竜の血脈―黒狼盗賊団の頭―
020 行き過ぎた捜索
毒を受けたシュラが回復するには数日を要した。
熱が下がり無事に乗り切ったシュラは追っていた男の行方に付いてジャンから報告を受けていた。
「黒いローブを纏った男は王都の外れにある建物の中に入っていったっす。ここ数日張っていましたが、そこを出入りする者は皆ローブを目深に被っていて明らかに怪しい者ばかり。おいらが言うのもなんですが、あからさま過ぎて妙な連中っす。」
「それで、中の様子はどうだった?」
「集会を開いていたっす。なんでも漆黒の使徒と名乗る集団みたいで。」
「漆黒の使徒?」
聞きか返したシュラにジャズがなんとも言い辛そうにしている。
「もしかして、全員が黒髪だったとか?」
思い当たる事と言えばこのくらいだ。
自分自身も黒い髪のために蔑みの視線はよく受けていた。
だから漆黒という言葉を聞いた時点である程度の予測は出来ていた。
「えぇ。その通りっす。漆黒の使徒は王家の白銀の髪を持つ者に強い恨みを抱いているようでその色を持った王女もその対象になったみたいっす。」
「王女は巻き込まれたって事か。災難だな。」
「全くっす。それでシュラ様はこれからどうするつもりなんすか?」
「勝手に飛び出したとは言え、やられっぱなしは性に会わないんだよな。」
「殴りこむんですかい?シュラ様。」
オルグが楽しそうに問う。
全員やる気満々だ。
シュラが傷つけられたという時点で彼らはその集団を許すつもりなどなかった。
シュラがそれを望まなくても何らかの制裁を与えようと考えていたくらいだ。
「…そうだな。今回は盗むものもないけど、毒まで貰ったんだ。お返しは必要だな。」
明らかにとばっちりを受けただけではあるが下手をすれば命に関わることだ。
ミュリエル母様との約束でもあるユーリス兄様の分まで生きるという願いも絶たれる所だった。
だからちょっとしたお返しついでに頭のおかしい狂信者たちに目に物を見せるのも悪くはない。
シュラは仲間に恵まれていた。
黒髪であっても付いてきてくれる仲間がいる。
シュラは黒髪だからと言って他を排する行為などした事はない。
そのやり方も気に食わない。
シュラ達は制裁のために漆黒の使徒の集まる場所へと向かった。
――――…
その場所は廃墟と言っても過言ではないほど寂れていた。
今にも倒壊しそうな建物。
それが漆黒の使徒達の本拠地だった。
王都にあるのはなんとも皮肉な事だがシュラにとっては白銀だろうがなんだろうがその者たちが行った事が明らかな逆恨みである。
しかもそれを引きずって行っているのは自分たちを正当に評価される為の行動ではなく、逆に貶める行為だ。
犯罪紛い、いや確実に罪であると分かりきっている事を行っている。
それで黒髪を不当に扱う文句を言う資格など果たして彼らにあるのだろうか。
壊れそうな建物の扉を勢いよく蹴破る。
中には大勢のローブを纏った者たちがリーダー格の男の下に集っていた。
どうみても怪しげな集団にしか見えないが、黒い髪をさらして、堂々と入ってきた少年とその周りを固める屈強な男たちを見た漆黒の使徒のリーダーは口を開いた。
「黒を持つ同士よ…。扉を蹴破って入って来るなどどういうつもりなのかね。」
その言葉にシュラは明らかな侮蔑の視線を向けて立っている。
ただ立っているだけなのにシュラの持つ気迫が黒ローブの者たちを圧倒していた。
「同士?冗談じゃない。お前たちと俺を一緒にしないで貰いたいな。」
「…何をしに来たのだ。」
「毒を貰ったのでそのお返しに。この前王女を襲って逃げた奴を差し出せ。」
「同士を差し出すような真似はしない。出て行ってもらおう。」
リーダー格の男がそれを告げるが、シュラの持つ瞳の色を見た黒ローブの一人が叫んだ。
「こ、こいつ王都で手配されている奴じゃないか。黒髪に金の瞳。」
「ほ、本当だ。こいつのせいで俺たちは…。」
声がそこかしこから溢れだす。
シュラは一瞬眉を顰めたが、手配されているのは知っているので今更動揺する程の事ではない。
「お前を差し出せば息子は返って来る。誰かそいつを捕まえろ!」
今までシュラの覇気に押されて怯えていた黒ローブの者たちが大挙してシュラ達に襲いかかった。
それを一蹴するかのように彼らは動いた。
素早い動きで黒ローブたちを伸していく。
元々やられた分をやり返しに来ただけだ。
命を奪うつもりはない。
黒狼盗賊団は強かった。
いや、黒ローブの漆黒の使徒が元々ただの一般人であり戦闘経験があるものなど僅かしか居なかっただけなのだが、一方的と言っても過言ではない戦力さ。
無力な人々と戦いを経験して継続しているものの差は明らかだった。
あっという間に床に這い蹲ることになる黒ローブの者たちは、シュラ達の力に怯えこれ以上の暴力を受けないように震えて動かなくなった。
残ったのはリーダー格の男唯一人。
「同士諸君になんて事を。」
「お前が命じたからだろ。」
冷めた瞳で男を見るシュラは他の者たちが向かってくる中、自分だけは動かなかった男に侮蔑の視線を送る。
「同じ黒髪を持って居るのだ。分かるだろう?我らは髪が黒いと言うだけで虐げられてきた。すべて白銀が奪ったのだ。憎んで当然だろう。」
「憎むのは勝手だが、そんなに黒髪の不遇を訴えるのならなぜそれを明かす為の行動を起こさない。お前らがやっているのはただ嘆いて弱いものに八つ当たりしているだけだ。」
「ぐっ。確かに我々は弱いものばかりを狙ってきた。15年前の赤子もしかり、王女もか弱い女性だ。だがそれの何が悪い。力のない我々はその程度しか抵抗することなど出来はしないのだ。」
その言葉にシュラはぴくりと反応した。
15年前という言葉。
それは、シュラが身動きの取れない赤子であった時に魔物に襲われた村の事を思い出した。だが、なぜ襲われたのか。
それを問いただす気分にはなれなかった。
余りにも愚かな言い分しか出てこないこの男に何を言っても無駄だと悟ったからだ。
「それに今、黒髪を持つ者が大勢捉えられている。それもすべてお前のせいだ。息子も捕らえられ大勢の仲間たちが捕まって居る。お前さえ居なければ…。」
突然話しの変わった男の言葉はシュラに深く突き刺さった。
だが、男の言葉は最後まで告げられる事はなかった。
オルグが思いっきりリーダー格の男を殴り飛ばした為だ。
「シュラ様、こんな奴のいう事など聞く必要はないぜ。それにこいつらは捕まったほうがマシだろうよ。生きるのに最低限のことは保障されるだろうからな。それにこいつらのやっている事を考えたら自業自得だ。」
ぎろりとリーダー格の男を睨みつけたオルグはシュラの肩をぽんと叩いて慰める。
だが、シュラはその言葉を無視する事は出来なかった。
「シュラ様。貴方が気にやむ事はないのですよ。」
ルイがオルグの言葉を支持したが、シュラの気持ちが晴れる事はなかった。
そして、シュラは決断する。
「黒髪で捕まっている人たちを解放します。」
「シュラ様?」
「俺のせいで捕まる人が居るのはやっぱり見過ごせない。これは俺のわがままだ。だから黒狼盗賊団は関係ない。それでも一人じゃ無理だ。皆、手伝ってくれる?」
「当然じゃないですか。」
不安げに問うシュラに全員が笑って応えた。
それがシュラには嬉しかった。
その様子を黒いローブを来たリーダー格の男は驚きの表情で見ていた。
シュラの周りに居るのは黒髪ではない男たち。
蔑む事もなくシュラを慕っているのが目に見えて分かる。
「我々は間違っていたのか。」
ぽつりと呟いたリーダー格の男は倒れ付している仲間たちを見て自分達の愚かさに気が付いた。
出て行こうとするシュラ達を慌てて引き止める。
「待ってくれ、黒き髪を持つ者たちを助け出すと言うのなら我々も力になる。いや、貴方の力になりたい。」
先ほどまでとは打って変わって懇願する男にシュラはしばらく考えて応えた。
「俺たちに付いてきたいのなら勝手にすれば良い。だが、俺たちに守って貰おうと思うな。俺たちは盗賊だ。付いて来ても良い事なんてないかもしれないぞ。」
「それでも…私は貴方が羨ましい。貴方は黒髪でありながらも仲間に慕われている。我々にはそんな者たちは居なかった。だからこうして同じ痛みを持つもの同士で集まるしかなかった。あなたは我々の光だ。どうか、我々を導いてください。」
「さっきも言ったが、付いて来たいなら勝手すればいいさ。」
そう言って踵を返すシュラ。
この日、漆黒の使徒という集団は黒狼盗賊団に吸収された。
そして、奪われた者たちを救うため、情報を集める事に専念する。
多くの手駒を揃えた黒狼盗賊団はかつてないほど迅速に情報を集めていった。
熱が下がり無事に乗り切ったシュラは追っていた男の行方に付いてジャンから報告を受けていた。
「黒いローブを纏った男は王都の外れにある建物の中に入っていったっす。ここ数日張っていましたが、そこを出入りする者は皆ローブを目深に被っていて明らかに怪しい者ばかり。おいらが言うのもなんですが、あからさま過ぎて妙な連中っす。」
「それで、中の様子はどうだった?」
「集会を開いていたっす。なんでも漆黒の使徒と名乗る集団みたいで。」
「漆黒の使徒?」
聞きか返したシュラにジャズがなんとも言い辛そうにしている。
「もしかして、全員が黒髪だったとか?」
思い当たる事と言えばこのくらいだ。
自分自身も黒い髪のために蔑みの視線はよく受けていた。
だから漆黒という言葉を聞いた時点である程度の予測は出来ていた。
「えぇ。その通りっす。漆黒の使徒は王家の白銀の髪を持つ者に強い恨みを抱いているようでその色を持った王女もその対象になったみたいっす。」
「王女は巻き込まれたって事か。災難だな。」
「全くっす。それでシュラ様はこれからどうするつもりなんすか?」
「勝手に飛び出したとは言え、やられっぱなしは性に会わないんだよな。」
「殴りこむんですかい?シュラ様。」
オルグが楽しそうに問う。
全員やる気満々だ。
シュラが傷つけられたという時点で彼らはその集団を許すつもりなどなかった。
シュラがそれを望まなくても何らかの制裁を与えようと考えていたくらいだ。
「…そうだな。今回は盗むものもないけど、毒まで貰ったんだ。お返しは必要だな。」
明らかにとばっちりを受けただけではあるが下手をすれば命に関わることだ。
ミュリエル母様との約束でもあるユーリス兄様の分まで生きるという願いも絶たれる所だった。
だからちょっとしたお返しついでに頭のおかしい狂信者たちに目に物を見せるのも悪くはない。
シュラは仲間に恵まれていた。
黒髪であっても付いてきてくれる仲間がいる。
シュラは黒髪だからと言って他を排する行為などした事はない。
そのやり方も気に食わない。
シュラ達は制裁のために漆黒の使徒の集まる場所へと向かった。
――――…
その場所は廃墟と言っても過言ではないほど寂れていた。
今にも倒壊しそうな建物。
それが漆黒の使徒達の本拠地だった。
王都にあるのはなんとも皮肉な事だがシュラにとっては白銀だろうがなんだろうがその者たちが行った事が明らかな逆恨みである。
しかもそれを引きずって行っているのは自分たちを正当に評価される為の行動ではなく、逆に貶める行為だ。
犯罪紛い、いや確実に罪であると分かりきっている事を行っている。
それで黒髪を不当に扱う文句を言う資格など果たして彼らにあるのだろうか。
壊れそうな建物の扉を勢いよく蹴破る。
中には大勢のローブを纏った者たちがリーダー格の男の下に集っていた。
どうみても怪しげな集団にしか見えないが、黒い髪をさらして、堂々と入ってきた少年とその周りを固める屈強な男たちを見た漆黒の使徒のリーダーは口を開いた。
「黒を持つ同士よ…。扉を蹴破って入って来るなどどういうつもりなのかね。」
その言葉にシュラは明らかな侮蔑の視線を向けて立っている。
ただ立っているだけなのにシュラの持つ気迫が黒ローブの者たちを圧倒していた。
「同士?冗談じゃない。お前たちと俺を一緒にしないで貰いたいな。」
「…何をしに来たのだ。」
「毒を貰ったのでそのお返しに。この前王女を襲って逃げた奴を差し出せ。」
「同士を差し出すような真似はしない。出て行ってもらおう。」
リーダー格の男がそれを告げるが、シュラの持つ瞳の色を見た黒ローブの一人が叫んだ。
「こ、こいつ王都で手配されている奴じゃないか。黒髪に金の瞳。」
「ほ、本当だ。こいつのせいで俺たちは…。」
声がそこかしこから溢れだす。
シュラは一瞬眉を顰めたが、手配されているのは知っているので今更動揺する程の事ではない。
「お前を差し出せば息子は返って来る。誰かそいつを捕まえろ!」
今までシュラの覇気に押されて怯えていた黒ローブの者たちが大挙してシュラ達に襲いかかった。
それを一蹴するかのように彼らは動いた。
素早い動きで黒ローブたちを伸していく。
元々やられた分をやり返しに来ただけだ。
命を奪うつもりはない。
黒狼盗賊団は強かった。
いや、黒ローブの漆黒の使徒が元々ただの一般人であり戦闘経験があるものなど僅かしか居なかっただけなのだが、一方的と言っても過言ではない戦力さ。
無力な人々と戦いを経験して継続しているものの差は明らかだった。
あっという間に床に這い蹲ることになる黒ローブの者たちは、シュラ達の力に怯えこれ以上の暴力を受けないように震えて動かなくなった。
残ったのはリーダー格の男唯一人。
「同士諸君になんて事を。」
「お前が命じたからだろ。」
冷めた瞳で男を見るシュラは他の者たちが向かってくる中、自分だけは動かなかった男に侮蔑の視線を送る。
「同じ黒髪を持って居るのだ。分かるだろう?我らは髪が黒いと言うだけで虐げられてきた。すべて白銀が奪ったのだ。憎んで当然だろう。」
「憎むのは勝手だが、そんなに黒髪の不遇を訴えるのならなぜそれを明かす為の行動を起こさない。お前らがやっているのはただ嘆いて弱いものに八つ当たりしているだけだ。」
「ぐっ。確かに我々は弱いものばかりを狙ってきた。15年前の赤子もしかり、王女もか弱い女性だ。だがそれの何が悪い。力のない我々はその程度しか抵抗することなど出来はしないのだ。」
その言葉にシュラはぴくりと反応した。
15年前という言葉。
それは、シュラが身動きの取れない赤子であった時に魔物に襲われた村の事を思い出した。だが、なぜ襲われたのか。
それを問いただす気分にはなれなかった。
余りにも愚かな言い分しか出てこないこの男に何を言っても無駄だと悟ったからだ。
「それに今、黒髪を持つ者が大勢捉えられている。それもすべてお前のせいだ。息子も捕らえられ大勢の仲間たちが捕まって居る。お前さえ居なければ…。」
突然話しの変わった男の言葉はシュラに深く突き刺さった。
だが、男の言葉は最後まで告げられる事はなかった。
オルグが思いっきりリーダー格の男を殴り飛ばした為だ。
「シュラ様、こんな奴のいう事など聞く必要はないぜ。それにこいつらは捕まったほうがマシだろうよ。生きるのに最低限のことは保障されるだろうからな。それにこいつらのやっている事を考えたら自業自得だ。」
ぎろりとリーダー格の男を睨みつけたオルグはシュラの肩をぽんと叩いて慰める。
だが、シュラはその言葉を無視する事は出来なかった。
「シュラ様。貴方が気にやむ事はないのですよ。」
ルイがオルグの言葉を支持したが、シュラの気持ちが晴れる事はなかった。
そして、シュラは決断する。
「黒髪で捕まっている人たちを解放します。」
「シュラ様?」
「俺のせいで捕まる人が居るのはやっぱり見過ごせない。これは俺のわがままだ。だから黒狼盗賊団は関係ない。それでも一人じゃ無理だ。皆、手伝ってくれる?」
「当然じゃないですか。」
不安げに問うシュラに全員が笑って応えた。
それがシュラには嬉しかった。
その様子を黒いローブを来たリーダー格の男は驚きの表情で見ていた。
シュラの周りに居るのは黒髪ではない男たち。
蔑む事もなくシュラを慕っているのが目に見えて分かる。
「我々は間違っていたのか。」
ぽつりと呟いたリーダー格の男は倒れ付している仲間たちを見て自分達の愚かさに気が付いた。
出て行こうとするシュラ達を慌てて引き止める。
「待ってくれ、黒き髪を持つ者たちを助け出すと言うのなら我々も力になる。いや、貴方の力になりたい。」
先ほどまでとは打って変わって懇願する男にシュラはしばらく考えて応えた。
「俺たちに付いてきたいのなら勝手にすれば良い。だが、俺たちに守って貰おうと思うな。俺たちは盗賊だ。付いて来ても良い事なんてないかもしれないぞ。」
「それでも…私は貴方が羨ましい。貴方は黒髪でありながらも仲間に慕われている。我々にはそんな者たちは居なかった。だからこうして同じ痛みを持つもの同士で集まるしかなかった。あなたは我々の光だ。どうか、我々を導いてください。」
「さっきも言ったが、付いて来たいなら勝手すればいいさ。」
そう言って踵を返すシュラ。
この日、漆黒の使徒という集団は黒狼盗賊団に吸収された。
そして、奪われた者たちを救うため、情報を集める事に専念する。
多くの手駒を揃えた黒狼盗賊団はかつてないほど迅速に情報を集めていった。
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