甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第56話

「蜜、今日は午後に”たると”が来るから愛媛に行って”タルト”を買って来ておくれ」
甲斐犬姿をしていた私に黒蜜おばばが買い物籠を咥えさせて私に言った。
人化したままだったり何回も人を連れて暗闇から暗闇を移動すると、私はストレスで動けなくなる事が判り用が無い時は甲斐犬の姿でいる事にしていた。

タルト?わざわざ愛媛まで行かなくてもと頭を捻っていたら行けば分かると背中を押された。

買い物籠の導きにより現れたのは愛媛県松山。

現れたのは和菓子屋さんの店頭近くの暗闇。
和菓子屋?タルト?とりあえず店内へ。
そこで私の見た物は”のの字”になった羊羹をスポンジケーキで巻いたタルトだった。

不思議そうにタルトを見ている私に店員さんが薄く切ったタルトの試食を食べさせてくれた。
んー!?甘さ控え目な羊羹とフワフワのスポンジが
何故かマッチしている。
シベリアサンドに通じる味と言えばいいかしら。
でも黄色いスポンジが何とも言えない風味を出してる。
店員さんによれば似たようなお西洋と東洋の混ざったこの菓子を出す店が何店か有りどこの店も共通て”タルト”と呼ぶのだそう。
二本のタルトを包んで貰いお金を払って東京の黒蜜おばばの元へ帰る。

午後になり黒蜜おばばの姪の”たると”ちゃんが訪れる。
テーブルには先程買って来た”タルト”がお皿の上に乗っている。
椅子に座った”たると”ちゃんの前に人化した私が紅茶を淹れて出す。
「蜜子叔母さんこのお菓子ってもしかして・・・」
「そうだよ。貴女の母親がイギリスと日本のハーフの娘に西洋と東洋を架け橋する可愛くて美味しいお菓子の名前を付けたいのと言われて私が選んで、このタルトから”たると”とと名付けたのさ。もっともそのままで無く平仮名で”たると”にしたのは日本らしさを出すためだったんだけどね。買い物籠から聞いたよ。スーパーで蜜に会った時に自分の名前が変だと言ってたそうだけど。考え無しに付けた訳では無いんだよ。自分の名前に誇りを持って。なんせ西と東の架け橋なんだから」
「ありがとうございます。蜜子叔母さん。これから名前に恥無い架け橋になる様な魔女を目指すわ」

後に”たると”ちゃんは物質を融合させたり分離する能力を持っ練金の魔女と呼ばれる様になる。
ちなみにイギリスの宮廷魔術師はこの後に産まれる弟が継ぐ事に。

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