インペリウム『皇国物語』

funky45

26話 外交問題

 集落から離れ、付近までの護衛だったにも関わらず関所に到着するまでの間、アーガストとマディソンはロゼットたちの護衛として追従していた。運送業のラフィーク達にとっても助かる話で安心してロゼットたちを送り届けることも出来たとし仕事を完了した。アーガストはロゼットを呼び、彼女に自身が育成した地竜の記録書を渡す。


「参考になるかはわからぬが、この地竜を御することが出来るやもしれん。大切に育ててほしい」


「ありがとうございます! こんな大切なものまでいただいて…色々とお世話になりました!」


 ロゼットに抱かれている地竜の赤子、澄華も元気な鳴き声でアーガストに応える。


「俺たちは関所で手続きしてから翌日の便でフローゼル行きだが……花火どうするかねぇ」


 ロゼットが使ってしまった花火の一部に頭を抱えるラフィーク。それに対しては謝罪をいれるロゼットだったが状況が状況だっただけにどうしようもなかったとラフィークとハーフェル受け入れる。そのハーフェルにシャーナル皇女がドラストニアへ来るように誘う。


「あなた、うちで騎馬隊の指揮を執らない? 悪いようにはしないわ。今よりも良い待遇で考えてあげる」


「勘弁してくれ。こいつを置いてどっか行くつもりはない」


 シャーナル皇女の勧誘をあしらうハーフェルだがシャーナル皇女は少し困った表情で「残念ね」と本気で残念がっている様子ではなかった。
 ハーフェルとラフィーク、アーガストとマディソンそれぞれの一行とは関所で別れ、ロゼット達は遂に国境を越えてフローゼル王国領内へと入る。


「入国審査のときは緊張しますね」


「我々の場合は他の者とは違い、国家からの使者ですから多少扱いが異なります」


 緊張している様子のロゼットがこぼした一言に被せるセルバンデス。彼女は特別な待遇という言葉に背筋が伸びるように感じる横で、シャーナル皇女はというとあくびをしていた。


「ここからは再び列車での旅になります。予定よりも半日早く着きそうですな」


「やっと落ち着けそうね。身体が痛いわ」


 シャーナル皇女は旅疲れが出始めている様子。ロゼットもかなり疲労が溜まっており身体が少し重く感じているのか足取りが鈍くなり始めていた。


 三人が駅へ向かおうとしていた矢先で誰かの揉めるような声が聞こえてくる。


「だーかーらー!! 線路敷いてるならあの山を少し掘れば鉱石が出てくるってば!!」


 そう話している人物はロゼットとおなじくらいのかなり背の小さい少女。だがその風貌はむしろ大人のようにも感じ僅かに尖った耳に後ろに多量の髪の毛を束ねている。衣服も短パンにかなりの薄着と冒険者とも現代人とも思えるような、周囲と比べるとかなり異色な雰囲気の印象を持つ。


「どうかされましたか?」


 セルバンデスが仲介人として入り込む。シャーナル皇女は面倒に首を突っ込むなと言わんばかりの表情だったが先程の鉱物という話に何か引っかかりを感じていた。


「この少女が現在開発中の山道を鉱山にすべきだと訴えてくるのですが…」


 関所の役員が言い切る前に先程の少女が呆れたような表情で説明を始める。


「この辺一帯は元々グレトンの火山の地脈の通り道になってんの!だから鉱物資源を掘り当てたいならあの開発してる最中の山道付近がドンピシャだってさっきから説明してんだろうが!」


 更に語気を強めてかなり乱暴な口調で責め立てるように説明する少女。工事が行なわれているであろう方向に向いて身振り手振りで大げさに説明していた。途中から訴えている役人に向きかえるように締めくくる姿がロゼットには少し可笑しく映るが彼女としては必死の形相。


「お口が悪いよ……」と吐露するロゼットに「あなたも気をつけなさいよ」とシャーナル皇女が呆れながら冗談っぽく入れる。


「なるほど……地質を調査されたのですか?」


 セルバンデスが少女の説明に対して質問を入れると、彼女は自身の持ち物の袋から翠玉のような輝きをした鉱石を転がす。曰くあの山道の近辺で掘り起こしてみたら出てきたそうだ。


「わぁ、凄いね。以前シェイドくんに見せてもらったやつに似てるかも」


「というか勝手に鉱物を掘っていいものなの?」


「許可貰ってるってば。じゃなきゃ犯罪だし国王認定の許可書だってあるわい」


 許可書のような書類を提示する少女。セルバンデスとシャーナル皇女が確認するが確かにフローゼル王国の国王の捺印も本物だった。おそらく事務的な作業で大してまともに目も通していなかったのだろうという感想を抱く。


「確かに…捺印も本物、これらの鉱物が採掘できるのであれば国王直々に呼び掛けされてもおかしくないのですが」


「翠玉の宝石だから相手にされてないのか知らないけどそれでも金になるってのに…。山越えた先に集落や町があるわけでもないのにただ単に山道にする意味がわからないわ」


 これから開発を行なうためなのか山道を敷いているだけの現状に憤慨している様子の彼女にフローゼルまで同行しないかと持ちかけるロゼット。シャーナル皇女とセルバンデスも概ね了承し、どちらにしても鉱物資源がもし多量に採掘されるのであれば今後の外交にも上手く作用する可能性もあると考える。


「あたしはマキナ、よろしくね」


 陽気な声で彼女は自己紹介を終え、ロゼット達と同道することとなった。






 ◇






 グレトン公国、総人口およそ三千万人の中規模な国家。山岳地帯に覆われたこの国は鉱物資源、主に鉄鉱石による特産品にて財政を支え、マッド・マンティス大公による貴族を君主とする。


 会合の場にラインズは到着しており、予定時刻まで残りわずかという時間まで待たされているようであった。会場建物の周囲を見回るようにしているラインズに紫苑から借りた数名の精鋭のうちの一人が疑問を呈する。


「何をなさっておられるのでしょうか?」


「んー…ちょっとな」とだけ答えるとラインズは彼らを連れて会場へと入っていく。


 会合までの間にグレトン公国に事前に入り込ませておいた人材の情報整理を行なっており、ラインズの睨んだとおり鉄鉱石の採掘量はむしろ増加傾向にあったことがわかった。鉱山拡張の割合から見ても十分すぎる量には増えていると考えるとやはりこちらへの情報は虚偽であったことが伺える。


 そう考えていると遅れてマンティス大公と一行が会場入りする。その見た目は文字通りの貴族といったところか、上品な質の良い革製品の衣類に後ろに整えられた頭髪にきっちりと整えられた眉毛。互いに自己紹介を行なった後早速今回の訪問に関して会談が行なわれる。


「ドラストニアとしては鉄鉱石の流通量を増やして欲しいということでよろしいかな?」


 マンティス大公は話す。


「場合によっては対抗措置もとらなければなりませんし、農作物の流通不足で飢餓に至るのは国民のみなさんなのでは?」


「しかし採掘量の減少は報告の通りでございますがね」


「それが真実なら…ね」


 ラインズは増加傾向にある鉱山の情報を提示するが、マンティス大公は公式の情報ではなく信用もできない情報を鵜呑みにするのかと反論するが、グレトン側が虚偽をしていないという証明にはならないと切り返す。


 幸いドラストニアは広大な草原と肥沃な土地を生かした農業畜産を主としている国家。水資源にも富んでいるためグレトン側としても主な農畜産物の流通源となっているため関係悪化は避けたいところ。更に言ってしまうと『喉から手が出るほど欲しい土地』でもあるのだ。それはドラストニアからしても同じで鉱物資源の富んだグレトンの土地は非常に魅力的である。


 膠着した状態で話が進まず口火を切ったのはラインズであった。


「時に…噂話程度ではございますがね。鉱山の拡張を行なって採掘量を増やしているのは軍備拡大を行なっているからではないかと…いや、あくまで噂ですがね」


 念を押すようにラインズは相手の動向を伺う。


「なんの冗談かと思えば、他国に侵攻するなどわが国にはそのような余裕などございませんよ」


 余裕はない―と答えるマンティス大公に眉が僅かに動くラインズ。


「まぁ…仮にその噂が事実であったとして、国家が自国の防衛のために軍備を整えるのは至極当然だとは思いますがね」


 噂を肯定するのか、事実として認めるのかどちらとも取れるような言動にラインズも笑みで答える。


 会談における問題は互いの流通量の増加ということで決着し、その後は終始穏やかであった。紫苑の精鋭達も会談中にひと悶着あるかと終始身構えて挑んでいたほどであり、内心鉄鉱石の増加は事実だろうと今回の会談でわかった。それを証明するかのように会場を後にしようとした際にラインズが呟く。


「周囲の建築物があんなに露骨に綺麗に建て直されてたら誰だって疑うぞ」


 会場のみならず街中のオブジェや街灯でさえかなり綺麗な見た目をしており見たところ質も非常に良いものに仕上がっていた。ラインズは会場入り前にずっと見ていたのはこれを裏つけるためであった。しかしそのラインズの指摘にも顔色一つ変えなかったマンティス大公は対抗しうるだけの軍事力を整えている可能性があると危険視する。


「もしくは別の策があるのでは?」と精鋭の一人が言う。それに同調するように宿泊所の自室に戻った後ラインズは書状をしたためる。すると自室の扉をノックする音がしたためラインズはそれに応じた。





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