甲斐犬黒蜜のお使い〜もう一つの物語

牛耳

第4話

トボトボと下を見ながら歩く私は「もうお家に帰れない。このまま野良使い魔になるしか無いのかしら・・・」そう思いながら相模川の河原を一人で歩いていた。
私はなんと大事な買い物籠を無くしてしまったのだ!
事の起こりは、今日のお使い物『酒饅頭』にある。
神奈川県愛川町周辺では農家のお母さん達が酒粕で酒饅頭を作って軒先きで売っていたりする。
その酒饅頭を買いに来てラップに包んであるプーンとお酒の匂いがする餡子入りのお饅頭を買い物籠に入れて貰った後に私が余りにも美味しそうにクンクン匂いを嗅いでいたので農家のお婆さんが蒸す時に割れてしまった酒饅頭に気を利かせて酒粕を切ったのをチョコンと乗せたのを食べさせてくれたのだ。
でも初めて強いアルコールを摂取して酔っ払ってしまった。
クルクル目を回した私は買い物籠を咥えてフラフラしながら歩いていたら気がつくと買い物籠が無い!
酔いも一気に覚めてあちこち探して回ったけれども見つからない・・・。
私は河原を一人でトボトボ歩いてもう黒蜜おばばの家に帰れ無いと思いながら歩いていたら河原の大きな石の上に座ってるニャンコさんがコイコイと私に前脚を動かしている。

ショボンとしたままニャンコさんの前に行くと「どうしてそんなにショボンとしてるの?」と質問された。
初めて黒蜜おばばの関係以外の使い魔に会ってびっくりしたけど『買い物籠・無くした』とニャンコさんの使い魔に声を飛ばした。
するとニャンコさん。
「買い物籠?その首輪の古銭からすると貴女は黒蜜おばばの使い魔ね?あの意思を持つ魔道具の買い物籠なら大丈夫よ。それよりも買い物籠が貴女を探していると思うのだけれども・・・」
すると上空から「蜜〜!蜜〜!」と声が聞こえる。
見上げると黒蜜おばばの妹さんの使い魔、フェレットの勝俣さんが飛んで来た。
私は、ピョンと飛び跳ねてニャンコさんの使い魔が座っている石の後ろに隠れた。
スゥーっと降りて来た勝俣さん。
「お久しぶりです。メリーさん。うちの蜜を保護して頂きありがとうございます」と頭を下げた。
「いいえ、偶然日向ぼっこしてる所に出くわしただけよ。勝俣さん。この子、蜜ちゃんと言うの?お酒の匂いがするからきっと初めて強いアルコールの酒饅頭を食べて酔っ払ってしまったのね。どうかこの子を責めないであげて下さいな。買い物籠を無くして河原をショボンとして歩いていたのよ」
「ハイ、詳しくは買い物籠から聞いています。御察しの通り酒粕を乗せた酒饅頭を食べて酔っ払って買い物籠をバス停に置いて走って行ってしまったと。買い物籠は緊急救難信号を発信し、それを受信した私が飛んできて事情を聞いて蜜を探していたんです。酔っ払って怪我をして無くて良かった。本当に良かった」勝俣さんは心底ホッとした様子で私を見ている。
「ほら、蜜ちゃん勝俣さんがお迎えに来たんだから安心して帰りなさい。大丈夫よ貴女のことを心配しているけど誰も怒って無いから。そこに居る勝俣さんなんて昔、酒饅頭を食べて酔っ払って酒蔵に忍び込んで仕込んであるお酒を飲んでベロンベロンになって暴れて大変だったんだから。あの時は私が勝俣さんの首の後ろを咥えて水の中に放り投げたりして大事だったのよ」
私は、キョトンとしながら勝俣さんを見てると。
「メリーさんそんな何十年も前の話を・・・」
勝俣さん後ろ頭をポリポリ掻きながら言う。
「蜜ちゃんは買い物籠を無くしてもうお家に帰れないって思って河原を歩いていた見たいなのよ。だから勝俣さんの失敗に比べたら何でもないと教えてあげなきゃ帰れないでしょ?良かったわね後輩よりも大失敗しておいて」
勝俣さん石の後ろの私の頭を撫ぜながら。
「蜜、皆んなお前の失敗を責めてなんかいないぞ怪我して無いか心配してるだけだよ。買い物籠なんて『私が居ながらこんな事に』って震えてたんだからな。俺はあの時皆んなに叱られたけど最後にメリーさんが使い魔なのに主人や回りに心配をかけて駄目じゃ無いのと泣きながら叱られたんだよ。まだ使い魔に成り立ての子供だったんでそれこそ町の人総出で探したそうなんだ。俺の主人、餡子さんや黒蜜おばばも箒に乗って探し回ったんだよ」
勝俣さんもショボンとしながら話をしてくれた。
「ねぇ。だから心配しないで早く元気な姿を買い物籠や黒蜜おばば達に見せてあげなさい」
メリーさん。自分の後ろに隠れている私に体を捻り話し掛けてくれた。
私は、涙を目に貯め、鼻をピスピスと鳴らしながらコクンと頷き、二人に『ありがとう』と声を飛ばし石の後ろから出てきた。

メリーさんにお辞儀をして勝俣さんを肩に乗せて買い物籠を置いて来たバス停を思いながら近くの岩陰にスルリと溶け込む。
バス停ある椅子の影から現れた私を見つけた買い物籠がガタガタと震えている。
買い物籠を咥えて『ごめんなさい』と思考を伝えると買い物籠から『良かった!無事で良かった』と返って来た。
ポロポロと涙が出て来た。
勝俣さんが背中に背負ったポーチからハンカチを出して私の涙を拭いてくれた後「さっ、黒蜜おばば達も心配してるから先に帰って元気な姿を見せてあげな」と暗闇を指差す。
私はコクンと頷き勢いよく暗闇に飛び込んだ。

遅れて帰って来た勝俣さん。
以前に忍び込んで酔っ払った酒蔵のお酒を買って帰り餡子さんと黒蜜おばばや買い物籠に怒られてお酒を没収されてしまった・・・。

やれやれ。

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