甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第41話

”forest story” f-s11

七輪の網の上でジュージューとタレつきカルビの焼ける音が目の前でしている。
匂いと煙がたまらない!

電波が中々入らない特殊な盆地にある黒蜜おばばの山小屋で聴きなれない電子音が響いた。
丁度真上に衛星がある時しか通じない衛星電話が鳴ったのだ。
この衛星電話が通じる時間帯を知っている人は黒蜜おばばの身内か魔法薬を卸している魔法薬問屋の鎮魂堂さんだけだ。
黒蜜おばばの身内と鎮魂堂さんもよほどの事がない限り衛星電話を鳴らすことが無い。
黒蜜おばばが衛星電話に飛びついた。
会話と言うか必要な魔法薬の種類と数、相手の名前のみが伝えられ電話が切れる。
この場所は通話出来る時間が少ない。

調剤室に飛び込む黒蜜おばば。
魔法薬を入れた白い紙袋を買い物籠に入れ私に言った。
「東京上野にいる私の娘、琥珀こはくの所に大至急この特製反魂丹を届けて!」
買い物籠を咥えた私は近くの暗闇に急いで飛び込んだ。

現れた場所は上野公園が見える場所にある古い洋館前。
呼び鈴を飛び上がった前脚で押し訪問を報せる。
奥の扉が乱暴に開き中から細身の中年男性が飛びだしてきた。
門を慌しく開けその中年男性は私を抱え洋館に駆け戻る。
洋館の玄関扉から入ったすぐの部屋に入り抱えた私が咥えた買い物籠の隙間に手を入れ反魂丹の紙袋を取り出し私を床に降した中年男性は反魂丹の入った紙袋から急いで一包の反魂丹を出し目の前のベッドに寝ている女の人に飲ませた。

反魂丹を飲んだ女の人はしばらくすると目を覚ましベッドから起き上がり私の姿を見て。
「やーん!可愛い!」
とベッドから飛び降り私に抱きついた。
その後記憶が無い・・・。
目を覚ました時に何だかこのパターン経験した事があるなぁと思っていたら土下座する女の人の姿が。

目の前で土下座する女の人は黒蜜おばばの娘の琥珀さん。
見た目は二十歳位。長い黒髪で雰囲気が台北の徐震電さんによく似ている。

琥珀さんも震電さんの孫だけに興奮して抱きついた相手に電撃を落としてしまう癖があるそうだ。
傍迷惑な癖を持つ家系だこと。

琥珀さんは、赤ん坊の頃から母親である黒蜜おばばに抱き締められて気を失い反魂丹で生き返るを繰り返していた所。
物心付いた時には自分の魂を自在に身体から出し入れ出来る様になっていたそうだ。
その後、魔女の能力に目覚めると触った相手の魂も身体から出し入れ出来る様になり。
五歳にして”魂抜けの魔女”と呼ばれる様に。
しかし、娘大好きな黒蜜おばばに抱き締められ電撃を食らうと身体から抜け易くなった魂が遠くまで飛んでしまい反魂丹を飲んでも中々魂が身体に返って来れなくなった。

事態を重く見た黒蜜おばば旦那さん。
娘の琥珀さんを連れて黒蜜おばばと離婚することを選ぶ。
旦那さんも黒蜜おばばに抱き締められ電撃を喰らい結構な頻度で気を失い反魂丹の世話になっていたのも離婚の要因の一つ。
大人になった琥珀さんも同じように興奮して抱きついた相手に電撃を落とす様になったのは業が深い家系のせいだろう。

後に琥珀さんはこの能力を生かし何かの事故で魂が抜け出してしまった人の魂を探し出して元の身体に戻す仕事を始める。
魔女の間では”魂抜け屋の琥珀”と呼ばれ恐れられていた。
事故で抜けた魂を連れ戻す表の仕事と裏で請け負う意識体である魑魅魍魎や妖怪と呼ばれる物をこの世から飛ばす仕事をしていた最中に強力な妖怪をこの世から飛ばした際に反動で自分の魂も遠くまで飛ばされた。
大人になり昔の様に身体に遠くまで飛ばされ戻るのに時間がかかる事はなくなたが、今回は普段より遠くまで飛ばされ中々身体に戻れなかった。
早く戻らねば魂の繋がりが身体から切れ身体が死んで仕舞う。
そんな緊急事態用に黒蜜おばば特製の反魂丹を用意していたのだがタイミング悪く特製反魂丹を切らしていた。

衛星電話が通じるまで一日近く待ち琥珀さんの旦那さんが黒蜜おばばに連絡を入れたのが先程の電話。

目が覚めた私に謝った後にお詫びに上野の美味しい焼肉屋さんに行きましょうと誘われ目の前七輪でタレカルビの焼かれる音を聞いている。

この焼肉屋さん失礼だけど古くてとても綺麗とわ言えないけれどもモウモウと立ち込める煙の匂いを嗅いだ瞬間。
ここは、美味しい店だ!と確信した。
もう煙が美味しいのだ。

琥珀さん店の亭主に何時もの四人前お願いと言うと二階に上がる。
二階は、下からの煙で燻され部屋の中が真っ白。
待つほども無く七輪を抱えたお兄さんがやって来て私達のテーブルに七輪を置いて行く。

琥珀さんの旦那さんに抱えられた娘の”瑪瑙めのうちゃんが七輪を珍しそうに眺めてる。
琥珀さんの名前は黒田家の伝統の甘味に纏わる物から付けられた。生まれた娘の目玉が琥珀色の飴玉みたいだったので琥珀になった。
その娘の瑪瑙ちゃん。
目玉に何色かの色が混ざり瑪瑙色の飴玉みたいだと名付けられたとか。

先程のお兄さんがオレンジジュースとジョッキに焼酎を半分程入れた物と茶色い小瓶を持って来る。
○ッピーと言う炭酸飲料でジョッキの焼酎を割って飲むビールみたいな物だとか。
ジョッキに黄色い炭酸飲料が注がれ瑪瑙ちゃんのオレンジジュースと3つの黄色いジョッキが合わせられ乾杯する。
焼酎の○ッピー割、効くわこれ。

そうこうするうちに肉が運ばれて来る。
タレカルビ、タン塩、ハラミ等ホルモンも各種。
この店はハラミが有名だとか。

七輪にカルビとハラミが乗せられた。
ジュージューと美味しそうな音と匂い!

焼けたカルビとハラミをタレの入った私の前の小皿にトングで入れてくれる。
もう待ち切れない!
頂きま〜す。

うおおお!
何?このお肉、柔らかい!
おっほ〜肉汁が、香りが!タレが!
肉の官能に引き込まれる!

ヤバイ止まらない。
トングで焼けた肉が小皿に盛られるとガッガッと脇目も振らずに食べ続ける。
時折、焼酎の○ッピー割りを飲むと身体が熱くなりまた肉を食べるの繰り返しをする。
ホルモンが七輪の上で爆ぜる。
どこの部位かしら?このホルモン美味しいわぁ。
別の小皿にレモンが絞られレアの牛タンが!
牛タンも最高!
目の前にいる瑪瑙ちゃんも脇目も振らず牛タンを食べている。
子供でもこの美味しさ判るのね。
いつの間に置いてあった。わかめスープを飲みカクテキとオイキムチをガリガリ食べて一息付いた時にはお腹いっぱいに。
追加の石焼ビビンパを瑪瑙ちゃんと分け合い食事が終了。

外に出て瑪瑙ちゃんが私にバイバイしてくれる姿を見ながらご馳走様のお辞儀をして買い物籠を咥え焼肉屋さんの店頭に積んであるビールケース脇の暗闇から黒蜜おばばの元へ。

ほろ酔い気分の私の匂いを嗅いだ黒蜜おばば。
「焼肉美味しかったかい?」
と怖い顔で私を睨んだ。

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