甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第107話

「白龍さ〜ん、翡翠さんの引取り先が決まったので帰って来るなって言い聞かせてくれって紫苑さんが呼んでますよ〜」
私は、手をメガホンの様にして台北の徐仙道家の中庭で叫んだ。
私の声に一番最初に反応したのが普段、物陰に隠れている上に気配が全く解らない黒蜜おばばの弟、蜜丸さんがゴトっと庭にある東屋の天井から床に落ちて来た。
「何ぃ〜!翡翠の引取り先?やっと居なくなってくれるのか、あの高齢男の娘が・・・良かった、本当に良かった。やっと平穏な徐仙道家になる」
背中から落ちた蜜丸さん、仰向けの状態のまま泣いているわ。
その後徐福老師も泣きながら出てきて
「やっと、やっと翡翠の引取り先が・・・あの高齢男の娘のお陰で何件もの一族の娘の縁談が壊れて中には結婚を諦めて尼さんになった娘も一人や二人では無いんじゃ・・・結婚相手を紹介にし連れて来た席で翡翠を見た相手の男が翡翠に惚れてしまいその度に破談に、翡翠を見て自分も男の娘に目覚めて破談を申し込んで来た結婚相手の男までおったのしゃぞ?やっとこの地獄から抜け出せる!」

そんなヤバイ事になってたの翡翠さんたら?

「翡翠の引取り先だって?そんな面白そうなのを良く見つけて来たな。老師と蜜丸も一緒に会いに行って翡翠は返品不可だと言いに行きましょうか!はっはっはっは!流石の私でも扱いに困っていたからねぇ。縁談を壊す度に一族から白い目で見られるのは応えるよ・・・」
うっ!やっと出て来た白龍さんが最後の方は涙目になってる。

「白龍さん、翡翠さんの引取り先は魔力の匂いが解る元、男の娘で黒蜜おばばの魔法薬で女の子になって魔女に変化した娘です。胸の谷間に異次元収納魔法を備えた物凄い娘ですよ。翡翠さんたらその娘に収納されて「翡翠さんは永遠に私の物」ってニッコリ笑ってる強者です」

「おおっ!そんな物凄い娘がこの世におったのか!そんな娘なら翡翠を引き取って貰っても大丈夫だろう。しかし、返品不可だとちゃんと言っておかねばならないな。蜜ちゃん、老師と蜜丸も連れて行ってくれないか?」

私は、三人の手を取り近くの暗闇に紛れ込んだ。
お茶屋さんの喫茶ルームに戻ると紫苑さんと恵ちゃんがお店のマスコット犬のミニチュアシュナウザー二匹を長椅子でモフモフしながら烏龍茶を飲で寛いでいるわね。

白龍さん徐老師と奥にいる蜜丸さんを見た紫苑さんギョっとして
「蜜丸!あんたがこんな所に出てくるなんて。やっぱり翡翠の引取り先なんて事はそれだけ大事なのね・・・」

老師達に椅子を勧め座って貰ってから犬二匹を挟んで隣にいる恵ちゃんに紫苑さんが皆を紹介し始める。

「私は翡翠の父親で徐紫苑ね、恵ちゃん。こちらが徐仙道家の大老、徐福老師。そしてこちらが私の妻、白峰龍子。そして本来なら見ることが殆ど無い翡翠の従兄弟でそこにいる黒蜜おばばこと、黒田蜜子の弟の黒田蜜丸、そして着物の娘は蜜子の使い魔の蜜ちゃんよ。どうぞ宜しくね」
紫苑さんの紹介を聞いた恵ちゃん、スクッと立ち上がってペコリとお辞儀しながら
「青木 恵です。先程、黒蜜おばばの魔法薬で
男の娘から女の子にそして魔女になりました。どうぞ宜しくお願いします。あっ!皆さん揃ったので翡翠さんを一度取り出しますね」
言ったが早いか胸の谷間から翡翠さんをニュっと引き出す恵ちゃん。
翡翠さんが出て来る様を見て皆『お、おおっ!』と声を上げる。

恵ちゃんの異次元収納から出て来た翡翠さん何だかボーっとしてるわね。
恵ちゃんが翡翠さんのホッペをツンツンと突くとハッと我にかえった翡翠さん。
「はぁ〜、私の母親はあんまり母親っぽく無かったからちょっと違うかも知れないけれども何だか、母親の胎内に包まれてる感じだったわねぇ。癖になりそう・・・えっ?老師に白龍母さんに蜜丸!どうしてここにいるの?」
そんな翡翠さんの言葉に黒蜜おばばが
「やはり収納されていると時間の経過はないのね。それと胎内に包まれている感じ。興味深いわね・・・」

「ほぉー、あんまり母親っぽく無くて悪かったなぁ翡翠よ。そこんところも含めて色々言い聞かせやるから正座してみようか?」
引き攣った笑いで手からパリパリと稲妻を出す白龍さん。
そしてそれを無言で見ている私達・・・

白龍さん、何かに気が付いて恵ちゃんに向き直り
「恵ちゃん、この馬鹿息子に色々言い聞かせるから。そうね蜜ちゃんと何か美味しい物でも食べて来なさい」
と中国や台湾で御祝儀を入れて渡す紅いポチ袋を恵ちゃんに渡す。
ポチ袋を受け取った恵ちゃん。
「ありがとうございますお母様。蜜ちゃん、先ずはすぐ近くににある焼き小籠包なんてどう?」
ニッコリと笑い私の手を取り階段へ向かう。
「お母様だって、良い響きね。さてと翡翠。色々言い聞かせる事が有るけど分かってるわよね?」
怖い顔で笑う白龍さんの顔が階段を降りる時にチラッと見えた。

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