この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

13.君は今、何を想っているの?

自分に彼女を励ます能力があるかどうかはわからない。
だけど、どうしても書かずにはいられなかった。
気付いた時には、手が勝手に動いていたのだ。




大丈夫だ、落ちつけ。
俺は自分にそう言い聞かせた。
このコメントが来週のコメント集に載るかどうかはわからないが、ありのままの自分の気持ちを書けばいいのだ。
例えこの言葉が彼女に届かなかったからといって、たいしたことではない。
ただ想いを乗せて書くだけで十分じゃないか。










大丈夫だ。






























講義の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
周りの人たちはそれぞれのタイミングで席を立ち上がり、教室から出ていった。


最後までコメントを書き上げた俺も、席を立ち上がり、教壇の上に書いたコメントを提出した。
そして逃げるように教室を後にした。
いや、後にしようとした。






「あ、君が雨宮透君?」






聞き覚えのある耳障りな声。
俺が踵を返すと、そこに立っていたのは不気味な笑顔を見せる坂本講師だった。


「正直なコメントありがとうね。そしてごめんなさい。今大丈夫かしら?」


なんだ?
なんで俺が雨宮透だとわかったんだ?
あぁそうか、今提出したコメントに書いた名前を見たんだな。
何を言うつもりなんだ…文句か?文句なんだな?


「あ…はい。なんでしょうか?」


「あなたのコメントには感動したわ。最近の生徒には歯向かってきてくれる子がなかなかいなくてね。あなたのコメントを見て、嬉しくなっちゃって」


「あぁ…俺はただ、納得できなかったことを主張しただけですから。それに、もう気にしていません」




なんだ、違うのか。
むしろ御礼を言われるとは想定の範囲外だ。
逆にリアクションに困ってしまう。


先生の話によると、最近の若者は「うまく生きよう」としているように見えるらしい。
なるべくトラブルの種になるようなものは避け、器用に世の中を渡ろうとする。
それはそれで素晴らしいとは思うのだが、人間味が感じられなくて残念だ、と。


全く最近の若者は…って俺も最近の若者か。




「それでね、よかったら一度私の経営する飲食店に来てもらえないかと思って。家庭料理だから値段は安いし、もちろん味は保証するわ。どうかしら?」


「あ、はぁ、じゃあ是非」




俺は戸惑いながら、ソツのない返答をする。
すると先生から紙を渡され、個人的に携帯のアドレスと番号を教えて欲しいと言われた。
少し面倒だったが、断れる雰囲気でもない。


仕方なく、古代文字に見えなくもないほど汚い字で自分の個人情報を書き殴った。


































































君は今、何を想っているの?

コメント

コメントを書く

「現代ドラマ」の人気作品

書籍化作品