甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第113話

私は、ポタポタと涙を流す。

辛いわ・・・本当に辛いわ・・・。
何で、こんなに辛いのかしら?



















大量の北海道産の玉葱の皮剥き、目に滲みるわ!!


今回私は北海道に美味しい物を探しにやって来ていた。


「見てみると『えっ?これが!』と言われるガッカリ名物の札幌時計台がこれね・・・、確かに小さい普通の建物ねー」
赤い鼻の黒下駄に朝顔柄の浴衣に買い物籠を持った私は、北海道民には失礼極まりない感想を時計台の前に佇み呟いた。



「ぷっ、はっはははは!!道民も口に出して言わないけれども心の中で思っている事を時計台の真ん前で言うとは、根性の座ったお嬢さんだな!」

後ろから突然かけられた言葉にビックリした私は、声の聞こえた方へ振り向いて頭をペコペコ下げて謝った。
「す、すいません!馬鹿にした訳じゃないです。つい、うっかり口がすべって」
すると、手に持った買い物籠から地面にフォログラム文字が投影される
『蜜ちゃん、それってフォローになってないわよ・・・』
とツッコミが。

丸眼鏡に白いお髭のおじさんがニコニコしながら立っている。
「本当に大丈夫だよ。そんなに道民は、心が狭くないから」
とおじさんが言う。

「す、すいません。失礼極まりない事を・・・。私、蜜と言います。北海道に美味しい物を探しに来ました。」
「ほぉ〜、美味しい物を探しにか・・・どんな物が良いのかな?物によっては、力になれると思うが」
「えっ!本当ですか?実は、北海道に誰も知り合いがいないし。何の当ても無いけど勢いで来ちゃって、とりあえず時計塔でも見ようと考えて、ここに来て・・・先程の台詞を口から・・・」
「ワッハッハ!!本当に面白いお嬢さんだな。気に入った!うちの農場や近所の美味しい物で良ければ提供しよう。先ずは、うちの農場の玉葱かな?旨いぞ〜、でも今、機械が出払っているから手掘りになるな。どうする?」
「人手なら何とかなるのでお願いします!(玉ちゃん達、モンスターズが地上に出たがってたから良い機会よね?)」
「そうか、じゃあうちの農場へ行くか!!儂は、寿 永樹ことぶき えいじゅじゃ。蜜ちゃん」
そう言うと寿さんは近くの路地へ入って行く。
暫く歩くと3台しかない小さなコインパーキングへ着いた。
そして寿さんは少し前の型の真っ赤なランドクルーザーの助手席側のドアを開けて
「パーキングの精算を済ませて来るから先に乗っててくれ。暑ければ手動で窓は開けられるから」
と近くの精算機へ。
私は、「お邪魔しまーす」と言って助手席に乗り込む。
うーん、なんだか『鉄の塊です』見たいな車ねぇこの車は、でも嫌いじゃないわレトロな感じで。
それに、長年使い込まれていて『意識』を持ってる様な感じがするわね。
「さあ行くぞ、シートベルトを締めてくれ蜜ちゃん」
と運転席側を開け寿さんが乗り込んで言う。
私は、あまり乗り物に乗った事が無いのでワタワタしながらシートベルトを締める。

グララララン!!
と音を立ててディーゼルエンジンが始動する。
大通りに出てから寿さんが
「この車、五月蝿いじゃろう?ちと大声で話さなければならん」
と吠えるの。
「ええ、でも何だかんだかこの車は、生きている見たいな感じがして親しみを感じて乗ってて気持ちいいですね!」
と大きな声で私がかえす。
するととっても良い笑顔で寿さんが
「そうじゃろう?このヨンマルは、生きているんじゃよ。儂が眠いのを我慢して運転している時には、広い道の邪魔にならない所でエンジンの調子が悪くなりプスンと止まり何をやっても動かない。仕方なく椅子を倒して一眠りして頭が冴えてからエンジンを掛けると先程迄が嘘の様に一発で掛かる。儂が無理している時には教えてくれるじゃよコイツは・・・」
寿さんは、そう言ってハンドルを撫ぜた。

良いわねぇ、こんな車との関係・・・。

そういえば、この前に魔道具作りの魔女である黒蜜おばばの妹さん、餡子さんの工房へ行った時に貰った魔道具の『付喪神くん』が買い物籠の中に入ってた筈?古くて大事にされた物や道具に取り付けて魔力を流すと意識を持って喋ったりすると言ってたっけ。
ちょっとこのヨンマル君で試してみようかしら。
買い物籠からフイルムケースそっくりな魔道具を出して
「寿さん、実は私、魔女の使い魔でその関係でこのヨンマル君が喋れるかも知れない魔道具を持っているのですが、美味しい物を教えて貰う御礼にその魔道具をヨンマル君に使って見ませんか?」
とフイルムケースそっくりな魔道具を掌に乗せて言う。
「えっ?魔道具?魔女の使い魔!?このヨンマルとお喋り出来るなら是非とも頼むよ!」
突然の申し出に快く寿さんは答える。

掌の上の魔道具をダッシュボードの真ん中に置き魔力を込める。
しかしその時、道のギャップを乗り越えて車が一瞬『ガクン』と揺れた。
揺れた瞬間に大量の魔力が『付喪神君』に入ってしまった。

ピカっと車内が光ってから古いAMラジオのスイッチが入りチューナーがカタカタと動く。
「ザーッ」
と言う雑音の後に
「寿さん、蜜ちゃん初めまして。ヨンマルです。すいませんが寿さん。近くの空いている所に僕を止めて車外に出て貰えませんか?試して見たい事があるので」
ヨンマル君を少し空いた場所に止めて車外に出る私達。
ちょっと離れていてと言うので遠巻きにヨンマル君を見ていたら。
「トランス○ォーム!!」
と言う声と共に
『ガチャン!ガチャン!ウイーン!』
と唸りを上げ変形をし始めたので、私と寿さんは、あんぐりと口を開けてその様子見しかなかった。
体長約6メートルの人型ロボットに変形したヨンマル君は、エッヘンと胸を張って
「完璧!」
とか言っている。

私は、コレは、やっちゃったな。魔力を込め過ぎたなと思っていると隣にいた寿さんが
「うおー!!正に理想通りの変形ロボだ!こう言うのが欲しかったんだよ!ありがとう蜜ちゃん」
アレ?良いのかな?寿さん的は?

傍らに置いた買い物籠からフォログラムの光が道路に出て、そこには
『蜜ちゃん、ヨンマル君も蜜ちゃんのモンスターズの仲間に入れあげたら?鑑定魔法で観たらなんだかもう蜜ちゃんの眷属になってるし・・・』
「えっと、また変なのが仲間に加わるのかな?」
私は、寿さんと手を取り合いスキップしながら踊っているヨンマル君を見て遠い目をした。

##

「ヘイ!ヘイ!快調だぜ〜」
私と寿さんを両手に抱えて足裏に付いたタイヤで広い道路をローラスケートの様に疾走するヨンマル君。
「何の指示もしないで家まで送ってくれるなんて楽で良いのぉ」
とお気楽な寿さん。
「私の知ってるキャンピングカーも意思を持っていて自動で動いて料理がプロ並に上手いイタリア伊達男がいますよ」
と風に負けない様に言う。
「料理上手な伊達男のキャンピングカー?物凄いなそれも、うちの農場の食材で何か作って貰いたいな」
「良いですね!後で連絡をしてみますね」

30分くらい札幌郊外を走ると都会はどこ?と言う広い農村地帯になる。
ちょっとした林で道路から区切られた区画の小径にヨンマル君がウインカーを出してから針路を変更した。
小径を少し走って
「到着〜」
と大きな納屋の前で私達をそっと下ろしてまたエッヘンと胸を張る。
この納屋は、ヨンマル君の車庫らしく中には簡単な整備道具や冬用タイヤが置いてある。

「あらー?なにその可愛い娘?また、『うちの農場の玉葱を食べないか?』とか言って札幌でウロウロしてたのを捕まえて来たの?昔の私みたいに?それとその赤い人型ロボットはランクル?立派になってまぁ」
母屋の方からプラスチック製で格子状になった農業用の箱に玉葱を沢山入れて、50歳くらいの女の人がやって来た。
「おおっ!希美子!この蜜ちゃんはな、札幌時計台前で『ガッカリ名物の札幌時計台はこれね』と言っていた肝の座った娘さんでなぁ。北海道に美味しい物を探しに来たと言うんで連れて来たんだよ。それと彼女は、魔女の使い魔で持っていた魔道具で儂のヨンマルを喋る変形ロボットにしてくれたんじゃ!凄いじゃろう?」
と寿さんは、ヨンマル君の脚をペチペチ叩きながら言う。

「初めまして、蜜と言います。つい、うっかり思った事を口に出してしまった所を寿さんに聞かれてしって・・・!あっ、また私ったら北海道民の方に失礼な事を!」
と言ってから慌てて、口に手をやる。

「まぁ〜、本当に肝の座った面白い娘さんねぇ。蜜ちゃん、私は寿 希美子ことぶき きみこそこに居るおじさんに貴女みたいに時計塔前でナンパされ、中古だけど買ったばかりだったヨンマルに乗せられて農場に来たら不思議な魔法に掛かったみたいにアレよアレよと言う間に結婚し、子供を産んで立派なオバさんになったのよ。そういえば、あの時の私も夏祭りの日で、朝顔柄の浴衣を着てわね?だから蜜ちゃんに声を掛けたの?」
「いやぁ〜、時計台の前を通り掛かったら朝顔柄の浴衣を着た女の子が居て昔の希美子さんが現れたかと思って、慌ててコインパーキングにヨンマルを停めて彼女に近づいて顔を見るだけのつもりだったけれども「ガッカリ名物の時計台ね」なんて呟いたもんだから大声で笑ってしまって蜜ちゃんに気が付かれて話していたら農場に来てみないかと誘ってしまったんだよ」
と頭をぽりぽりと掻く寿さん。
「そう、それなら仕方ないわね。蜜ちゃん、私の事は、希美子さんって呼んでね。永樹さんは、近くの牧場や農場に電話して何か旬の食材があるか聞いてくださいな。私は、蜜ちゃんを裏の玉葱畑に連れて行くから。えっ?ヨンマルも畑に行く?なら二人共いらっしゃい」

玉葱の入った箱を納屋の前に置きスタスタと歩いて行く希美子さんに付いて行き母屋の裏に回ると、一面見渡す限りの玉葱畑!!。
「凄い!コレ全部が寿さんの畑ですか?」
私は、目の上に掌でひさしを付けて見回した。
「広いでしょ?今、収穫用の機械の点検で出払っているけど。手掘りでいいなら好きなだけ分けてあげるわよ。でも、浴衣じゃダメね。娘の作業服を着る?貸してあげるわよ」
「いえ、手掘りの作業要員なら当てが有りまして直ぐに連れて来ます。ヨンマル君の先輩になるのかな?」
と訝しる希美子さんとヨンマル君に笑顔で言ってから
「玉ちゃん!!モンスターズ達!お仕事よ出てきて!」
すると私の影から大きな玉形の狂戦士で執事の玉ちゃんを先頭にモンスターズが現れた。
「蜜様、お呼びに寄りモンスターズ一同馳、参事ました。御用を申し付けください」
ふわふわ浮いたままお辞儀をする玉ちゃんに合わせてドラキュラやモスマンなどのモンスター達も頭を下げた。
「久しぶりにお外で会うわね皆んな。今日は玉葱の収穫とかをお願いするわね。そういえば、ドラキュラさんは、玉葱とか太陽の光って大丈夫かな?」
そう聞くとドラキュラさんが
「蜜様、気を使って頂きありがとうございます。私共モンスターズは、蜜様の魔力を頂き強化されているので大丈夫です。時々、調子に乗ったグレイがUFOで乗り物酔いをするくらいです」
と猛スピードで上空をジグザグに飛び回るUFOを指差して笑った。
「はぁ〜、あの子は、餡子さんから制御装置を貰いまともに飛び回る様になってもあんな飛び方を・・・久しぶりにお外に出て嬉しいのはわかるけどさ」
私は、額に手を遣り呟いた。

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