甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第69話

ビフォーアー3

例の大磯の吉田お爺さんの知り合いで葉巻仲間のティディベアおじさんに葉巻を届けた時に帰る前に真空管を一箱、チュー○ングさんと言う電子計算機を開発している人の勤めている研究所に至急届けてと頼まれた。
次のお使いは『基礎から解るコンピュータのお話』と言う本をプラトンさんと言うお爺さんに届けに行くのだけど急ぐお使いでは無いから大丈夫。
プラトンさん、コンピュータに興味があるけど基礎的な事がわかる本を買って来てと言われて買い物籠に入れてある。
真空管の箱を買い物籠に入れて近くの暗闇から移動しようとしたら。
テディベアおじさんが使って無い暖炉を示し。
「この暖炉はイギリスの宮廷魔導師マーリンが作った物で色々仕掛けがしてある。チュー○ングの居る時間に行くには行きも帰りもこの暖炉からにして」
私は買い物籠を咥えながら首を傾げたけど深く考える事でも無いので言われたままに暖炉へ飛び込んだ。

田舎道の脇に大きな木の根元の暗闇から現れた私のすぐ近くで自転車のチェーンに油を注しているお兄さんがいた。
いきなり現れた私見ても兄さんはそのまま油を注し続けている。
「お兄さんそんなに一生懸命に何をしているの?」
「やあ、真っ黒な使い魔さん。この自転車のチェーンが古くなっててね一定距離を走ると外れるんだ。だから距離計を見て外れる前に油を注しているんだよ」
「私なら自転車屋さんでチェーンを新品に交換するわ・・・」
びっくりした顔をしたお兄さんが。
「その発想は僕に無かった・・・君は頭が良いね」
軽く頭を振ってから私はお兄さんに聞いた。
「私は蜜、この近くにある研究所にいるチュー○ングさんに真空管を届けに来たのお兄さんその人を知っている?」
「えっ?僕がアラン・チュー○ングだよ。真空管を届けに来てくれたの!ありがとう待ってたんだ」
脇に置いてある買い物籠を覗き込むチュー○ングさん。
「蜜ちゃん、真空管の横に入っている本を見せてもらっても良いかな?とっても気になるんだよ」
「良いですよ。減るものでも無いし」
『基礎から解るコンピュータのお話』を取り出し真剣に読み始めたチュー○ングさん。
「この本は、七十年程未来に書かれた電子計算機の話しが!量子コンピュータ?・・・初期の電子計算機、コンピュータの開発者に僕の名前が!そうか!こうすればドイツのエニグマ暗号機の解読が可能だ」
本を読んで行く内にあるページで止まっている。
「僕はあと十年位で青酸を飲んで死ぬのか・・・その前にノイマンさんと話してコンピュータの概念を話し合わなければいけないな今読んだこの本に書いてあるコンピュータの未来について・・・」
少しだけ悲しそうな顔をしたチュー○ングさん。
でも、すぐに笑顔になって。
「大切な本を見せてくれてありがとう蜜ちゃん。お陰で今開発中の電子計算機は飛躍的に進化するよ。ドイツの暗号エニグマを解読して爆撃の目標を特定して住人を避難させられるぞ!」
【ドイツに暗号が解読されているのを悟らせ無い為に住人の避難は行われ無かった】

本を返してもらった私はチューリングさんにお辞儀して先程の暖炉を思い描きながら大きな木の根元の暗闇に紛れた。
暖炉から出て来た私を見た葉巻を咥えたテディベアおじさんとても嬉しそう。
「これでコンピュータが飛躍的に発展する切っ掛けが出来たぞ。あの世の歴史上の人物倶楽部でプラトンさんに無理を言って蜜ちゃんに本を頼んで貰った甲斐があった。プラトンさん程に時代が離れていると本を読んでも技術が無くて歴史にほとんど影響しないからな」
また何か企んでたのね吉田のお爺さんめ!。
テディベアおじさんと吉田のお爺さんのお使いは代金二倍請求とお駄賃も別途に請求するからね。
プンプン。
「テディベアおじさん?今日のお届け代金二倍にお駄賃も弾んでね!」
「おっおお!蜜ちゃん当たり前だとも二倍とは言わず四倍払おう。お駄賃の分も足して五倍払うよ」
五倍!!そんなに貰えるなら私は文句は無いわ。
五倍の代金を貰いホクホク顔でカーテン裏の暗闇に蜜が消えたのを確認してから。
「蜜ちゃんのお陰でつい最近までどうしてそうなったか判らなかった歴史上の謎がどんどん解明されていく。次は蜜ちゃんにどの時代に行って貰おうか・・・」

テディベアおじさんこと、葉巻を咥えたチャーチルが笑いながら言った。

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