インペリウム『皇国物語』
6話 国内紛争
私は食堂、調理場へ足を運んでいた。何かあの人の栄養になるようなものを探しに来ていた。普段はわからないけれど今は調理場には数名の料理人が何やら仕込み作業を行なっているようだった。
「自分で作るわけにはいかないし……パンのようなものでもあればいいけど」
気づかれないように物陰に隠れながら物色を始める。料理くらいならママやお婆ちゃんと一緒に作ったこともある。見る限り使い勝手に関してもお婆ちゃんの国にいた頃の道具、釜や炉なんかはかなり似ている。その気になれば簡素な料理くらい私でも作ることは何ら問題ないと思う。
「ガスコンロや電気なんてあるわけないしね」
とは言っても料理も得意というほどではないから日本に来てからはごく当たり前のようにありふれていた文明の利器、その利便性を痛感していると目当ての物を見つけ出す。
数個のパンにチーズを少々と小瓶に水を汲む。ミルクはやはり置いていなかったけどチーズが取れたからあまり必要とは感じなかった。なんとなく故郷で飲んだミルクの味を思い出しながらその場を離れる。
◇
暗い…。
先が見えない自分の今の状況を皮肉のように物語っている。
なぜ父上があの様な凶行に駆られたのだろうか。ドラストニア家に仕え、共に国のために歩んでいくことを誇りとしていたのに何故だったのか。現政権で国王の亡き今、王位継承で高官と王家との間でドラストニアにも暗雲が漂う最中に支柱となるべく当家が必要とされるはず。国にとっての大事であるというのに。
絶望か、あるいは破滅か。どちらにしても良くて処刑、最悪は晒し物。それはいい…。
しかしこのまま父の真意もわからぬままでは死んでも死にきれない。今はただ待つことしかできない己に恥じることしか出来ず虚しくなる…。
自分は一体何のために、誰がために―――
「お待たせしました」
扉の開く音と、先程聞いた明るい声が飛んできた。
「僅かしかなかったけど、お腹の足しになると思います。」
少女はそういうとパンとチーズ、水の入った瓶を檻の隙間から差し入れてきた。私は首を横に降ることもなければそれに手を伸ばすこともなく反応を示さなかった。
いずれ死ぬ身である以上無駄な物資の消費をさせるわけにもいかない。ドラストニア王家の手によって幕引きをしてもらえるならこれ以上なく光栄なことだ。
しかし彼女から投げかけられた言葉は私の予想だにしないものだった。
「あのっ……もしかして、パンとチーズ苦手でしたか…?」
先程までの明るい声とは違い不安混じりの少し上ずった聞き方であった。面食らってしまったが私はそうではないと首を横に降る。少女はそれに反応し、少し考えてから続けた。
「お腹が痛いとか…?」
むしろ空腹を通り越し、今食事を取れば身体が受けつけないのではないかと思えるような状態だ。そうではないとまた私は首を横に降る。またしても少女は考え込むが今度は先程以上に考えているような様子だ。
この少女も王家の出なのか、高官の娘なのかわからないが少なくとも王宮内を出入りしている時点で関係者ではあることは確かと言える。無垢である故に私のことはきっと知らないのだろう。
流石に諦めてくれるだろうと思っていた時であった。
「じゃあ…一緒に食べませんか?」
◇
少し図々しかっただろうか。
私の提案に大変驚いている様子で先程までとは明らかに違う表情で意表を突かれたというのが正しい表現。やっぱり食事は摂りたいのだと思う。けれど何かわからない事情があるのかもしれない。
少しだけチーズとパンを千切って自分のポケットにしまい残りの乗った食器を檻越しから手を伸ばして彼の方へと押し込む。それでも届かず必死に押し込もうとしていると食器を手にとってもらえた。
「なぜ私に…?」
彼はそう問いかけてきた。なぜ?と言われても私がただそうしたかっただけだし、本当はいけないことなのかもしれないけどここに閉じ込められていても今は生きていなければいけないのではないかとそう思えるからだ。
「初めて喋ってくれましたね」
牢に閉じ込められているけれどもこの人が悪い人とは思えない。どのようにしてこうなったのか知りたかったが見ず知らずの私にそんな事情が話せるとも思えなかった。だから私はこう続けるしか出来なかった。
「でもご飯はちゃんと食べないと駄目ですよ」
「私には………そのような権利などありません」
権利と彼は言った。
このお城で働いてる人なのかなと直感で思ったけれど、そんな人が牢獄に閉じ込められるなんて尚更理由がわからなくなる。だからといって食事も満足に摂らないということはそこまで責任を感じているのかな。私には上手く言えないけれど思いの丈をそのまま言葉にしてみる。
「なら、私に『あなたと一緒にご飯を食べる権利』をくれませんか?」
表情はわからなかった。けれどさっきまでの瞳の光とは違って見えた気がする。
「………」
「権利とか責任とか、感じることは沢山あるかもしれませんがでも今は…」
「食べることも大切です!」
「…………」
瞳は何処か違うもの見ているように見えた。俯き床を見ているようでも、何処か別の、例えるなら自分自身の心を見ている。そんな気がした。
そして男性は何か納得できたのかようやくパンを手に取り口へと運ばせた。
◇
地下からこっそり戻った後にセルバンデスさんとラインズさんと合流し、王宮内での立ち振る舞いや仕事に関しての説明を受けた。書類整理やら高官の人との面会やら、聞いていて全く頭に入ってこず今のところはセルバンデスさんとラインズさん二人に取り仕切ってもらうことになったようだけど
「問題は…いつお嬢を即位させるかだよな」
「お披露目の際における民衆への演説も行ないませんとね」
セルバンデスさんとラインズさんの二人で相談し合ってるが本人の私を置いてけぼりに話が進んでいってしまう。大勢の群衆の前で演説なんてとても出来るわけがない。学校の朝礼とはまるで違うし、そもそもこんな幼女が新しい国王ですなんて出てきて普通の民衆なら不安になるんじゃないのでは?
「私が出てきても、国王なんて誰が信じるのですか?」
「その前に頭でっかち共を納得させねぇとなぁ」
「旧国王派は納得しましょうが…」
「問題は年寄り共か」
難しい話はわからないけれど聞いておかないとどう立ち回っていいかわからない。
「なんの話ですか??」
「国の中での戦争さ」
「戦争!?」
その言葉を聞いて思わず声を上げてしまう。
「自分で作るわけにはいかないし……パンのようなものでもあればいいけど」
気づかれないように物陰に隠れながら物色を始める。料理くらいならママやお婆ちゃんと一緒に作ったこともある。見る限り使い勝手に関してもお婆ちゃんの国にいた頃の道具、釜や炉なんかはかなり似ている。その気になれば簡素な料理くらい私でも作ることは何ら問題ないと思う。
「ガスコンロや電気なんてあるわけないしね」
とは言っても料理も得意というほどではないから日本に来てからはごく当たり前のようにありふれていた文明の利器、その利便性を痛感していると目当ての物を見つけ出す。
数個のパンにチーズを少々と小瓶に水を汲む。ミルクはやはり置いていなかったけどチーズが取れたからあまり必要とは感じなかった。なんとなく故郷で飲んだミルクの味を思い出しながらその場を離れる。
◇
暗い…。
先が見えない自分の今の状況を皮肉のように物語っている。
なぜ父上があの様な凶行に駆られたのだろうか。ドラストニア家に仕え、共に国のために歩んでいくことを誇りとしていたのに何故だったのか。現政権で国王の亡き今、王位継承で高官と王家との間でドラストニアにも暗雲が漂う最中に支柱となるべく当家が必要とされるはず。国にとっての大事であるというのに。
絶望か、あるいは破滅か。どちらにしても良くて処刑、最悪は晒し物。それはいい…。
しかしこのまま父の真意もわからぬままでは死んでも死にきれない。今はただ待つことしかできない己に恥じることしか出来ず虚しくなる…。
自分は一体何のために、誰がために―――
「お待たせしました」
扉の開く音と、先程聞いた明るい声が飛んできた。
「僅かしかなかったけど、お腹の足しになると思います。」
少女はそういうとパンとチーズ、水の入った瓶を檻の隙間から差し入れてきた。私は首を横に降ることもなければそれに手を伸ばすこともなく反応を示さなかった。
いずれ死ぬ身である以上無駄な物資の消費をさせるわけにもいかない。ドラストニア王家の手によって幕引きをしてもらえるならこれ以上なく光栄なことだ。
しかし彼女から投げかけられた言葉は私の予想だにしないものだった。
「あのっ……もしかして、パンとチーズ苦手でしたか…?」
先程までの明るい声とは違い不安混じりの少し上ずった聞き方であった。面食らってしまったが私はそうではないと首を横に降る。少女はそれに反応し、少し考えてから続けた。
「お腹が痛いとか…?」
むしろ空腹を通り越し、今食事を取れば身体が受けつけないのではないかと思えるような状態だ。そうではないとまた私は首を横に降る。またしても少女は考え込むが今度は先程以上に考えているような様子だ。
この少女も王家の出なのか、高官の娘なのかわからないが少なくとも王宮内を出入りしている時点で関係者ではあることは確かと言える。無垢である故に私のことはきっと知らないのだろう。
流石に諦めてくれるだろうと思っていた時であった。
「じゃあ…一緒に食べませんか?」
◇
少し図々しかっただろうか。
私の提案に大変驚いている様子で先程までとは明らかに違う表情で意表を突かれたというのが正しい表現。やっぱり食事は摂りたいのだと思う。けれど何かわからない事情があるのかもしれない。
少しだけチーズとパンを千切って自分のポケットにしまい残りの乗った食器を檻越しから手を伸ばして彼の方へと押し込む。それでも届かず必死に押し込もうとしていると食器を手にとってもらえた。
「なぜ私に…?」
彼はそう問いかけてきた。なぜ?と言われても私がただそうしたかっただけだし、本当はいけないことなのかもしれないけどここに閉じ込められていても今は生きていなければいけないのではないかとそう思えるからだ。
「初めて喋ってくれましたね」
牢に閉じ込められているけれどもこの人が悪い人とは思えない。どのようにしてこうなったのか知りたかったが見ず知らずの私にそんな事情が話せるとも思えなかった。だから私はこう続けるしか出来なかった。
「でもご飯はちゃんと食べないと駄目ですよ」
「私には………そのような権利などありません」
権利と彼は言った。
このお城で働いてる人なのかなと直感で思ったけれど、そんな人が牢獄に閉じ込められるなんて尚更理由がわからなくなる。だからといって食事も満足に摂らないということはそこまで責任を感じているのかな。私には上手く言えないけれど思いの丈をそのまま言葉にしてみる。
「なら、私に『あなたと一緒にご飯を食べる権利』をくれませんか?」
表情はわからなかった。けれどさっきまでの瞳の光とは違って見えた気がする。
「………」
「権利とか責任とか、感じることは沢山あるかもしれませんがでも今は…」
「食べることも大切です!」
「…………」
瞳は何処か違うもの見ているように見えた。俯き床を見ているようでも、何処か別の、例えるなら自分自身の心を見ている。そんな気がした。
そして男性は何か納得できたのかようやくパンを手に取り口へと運ばせた。
◇
地下からこっそり戻った後にセルバンデスさんとラインズさんと合流し、王宮内での立ち振る舞いや仕事に関しての説明を受けた。書類整理やら高官の人との面会やら、聞いていて全く頭に入ってこず今のところはセルバンデスさんとラインズさん二人に取り仕切ってもらうことになったようだけど
「問題は…いつお嬢を即位させるかだよな」
「お披露目の際における民衆への演説も行ないませんとね」
セルバンデスさんとラインズさんの二人で相談し合ってるが本人の私を置いてけぼりに話が進んでいってしまう。大勢の群衆の前で演説なんてとても出来るわけがない。学校の朝礼とはまるで違うし、そもそもこんな幼女が新しい国王ですなんて出てきて普通の民衆なら不安になるんじゃないのでは?
「私が出てきても、国王なんて誰が信じるのですか?」
「その前に頭でっかち共を納得させねぇとなぁ」
「旧国王派は納得しましょうが…」
「問題は年寄り共か」
難しい話はわからないけれど聞いておかないとどう立ち回っていいかわからない。
「なんの話ですか??」
「国の中での戦争さ」
「戦争!?」
その言葉を聞いて思わず声を上げてしまう。
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