崩壊した物語~アークリアの聖なる乙女~

叶 望

魔物の氾濫

 国に戻ってきたリーフィアは14歳になっていた。
 転移で帰ればすぐだったのだが、わざわざ帝国側が馬車で送ってくれると言うので断る事が出来なかったからだ。
 せっかくの好意を無碍にするわけにはいかない。
 それに移動する村や町でもすごい歓迎振りだった。
 竜の脅威を退けただけではなく、シリウス王子との共同研究によってもたらされた食料。
 貧しい民達はこぞって我々を歓迎してくれた。
 頑張ったのはスライム達なので、過度な歓迎はなんだか心苦しい気分だったのだが、まるで祭りのパレードのような熱狂振りで英雄として送り出された私達はやっとのことで自国に戻る事ができたのだ。
 ほっと息をつく間もなく王宮での報告に陛下からの恩賞が出るとの事でアシュレイとして正装で謁見に挑む事になった。
 そこで授与されたのは爵位で位は男爵だった。
 ブレインフォード男爵を今後名乗る事が許され、それを譲渡する事もできる事を陛下は告げた。
 ただ、譲渡はある程度実績を積んでからにするようにと命じられたが、やっとレオナードの長年の夢を果たさせる事ができる事に感謝した。
 もちろん、どこの馬の骨とも分からぬ輩を男爵などという声も出ていたのだが、同じだけの事をしてから言えという言葉に加えて、帝国から送られた名誉騎士爵の事を告げられると文句も出なくなったようだ。
 名誉騎士爵とは特に帝国に縛られるような爵位ではない。
 何かを成し遂げたという者に与えられる称号のようなもので恩賞が出るわけでもなんでもない。だが、それがあるだけでも一応貴族の末端に位置する事になる。
 それなりの優遇も受けられる上、名誉な事でもあるのだ。
 そして帝国は爵位を与える事で自国の英雄として扱おうとしている。
 それ以上の位を与えなければアシュレイを国に留めて置けないというセインティア王国の意地でもあるのだが…。
 そういった国同士の裏事情など知らない私は素直に好意を受ける事にした。
 そしてレガード国王陛下より何か望みはあるかと聞かれた。
 行き成りそんな事を言われてもすぐには思いつかないのだが、少し考えた私はあるお願いを口にした。


「では、騎士団へ入団する試験を受ける資格を1つ頂ければと存じます。」


「お前が入団試験を受けると言うのか?」


「いえ、知り合いに騎士を志望している者がおりまして、かつての身分の都合で入団試験を受けるのが難しい者です。」


「…その者は強いのか?」


「私が6年程見てきた者ですので、相応の使い手に育っているかと。」


「それはつまり、あれか。」


 なぜか遠い目をして微妙に言葉を濁す国王陛下。


「えっと…。」


「よかろう。ガードナー王国騎士団長、試験の推薦枠を1つブレインフォード男爵に選ばせてやれ。」


「はっ!承知いたしました。」


 褒美も決まり、解散を告げようとした瞬間に、謁見の間に兵士が息を乱して飛び込んできた。


「報告いたします!魔物の氾濫です。王都に魔物の軍隊が押し寄せてきております。その数1万。」


「な、なんだと!」


 騒然とする周囲を王国騎士団長が静まるように制する。


「ガードナー王国騎士団長、民の非難を誘導せよ。ハーベス宮廷魔法師長は王都の防衛結界の強化を頼む。それから、冒険者ギルドへ魔物の氾濫を制圧する依頼を出すのだ。」


「はっ!」


「ブレインフォード男爵、爵位を与えたばかりですまないが、魔物の制圧を任せたい。」


「承知いたしました。」


「父上、私も制圧に参加いたします。」


「な、エドワードお前がか。」


「少しは魔物相手でも戦えます。どうかお願いします父上。」


「ブレインフォード男爵、エドワードはこう言っているが?」


「攻めて来ている魔物の種類をお教え願えますか?」


「ゴブリンにオーク、それからオーガが確認されております。」


「なるほど、ありがとうございます。陛下、エドワード殿下であればゴブリンやオーク程度であれば問題なく戦えるかと存じます。勇敢な冒険者達もおりますので問題はないかと。」


「では、任せる。」


「はっ!」


 その場で立ち上がり退出しようとしたとき私に声が掛かった。


「ブレインフォード男爵、私の弟子も連れて行くといい。」


「ハーベス宮廷魔法師長様、宜しいのですか?」


「いい実戦経験にもなるだろうしな。頼むよ。」


「では、お弟子さんをお預かりいたします。」


 ガードナー王国騎士団長がルイスの頭をぽんと撫でて押し出した。


「ルイス、お前もしっかり殿下をお守りするんだぞ!」


「分かっております父上、エドワード殿下の護衛として共に参戦いたします。」


「では、準備もありますので御前を失礼いたします。」


 騎士のように礼を取ってエドワード殿下と護衛のルイス、魔法師長の弟子のカイルを伴って謁見の間を後にする。
 各々の準備を整える為、集合場所を決め一旦解散をすることになった。
 私は、転移でリックとミゼットを連れてきた。
 リックに入団試験の事を告げるとかなり驚かれた。
 ずっと主の側で守りたい気持ちと騎士になって願いを果たしたいという思いが鬩ぎあっていたようだが、入団して願いを果たす事は国の為にもなるし、私の願い出もあると伝えると試験を受ける覚悟を決めたようだった。
 武装して、必要なものを揃えた私たちは全員集まったことを確認すると急いで冒険者ギルドへ向かった。
 冒険者の動向も確認する為だ。
 白き小竜のジークムントは今回お留守番だ。国の防衛の為に彼が出ればいずれ戦争にも巻き込まれる事になる。
 そういった場に出さない事を陛下にも許可を得ているのだ。
 ジークムントが望まない事はやらせない。そう決めていたのだが…。
 ばさりと大きな羽ばたきが聞こえたと思うと、私に抱きつく青年がいた。


「ふぇ?」


「主、僕を置いていくなんてずるい!僕も戦う。」


「え、誰?」


 白銀の髪を後ろで括ってまるで私の姿を模したような青年を驚いた表情で見上げる。
 背丈が高く私の頭1つ分より大きい。クラウス様と同じくらいだ。
 金の瞳が私をじっと見据えた。


「僕だよ、ジークムント。」


「ジークムントは竜だったと思うんだけど。」


「人化したんだ。これなら側にいてもいいでしょ?」


「え、人型になれるの?聞いてないよ。」


「主の側に居られるならどんな姿でもとるよ。」


 私のことを主と呼ぶのは濁った魔力を私の魔力で押し流した為、ジークムントは知らないうちに私がテイムした事になっていた。
 だが、冷静に考えてみれば当然だ。
 テイムは相手の魔石を自分の魔力で染める事で成立するのだから。


「えっと、ジーク。その姿で戦うの?」


「ドラゴンの鱗は硬いから。全身が武器になるんだ。」


「な、なるほど。」


 ドラゴンが魔物の軍勢の前に出ればそれだけでも大抵の魔物は逃げ出すのではないかと思った私のイメージは見事に外れる事となる。
 魔物たちはドラゴンの気配にも怯えずに向かってきたのだ。これによって、魔物たちが何者かに指示されて動いているらしい事がわかるのだが、群の中にはそういったキング種が見当たらなかった。
 どうにも腑に落ちないところはあるのだが、考えるよりも討伐が先だと思い、そのときの違和感はすっかり忘れ去られる事となるのだった。


 王都の城壁がある内部の展望台から押し寄せる魔物の様子を伺う。
 ゴブリンが大半であることが分かるのだが、所々指揮官のようにオークが配備されている。
 明らかにただの群れではなく軍隊の模倣をしているかに見えるそれらの軍勢は王都から10キロム程先にかろうじて見える程度には離れている。
 報告によればどこからか突然現れたというその魔物たちは隊列を組んでこちらへ向かってきているそうだ。
 冒険者ギルドの見解ではオーガが今回のキングの役目を果たしているのではないかと言うものだ。冒険者ギルドには多くの者たちが集っていた。
 ギルドが緊急依頼を発令したからだ。緊急依頼はランクC以上のものは強制的に参加となり、それ以下のランクについては任意となる。
 だが、緊急を要するほどの依頼だ。ほぼ強制参加と言っても過言ではない。


「おいおい、なんでこんな所に貴族の坊ちゃん方がいるんだ?」


 男の疑問は最もだ。
 緊急依頼でも貴族は免除されるので参加するものなどほぼ居ない。
 だが、ここには私を含めて6名の子供が集まっていた。
 明らかに場違いな存在だ。


「陛下のご命令で魔物討伐を依頼されている。冒険者ギルドと連携をしたほうが良いと思ってね。」


 その言葉に驚く男。周囲もざわりとしている辺り珍しい光景なのだろう。


「そいつはありがてぇが、本気か?」


「本気でなければここには来ない。ところで、あなたは?」


「俺は王都の冒険者ギルドの長、マシューだ。よろしく頼む坊ちゃん方。」


「こちらこそ、マシューさん。」


 ギルドとしては冒険者のチームをいくつか纏めてユニオンを組んで正面から戦わせようと考えていた。
 だが前から衝突させても横からのカバーが心もとない。
 そこで冒険者のチームを正面から叩くチームと左右に回りこんで戦うチームに分けてもらった。
 うん。ゲームじゃないんだから前から向かったら絶対に正面衝突するとは限らないじゃん。
 横から漏れた奴が王都に向かったら大変だ。
 そして私たちが後方に回り込んで大規模に魔法で殲滅する計画を立てる。
 騎士団ほどではないがそれなりに人数も居るし大丈夫だろうと思ったのだが、私は普通の冒険者の実力を知らなかった。
 魔物との戦が始まってからそれを思い知る事になる。
 転移で魔物たちの後方に移動した私達だが、包囲が完成するまでは待機することになった。
 逃げ出す魔物たちが広がってしまうと困るからだ。
 そして前方の方で戦いが開始されるのを確認して私たちも動く事にした。
 私たちは6人と一匹しか居ないが貴族と竜だ。
 貴族の魔法は平民の兵士100人に相当する。竜は比較対象にならないが…。
 それぞれが魔法を使えるので近くに居ては魔法の威力が出し切れない。
 こちらも3方向に分かれてお互いをカバーしながら戦うことになった。
 私と殿下にジークムント、ルイスとミゼット、カイルとリックで組んでいる。
 私が良く使う魔法は大抵一人で殲滅するときに使うものなので、大規模で周囲を巻き込みかねない。
 今回使うのはもっと範囲を狭く制限したものとなる。
 6人の内4名が強力な魔法を使える。
 だが、私以外はそこまで魔法を連発できるわけではない。
 3回も大規模な魔法を展開すればそれだけで魔力は殆ど無くなってしまうだろう。
 左右に分かれたルイスとカイルの魔法が融合する。
 ルイスの風魔法とカイルの火魔法が交じり合って巨大な炎を巻き込んだ竜巻となって魔物たちを巻き込んでいく。
 風に刻まれ炎で焼かれる。
 そして、魔法を使っている間をルイス側はミゼットが魔法を使って魔物を近寄らせないように対応している。
 カイルを援護するリックは剣で応じる。それぞれの強みを生かして魔法を終えると交代するなど連携を取っている。
 カイルとルイスの魔法の後にエドワードの水魔法で取り残された魔物を洗い流していく。
 私は氷魔法で生き残った魔物を始末する。
 後方の魔物が次々と倒されていく。大規模魔法で初めにゴブリンを、2度目でゴブリンよりも生命力が強いオークを殲滅できたのは良かった。
 しかし残りの半分はというと、どうにも一向に数が減っている気配がない。
 一応少なくはなっているのだが、このペースではどう考えても王都に到達してしまいそうな感じだった。
 その様子を確認して初めて私は普通の冒険者が1匹の魔物にかける時間というものを理解した。私たちは魔物を切るときにも魔力を纏っている。
 つまり身体強化だが、それだけではなく剣にも魔力を通しているので剣も当然強化されている。切るときにはまさにバターでも切っているのかと言うくらいサクサク切れる。
 だが、普通の剣では血と油で切れ味は落ちていくし、魔物を切るのにも力が必要だ。
 これが、貴族と平民の違いなのだと思い知る事になった。
 このままでは殲滅されるのがどちらか分からない。


「アッシュ、このままだと不味いんじゃないかな。」


「エドワード殿下…。」


 恐らく後1回の魔法だけでは殲滅は難しいと殿下も気付いているのだ。
 何せ後方の魔物を討伐するのに大規模魔法が2回。つまり同数の魔物が居る前方も同じくらいの魔法が必要なのだ。
 だが、前方には冒険者も居る。そうそう大きな魔法を放つわけにもいかなかった。それに、前方の中央にはオーガが居る。
 恐らくこの軍の要であろうオーガを討伐すれば魔物の統率は乱れるのではないかと言う気もするのだが、そこまでの道を作らなければ進めないだろう。


「とにかく、やるしかありません。」


 お互いに剣を握りなおし、魔物に挑んでいく。
 後方からじわじわと攻め立てる私達にオーガが気付いた。
 仲間を関係ないとばかりに跳ね飛ばしてこちらに向かってくるオーガ。
 ジークムントがオーガを殴り飛ばす。
 その間に魔力を纏った剣で魔物たちを切っていく。
 だが、いくらバターのように切れるからといって私たちのスタミナが無限にあるわけではない。荒い息を整えるように魔物と距離を置くエドワード。
 お互いに背を預けあって守りながら戦う。
 スタミナに関しては当然私よりもエドワードの方が上だ。男女の違いなのでこれは仕方がない。そのエドワードが息を切らしている時点で私も疲労している体を魔力で無理やり動かしている状態だった。
 エドワードの魔力強化がふつりと切れる。
 この場で魔力切れを起こすなど危険すぎる。
 私はあえて出さなかった自分の魔力を固めた飴を殿下に渡した。


「これは…?」


「魔力を回復させる飴だと思って口に入れてください。」


 自分の魔力を他人に食べさせるなど考えただけでも羞恥で悶えそうだ。
 赤くなった顔を見られまいとふいと顔をそらす。


「あまい…な。」


 ぽつりと聞こえた言葉に一瞬目の前が真っ白になったが、気力で耐えた。
 あまりの恥ずかしさに私は顔を背けたまま、念の為にもう1つだけ予備として魔力の飴を殿下に渡す。
 そしてそのまま次の魔物へと切りかかっていった。
 ぐんとエドワードの魔力が戻った気配を感じる。
 今まで疲れていたのが嘘のように魔物へと挑みだしたエドワード。
 巨大な咆哮が響いたと思ったら、ジークムントがオーガを一部変化を解いた爪で仕留めたところだった。
 指揮を失った魔物たちがばらばらに逃げ出そうとする。
 だが、この数が逃げ出すなど危険だ。出来るだけ数を削れるようにと最後の気力を振り絞って戦い続ける事になった。
 大抵の魔物が討ち取られ、血と汗と油にまみれた私たちはこれでお終いではなく後片付けに奔走することになった。
 死んだ魔物をそのままにしておくわけにはいかないからだ。
 それに陛下への報告もある。私たちが休めたのは次の日の朝の事だった。


 魔物の氾濫が無事に終わりを向かえ王都が落ち着きを取り戻した頃、リーフィアは爵位を賜った事で様々な手続きを終えてやっとの事で故郷のレインフォード領にあるリーベルの町に帰ってきた。
 帝国の騎士でもあるレオンハルトは貴族子女誘拐の件でクラウス様の下へ留め置かれている。彼の証言はメザリント様を追い詰めるのにも必要だ。
 処断するのに必要なものは粗方揃ってきているのだが、まだまだ決断するには至っていない。陛下にとっては身内でもある上にその身分は側妃なのだ。
 罪人とするにもやはり用意は周到にしておかねばならない。
 久々のリーベルの町だが、ちょくちょく転移しているとはいえゆっくりと見て回るのは久しぶりだ。
 ミゼットとジークムントを引き連れて待ち行く人々を観察する。
 リックは騎士団の入団試験の為に王都に置いてきている。
 ガードナー王国騎士団長とリックを引き合わせた後は完全にお任せだ。
 無事に試験が通る事を祈りつつ連絡を絶やさないようにと伝えてある。
 以前よりも更に活気に満ちた町を見て満足そうに歩く私の後ろを、物珍しそうにミゼットがあちらこちらと視線が動く。
 ジークムントも王都の町とは違う雰囲気を持つこの町に興味津々だ。
 足は自然とブレインフォード商会に向かう。今回は変装も何もしていない。
 突然の訪問にも驚かずに私たちを案内する赤毛の少年を見て随分成長していると感心する。
 ライリーは随分と背が伸びて以前のいたずら小僧の雰囲気はすでにない。
 応接室に通されてレオナードと向き合った。ライリーの妹のシェリーも随分と綺麗になっていた。お茶の入れ方もかなり上達している。
 そんな彼らの姿を見れば自然と笑みが浮かんでくる。
 久々に会ったレオナードは随分とお疲れのようだ。暫く手伝っていなかった弊害だろうか。


「まずは無事の帰還おめでとうございます。主の元気そうな姿を見る事ができ喜ばしい限りです。」


 レインフォード辺境伯爵の令嬢として来ている為、レオナードの私への扱いもそれに沿ったものだ。


「急な訪問に対応していただき感謝いたします。レオナード、今日は貴方に素敵な知らせがあるのですよ。」


「ほう、一体どんなお知らせでしょうか。」


 私が持ってきた素敵なお知らせに息を呑んだレオナード。
 何を持ってきたと言わんばかりの表情を一瞬見せたが、すぐにそれを表情から消し去る。


「私ではなく、アシュレイ・ブレインフォードの事なのですが。」


「…アシュレイですか?」


「えぇ、帝国から帰還して陛下より爵位を賜りましたの。ブレインフォード男爵ですって。」


 お茶を飲もうとしていたレオナードが一瞬石のように固まる。


「男爵ですか?それはすごいですね。」


「えぇ、私も驚きました。それで、爵位なのですがいずれレオナード様に引き継いで頂きたいとの事ですの。」


「わたしに…ですか?」


「えぇ。レインフォード辺境伯爵の従属貴族としていずれは。」


「なぜ…。」


「えっと、学院卒業したら流石に2重生活は出来ないとの事で。いずれは結婚を控えておりますし。」


「本当に、いいのですか?」


「貴方が望むのなら。」


「感謝…いたします。」


 ぐっと何かを堪えるように下を向いて答えるレオナード。


「それまでは、そのように。」


 ぱちりと手を叩いて、この話はここまでと意思表示する。


「じゃ、大切なお知らせはここまでね。さて、いつも通り寛いでいいよ。」


「…お前な、せっかくのいい雰囲気をぶち壊してどうするんだ。」


「ふっ、ゆっくりと余韻を楽しみたいのは山々なんだけど、別件もあるんだよね。今日は。」


「別件?何の事だ。」


「ほら、私来年には学院へ入学するでしょ?だから、王都に拠点を作っておきたいんだ。」


「何の為に?えっと、男爵になったアシュレイも学院に通わないといけなくて…。」


「あ、そっか。貴族は義務だからな…ってどうするんだよ!同時には存在なんて出来ないぞ。」


「そこなんだけどさ。陛下には許可を取ってあって。リーフィアは入学と同時に卒業試験を受けます。」


「はぁ?」


「そして、リーフィアは卒業資格を得て社交は必要最低限に留めます。」


「…それ以外はアシュレイで通すってことか?」


「ふふ、そういう事。だけど、王都にあるレインフォードの屋敷で入れ替わりをしていて誰かに知られることがあれば、それは問題になる。」


「なるほど、その為の拠点か。だがそれなら家を借りるのでも問題ないだろ?」


「居ない間の管理とか面倒だし、宿をとった場合行き来してないとおかしくなるでしょ?」


「確かに。じゃあどうするんだ?」


「そこで、お店を王都に出そうと言う計画を立ててみた。」


「…俺にやれと?」


「いや、王都だしスレイさんが適任じゃないかな?ブレインフォード商会の別店って感じで。ただそこの従業員を一から教育していたら間に合わない。」


「人を出せと言う事か。」


「話が早くて助かるよ。あと、スレイさんを説得するのを手伝って欲しいかな。」


「分かった。だが何の店をやるつもりだ?」


「そこなんだけどさ。飲食系でやってみようかと思って。」


 にんまりと笑うリーフィアを見たレオナードは嫌な予感を拭えないまま計画に巻き込まれる事となった。
 王都に向かいスレイさんに協力を仰ぐ。
 意外とすぐに引き受けてくれると返事をもらえたリーフィアはスレイをブレインフォード男爵の臣下に引き入れることにした。
 そして王都での店を買い、商業ギルドで店舗として登録する。店の人員は驚くほどすぐに集まった。
 以前王都から集めた人たちがこぞって申し出てきたからだ。



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