甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第67話

私の名前はシナモンロール。
ちょっと長い名前なので普段はシナモンと呼ばれている。
結果的に私の真名である”シナモンロール”はご主人様と姉の蜜意外には知られてはいない。
私は茶色い体毛に赤毛が混ざっていてその外見からシナモンロールと名付けられた。
六匹産まれた兄弟姉妹の中で私と姉の蜜だけが使い魔になる素質があり産まれたばかりだったけれども人の言葉を微かに理解出来、魔女との契約魔法と同時に授けられる知識、思考力と言語理解を得る前の微かな記憶がある。
ロシアの魔女バーバ・ヤーガが使い魔の素質がある甲斐犬が産まれたと私達姉妹を見に来た。
彼女は真っ黒な姉を見て余りにも使い魔らしいと言い私の方を選んだ。
姉の目の前で私に契約魔法を掛け私に”シナモンロール”と言う真名を与えバーバ・ヤーガは私を連れてロシアに帰った。
それ以来、姉の蜜には会っていない。
姉の名前が蜜と言うのを知っているのは魔女達の噂話で暗闇から暗闇に移動出来る真っ黒な甲斐犬の使い魔、蜜の話題を聞いたからだ。
私は直ぐに姉の事だと解った。
私の主人バーバ・ヤーガが姉の主人、黒蜜おばばに若返りの魔法薬を分けて貰いに東京に行くというので姉に会えるのを楽しみにしている。

エアロフロート航空の飛行機は少し無機質だ。
機械的と言うか実務的なと表現した方が良いかも知れない・・・。
成田空港の空気は、モスクワよりも綺麗でほんの少ししか居なかった祖国の匂いを感じる。

到着ロビーに黒蜜おばばと姉さんが迎えに来てくれているそうだが真っ黒な甲斐犬の使い魔なら間違える事はあるまい。

噂に聞くと黒蜜おばばと姉さんはとても食いしん坊らしいがお土産の黒すぐりのジャムを気に入ってくれるだろうか?。

ゲートを出て姉の姿を探すが紺色のセーラー服を着た中学生位の女の子と真っ黒なチャイナドレスの髪の長い美少女が私を見つけて手を振っている。
あんな知り合いはいない筈だけど?。
私の主人のバーバ・ヤーガを見ると皺くちゃの顔を綻ばせ痩せた鳥みたいな手を振りかえしている。
あの二人の間内どちらかが黒蜜おばばだとするとチャイナドレスの美少女の方だろうか?セーラー服の女の子は妹さんかな?。
姉の蜜は買い物にでも行っているのだろうか?

セーラー服の女の子と抱き合うバーバ・ヤーガ。
チャイナドレスの美少女が私に近づきこう言った。
「久しぶりね。シナモンロール」
私の姉の蜜だった・・・。

入国口目の前出口に真っ黒なキャンピングカーが止まっている。
カートに乗った荷物を人の姿をした姉がキャンピングカーの後ろにある荷物室に入れている。
荷物を入れ終わりカートを戻しに行った姉。
「本当にあのチャイナドレスの美少女が私の姉さん?」
と黒蜜おばばに聞いてみた。
「ああ、貴女は蜜の妹だったね。私の作った特人化促進薬を飲んで人の姿に成ったんだよ。最も蜜の嵌めている地獄の腕環の魔力を借りているけどね。魔力の波長の合うお前さんなら薬を飲んで蜜の腕環の魔力を借りれば人化出来るかも知れない。後で試してみるかい?」
ブンブンと首を縦に振る私を見て黒蜜おばばは。
「あははははっ、そんな動作は蜜にそっくりだね流石に姉妹」
バーバ・ヤーガも私を見て笑っている。
戻って来た蜜が笑っている魔女二人を見て不思議そうに首を傾げていた。

キャンピングカーに乗り込みフカフカのソファーに座ると。
「ロシアからのお客様にウエルカムシャンパンの御用意が御座います。どうかお試しください。東京の黒田邸まではこの伊達男がお連れ致します。どうかお寛ぎになって道中をお楽しみください」
キャンピングカーの天井から渋い男性の声がする。
なんでもこのキャンピングカー自体が意思を持つ魔道具なんだとか。
動き出したキャンピングカーの中でシャンパンを飲んだ後に黒蜜おばばが薬瓶を二つ出し。
「早速飲んでみるかい?」
私に喉飴みたいな特人化促進薬をバーバ・ヤーガにほんのりと光る若返りの魔法薬を差し出した。
「二人共、蜜の右腕の腕環に触れておくれ。そうすると効き目が特に強くなるから。蜜や腕環の魔力を強めにして二人に流しておくれ」
バーバ・ヤーガと顔を見合わせた私。
薬を飲み込んだ瞬間に腕環に触れた右前脚から物凄い量と質の魔力が身体に流れ込んだ。

ちょっとの間だけれども気を失っていたらしい。
クラクラする頭を右掌で抑えると茶髪に赤毛が混ざった長い髪の毛がハラリと掛かる。

右掌?茶髪に赤毛?
私の前のソファーに座ってる魔女の着るフード付きのマントを来た中学生位の金髪スラブ系美少女は誰だ?

蜜姉さんがバスローブを私に掛けてくれた。
バスローブを羽織り立ち上がった私をシャワールーム入り口横の姿見に連れて行ってくれた姉さん。
姿見には姉さんによく似た茶髪に赤毛が混ざった女の子がいた。
すぐ横に私の前のソファーに座っていた金髪の女の子が来て姿見を見て驚いている。
「バーバ・ヤーガの方は少し戻り過ぎたかねぇ」
セーラー服を着た黒蜜おばばと同じ位の背丈の金髪の女の子が。
「これ位の方が男受けが良いから丁度良い」
「それは一理ある」
中学生コンビが笑っている。
私は姉さんに。
「茶髪に赤毛が混ざっていると私の方が姉さんより先に男と遊んでる軽い女に見られそうで嫌」
「あら、私はもう旦那様がいて一緒に暮らしているから私の方が軽い女かもよ」
牙を伸ばしながら笑う姉さん・・・牙怖い・・・。

キャンピングカーのクローゼットから黒蜜おばばの白いセーラー服を借りて着たバーバ・ヤーガ。
私は蜜姉さんから黒いアオザイを借りて着ている。
バーバ・ヤーガも私も借り物なのにサイズがピッタリ。

キャンピングカーの伊達男が。
「この先で高速を降りて黒田邸に向かっても夕食の準備するよりこのまま横浜の中華街で蜜さんの旦那様達と夕食を取った方が妹さんを紹介する手間が省けませんか?実は紅さんからメールで横浜に連れて来なさいと指示が先程入ったのですが」
「メールがあったのなら中華街に向かって良いわ伊達男」
「了解しました。中華街へ向かいます」
私は妹に。
「シナモン、私の旦那様に合わせてあげるわ。とってもかっこいい中年狼男なのよ」
「中年狼男ってとっても卑猥な響き〜姉さんやらしい〜」
そんな妹のシナモンの背中を無言で叩き私は自分の言った言葉の恥ずかしさを胡魔化した。

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