甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第44話

黒いチャイナドレスに買い物籠を持った私は、江ノ電が路面を走り抜けて行くのを横目に見ながら蒲鉾屋さんに入った。
お目当のはんぺんは正面の冷蔵ケースにあった。
良かった間に合った。
はんぺんにも数種類ありそれぞれを3つと蒲鉾と竹輪、薩摩揚げも購入して買い物籠に入れ店を出ると電柱裏の暗闇に紛れ込む。
天界に暗闇が有るか心配だったけれども買い物籠の指示する場所に姿を現した。
【天界へようこそいらっしゃいませ】
と描かれた看板の支柱の裏側にある暗闇だった。
地獄もそうだけれどもこの業界の方々はセンスが似通っているのだろうか?

天界も村興し会場の雰囲気がプンプンする・・・。

天国の門の前にも亡くなった方々が並んでいる。
やはり門の少し離れた場所にプレハブの事務所のドアに紙が貼ってある。
『使い魔さんはこちらの事務所へお越し下さい』
私は事務所のドアをノックしてドアを開けて中に入った。
「あれ?貴女は使い魔さん?どうぞ此方に」
奥の事務机でExcelに入力していた仏教の修行僧みたいな若者が爽やかな笑顔をしながら入口前のソファーを進めてくれる。

冷蔵庫からタッパーに入った麦茶をグラスに注ぎ私の前のテーブルに置いてくれた。

柔かに私の前のソファーに座り話しを始める。
「貴女は使い魔でよろしいですね?本日の御用は何でしょうか?天国ハッピーマッシュルームの入荷は来月ですしどなたかに面会ですか?」
「はい私は先日、天の御使である天使から黒き天使の称号を与えるので湘南の蒲鉾屋さんではんぺんを買って天界に来る様に仰せ使った使い魔の蜜です。私を呼ばれた神々に会いに参りました」

それを聞いた修行僧さんソファーから飛び上がり床に土下座を始めた。
「黒き天使となる方とは知らずに失礼しました。私は悟りを得て天界で雑用をしながら修行している名も無き羅漢です。どうか無礼な態度をお許し下さい」
顔を上げた胸元のプレーに【バイトリーダー】と書いてある。

この人もバイトリーダーか・・・。

門の責任者は毎月聖人が持ち回りでやっており。
今日は責任者が神々に呼ばれもう少ししたら来るのだとか。
私は責任者を含めて門に何人働いているかを修行僧に聞くと毎日五人だそう。
買い物籠から五本入りの竹輪と五枚入りの薩摩揚げを取り出しテーブルの上に置いて皆で食べて下さいと言うと。
事務所奥のマイクに飛び付いた修行僧さん。
「緊急!緊急!至急亡くなられた方々の受け入れを停止して全員事務所まで来られたし!」
またこのパターンなのね。

一番最初に事務所に飛び込んで来たのはマントを羽織った西洋の宣教師みたいな人。
緊急放送を聞いて走って来た責任者の聖人さん。

「一体何があった!バイトリーダー君!」
ソファーに座っている私とテーブルの上の竹輪と薩摩揚げを見た聖人さん。
「貴女が蜜様ですか只今、神々から貴女が参られたら丁重にお出迎えする様に仰せ使って来た責任者のピエトロです」
深々と礼をする。
「頭を上げて下さいな。それよりも門を守る皆さんで竹輪と薩摩揚げを食べて下さい」
私はテーブルの上に置いてある竹輪と薩摩揚げをピエトロさんの方に差し出す。
丁度その時、ドアが開いて三人の人が入っくる。
二人はバイトリーダーさんの様な修行僧。
一人はインドでヨガの行者風。
「君達、この度黒き天使の称号を得られる蜜様が我々に湘南で買って来た竹輪と薩摩揚げを下さると」
ピエトロさんがテーブルを指差して言うと。
三人は床に土下座して拝み始めた。

この後、ここに居ると長引くパターンなので竹輪と薩摩揚げを冷蔵庫にしまって貰いピエトロさんの案内で門の向こうの神々に会うために事務所を出た。

バイトリーダーさん達四人は門の前で手を振って見送ってくれる。
私も手を振って応える。

天国の門をくぐると驚いた事に私を呼んだ神々が出迎えてくれる。

白い髭の神様が私の手を取り。
買い物籠の中を覗き込み嬉しそうに。
「蜜さん、天界へようこそ。お願い以上のお土産を持って来て頂いた様で本当にありがとう。我々天界も魔鏡で貴女から指示を貰った座標をソドムとゴモラを焼き尽くした光で攻撃するからいつでも言って来てくれ。月や地獄に負けていられないからな。
ワッハッハ!」
いきなり殲滅兵器の話しをされてる?
私、一体どんなに危ない物好きと思われてるのかしら

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