崩壊した物語~アークリアの聖なる乙女~

叶 望

古の竜グランディール

 リーフィアが意識を手放したと同時に展開していた結界が解除される。
 ぱくりと私を優しく口で受け止めた小竜は騒然とした周囲をゆっくりと見回した。
 ずしんと音がして空から様子を見ていた2匹の青と赤の竜が降り立つ。


「ご無事ですか、長の子よ。」


「平気だ。なんだかぽかぽかして暖かい感じがする。」


 すっと、優しく口に咥えていた少女を地面に降ろす。
 愛おしげに少女を見つめて、自分の体の変化を確認する。


「……僕、真っ白だ。」


「その様ですね。長の子よ。その娘の魔力が洗い流した結果でしょうが、なんとも伝説の白き竜の姿のようで美しくなられましたね。」


「この子は?」


「貴方を治療すると我らの前に飛び出しました。長との面会を求めておりました。」


 竜の言葉で喋っているため周囲の帝国の者やクラウス様たちは成り行きを見守る事しか出来ない。
 レオンハルトが帝国の者を纏め上げてくれたお陰で愚かな行為を起こす者は居なかったのだが、何も出来ない自分達に悔しさからぐっと拳を握りしめる。
 白く変化した小竜は地面に横たえた少女の顔をぺろりと舐めた。
 そしてかぷりと優しく咥えて自分達の巣へと帰還していく。


 その様子をただ、見送る事しかできなかった。


――――…


 グランディール山の中央には巨大な谷がある。
 その谷間には所々で大きな穴が開いており、そういった場所を竜たちは自分達の巣穴にしていた。
 戻ってきた小竜と2匹の竜を見た長はほっと落ち着いた様子を見せたが、わが子が咥えているものを見て唸り声を上げた。
 目の前にゆっくりと降下してくる小竜。まるで咥えている人族の少女を大切に扱っているかのよう。
 そして、偽りの姿を纏った少女を一瞥して長は口を開いた。


「無事で良かったわが子よ。して、その娘はなんじゃ?」


「僕を救ってくれた子です。母に話があると言っていたらしいので連れて来ました。」


「その娘が救ったじゃと?」


「僕の中にあった悪い魔力を追い出して浄化してくれました。」


「そんな事ができる人族など…。」


 言いかけた言葉を飲み込んだ長はまじまじと娘の魔力総量を見極める。


「人族のわりに随分と魔力を持っているようじゃ。これは本当に人かや?」


「人の匂いがするから人族だよ。魔力が僕と近いくらいの量を持っているけど。」


「なるほど、これだけの魔力をもっていたというのなら出来るかもしれんが、そんな事良く思いついたの。魔に落ちたものは殺すしかないと思っていたのじゃが、こうして無事に戻ってきてくれてうれしいぞ。」


「母よ、この子の話を聞いてくれますか?」


「ふむ。いいじゃろう。だが、気に入らなければ食い殺す。」


「それは駄目。僕はこの子に恩がある。傷つけるのは例え母でも許さない。」


 めずらしい子の反抗を受けてぐっと言葉を飲み込んだ長は、ふすんと息を吐いて小さく分かったと答えた。


「っ……こ、こは?」


 ふっと意識が浮上して目の前に洞窟らしき土壁が見えて驚く。
 体を起こそうとするが、上手くいかない。
 良く見てみると、硬質な滑々とした白い鱗が見える。触れてみるとなんだかしっとりとしていて気持ちがいい。
 程よい冷たさと滑々の鱗を優しく撫で上げる。
 びくりと後ろから振動を感じたと思ったら、ぬっと顔が上から出てきた。
 竜だ。ぽかんと眺めているとぺろりと顔を舐められた。
 べちょりとした唾液に顔を顰めた私はドレスの裾で顔を拭って竜の体から抜け出した。
 右を向いても左を向いても洞窟。随分と大きな巣穴らしく光は届いていない。
 出口は遠そうだ。
 キョロキョロしている私の髪をかぷりと白い竜が噛む。
 もそもそと髪で遊んでいるようにも見える白い竜。なぜこんなに懐いているのだろう。
 なんだか甘えてくるその様は子犬のようで思わず頭を撫でる。
 気持ちよさそうに目を閉じてなんだか可愛らしい。
 暫く小竜と戯れていると、奥から巨大な竜が姿を現した。
 深い緑の体表に鋭い爪、牙が隠れている。金の瞳が私を捉える。竜たちの長だ。
 リーフィアは変装の魔道具を切ると本来の姿で貴族の礼としてドレスを摘まんで挨拶をする。


「はじめまして、私はリーフィア・レインフォード。セインティア王国の貴族です。」


「我はグランディール。竜たちの長にしてその子の母じゃ。息子を救ってくれた事礼を言うぞ。リーフィアとやら。」


「無事にお返しできて何よりでした。グランディール様お願いがございます。」


「なんじゃ。」


「どうか、人族を滅ぼすのは止めてください。帝国の愚か者どもには厳しく言って聞かせますからお願いです。もちろん、帝国には謝罪をさせます。願いを聞き入れて下さいませ。」


 深く頭を下げてお願いする。
 ずっと下げたまま動かないリーフィアにグランディールはふすんと鼻を鳴らすとぐいっとリーフィアの顔を鼻先で押し上げた。


「あの、グランディール様?」


「3つ条件がある。」


「何でございましょう?」


「ひとつは、息子のジークムントをそなたの側で人族の行く末を見守らせる事。愚かな行いをしていると判断した時点で人族を滅ぼす事にする。ふたつ、帝国とやらには二度と我が住処に立ち入らせない事。来ないのであれば謝罪も不要じゃ。二度と見たくはない。住処へ立ち入ったものは生きて出る事はないと伝えよ。みっつ、そなたは年に一回はジークムントを連れて我が元へ里帰りさせること。もちろん一回といわず何度も来ても良い。以上じゃ。」


「ありがとうございますグランディール様。私の生命に賭けてお約束いたします。」


 無事に交渉を終えたリーフィアは再び銀の髪に青い瞳のアーシェへ変装をしてジークムントの背に乗って先ほどまで居た場所へ戻ってきた。
 ふわりと降り立った私の横にいた白い小竜の姿を見て帝国の者たちが震え上がる。
 そんな中、リーフィアの元へ恐る恐る近づいてきたのはクラウス様とレオンハルト様、そしてガードナー騎士団長だ。
 私が無事である事を確認した彼らはほっと安堵の息をついた。
 そして、レオンハルトに向き合ったリーフィアがグランディールから出された条件を伝えた。


 バラバラになっていた帝国騎士たちや魔法使い達を拾いながら、亡くなった者たちを連れて片付けながら引き上げていく帝国の者たち。
 付近の村にグランディール山に近づかないように警告をだし、駐屯している兵に山へ近づくものがいた場合の対処を伝えて行く。
 伝令を近くの村々に行かせて警告を広めていく。
 第三王子を連れた部隊はこうして王宮に引き上げて行った。
 リーフィアはガードナー騎士団長を転移で野営地に送り届けた。
 私達を除いて部隊を引き上げてもらう為だ。
 クラウス様と私、そしてレオンハルトは帝国の引き上げを確認すると共に帝国が戦争を引き起こす事を諦めさせるという目的もある。
 馬が小竜に怯えるのでジークムントには上空からゆっくりと付いてきてもらっている。
 馬車に乗ってしまうと姿が見えずジークムントが飛んできそうなので馬に乗って移動中だ。ちなみに、私は乗馬ができないためクラウス様に乗せてもらっている。
 その馬の横に別の馬が近づいてきた。第三王子だ。
 紺の髪に紫の瞳を持った私と同い年の少年は、馬を寄せてなぜかキラキラに輝いた瞳で話しかけてきた。


「あの、俺はシリウス・グラスウォード・パークスといいます。帝国の第三王子です。どうぞ、お見知りおきください。」


「クラウス・アーデンバーグです。殿下馬上でのご無礼お許しください。」


「あの、その子は…?」


「この子はアーシェとでも呼んでやってください。」


 クラウス様のその言葉にシリウス殿下が盛大に頬を引き攣らせた。端正なお顔が微妙に歪む。


「アーシェというのは偽名と言う事ですか…。」


「さて、どうでしょう。」


 そ知らぬ表情でかわすクラウス様。その態度に痺れを切らした男がいた。


「き、貴様無礼ではないか!」


 声を荒げて口を挟んだのは帝国の魔法師長だ。


「ハルルート、止めろ!」


 レオンハルトが魔法師長を止める。しかし、ハルルートは止まらない。


「そもそも、その娘を手に入れれば我が帝国は竜を手に入れることが出来る。なぜそうしないレオンハルト!」


「アーシェ様との約束だ。違える事はできない。それが命令であってもだ。」


「貴様!わが国を裏切るのか。」


 赤い髪が怒りに震える。赤い瞳でレオンハルトを睨んだ。


「………母国を守りたいだけだ。クラウス殿、アーシェ様ハルルートの非礼を詫びます。どうか、許していただけないでしょうか。」


「構いませんよレオンハルト様。だって、もし帝国が暴挙に出たならば、それ相応の対応を私個人が行うだけですから。もちろん、私を守ろうとするジークムントも同時に相手をする事になるでしょうけど。」


 その言葉に周囲のものがヒッと息を呑んだ。
 竜を止めるだけの力を持つこの小さな娘が帝国に刃を向ければどうなるか。
 なにより、有効だと思われていた火薬が全く効かないあの竜が自分達に向かってきたときの事を思い出したからだ。


「その、本当に申し訳ない。」


「だからレオンハルト様が謝る事じゃないです。」


「こ、小娘が!」


 ハルルートが真っ赤になって何か言おうとしたが、その言葉に割って入ってきたのはシリウス殿下だった。


「我が国のものが無礼をしましたアーシェ様。どうか、お許しください。」


 真摯な態度で謝罪をするシリウス殿下。その空気をぶち壊す言葉を私は紡ぐ。


「あ、そうそう。一発殴っていいですか?シリウス殿下。」


「は?」


 思わぬ言葉に間抜けな声を返すシリウス。周囲も唖然としている。


「黒色火薬なんて阿呆な物体をこの世界に持ち込みやがって馬鹿なの?死ぬの?って感じなんだけど。」


「まさか…君は。」


「ね、一発殴っていい?」


 リーフィアはにこやかな笑みを浮かべているが、目が全く笑っていない。


「こら、いい加減にしろ。」


 クラウス様がコツンと私に拳骨を入れる。
 本気ではない辺り、クラウス様もそれと同じくらいの思いを抱いているのだろう。


「ちぇっ。」


 口を尖がらせた私をクラウス様が笑う。その私達を唖然とさせる言葉をシリウス殿下が口にした。


「その、殴ってもいいから俺と友達になってくれ。」


「殿下!」


「できれば、お手柔らかに頼む。一応王子なんで。」


 その言葉にポカンとして呆けていた私は、ぐっと拳を握って王子の腹を殴りつけた。


「うぐっ。」


「はぁ、いいよ。お友達。ただし、お友達である以上、私を利用する事は許さないから。」


「ぐ、わ、分かった。ありがとうアーシェ様。俺の事はシリウスって呼んでくれ。」


「はぁ。分かったわシリウス。とりあえず今は私のことをアーシェって呼び捨てても構わない。」


「本当の名は教えてもらえない?」


「いつか時が来れば教えてもいい。でも今は駄目。」


「分かった。それでいい。あのさ、アーシェ。」


「なに?」


「後でドラゴンに触らせて。」


「…ジークが良いって言ったらね。」


 喜び勇んでいるシリウスをやっぱりかと思いながら眺める私。
 野営地では日本食を提供したら泣いて食べていた。
 そして前世の話になって、私には記憶がない事。
 そしてここがゲームのような世界である事。
 なによりシリウスが乙女ゲームの攻略対象である事を告げると驚きの声を上げ、主人公ちゃんの電波っぷりを伝えるとげんなりとしていた。
 話をしているとどうやら、シリウスも無詠唱は出来るらしい。
 だが、魔力調整の練習はしていなかったらしく魔力を纏ったりは出来ないらしい。
 一応他の者に伝えないという誓約をさせて魔法の使い方を少しだけ教えておいた。
 友人になる以上、死なれるのは心苦しいからだ。
 レオンハルトの頑張りとシリウスの協力でセインティア王国に攻め入る事を王に何とか表立っては諦めさせたが、他の者たちがどう動くかは分からない。
 その先については私達の関知の外だ。私達は帝国の謁見の間に通されていた。


「わしはフェルナート・グラスウォード・ナイアークという。クラウス殿、アーシェ嬢、この度は迷惑をかけたな。我が国の危機を救ってくれた事、礼を言う。」


「もったいないお言葉でございます。フェルナート王。」


「シリウスと友人になったと聞いたぞアーシェ嬢。できれば懇意して我が国に嫁いでくれると良いのだが。」


 赤い髪は荒々しく逆立っており、紫の瞳はその野心を隠しきれていないほどぎらついている。


「私はすでに売約済みですわ王様。ですが、友人としてならばシリウス殿下とは懇意にさせていただきましょう。」


「とは、か。これは手痛いな。」


「き、貴様、陛下に向かって無礼だぞ!」


「よい、ウェザリー卿。我が国を救った英雄だ。その様な扱いは許さぬ。」


 ウェザリー卿というのはハルルート様のことだ。
 怒りに震えていたが陛下の言葉を聞いては治めざるを得ない。


「はっ!しかし、陛下…。」


「わしが良いと言ったのだ。シリウスとの繋ぎがあるだけでも十分と言うもの。」


「許せ、アーシェ嬢。我が国を思う忠誠心が高い男なのだ。」


「気にしていませんわ王様。あと、約束どおりレオンハルト様は私が貰っていきますので。」


「あぁ。レオンハルトは良い騎士だ。そなたの側に付けられるのならば文句はない。喜んで送るとしよう。」


「感謝しますわ。」


 帝国としてはレオンハルトを私の見張りに付けることが出来る上に王国の情報を手に入れることが出来ると期待しているのだろう。
 身内に危険を呼び込むなどとクラウス様は最初反対していたが、彼の持っている情報は重要だ。
 それを伝えるとクラウス様も駄目とは言えないようだった。
 メザリント様を追い詰める為にも必要なのはこちらも同じなのだから。


――――…


 竜を象った紋章の旗がひらひらと風に乗ってはためいている。
 ここは、グラスウォード帝国にある王宮の一室。
 私達は未だセインティア王国へ帰れずに留め置かれていた。
 理由は簡単だ。無断で国境を越えて来た上に帝国は愚か人族全体の命運を握った私がいるからだ。
 グランディールが約束してくれた通り、住処に立ち入らなければ関与しないという約束ではあるがそれを鵜呑みに出来る帝国ではない。
 セインティア王国との不可侵協定の件もあり、今は国同士の取り決めの為のやり取りが終わるのを待っている状態だ。
 まぁ、実際にはちょくちょく転移で帰ってはいるのだけれど形式的にはグラスウォード帝国に留まっているという事になっているのだ。
 ただ留まっているだけかと言うとそうでもない。
 クラウス様の送り迎えだけではなく、同じ転生者同士と言うこともあってシリウス王子との交流も深めている。
 だが、女性として会っているのではない。アシュレイとして会っている。
 下手な噂が立つのも困ると言うのもあるし、実は女装した男子でしたという方が帝国騎士たちのプライドを守る事にもなるからだ。
 女に負けた騎士団では格好が付かないと言う事もあるし、やれ縁談だと余計な事に気を取られずにすむ。
 女性からのアプローチは増えたけれども…。
 知らないうちにアシュレイ渡り鳥説が勝手に一人歩きしていた。
 女性を口説いて回っているという何とも不名誉感じではあるが、本気で男性に迫られるよりはマシなので放っておいている。
 おまけに、最初の頃など帝国を脅かす存在として暗殺者が毎日のように送られていたのだが、ナイフを振り下ろす直前、送った相手の寝ているベッドに絶妙な位置を選んで転移させておいたら最近では大分襲われる事がなくなってきた。
 それを利用して帝国も内部の膿を出すのに成功しているらしい。
 共に過ごすうち何気に意気投合した私とシリウス王子。
 言葉を崩して喋るほど打ち解けたその理由はと言うと、私も彼も再現する事や試行錯誤して何かを作るという行為が好きだったからだろう。
 ここが物語の主人公であるリア・オーストンやアーデル・ハイランドとの大きな違いだ。
 彼女達は乙女ゲームの世界だと知っており、それに向けて動いている。
 だが、乙女ゲームなど知らない我々は自分の知識と行動力で自らの道を切り開いてきた。
 それ故にこの世界の捉え方が彼女達と大きく違っている。
 ゲームの世界に囚われる事無くこの世界を受け入れて自らの意思で生きているのだ。
 そんな私達がやっている事と言えば別に新しい事を起こそうとしているわけではない。
 日本食を普及させて、いつでも食べられるようにしたいと言う欲求にシリウス王子が突き動かされており、それに私も巻き込まれているだけだったりする。
 そして、その行為が最終的に貧しい帝国を救い我が国へ侵略する必要が無くなったのだから何が世界の命運を左右するかなんて分からないものだ。


「やっぱ米は大事だよな。あと、味噌と醤油。それに酒だな。これがないと日本食は味わえないもんな。」


「それには深く同意するけどさ。なんで僕が手伝わないといけないんだよ。」


「いいじゃねぇか。同郷のよしみって奴?それにほら、俺は料理とかさっぱりだし。」


「ま、いいけどさ。ある程度は完成して作っていたんだし。ただ、あっちでもスライム君たち任せだから実際に作るとなると大規模な実験が必要だよね。あ、でも米はちゃんと作れるようになっていたな。うーんでも、こういった事は私が勝手に伝えるわけにも行かないし。」


「そこはほら、あれだ。自分達で試行錯誤して作ればいいんだって。横取りなんてしたくないしな。」


「新たな品種が出来るかもしれないしね。あ、もち米が欲しいな。」


「もち米な。いろいろと試していつか出来るといいな。」


 品種改良にはスライム達に頑張ってもらったのだが、それを実際に育てるのは現地の人々。なんせ、スライム任せにすると味が落ちるからだ。
 時間をかけることがやはり植物には必要らしい。
 だが、貧しく食料危機に瀕していた帝国の民はスライム達の作った試作のお米や大豆によって救われる事となる。
 日本食の米が帝国中に広まったのは元々この帝国の土地が米作りに適していたからもあるだろうし、自分達を救ってくれた食料を自分達の手で作りたいそういった人々の思いの結晶でもある。
 そして、5年後には我がセインティア王国と、グラスウォード帝国は食料の相互輸入が少しずつ始まる事となるのだが、それは今よりも先の話だ。


――――…


「あ、シリウスまた魔力が途切れてるし!」


「うぐ。難しいんだよ!ずっと魔力纏うのって。」


「うちのミゼットは魔法も知らなかったのに3月で取得したのに。」


「お前の周りにいる奴らって絶対化け物だろ。普通はそんなに早く取得なんてできねぇよ。」


「むむ、化け物扱いとか。あ、そこ違う。集中を途切れさせるなって。」


「いや、動きながら作業しつつ魔力を纏い続けるって無理だって。」


「大丈夫、すぐに出来るようになるから。」


「いや、無理。絶対無理だって。」


 画板を使って研究の資料を纏めつつ、魔力を纏って走らされているシリウス。
 その後ろを同じように作業しつつケロリとした私が続く。


「最初は皆そう言うんだって。やっぱ荒療治の方がお好みで?」


「いえ、頑張ります。だからその怪しげな笑みをやめろぉおお!」


「大丈夫。苦しいのは最初だけだよ。」


「何がだよ!お、鬼だ、悪魔だ。ま、待てって…な?俺、一応王子様。お分かり?」


「ちぇっ。てか何で片言なんだよ。」


 荒い息を整えながら足を止めたシリウスが私に向き直った。


「そういえばさ、あれから半年も経っているけど、相変わらず交渉が纏まってないだろ?お前婚約者がいるんじゃなかったっけ。」


「…居るけど。」


「会いに行かなくていいのか?」


「ご心配なく。その辺は抜かりない。」


「え?だってお前ずっとこっちにいて手紙も出してないよな?」


「………。」


「それに、アシュレイ・ブレインフォードってセインティア王国のエドワード王子の護衛なんだろ?護衛任務ほっぽって良かったわけ?」


「それは問題ない。」


「てかさ、アシュレイ・ブレインフォードって貴族居ないよな。」


「流石にその程度は調べたんだね。」


「あぁ。おまけにエドワード殿下の噂もな。」


「噂?」


「なんでも婚約者のリーフィア・レインフォードが居るくせに、自分の命の恩人である銀髪で青い瞳の少女を探しているんだろ?……ん?銀髪で青い瞳ってお前じゃん?え、どうなってるの?」


「………。」


「え、リーフィア嬢に怒られるんじゃね?」


「それは有り得ない。」


 きっぱり言い切る私を見て、あれ?という顔をしたシリウス。


「もしかして、リーフィア嬢って平民程度の魔力しかないって言うのは実は嘘でその正体はお前だったりして。」


 からかうように私を見たシリウスを問答無用で殴りつけた。


「え、まじ?マジなの?探しているのは実は婚約者本人でしたって…お前、何やってんだよ。」


 呆れたようなシリウスに何とも言い返す言葉がなくて、ふいと視線を逸らした。


「ま、お前だろうが別人だろうがさ。ここに来た時みたいに無理やりお前の事欲しがったりしないから安心しろよ。お前との研究のお陰で光明が見えてきたんだ。貧しい国のままなら無理にでも手に入れようとしたかもしれないけど、お前とは友好関係を築いた方が有用だって父上も理解しているみたいだからな。」


「それは分かってる。でも、絶対に誰にも言うなよ。僕だって彼に話せない理由があるんだから。」


「おう。男と男の約束だ。あれ、お前女だったっけ。」


 ぺしんとシリウスの頭をどこから出したのかハリセンで叩いた私。
 いい音が訓練場に鳴り響いた。
 リーフィアとシリウスが帰還できたのはそれから更に3月後のことだった。



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