甲斐犬黒蜜のお使い〜もう一つの物語

牛耳

第19話

『クルッ・チャリン!クルッ・チャリン!』


私は、かなりの時間、ある物をジーーーッとガラス越しに見続けている。
神奈川県の平塚駅からすぐの所にある和菓子屋さんの店頭だ。
焼き台になっている大きなターンテーブルがグルグル回って、丸い型枠に白い生地がチュっと入ってそのあと白餡が乗っかってまた生地が乗って丸い型枠ごとクルッっとひっくり返る。
最後に焼き印がジュっと押され型枠から外され、ちっちゃくて可愛い『○まんじゅう』の出来上がり!
調べたら、どうも全国的にあるみたいだから本当は製品名を出しても良いのかしら?

このお饅頭、今時、一個38円とリーズナブルな価格。
黒蜜おばばが
「なんだか時々、無性に食べたくなる」
と言って私が買いに来ているのだけれども・・・このお店に来るとついつい、店頭でお饅頭が出来る機械に見入ってしまい中々買う事が出来ないの。

よく見ると私の右側にソフト帽を被りステッキを握るお爺さん、左側にはお人形を背負った小さな女の子が、『ジーーー』っとお饅頭が出来上がるのを見ている。
やっぱり見入ってしまうわよねぇ〜コレ(笑)
見上げている私に気がついたお爺さんがニッコリと笑いかける。
私は、コクンとお辞儀をする。
それに気づいた小さな女の子も私達に慌ててお辞儀をした。
「やっぱり、コレずーっと見てしまうよなぁ。儂だけでは無いよな。ここに仲間が二人もおる!!」
とお爺さんが、大きな声で言う。
「仲間ならあなたの絵を描いて良い?」
とポケットから藁半紙とクレヨンを出して女の子が言う。
私は、女の子に向かってコクコクと頷いた。

女の子は、
「ちょっとだけ動かないでね」
と言って藁半紙に黒いクレヨンで絵を描き始めた。
数分後、ちょこんとお座りしてお饅頭が出来上がるのを首を傾げながら見てる私の絵が出来た。
出来上がった絵を私とお爺さんに誇らしげに見せる。
特長を掴んでいて中々上手い。
私は、またコクコクと頷いた。
お爺さんは
「上手い!これ焼き印にしてお饅頭に焼き付けようか!!」
と言って藁半紙を女の子から受け取った。

えっ?この二人は、お店の人?

よくよく聞くとお爺さんは、この店の創業者で女の子はお孫さんだとか。

その日、私は、お饅頭をかなりの数、オマケしてもらい黒蜜おばばの家に帰った。


数ヶ月後。

また、お饅頭を買いに来てお饅頭が出来るのを見ていると近くを通った高校生が
「なぁ、ここのお饅頭の焼き印で、数百個に一個しかない真っ黒な犬のお饅頭に当たると良い事があるってみんな言ってるんだよね。俺も買ってこようかな」


『ムムッ?何ですと!』
私がこれから買うお饅頭に入って無いかしら?黒蜜おばばに見せてあげたいから。

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