甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第71話

「蜜〜やっと仕事が終わったから美味しい御飯四人分買って来て〜」
黒蜜おばばとバーバ・ヤーガと妹のシナモンが調剤室から出て来たとたんに居間のソファーにへたり込んだ。
黒蜜おばば、自分の仕事の分の魔法薬のストックは沢山あるので特別な物だけ注文があった時に作ると言う悠々自適な生活を送っているのを見たバーバ・ヤーガ。
人化した使い魔のシナモンと黒蜜おばばを助手にして自分も魔法薬を大量に作り悠々自適な生活をと調剤室に籠り魔法薬を作り続けていたのだ。
私は、時折腕環の魔力を貸したり魔法薬を患者さんに届けたり、お届け物の仕事をしていたから余り黒蜜おばばの家に居なかったけれどもバーバ・ヤーガの溜まっていた魔法薬の注文が大量にありその上にストックを作ったので三人ともかなりヘロヘロ状態。
「どんな御飯が良いですか?」
「力が出そうな物〜」
黒蜜おばば中々難しい注文をする。
バーバ・ヤーガとシナモンはお任せしますと・・・。

少し考えた後に私は買い物籠を持って浜名湖へ移動する。
鰻の蒲焼きを直売している大きなお店前の植え込みの暗闇から姿を表した。
あゝ!鰻の焼ける良い匂い!私、この匂いだけで御飯ニ人分は食べられるわ。

私を見つけたお店の店員さん、慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「蜜ちゃん。き、今日は何人前ご入り用ですか!」
「焦らないで良いわよ。今日は大量注文でなく普通にお昼御飯四人分買って帰るだけだから」
以前、地獄からの注文で鰻丼を四百人前頼んだ事があり店員さんは四人分と聞いてホッと胸を撫で下ろしていた。
「蜜ちゃん、それならすぐに出来るからちょっと待っててね。大量注文も嬉しいけどあれは、数日徹夜だったから・・・あっ、社長。蜜ちゃんが来てますよ」
お店の中から白髪頭の社長さんがニコニコしながらこちらにやってくる。
「やあ!蜜ちゃんいらっしゃい。今日は何人前ご入り用ですか?」
「今日はね、普通にお昼を食べようと思って四人前なの。少なくって御免なさいね」
「いえ、いえ、そんな。いらっしゃって頂きありがとうございます。四人前ならすぐにご用意しますよ。おい、肝吸いと肝串を四人分と白焼きを一本おまけに付けておけ」
店員さんに指示を出す社長さん。
「良いんですか?そんなに」
私は社長さんに恐縮しながら聞く。
「あれだけ大量注文を頂いた常得意様にこれぐらい何でも無いですよ」
「すいません。気を使って頂きありがとうございます。そうだ!この前、鰻の旬は秋だと聞いてたのでそれを地獄と天界に言ったら旬の時期に食べようと言ってたので11月に地獄と天界で都合、千人前鰻丼をお願いしますね」

「せ、せ、千人前・・・」
「徹夜だ・・・社長・・・臨時でバイト雇ってください」
社長さんと店員さん呆然としてる。
「蜜ちゃん今日の鰻丼もサービスするから無料で持って行って・・・千人前かぁ鰻を手配出来るかなぁ・・・」
遠くを見つめる社長さん。

店内から鰻丼四人分と肝吸いと肝串に白焼きを持ってきた別の店員さんが遠くを見ている社長さんを不思議そうに見ている。
私は、鰻丼等を買い物籠に入れてふと思い出した事を呟いた。

「巨大地獄鰻なら千人前位一匹で軽く賄えるかな?」
その言葉に食いつく社長さん。
「えっ?そんなの地獄にいるの?都合つくなら何とかならない?」
「多分、大丈夫だと思いますよ。地獄では誰も食べないから増えすぎて困ってると言ってましたから今度、何匹か捕まえて持って来ますね」
「ありがとう蜜ちゃん鰻さえあれば何とか千人前早めに捌いて冷蔵して当日に焼いて御飯に乗せるだけにするから他の業者にも頼んで」
「分かったわ。近い内に捕まえて浜名湖に放しておくから」

それから数日後。
浜名湖で全長二十メートルの巨大鰻数匹の目撃情報がニュースで報じられたのだった・・・。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品