甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第58話

「蜜ちゃ〜ん!大磯の別荘にお呼ばれしたって本当?」
餡子さんの所で修行を始めた瑪瑙ちゃんが私に抱き着いて来た。
魔道具作りを生業にしている粒餡の魔女。
十勝餡子さんに魔法薬を精製する時に使う遠心分離の魔道具の新しい物を頼んでいて出来上がった魔道具を瑪瑙ちゃんが黒蜜おばばの所に届けに来ていたのだ。

粒餡の魔女は僅か三歳にして大好きな粒餡を自動的に作る魔道具を作り上げた魔道具の天才である。
彼女の天才と言われる所以は、初めて作った粒餡を自動的に作る魔道具が魂を持ち材料を入れずに魔力を供給すると粒餡を作り出すと言う所だ。
彼女の作ったその魔道具に周りは驚嘆した。
ただのドロップの缶の丸い蓋の付いた口から粒餡を魔力が尽きるまで出し続けその上喋り出したのだから。
その最初に作られた魔道具”サクマ君”は今でも粒餡の魔女の工房にある台所でオヤツの鯛焼きの餡子をボウルに出している所だ。

「蜜子お婆ちゃん!私も蜜と一緒に大磯の別荘に行きたいよ!餡子婆ちゃんに蜜と一緒行って良いか聞くの手伝って。お願い」
つい最近魔女の修行を始めたばかりの瑪瑙ちゃん。
二十歳に成長しているとは言ってもまだまだ遊びたい盛りだ。
使い魔は魔女との契約魔法を結ぶ時に人並みの知力と一般常識と言語理解の補助魔法が掛けられる。
魔女が魔女の力を発現た後に他の魔女に弟子入りして普通の学校に行かないのは魔女の力の発現後に親の魔女や先輩魔女から知識の伝達魔法で魔女としての知識を授けられるからだ。
魔女の扱う魔道具や薬は危ない物が多い。
これらを扱う知識を得るのには普通数十年必要。
寿命が長い魔女でも中には基礎を学んでいる内に寿命で死ぬ者が出て来た。
そこで使い魔に知識を授ける魔法を使い新米魔女に知識を授ける事に。
そうは言っても必要最低限の知識だが。
それでも一般的に言うと大学の教授並みの知識。
学校に行く必要が無くなる。
先見の魔女は魔女の知識を母親から授かっていたが普通の魔法が使えない為に魔女に弟子入りせずに一般の学校に通った例外である。

自分の孫の瑪瑙ちゃんに頼まれると弱い黒蜜おばば。
スマホを取り出し餡子さんに電話を掛ける。
「あっ餡子?私だけど蜜がさぁファンの吉田さんって言う丸眼鏡のお爺さんの大磯の別荘にお呼ばれしてるのよ。そう戦後に総理やってたお爺さん。あの人の魂魄に頼まれて蜜が葉巻を届けた御礼に別荘に遊びにいらっしゃいって。広い別荘だから何人でも良いって言われて。瑪瑙ちゃんが行きたがっててね。えっ?自分も連れてけ?解ったわよ溜まってる注文の魔道具の魂の定着が必要な奴以外を作るの手伝うわよ。今から行くから泣くんじゃ無い!」

電話を切った黒蜜のおばばスマホをセーラー服のポケットに仕舞うと。
餡子の工房に行くわよと溜息をついた。
瑪瑙ちゃんの頭上に浮いてる使い魔のプレイリードック猪俣さんがやれやれと首を振っていた。

机の上に有った鍵を持ち家を管理する魂を持つ箒型の魔道具の”つくも”さんに。
「餡子の工房に行って来るから後を頼むわ」
と言ってガレージに向かう黒蜜おばば。
ピョコンとお辞儀して見送るつくもさん。
私と瑪瑙ちゃんと猪俣さんは黒蜜おばばの後を追った。
今日の私の衣装は真っ黒なベトナムの民族衣装アオザイ。
先日地獄にパインミーと言うベトナムのサンドイッチを届ける際に大量に頼んだパインミーが出来上がるのを待つ間に丁度いいアオザイが有ったので購入したのだ。
靴も黒い光沢のある素材のを一緒に購入した。
そうそう相棒の買い物籠を忘れずに持って行かなきゃ。

ガレージには真っ黒な巨大な車が。
イタリアのフィ○ットのトラックを改造したイタリア製のキャンピングカー。
この前乗った白龍さん用の白いマイクロバスを気に入りつい最近とどいたばかりの新車だ。

百四十センチしか無い黒蜜おばばでは足が届かず普通では運転出来ないが餡子さんに頼んで車自体を意思のある魔道具に改造してあるのだ。
もちろん公道を走る許可は取ってある。
キャンピングカーに乗り込みエンジンを掛けた黒蜜おばば。
「目が覚めた?妹の餡子の所へお願い。伊達男さん」
「了解したぜ。かわい子ちゃん達。冷蔵庫にスパークリングワインが冷えてるから飲んでくれ俺からのサービスだ」
意思を持っ魔道具に改造したらイタリア製だけあって伊達男のキャンピングカーが出来上がった。
しかし女性の扱いが上手く先程の様に気の利いた事をしてくれるので評判が良い。
それに運転も優雅だ。

キャンピングカーが出たらガレージの扉が自動的に閉まるきっと箒のつくもさんが管理しているのだろう。
滑らかに走る車内でイタリア製の家具メーカーが作ったキャンピングカーの座り心地の良いシートに座りスパークリングワインを飲みながら餡子さんの工房に向かう。
こんな移動なら文句無いわと普段車や電車に乗らない私はワインを楽しんだ。

世田谷の工房に着くと泣きながら餡子さんが飛び出してくる。
「お姉ちゃーん。じごどが終わらないのーだじげでー!自分だじだげで別荘ずる〜い!」
涙と鼻水だらけの見た目小学生の餡子さん。
夏休みの宿題が終わらないでお姉ちゃんに泣きついている様にしか見えない。
それを見た使い魔の勝俣がやれやれと首を振っている。

たるとちゃんが遅れて出てきて。
「サボるんじゃありません!餡子叔母さん!遊んだ分を取り戻すのよ!」
雷を纏わせた鉄製の定規を肩でトントンしている。

親族ってやっぱ容赦無いわー。

水玉君が。
「うへぇ・・・たるとちゃんも怒ると震電みたいに電撃が出るんだ。

「たると、魂を定着する魔道具以外は何個注文が有るんだい?」
「普通の魔道具で近日中に仕上げるのが十六個、魂の定着が必要なのが二個。今月中には後十個仕上げなきゃいけないのに熱海やら京都で遊び歩いて!後先考えろこの小学生が!その上別荘に遊びに行きたいとは雷で人生一度リセットするか?それとも私の魔法でどこぞの別荘と融合してみる?」
鉄製の定規が青白く光る。
マジで怒ると人格変わるわこの一族。

「物は出来ていて魂の定着する奴以外は仕上げをすればいいだけの普通の魔道具なんだね?たると、瑪瑙!仕上げの必要な普通の魔道具を中庭に並べなさい。蜜やお前の腕環の魔力を借りるよ」

中庭に並べられた未完成の魔道具の前に立ち私の腕環に触れた黒蜜おばばのオカッパ頭の髪がフワリと浮き青白く光る。
並べられた魔道具に人差し指を向け。
「精製魔法!」
と叫んだ。
物凄い光の後にズドンとお腹に響く重低音。

瞑っていた眼を開けると淡い光を纏い完成品に成った魔道具が。
「ありがとうお姉ちゃんこれで別荘と遊びに行ける!」
黒蜜おばばに抱き付く餡子さん。

呆気に取られている、たるとちゃんや瑪瑙ちゃんに使い魔達。

たるとちゃんが黒蜜おばばに話し掛ける。
「こ、こんなに大量の魔道具を一発の魔法で仕上げるなんてあり得ない。蜜子叔母さんこそ魔道具作りをやればいいのに・・・」
「たると、それはお前がまだ見習いだから思うのさ。一人前の魔女ならここまで一編には無理だけどに似た様な事は出来る。私には魔道具に魂を定着させて意思を持っ魔道具なんて作れないし並んでいる魔道具に仕上げを一編に出来たのは餡子が作った物だからだよ他の魔女が作った魔道具なら私の精製魔法に耐えられ無い。魔法薬を作る精製魔法は魔道具作りの魔法を習得してから一部の魔女が使える特殊な魔法。だから魔道具作りは真剣にやるんだよ。解ったかい?見習い魔女の二人」
コクコクと頷く二人。
「餡子、残り二つの魔道具に魂を定着させるのに何日かかる?」
「それだけに集中すれば良いから明日中には」
「了解、明後日の朝に大磯の別荘に遊びに行きましょう。迎えに来るわ」
手を振る餡子さんに私はお辞儀してキャンピングカーの伊達男に黒蜜おばばと乗り込む。
「伊達男さん明後日から大磯の別荘に行くからセクシーな水着を買いたいのお勧めの店があれば連れてって」
「この伊達男が飛び切りの店を案内するぜ!ガレージで待機している時にネットで今年の流行りはチェック済みさ。楽しみにしてくれ」
動き出したキャンピングカーの冷蔵庫から冷えた地獄人参茶を出し黒蜜おばばの前に置く。
「蜜、お前さんも何着か水着を買いなさいね。何日か泊まるから。人郎さんには私から話すからゆっくりしましょう」
コクコク頷く私にニッコリ笑う黒蜜おばば。

約束の日の朝に世田谷の工房に着いた私達が見たのは。
白いマイクロバスから出てきたカミーラお婆様を筆頭にした黒田の女性陣プラス白龍さんに紅さん達。
この後に連絡してあったイギリスの水無月さんを私が迎えに行きオールスターで第三京浜道路から大磯に向かったのだった。

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