この声が届くまで、いつまでも叫び続けたい

@tsushi

10.謝罪コメント

翌日はサークルの活動日だったので、俺はいつも以上に服装などに気を使って学校に向かった。


特に意味があるわけでもない。
サークル内に好きな子がいるわけでもなければ、俺の服装を気にかけてくれる人がいるわけでもない。
ただ、理由もわからずウキウキしてしまうこの気持ちが、自然と俺をそうさせてしまうのだ。


今回の企画は、「リアクション王選手権」だった。
ルールは簡単。
お題に出された項目を身振り手振りで表現し、そのリアクションを見て同じチームの人がそれが何かを当てる、といったものだ。


俺達は毎週こんなゲームをして遊んでいる。
下らないと言えば下らないが、その下らない遊びの中でどれだけ楽しめるのかを俺達は重要視した。


というか、極論を言うならば活動内容などどうでもよかった。
ただ一緒にいるだけで楽しい仲間達と集まれる機会さえ作れればそれで満足だったのだ。
サークルの活動が楽しみというより、彼等と会えることこそが最大の楽しみだった。


そう思っていた。
しかしもしかしたら、自分の中の苦痛から逃れるにはそれしか手段がなかっただけかもしれない。








次の週の講義も、総ちゃんの姿は見当たらなかった。


雨が降っていたので俺も休もうかどうか悩んだが、今日の講義を休むわけにはいかなかった。
坂本講師が俺のコメントに対してどんな反応を見せるか、この目で確かめなければならなかったからだ。


早く来い。
そして謝れ。
自分の非を認め、一般の生徒全員の前で謝罪するがいい。
あ~、俺って性格悪いなぁ。




その時、坂本講師が教室の扉を開いた。
心なしか、いつもよりも表情が厳しい気がする。


「それでは今日の講義を始めます。まず先週説明した…。」


なんだ、普通に始めるのか。
第一声で、まるで新聞の一面のように取り扱ってくれると思ったのに…。
まぁ、仕方ないが三面記事でも我慢してやろう。


それにしてもこの人の講義はいつも眠い。
他の人は果たしてどれほどの割合で真面目に聞いているのだろうか。
「ジェンダー論っていう講義が面白い」という噂を流した犯人を捜して、締め上げてやりたい気持ちでいっぱいになる。


ふと周りを見渡してみると、半分以上の人がおしゃべりやお眠りをしていた。
俺はなんとなくそのまま人間観察を始め、自分の好みの顔をした女の子だけをロックオンする。


前から四列目、左から九人目の子。
キツネ目で垢抜けている感じがいい。
多分あの子は甘えん坊タイプだな。
絶対そうだ。


前から七列目、右から三番目の子。
目が大きくて素朴そうだ。
う~ん、この子も捨てがたい。
それにしても、俺のストライクゾーンは相変わらず広いな。
おそらくイチローですら戸惑うだろう。


おっと、ヤバイヤバイ、目が合ってしまった。
こういう時は非常に気まずいが、何事もなかったかのように平静を装わなければならない。
俺は意味もなく、周りをキョロキョロと見渡して余計怪しい人になってしまった。


「それでは今日のコメント集を配ります」


坂本講師のこの言葉だけに反応した俺は、待っていましたといわんばかりに配られたコメント集にかぶりついた。
そして、自分のコメントが記載されている部分のすぐ後に坂本講師のコメントを見つけた。






『雨宮君、ごめんなさい。確かにあの発言は教鞭を取る者としてあるまじきものだったと反省しました。自分の軽率さを恥じ、真摯に謝罪をしたいと思います。また、わざわざ名前を出してくれたことに感謝します。本当にごめんなさいね。(坂本文代)』








ふん、どんなもんだい。
まぁわかってくれればいいさ。俺もそこまで心が狭いわけじゃないからな。


あ~、すっきりした。


目的は達成した俺は、例のごとく眠気に襲われた。
こればかりは対抗しようがないらしい。
最初はまぶたが重くなっていただけだったが、次第に黒板が揺れだした。
いや、俺が揺れているのか。
もうどちらなのかさえわからない。


坂本講師の声が、遠のいていく。
































































遠くの方から、泣き声が聞こえた気がした。

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