インペリウム『皇国物語』

funky45

18話 街並み冒険

 先程の王族御用達の商店街とは打って変わり、中央広場に来ていた。時計塔のようなシンボルが建てられており大きな掲示板に噴水が設置されていて人々が行き交っている。


 街並みはレンガで建てられたり、高級な建物だとコンクリートで出来ているのかと思われるものも散見される。街の人々の身なりも様々でしっかりとした正装に身を包んでいる人もいれば今にも破れて使い物にならないような衣服を身に纏っている人もいて不思議な感覚であった。


 街の中央に位置する巨大な掲示板には様々な依頼書が貼り出され王宮からは兵やメイドさんの募集や、近隣の状況報告なども貼られていた。


「探し物とか、労働者の募集とかが目立つなぁ」


 掲示板を見る限りではこの街は人手不足だということが見えてくるようだった。これほど街に人が溢れかえっていても募集の量は尋常ではなく、重労働を強いるような仕事にはやはり人は寄り付かないのか数週間前に貼ったというような内容で貼ってあるものもある。


「重労働って工事とかかな?あとは…鉱山採掘とか?」


「お前仕事でも探してるの?」


 独り言を呟いていると横から少し幼い声で聞かれた。


「あ、えっと…どんなものか掲示板を見てただけです」


 声の主は私より少し年上かと思われる少年。全体的に幼さが残る印象で身長は私より少し高い程度で身なりも私のように整ってはいた。
 印象としては近所にいる元気な少年といった感じだけれど胸元にあった紋章を見てそれなりの階級の人なのかなと察する。私の身なりを一瞥した相手も同じことを考えていたようだ。


「ふーん…というか貴族の家系かなんかなの?」 


 少年は私の身なりを見て察したのだろう。貴族ではなく有識者の子供で現在はとあるところで住み込みで働いているとというところまで説明する。


「てことはハウスキーパーか」


「えっと…大体そんな感じです。君は?」


「俺も似たようなもん。まぁ貴族の雇われなんだけどね。あ、俺はシェイド」


「ロゼットです」


 お互い自己紹介をした後、求人の貼り紙が貼り直され待っていたと言わんばかりにぞろぞろ求職者が押し寄せてくる。中には鉱山採掘の仕事に行ったきり帰ってこないと貼り紙を貼リ変えている人に訴えかけてくる人もいた。給料が未払いと訴える人もいて阿鼻叫喚のような騒ぎになっていた。


それでも求職者は黙々と貼り紙を見ている姿がなんともおかしな光景に見えた。


「あれどう思う?」と先程のシェイドと名乗った少年が私に訊ねる。


「どう、と言われても…。そんなに仕事がないのかなって」


 そう言うとシェイドは溜息をついた後に淡々と話し始めた。


「あの鉱山採掘の貼り紙、別の国の仕事だよ」


「……………ん?あれ、なんでドラストニアにそんな仕事が来てるの?」


 この国での仕事ならともかくなぜ他所の国の求人貼り紙がここにあるのだろうか?
 続けてシェイドはそれ以外の貼り紙に関しても指摘していた。賃金の未払いに対価に見合わない低賃金な重労働。


 そして高給な書類整理のような仕事ばかりが真っ先に埋まり、他の仕事はほとんど手を付けられずにいるかどうにもならない人が手にとっている。町並みは立派に変貌を遂げても未だ読み書きができない人間も多く存在しているらしく近くにいる人い読んでもらいながら確認している様子も見られ書類仕事などは高給な職とされているようだった。


「しかも別の国の仕事。貼り紙にも職場なんて書かれてない。馬車で運ばれて行き着いた先は全く別の国だとさ」


「そんなもの信用しちゃっていいんですか!?」


「誰も気づきゃしないし、そもそもそういう仕事にさえ縋り付く人間は気にすら留めないよ」


 街並みは平穏に見えても『光』の部分だけでなく必ず『影』がある。そう思うと自分の今の立場で見ると遠く感じてしまう。おそらくそれは逆の立場でも同じ、或いは彼らにとってそんなことさえ考える余裕もないのだろう。


「ていうか買い物してたんだっけ?」とシェイドに言われ気づき商店区画へと向かう。




 ◇


「なんでついて来てるんですか」


「んー…なーんか気になってさ」


 商店区画へ来たのは良いけどがなんだか先ほどの少年シェイドに気に入られてしまったのか、私の後をついてくる。買い物をしてたら多分飽きるだろうし、しばらくそっとしておこう。
 店には色んな商品が並べられていたけど王宮の品を買い集めた際とさほど変わらないようなものばかりであった。金物の小物などを見比べている限りではこちらも良いもののように見える。


「へぇ、綺麗なペンダント」と呟いていると横から店員さんが話をかけてくる。


「お客さん目が肥えてるね、そいつは『翠晶石すいしょうせき』から作られたペンダントだよ。金属は鉄鋼を超える強度の銀と希少な鉱石で合成した合金だよ!軽量でつけやすく壊れにくい、今だけのお買い得品!お嬢ちゃん可愛いから更にオマケして、たったの大銀貨四枚にしとくよ?」


 畳み掛けるような接客トークに気圧されながらもまだ買うなんて一言も言ってないのに購入するかのような流れにしていこうとする店主に対しシェイドは冷めた目で先ほどのペンダントを見ていた。


「これ、翠晶石どころか翠玉石でもないただの『ガラス』製だね。それとこの合金の金属、ただの鋼鉄だよね?それで大銀貨四枚って随分と阿漕な商売してるねぇ」


 あろうことか商品を『偽物」だと切り捨てた。


「お兄ちゃんは商品の価値がわかってないねぇ、うちは信用で商売してるんだよ?偽物なんて出すわけが…」


 店主が反論すると同時にシェイドは首からさげていたペンダントを取り出した。その輝きは店にあるものとは比較にならないほど碧く輝き、日の光が当たると一層輝きを増した。それでいて内部は深い碧に染まり今にも吸いこまれそうなほど幻想的な石だった。


「これが本物の翠晶石。金属は鉄鋼だけどね、これと比較すると金属の部分は同じだよね。まぁ翠晶のほうは…ね?」と私にも見せて振ってくる。


「確かに全然違うね。これが翠晶石なの?」


「そだよー」と反論したときとは違い能天気な声で私には対応する。


 そのやりとりを見て店主の顔つきが一気に変わり、声色も先ほどとはまるで違い低い声で返ってきた。


「お前さんウチの商売の邪魔するためにおるんか?てめーのもんが本物かどうかなんざ知ったこっちゃねぇんだよ」


 先ほどとの違いに少しビビってしまい、顔面蒼白になる私を横目にシェイドは更に反論する。


「おじさんさ、商売すんのは勝手だけどその鉄鉱石どこから来てるかわかってんの?」


 そうシェイドが言うと店主はなんのことやらといった様子でシェイドの胸元を見た瞬間表情が見る見る内に青ざめていくのがわかった。店主は穏便にと彼に謝罪したのち店を閉めてしまった。


「な、何したの??」


「別に?何もしてないよ」ととぼけた様子のシェイドに私の中での彼の印象がますます疑惑だらけに変わった。


 さきほどの騒ぎで人が集まってきたために商店区画から少し離れた場所にあった服屋に目が止まり少し中へと避難がてらに服を見ることにした。店内の衣類は皮物や毛皮が主でどれも高級そうな印象の商品が並んでいた。


「ど、どうしよ…ちょっと高いお店に入っちゃったかな?」


「んー…」


 そう言いながら店内の商品を見渡し品定めをしているシェイド。さきほどのこともあるのでまたなにやら文句を言いそうだなと内心冷々しながら見ていたけど、様子が少し違っていた。
 商品を真面目に見ており彼からしても材質や作りには非常に良い出来だそうだ。手にとって実際に身につけようとするのを見て流石に止めにはいった


「ちょっと!勝手に着たりしちゃダメだよ!!」


 現代では確か良く見る光景だったけれど、こういった高級なお店自体入ったこともない上に現代とは勝手が違うこの『エンティア』でこういうちょっとした行為が危険を生むのはさっきのやり取りでなんとなくわかってしまったので注意をしていた。


「客か?珍しいな…ってなんだ子供か」


 そういって奥から出てきたのは現代でもいそうな中年の眠たそうな表情のおじさんだった。


「す、すみません!すぐにもとの場所に戻しますので!」と私が言っている横でシェイドはのんきに商品の材料やら製法を聞いていた。
 店主のおじさんも怪訝そうな顔をしていたけどシェイドが皮の材質や製法に関して評しているのを聞いていつの間にか聞き入っている様子だった。


「すごい…まだ話してる。私はデザインとかしか興味ないからわからないなぁ」


 その横で私は物色していた。革のズボンと良さそうなブーツを見つけ合わせながら見ていた。着心地は慣れないとやはりキツそうという印象。上着は私の着ているシャツに似たものがあったのでそちらを合わせてみていたらシェイドに呼ばれる。


「ねぇねぇ、この子に合いそうな服仕立ててみてよ」


「えっ!?ちょっと勝手に決めないでよ!」


 自分の服を仕立てて貰えばいいのにと反論するもいいモデルが居るんだからそいつにやってもらおうと矛先が向かったのが私だったようだ。店主も私を軽く見るやいなや「三日待ってくれ」と二つ返事で請け負ってしまった。


「待って待って!私そんなお金持ってないですよっ!?」


「あ、大丈夫大丈夫俺が買ってあげるから」


 そう呑気な返事をするシェイドに呆れつつ、後で裏で店主に袋の金貨で足りるかどうか確認を取ると「これ本物か?」と疑いの目を掛けられ住み込み先で頂いた物だから多分本物だと思うとだけ答えると納得した様子。代金は完成品を見てからで構わないと言われその日は解散となった。













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