。今からまた外出するのも面倒だ。とりあえずベッドに横たわろう。






こうして俺の日々は過ぎていく。


ダルイ、退屈、面倒。
俺の人生を象徴する三大キーワードだ。
楽しいことはもちろんある。
特に、気の合う友達と馬鹿話している時は時間を忘れられる。


だけど、それだけだ。
そんなものは一過性の幸福にしか過ぎないし、永遠に続くわけがない。
そもそも、ただ楽しければいいだけというわけではないのだ。


俺はいったい、何を求めているのだろう。
何かを渇望しているのは自分の中でもわかっていた。
しかし、何に渇いているのかが全くわからなかったのだ。


いつだって「何かが違う」という言葉が頭から離れなかった。
こう見えて、元々は努力家の性格だ。
高校の時までは定期試験のために二週間前から一日十時間は勉強していた。
勉強自体は大嫌いだったが、成績というわかりやすいほどの人生のランク付けをさせられるのを黙って見ているわけにもいかなかった。


だが大学に入って、成績が不明確になった途端にこれだ。
今まで無理矢理勉強に向けてきたパワーはその行き先を見失い、以来手探り状態のままここまで来てしまった。




その中で唯一その矛先を向けられたのが、自分で作ったサークルだ。
結成当時は特に忙しかったし、その有り余ったパワーの全てを消化できた。
本当にやりたいことではあったし、あの頃は随分満たされていた気がする。


だけど最近はそれさえも疑問を持ち始めている。
俺が求めていたものは本当にこれだったのか。
そもそもサークルなんてものはその学生生活と共に終わりを告げる。
三年で引退と考えるならば、後一年の命だ。


学生生活でさえ、残り二年程しかない。
そろそろ就活に関しても考え始めなければならない時期だ。
だけどやりたいことなんて特に思い当たらない。
親父のコネで適当な所に就職して、適当に出世して適当に生きていくのだろうか。






嫌だ。そんなのは嫌だ。






生きがいが欲しい。
自分の中で絶対的な「何か」。
自分の人生そのものを捧げられるほどの何かを。
それが見つからなければ、俺はこのままでは廃人になってしまう。




燃えたい。
燃え尽きたい。
矢吹丈のように何かをやり尽し、灰となって散り逝きたい。


灰人と廃人とでは、言葉は同じでもまるで意味が違う。


だけど、見つからないものは見つからないのだ。
この埋め合わせをいったい誰がしてくれる。
誰もしてはくれない。
この葛藤を、どのように消化すればいいのか。


やめよう。
考えるのも面倒だ。
見つからないのは仕方のないことじゃないか。
その時が来るまで、気長に待つしか方法はないのだ。


あぁ、考えすぎたのか頭が痛い。
これ以上俺を苦しめないでくれ。


ダルイ。眠…い。
























俺を呼ぶ声の持ち主は、誰?












































遠くの方で、携帯の着信音が鳴った気がした。





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