甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第39話

”forest story” f-s9

シートベルト着用のサインが消え機内が騒めき始める。
CAさんが私のシートベルトを外してくれた。
私は前席背もたれ後ろの免税品や救命胴衣の着用方が入っている物入れからブツを軽く咥えて引き抜き前席下に仕舞ってある買い物籠に入れた。
これで黒蜜おばばから頼まれたお使いが終わった。
今回のお使いは、羽田から台北に向かう某キャラクターが機体に描かれた飛行機に乗りゲロエチケット袋を持って帰る事。
黒蜜おばばは、シュウマイの瓢箪型の醤油入れと飛行機のゲロ袋をコレクションしている。
夏のキャンペーンで子供に人気のキャラクター柄のゲロ袋が夏休みの間だけ飛行機に置かれると知り私を台北行きの飛行機に乗せたのだ。

CAさんが飲み物を聞いて来る。
私はカートのオレンジジュースを鼻先で示す。

前席背もたれの小さなテーブルを出しカップに入れたオレンジジュースにストローを刺したのを置いてニコリと笑い掛けてくれた。
お辞儀をした私の頭を軽く撫ぜて次の席に向かうCAさん。

この空路はもう少しすると食事がでる。
チキンか魚か選ぶそうだけど中華風の味付けでどちらも美味しいいらしい。
滅多に乗り物に乗らない私は出来ればチキンも魚も食べたいけれども我儘は言えない。
どちらにしようかな?

オレンジジュースと一緒に配られたビスケットを食べていた時に事件が起きた。

私の席から何列か先に座っていた大学生くらいの青年が通路に躍り出てジャケットの胸ポケットからガムテープで巻いたライターの様な物に透明なカバーの掛かった赤い押しボタスイッチの付いた物を頭上に出し大きな声で叫びだした。
「この飛行機は、今から俺がハイジャックする!手に持っている起爆装置のボタンを押すと荷物室のスーツケースに仕掛けたプラスチック爆弾が爆発する!これから言う要求を機長と管制に伝えるんだ!さもないと・・・」
ハイジャック青年の声明は途中で中断された。
何故なら起爆装置を出しハイジャックと言う言葉を聞いた時に私は、買い物籠の置いてある前席下の暗闇に滑り込み青年が頭上に掲げた起爆装置のすぐ横の荷物入れの間にある暗闇から姿を現し起爆装置をパクっと咥えてCAさんの方へ走って行ったからだ。

起爆装置を咥えて走り去る私と何も無い自分の掌を交互に見ている青年を格闘技をやっていると見られる短髪のおじさんがハイジャック青年の後ろから腕の関節をキメて通路に捩じ伏せる。

捩じ伏せられた青年は近くの人から差し出されたタオルで猿ぐつわをされ、スーツケースを留める頑丈なベルトで身体を拘束される。

私はCAさんに起爆装置を渡し青年が拘束されたのを見ながら起爆装置を奪ったご褒美にチキンと魚両方食べさせてくれないかしら?と考えていた。

発生から1分くらいで解決したハイジャック事件を内線で機長さんに知らせているCAさん。
連絡を受け操縦席から機長さんがやって来る。
通路の広い場所に転がされている青年を一瞥してから青年を取り押えたおじさんに礼を言い私の前に来て。
「君のお陰で助かったよどうもありがとう」
そう言って私の頭を撫ぜてくれた。

CAさんから渡された起爆装置は偽物で爆弾の事は嘘でプラスチックケースにガムテープでスイッチを付けた物で脅し飛行機会社からお金を得ようとした青年の犯行だとわかった。

これでチキンか魚を食べられるもしかして両方食べさせて貰えるかな?と夢見ていた私に悲劇が訪れる。
ハイジャック犯人を警察に引き渡す為に羽田に引き返すそうだ。
結果、チキンも魚も食べられ無い・・・。
ションポリした私を見たCAさん。
ビスケットを沢山買い物籠に入れてくれたけど・・・。
飛行機が羽田に緊急着陸して入国ゲートを出た後に係官さんと警察の人が私に話しを聞きたいと言っていたけれどもまだ話す事の出来ないので首を横に振ってから買い物籠を咥えションポリした顔で柱の裏の暗闇に姿を消した。

機内食食べたかったなぁ。

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