甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第93話

”forest story”(指輪物語2)

「えっと、僕は嬉しいけど本気ですか?出会ったばかりの中年のおじさんですよ?」
私は、高雄さんの手をぎゅーっと握り。
「大丈夫!何だか分からないけど高雄さんなら大丈夫!魔女のカン!」
「魔女のカン?でも悪い噂が立って薫子さんのお嫁に行けなくなったら・・・」
私は、高雄さんの眼を見ながら逃す物かと握る手にまた力を入れて「その時は、高雄さんがお嫁さんに貰って下さい!」。
後から考えるとあの時私は、普通ではなかったと思う・・・使い魔の蜜ちゃんと会った人郎君みたいに。
「お、お嫁さんに?うーん。そうまで言って貰えるならお願いします。薫子さんの所に住ませて下さい」
「ハイ、よろしくお願いします」
私は、ニッコリ笑って高雄さんに言った。
それからショートケーキを食べコーヒーのお代わりを飲み終えた頃。
お使いから帰った三俣に「三俣!高雄さん今日から一緒に住む事になったから宜しくね。あと有名なすめらぎ本家の蔵に高雄さんの家財と仕事道具を取りに行ってね」
「えっ?えっえっ?一緒に住む?御結婚なさるんで?おめでとうございます」
状況が掴めずとりあえず頭を下げお祝いを述べる三俣君。
「そ、そんな訳無いでしょ!高雄さん住む場所が無いから広くて余ってるウチに住んで貰うのよ!」
「ご、ご、ご、御結婚だなんて・・・」高雄さんもしどろもどろ。
そんな二人の様子を見て"やれやれ"と首を振る三俣だったが。

「そう皇と言えば先程、雲母さんのお名前が出ましたがご雲母さんって確か皇・・・」と三俣。
「そう、皇雲母です。僕の母親が皇本家の娘で雲母とは従姉妹なんです。先日、急に借家を追い出されまして。それで本家の蔵に荷物を置いて貰っていて。僕の両親と兄妹は海外で暮らしていて僕の実家は無いので今はウィークリーマンション暮らしで身の回りの物しか置けな無くて」
「成る程・・・ならば蜜が捕まればモンスターズと怪力ちびっ子レッサーパンダを使って一発で引っ越しの荷物を運べるんだがなぁ。電話してみるか」
背中のポーチからスマホを出して電話する三俣。
「もしもし、蜜?三俣だよ。頼みがあってさぁ。皇本家の蔵に高雄さんと言う人の引っ越し荷物があるから薫子さんの家の南側の使って無い部屋に運んで貰えないかな?あー、そう雲母さんの家。うん、高雄さん従姉妹なんだって。うん、悪いな」
電話を切り私達に振り向いた三俣。
「丁度、時間あるから直ぐに運ぶって。30分くらいで終わると思うよ」
「ハア?なにそれ?」と素っ頓狂な声を上げる薫子さん。
顎に手を当てた高雄さん。
「もしかしたら蜜さんって真っ黒な甲斐犬で女の子に変化出来る旦那さんが人狼の?」
「そうそう、良くご存知で高雄さん。私は、蜜から雲母さんとお友達と聞いてまして。高雄さんは蜜と面識がお有りで?」と三俣。
「いや、直接では無いけど。雲母が人郎さんに頼まれた蜜さんとの婚約指輪と結婚指輪を僕が作ったんだよ」
「えっ?あの竹輪と買い物籠の可愛い指輪?」
実物を見た事のある薫子さんビックリしてる。
「そう、中々納得出来る物が出来なくてやっと作った指輪でした」
「あー、だから蜜ちゃん雲母さんを知ってるんだ」
と能天気な事を言う薫子さんに世の中以外と狭いなと思う三俣君であった。

それから二人のがケーキを食べていた新宿近くのウィークリーマンションから高雄さんの手荷物を引き上げ薫子さんの家がある小田急線の経堂へ。
経堂駅近くの「いらっしゃいませ〜」が「エアロスミス〜」に聞こえる名物店員さんのいるコンビニで飲み物を買って農大近くにある薫子さんお家へテクテク歩く二人。
三俣君は引っ越しの様子を見てきますと新宿から先に飛んで帰っていた。
「いや〜薫子さんの言うとおりにあの店員さん『エアロスミス〜』って言ってましたねぇ確かに」
ププッと吹き出しながら言う高雄さんに。
「あの店員さん一時期芸人さんのテレビでやるネタになって凄く有名なんですよ」
道すがら地元ネタを披露する。
コンビニの袋と荷物を持つ高雄さんの反対側の腕に手を絡めて歩く薫子さん。
魔女の修業の為に子供の頃田舎から父母と経堂に住み始めた薫子さんは商店街に顔馴染みが多く男嫌いで有名な彼女が中年男性と腕を絡めて楽しく話しながら歩く姿を見て皆んな驚いた顔をしてる。
昔からあるお米屋さんの前にを通りかかった薫子さんお米屋さんの店先に居た女性に声を掛けた。
「丁度良い所に居た。皐月さつき!今日持って来てくれる予定のお米、何時もは5キロだけどこれからは10キロにして、これからこの人と一緒に住むから消費量が増えるし」
「えーーーっ!!お母さ〜ん!薫子がいきなり一緒に住むって男の人を連れて来た〜。何時ものお米、10キロに替えてだって〜本気だよこれは〜」と商店街中に響く声を上げる。
バタバタと奥から足音が聞こえ年配の女性が走って出てきた。
「薫子ちゃん!去年、ご両親が事故で亡くなってあの広い家に独りっきりで心配してたんだよ商店街中が、それがやっと旦那さんを連れて・・・」
前掛けで涙を拭く米屋さんの女将さん。
「えっ?イヤ、一緒に住むだけ!部屋が余ってるし!困ってたから高雄さんが・・・旦那さんだなんて、違うの。さっき出会ったばかりだから・・・」高雄さんに絡めた手に力を入れながら言う薫子さん。
高雄さんは真っ赤になって固まってしまっている。
「何?何?薫子ったら出会って直ぐの人と一緒に住むの?やるわねー。子供の頃から知ってるけどあの男嫌いな貴女が、絶対逃すんじゃ無いわよ!その人を!」
薫子さんと幼馴染の米屋の娘、皐月さんが拳を握りしめながら言う。
「何にせよ薫子ちゃんが男の人を連れて来たんだ。何時もより良いお米をサービスで持ってくから旦那さんに美味しいご飯を食べさせて胃袋を掴むんだよ」と言う女将さん。
勢いに押され「は、はい頑張ります」とガクガク頷く薫子さん。
それから馴染みの店の前を通る度に『旦那さんかい?良かったね薫子ちゃん』と何かをくれた。
高雄さんは貰い物で手一杯にやっとの事で薫子さんの家にたどり着いた。
玄関先を入って直ぐのリビングの机に荷物を置いて「三俣〜荷物はどう?」と南側の以前は父親の書斎だった部屋に入ると、元からこの部屋にあったかの様に高雄さんの荷物が整理されている。
ビックリしながら隣に併設されている寝室を見るとそちらもすっかり片付いていてクローゼットを見ると中にきちんと服が収まっていた。
あれから一時間くらいしか経っていないのに何と言う早業!
書斎の机には彫金の道具までキチっとセットされて今すぐに仕事が出来そうな状態・・・。
フワフワ浮いてる三俣に目を向けると。
「蜜がね、雲母さんから以前の高雄さんの仕事場や他の部屋の写真を蜜のスマホに送って貰ったそうで。荷物を持ったモンスターズと怪力レッサーパンダがやって来て物の数分でサッと仕上げて帰って行きました。いやぁ、小さなレッサーパンダが机を片手で持って来のには驚きましたよ。こんな感じで宜しかったですか高雄さん?」
片手で机を持って来るちびっ子レッサーパンダを想像していた薫子さんはハッと気が付いた様に「すいません、勝手に荷物を整理して」。
「宜しかったどころか前より使い易そうですよ素晴らしい!これなら遅れている仕事に直ぐ取り掛かれますよ。良かった」高雄さんはとても喜んでる。
しかし、首を捻り「何故かなぁ?」と言う高雄さん。
その様子が心配になり「やはり何か不具合でも?」と薫子さん。
「僕の仕事道具は呪具に机は付喪神になっていて引っ越したりしたら引っ越し先に馴染めずにモゾモゾ動いたりしてもっと雑然としてる筈なんですけどよっぽどここが気に入ったみたいですね」
「それは多分、魔女の家だからじゃないですかねぇ。私達使い魔も普通の場所より魔女の家の方が断然過ごしやすいですから。この家は薫子さんの調香
してる魔香水が染み込んでいて余計に心地良いんですよ」
そんな三俣の話しを聞き家主の薫子さんまで高雄さんと声を揃えて「「成る程〜」」。

★台北、徐仙家
「徐福仙人様、先程連絡があり蜜の手に寄り調香の魔女の元への呪具作りの鬼才の引っ越しが完了したそうです」
「おおっ、翡翠本当か!心配していたんだが意外とスンナリ行ったな。もう直ぐにでも例の指輪が完成して無ければいけない時期なのに調香の魔女と呪具作りの鬼才が出会っても居なくて心配していたんだがやはり予言書の通りになったか・・・」
「はい、予言書にある調香の魔女と呪具作りの鬼才夫婦により作られた"鎮魂の指輪"が完成しなければ世の中は大混乱になるでしょうから」


引っ越しが完了して早速商店街で貰った食材やニヤニヤしながら皐月さんが届けてくれたお米を使って晩御飯を作った薫子さん。
貰った食材が山芋とか鰻とか精力の付く物ばかりなのが少し気になったけれども高雄さんは喜んで食べてくれたので何時もは飲まない亡くなった父の秘蔵のワインを開けて飲んだ。

何時もの習慣で寝る前に"安眠の魔香水"をアロマポットに入れたつもりが慣れないワインのせいで"自分の心に素直になる魔香水"をアロマポットの中に入れて寝てしまった。

次の日の朝・・・何故か高雄さんのベッドで目覚めた薫子さん。

後から目覚め事の重大さを感じた高雄さんのベッドの上でのプロポーズを受け入れてまだ店が開いていなかった米屋の女将さんと皐月さんを連れて世田谷区役所に行き二人に見届け人欄に記入して貰って婚姻届を提出し晴れて高雄薫子に成った。
出会って十数時間のスピード婚であった。


          

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