鈴蘭には毒がある-見た目に騙されてはいけません-

叶 望

魔石の活用法

 無事に登録が完了したギルドカードを手にとってまじまじと見つめるリリーナは、ふと疑問に思った事を口にした。


「あの、マーヤさんこの魔石って記録ができるんですか?」


「えぇ。魔石には魔法を込める事ができるのでギルドカードに使われている魔石は個人の魔力が登録されるの。それで本人確認として使えるのよ。」


「へぇ。魔石って凄いんですね。」


「ほら、魔石は魔物の体内から出てくるでしょ?取り出したばかりの魔石は魔物の情報を記録していると言うことなの。」


「あ、なるほど。だから魔物は強い魔物ほど魔石の保有魔力が多いのですね。」


「そうよ。それにどの魔物からの魔石なのかは見た目ではそう判断はできないわ。だからギルドに持ち込んだときに魔石の記録から魔物の情報を読み取って計算しているの。」


「凄いですね!ところで、ギルドで魔石を買い取って何に使うんですか?」


 リリーナの問いにマーヤは唖然となった。
 魔石が何に使われているのかなんて一般的に知られて居ることだ。
 それを知らないと言うことはやはり高貴な身の上だと言うことなのだろう。


「えっと、リリーナちゃん。あっちでゆっくりお話しましょうか。」


 いつまでも受付で占拠するわけにも行かないしリリーナが何も知らないまま冒険者として活動するのは不安があったマーヤは、冒険者に付いてと魔石の事と言った常識をリリーナに少しでも伝えようと考えての提案だ。


「はい。お願いしますねマーヤさん。」


 にっこりと微笑んでマーヤに着いて行くリリーナ。
 席に付くとわくわくとした表情でマーヤの話に耳を傾ける。
 マーヤはごほんと咳払いをしてリリーナに語り始めた。


「まず、魔石はどのように扱われているかと言うと身近にあるもので例えるとランプね。あれには『ライト』の魔法が込められているの。」


「えっと『ライト』っていうと生活魔法のあれですか?」


「そうよ。魔石に『ライト』の魔法を念じて魔力を込めると『ライト』の魔法が込められた魔石ができるの。それを組み込んで作られているのがあのランプ。」


 指でランプを指してリリーナに解説するマーヤさん。
 リリーナは興味津々で身を乗り出して聞いている。
 こういった所は貴族らしく無いと怒られるところだがここには教師など居ない。


「じゃあ魔石の魔力がなくなったら新しい魔石と交換するんですね。」


「そうよ。だから魔石の需要は高いの。だって料理をするにも魔道具のコンロは火の魔法が込められた魔石が必要だからね。それにほら、冒険者たちが持っている水筒。あれに付いている魔石は『グラスウォーター』の魔法が込められているの。あれがあれば魔石の魔力がある限り飲み水の心配は要らないわ。」


「魔物から取り出した魔石はすぐにそうやって使えるのですか?」


 その問いにマーヤさんは首を横に振る。


「魔石は貴族の方が魔力を込めなおしてからじゃないと使えないの。魔石の中に込められた魔力を自分の魔力で染めてその上で魔法を込めるのよ。」


「え、じゃあ普通には使えないんですね。」


「その為にギルドで買い取りをしているのよ。貴族の方との契約で魔石を売買するのがギルドの役目の一つね。」


 そんな事をしていたのかと初めて知ったリリーナはマーヤさんの情報に感謝した。
 冒険者に憧れてこうしてなってみたものの、リリーナは冒険者がどういった事をするのか良く分かって居なかったのだ。


「さて、予備知識はこの位にしてリリーナちゃん。冒険者ギルドでの冒険者の登録をした以上きちんと役割と守らないといけない事を知らないといけないわ。」


「はい。」


「ふふ。いい返事ね。では、まず冒険者について説明するわね。」


 ちらりと張り紙に目を向けるマーヤさん。
 釣られてリリーナもそちらを見る。


「冒険者ギルドではあんな風に依頼を貼り出しているの。そこに書かれた依頼を受付で受けてから依頼内容に沿って仕事をするのが冒険者のお仕事よ。冒険者にはランクと言うものがあるから受けられる依頼は制限があるの。」


「制限ですか?じゃあランク以上の依頼は受けられないと言うことです?」


「基本的にランクというのは冒険者の実力を現すものなの。だからランクより一つ上の依頼までなら受けられるけどそれ以上になると命の危険があるから受ける事を許して居ないわ。ただ中にはランクの制限がないものもあるから自由に選ぶ事はできるわね。」


「依頼は受けてからでないと駄目ってことですね。」


「基本的にはそうなんだけど、ほらこの依頼書を見てみて。」


 そこには薬草採取の依頼とゴブリン討伐の依頼書がある。
 他にもいくつかあるが共通しているのが常時依頼と書かれているものだ。


「この常時依頼については事後報告でもきちんと処理されるの。あと薬草類に関しては依頼の品を直接持ち込んでの達成も可能よ。」


「あ、そっか。偶々薬草を見つけても依頼を受けて居ないから持って帰れないってなったらもったいないものね。」


「そうね。それに素材だけの販売も可能だから偶然手に入れたものを持ち込んで売るのもできるのよ。」


 マーヤさんはそれからギルドの規約などを説明してくれた。
 簡単に言うと命の危険があるけれど死んでしまっても自己責任だというものと、冒険者同士の争いにギルドは関与しないというものだ。


 あとランクも試験があって上位ランクになると指名依頼というものがあるそうだ。
 そこまでのランクになるにはかなり頑張らないと難しいらしいけれどその分依頼料も高くなるらしい。
 あとランクは上からSランク、Aランク、Bランク、Cランク、Dランク、Fランク、Gランクとあって指名依頼があるのはCランクかららしい。


 ちなみにCランクというのが一人前の冒険者として扱われるようになるという一種の壁になっているそうだ。
 だから一番数が多いランクはDランクで上にいけるかどうかの境目となっている。
 そしてFランクはちょっと慣れてきた初心者の冒険者レベルでGランクは成り立て冒険者といったところだ。


 もちろんBランクになるとベテラン冒険者として扱われ、Aランクは準英雄的な扱いになるらしい。
 Sランクになると国に一人二人居るかどうかといった完全な英雄扱いだ。
 大抵は国のお抱えになる事が多いのだが、自由な冒険者らしく国を渡り歩くものも居るのだとか。


 リリーナは登録したばかりなので当然Gランクの冒険者だ。


 Gランクの依頼と言うのは街の清掃依頼だったり運搬依頼だったりと街の中でできる依頼が多い。
 後はランクアップの試験についてだが、Gランクは10回依頼を達成すると自動的にFランクに変わるとマーヤさんは言った。


 あくまで依頼になれるためのGランクでそこからは初心者冒険者として扱われるそうだ。Dランクへの試験はギルドの指導員との模擬戦を行うこと。
 そしてCランクでの試験はチームを組んでの連携をとる試験だそうだ。


 上位ランクになると一人で依頼をする者は少なく、チームを組むのが普通だ。
 そもそもソロで活躍する冒険者は珍しいくらいだ。
 そしてBランクの試験はギルドの試験用の依頼を受ける事。


 達成できればランクアップできる。
 もちろん試験なので試験官が同行するらしい。
 上位の依頼なので当然困難な依頼になりBランク以上の試験は困難を極めるそうだ。


 Sランクは特別で2箇所以上のギルドマスターに認められないと認可されない。実質はAランクまでと考えるのが普通だ。
 リリーナはそれを聞いて冒険者に憧れてはいたけれどランクを上げる必要性があるのだろうかと考えた。


 リリーナはあくまでちょっと冒険を楽しんでみたいと考えただけなのだ。
 決して竜退治に行きたいと思っているわけではない。
 もちろん憧れはするのだが。


「マーヤさん色々と教えてくれてありがとうございました。」


 リリーナはマーヤに礼を言うと依頼書の貼られている場所に向かって行った。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品