甲斐犬黒蜜のお使い

牛耳

第22話

そんな時、突如部屋のドアが開いて人郎の母親が紫色の薔薇の花束を持って入って来る。
白龍の前に歩み寄り花束を差し出す。
「白龍のお姉様、この日をお待ちしておりました。
白龍ファン倶楽部会員No.00001大神紅おおがみくれない理想の姿に成られたのを人狼の嗅覚で嗅ぎ取り参上致しました。白龍お姉様に用意していた衣装もピッタリ。数十年前に先見の魔女に今日の事を予言されずっと待ってましたの」
花束を受け取りニヤッと笑う白龍。

「紅君、君は私が日本に帰って来た後、君の通っていた私立名門女子高の医療顧問をしていた時にファン倶楽部を立ち上げ藁半紙にガリ版印刷で伝説の会報誌【紫の花束】を作った白龍ファン一号、やはりこの衣装は君の見立てか・・・人郎君のにしては違和感があったんだ。流石だ紅君」
「君付けは、お辞め下さいただ一言『紅』とお呼び下さいな白龍お姉様」

何だか芝居がかった妖しい雰囲氣でも健気な紅さんを見ていると現代に無い純粋な自分達に酔う者の狂気を感じるわ。嵌ると抜けられ無さそう。

ふと、ある事に気づいた白龍。
花束をサイドテーブルに置き黒蜜おばばの持つ瓶から薬を一錠取り出し紅さんに差し出す。
紅さんニコリと笑い躊躇無く薬を受け取り飲み込む。
辺りがパッと輝きその後には縦ロールの髪をした若い女性の姿が。

紅さん宝塚のお姫様みたい・・・。

丁度、黒蜜おばばを迎え歓迎の宴会をするにあたり艶のある紅色のロングドレスを着ていてストレートだった髪が縦ロールに容姿が二十歳位になり男装姿の白龍さんとお似合い。
これも予言の内?

「紅、蜜ちゃん達を迎える準備は整ったのかい?」
「はい、会場は中華街の薔薇ホテルの宴会場が取れましたので皆、先に行かせてありますし、料理を用意するのにまだ多少の時間がかかります。それと例の場所に行く私達の乗る車は屋敷玄関前に待たせております」
「excellent!さあ例の場所へ向かうじゃあないか」
手を振り上げ廊下へ向かう白龍さんとその後を追う紅さん。
黒蜜おばばは苦笑いをしながら薬瓶を買い物籠にいれ私の手を引き後に続いた。

用意されていた車は真っ白なマイクロバス。
天井に選挙カーみたいなお立ち台と四方にスピーカーが付きスポットライトも装備されている。

嫌な予感しかしない・・・。

バスの中は前側にベッドに変わるソファーとテーブルセット。
助手席に音響機器のパネルと液晶モニター。
真ん中に四角い白い空間があるけど何に使うかは不明。
奥にはトイレとシャワールーム。
冷蔵庫、レンジ、調理スペースが確保されている。
側面に化粧鏡とクローゼット。

一体何を考えているんだ?

皆、程よい固さのソファーに座る。

紅さん運転手さんに
「お願い宴会場の前にあの場所へ」

運転手さん頷くとゆっくりバスを発車させる。
紅さんがソファー近くの化粧戸棚を開き冷えたシャンパンとグラスを取り出して皆の前に注いでいる。

シャンパンが行き渡ると白龍さんが
「乾杯!この目出度い日に!」
全員でシャンパンを飲み干す。

黒蜜おばばは終始ニヤニヤ笑っている。
私はシャンパンのお代わりを狙っている。

運転手さんが耳に嵌めたイヤホンマイクを抑えながら。
「間も無く予定地に到着いたします。使用許可は取って有ります。カメラマンもスタンバイOKです。音源はいかが致しましょうか?」

「音源は買い物籠を使って、歌詞は今から渡すイヤリングに買い物籠から送られるから合わせて歌って」
黒蜜おばばが買い物籠からイヤリングを出し白龍さんに渡す。
音響機器のマイク前に買い物籠をセットする。

場所は氷川丸近くの公園広場。

マイクロバス中央の屋根が開くその下の四角い白い空間にマイクを持った白龍さんが立つ。
「ライブの始まりだ外で二人は見ていて」

私は黒蜜おばばに手を引かれマイクロバスの外へ出た。
何なのこの展開?

お立ち台に付いている四隅のスピーカーから紅さんの声で。
「只今から伝説の麗人。白龍のゲリラライブを始めます。先ずは『紫の花束』お聞き下さい」

お立ち台の上でカラフルなライトが煌めく。
マイクを持った白龍さんがお立ち台に下からせり上がってくる。
エレベーターだったのねあの場所。

スピーカーからバラードが流れ出す。

男装の麗人白龍のライブが始まった。

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