インペリウム『皇国物語』
5話 冷たい出会い
部屋には魅力的な物が多かったけれど一番気になったのは部屋から街並みと周辺の景色を一望出来るテラスバルコニー。椅子とテーブルを置いて優雅にお茶なんかが飲めるとリッチな気分を感じさせてくれるかもしれない。
城下町とそれ以降に広がる草原に森林地帯。広大な大地の力強さは私の故郷にも似ているようにも感じ、ファンタジー世界に出てくるような幻想的な風景。
「とんでもなく広い所に来てしまったのかも…」
驚きに圧倒されたままベッドの上に横たわる。
「ん?あれ…これって」
入室したときには気づかなかったけど天井に壁画のようなものが描かれていた。
私のいた世界地図にも似ているけど細かい所が違うように見えた。そしてその大陸を囲むように龍のような姿の生き物が描かれていた。ドラゴンではなく東洋の龍と呼ばれるものの姿に酷似している。両目には宝石が埋め込まれているのか輝いて見える。
そして見たことも無いような文字で書かれていたけれどなぜだか私には意味することが理解できていた。
『時の流れの生まれし咆哮
天と地に分かつ飛翔
光を生みし眼光と闇をも喰らう眼力
生ある者は崇めるか
禁忌と恐れ畏怖するか
命燃えゆく頂にて…』
そこまで刻まれて途中で終わっていた。なぜ読めたのかは理由もわからなかったが何やら伝記のようにも碑文のようにも思え、不思議と身近に感じるような温かさも感じていた。
「黄金の眼と……深く紅い眼…」
輝きと同時に内に秘める力強さを放つ黄金の眼に対して、全てを取り込むかのような深くそして紅い眼。
『紅』と思いまたあの夢に出てきた紅い情景が脳裏に蘇る。そういえばあの女の子も紅い眼をしていた。横顔しか僅かに見ることはできなかったけれどあれは本当になんであったのか…。
あの光景に恐怖を感じながらも同時に一抹の悲しさも感じていた。
「もう思い出したくないな」
深く考えることはやめることにして私は王室の扉に手を伸ばした。
◇
王宮内は静寂そのもの。さっきまでの騒がしさが嘘のように見たままのような気品らしさを感じさせる。
しかしこの静寂さは小学生には少しばかり退屈である。
「ちょっとくらいなら良いよね?」
こんなよくわからない状況だというのに恐ろしさよりも好奇心の方が勝る私の心が恐ろしく感じる。けれどこれだけ広く物もあるのだから探検だってしたくなる。故郷にいた頃は隣町まで一人で平気で歩いて遊びに行っていたこともあるし少しくらいの徘徊なら見つからなければ大丈夫だとタカを括っていたのかもしれない。
私のいた北の王族の区画から東側の資材区画へと移る途中で衛兵らしき人から隠れながら探索を続ける様はまるでスパイにでもなった気分だった。資材区画にはやはり衛兵、兵士が多く、鍛錬場もあるこの区画では将兵と思わしき人が指揮を取りながら多くの兵士を鍛えていた。
「あんなに重そうな鎧を着ながら訓練するなんて大変そう。私じゃあんな大きな槍一振りも出来ないかも」
懸命に訓練をしている兵士の人々を横目に探索を続けていると
「そこの者!ここで何をしている!」
背後から大声が聞こえてくる。
「えっ、私!?」
咄嗟のことで慌てて私は王宮内を逃げ回る。逃げることに関しては自慢ではないけれど得意だったためか相手を突き放して逃げ切ることに成功した。
「ここまで逃げれば…だ、大丈夫だよね?」
どうやら衛兵は追いかけて来ていないようだった。確かに勝手に出歩いたとはいえ追いかけ回されるとは考えていなかった。わけのわからない間にこんなお城に連れてこられて王位継承だのなんだのと巻き込まれ、挙句王宮内を追い回されるなんて散々な目に遭い頭が落ち着いたのか大人しく部屋に戻ろうと考えを改めた。
「はぁ…もう何がなんだか、頭の整理が追いつかないよ…」
安心して壁に手をかけた瞬間、ガクッという音と共に壁が動いた。
「えっ」
私は考える間もなく、そのまま開いた壁から転がり落ちていった。
◇
水の滴る音が僅かに聞こえる。暗がりというよりも暗闇という表現がしっくりくるだろうか。
「うぅぅ…踏んだり蹴ったりだ」
少し擦りむいてしまったけど目立った怪我は特になく服についた砂ぼりを払い除け辺りを見回してみる。
どうやら隠し扉からそのまま地下に落ちてきたようだった。辺りは暗く仄かな外の光が入り込んでくるだけで昼間でも夜のように暗くじめじめと嫌な感じである。
「結構な高さから落ちたのかな?」
落ちてきたであろう通気口のような穴を見上げてみるが暗さもあり上が見えないがかなりの高さのように感じてしまう。
「ここってまるで牢獄みたい。雰囲気も怖いな」
錆びついた鉄格子に反して厳重で強固な作りの錠前。個室も一人が入るには十分な広さだけれど衛生環境は決して良いとは言えない。地下にあるにしても華やかな王宮内とは全く別世界のように陰鬱とした雰囲気との差に高揚感が一気に沈んでいくのがわかるほど。
「衛生的にも悪そうだし…悪い人を捕まえるための場所…なんだよね」
チャリン
静かな空気に金属の擦れる音が鳴り響く
「だ、誰!?誰かいますか??」
牢の中にすでに先客がいたようだった。黒く、それも吸い込まれてしまうような漆黒の長髪。
硬く重厚な胸当ての中に傷だらけの屈強な身体。鎖で繋がれた箇所は擦れて赤くなっており痛々しさを物語っている。
そして強く光る眼光、黒い瞳に不思議な魅力と同時に畏怖さえも感じさせる美しさがあった。ずいぶんと長く放置されているのかわからないが衰弱しているように見えるけれど、その瞳は決して光を失っていなかった。
「捕まっているのですか…?」
「……………」
男性は喋ろうともせず私をずっと見ている。
いや喋ることが出来ないのかもしれない。これだけの不摂生な環境で見たところ食事も満足に摂っていない状態で長らくここに置かれているとなるとこうなるのも無理はない。
不気味にも思えたけれど何故だが放ってはおけないという気持ちとどうにかして意思疎通をしたいという衝動に駆られた私は『彼』に戻ってくると言い残し地下の出口を探し始めた。
城下町とそれ以降に広がる草原に森林地帯。広大な大地の力強さは私の故郷にも似ているようにも感じ、ファンタジー世界に出てくるような幻想的な風景。
「とんでもなく広い所に来てしまったのかも…」
驚きに圧倒されたままベッドの上に横たわる。
「ん?あれ…これって」
入室したときには気づかなかったけど天井に壁画のようなものが描かれていた。
私のいた世界地図にも似ているけど細かい所が違うように見えた。そしてその大陸を囲むように龍のような姿の生き物が描かれていた。ドラゴンではなく東洋の龍と呼ばれるものの姿に酷似している。両目には宝石が埋め込まれているのか輝いて見える。
そして見たことも無いような文字で書かれていたけれどなぜだか私には意味することが理解できていた。
『時の流れの生まれし咆哮
天と地に分かつ飛翔
光を生みし眼光と闇をも喰らう眼力
生ある者は崇めるか
禁忌と恐れ畏怖するか
命燃えゆく頂にて…』
そこまで刻まれて途中で終わっていた。なぜ読めたのかは理由もわからなかったが何やら伝記のようにも碑文のようにも思え、不思議と身近に感じるような温かさも感じていた。
「黄金の眼と……深く紅い眼…」
輝きと同時に内に秘める力強さを放つ黄金の眼に対して、全てを取り込むかのような深くそして紅い眼。
『紅』と思いまたあの夢に出てきた紅い情景が脳裏に蘇る。そういえばあの女の子も紅い眼をしていた。横顔しか僅かに見ることはできなかったけれどあれは本当になんであったのか…。
あの光景に恐怖を感じながらも同時に一抹の悲しさも感じていた。
「もう思い出したくないな」
深く考えることはやめることにして私は王室の扉に手を伸ばした。
◇
王宮内は静寂そのもの。さっきまでの騒がしさが嘘のように見たままのような気品らしさを感じさせる。
しかしこの静寂さは小学生には少しばかり退屈である。
「ちょっとくらいなら良いよね?」
こんなよくわからない状況だというのに恐ろしさよりも好奇心の方が勝る私の心が恐ろしく感じる。けれどこれだけ広く物もあるのだから探検だってしたくなる。故郷にいた頃は隣町まで一人で平気で歩いて遊びに行っていたこともあるし少しくらいの徘徊なら見つからなければ大丈夫だとタカを括っていたのかもしれない。
私のいた北の王族の区画から東側の資材区画へと移る途中で衛兵らしき人から隠れながら探索を続ける様はまるでスパイにでもなった気分だった。資材区画にはやはり衛兵、兵士が多く、鍛錬場もあるこの区画では将兵と思わしき人が指揮を取りながら多くの兵士を鍛えていた。
「あんなに重そうな鎧を着ながら訓練するなんて大変そう。私じゃあんな大きな槍一振りも出来ないかも」
懸命に訓練をしている兵士の人々を横目に探索を続けていると
「そこの者!ここで何をしている!」
背後から大声が聞こえてくる。
「えっ、私!?」
咄嗟のことで慌てて私は王宮内を逃げ回る。逃げることに関しては自慢ではないけれど得意だったためか相手を突き放して逃げ切ることに成功した。
「ここまで逃げれば…だ、大丈夫だよね?」
どうやら衛兵は追いかけて来ていないようだった。確かに勝手に出歩いたとはいえ追いかけ回されるとは考えていなかった。わけのわからない間にこんなお城に連れてこられて王位継承だのなんだのと巻き込まれ、挙句王宮内を追い回されるなんて散々な目に遭い頭が落ち着いたのか大人しく部屋に戻ろうと考えを改めた。
「はぁ…もう何がなんだか、頭の整理が追いつかないよ…」
安心して壁に手をかけた瞬間、ガクッという音と共に壁が動いた。
「えっ」
私は考える間もなく、そのまま開いた壁から転がり落ちていった。
◇
水の滴る音が僅かに聞こえる。暗がりというよりも暗闇という表現がしっくりくるだろうか。
「うぅぅ…踏んだり蹴ったりだ」
少し擦りむいてしまったけど目立った怪我は特になく服についた砂ぼりを払い除け辺りを見回してみる。
どうやら隠し扉からそのまま地下に落ちてきたようだった。辺りは暗く仄かな外の光が入り込んでくるだけで昼間でも夜のように暗くじめじめと嫌な感じである。
「結構な高さから落ちたのかな?」
落ちてきたであろう通気口のような穴を見上げてみるが暗さもあり上が見えないがかなりの高さのように感じてしまう。
「ここってまるで牢獄みたい。雰囲気も怖いな」
錆びついた鉄格子に反して厳重で強固な作りの錠前。個室も一人が入るには十分な広さだけれど衛生環境は決して良いとは言えない。地下にあるにしても華やかな王宮内とは全く別世界のように陰鬱とした雰囲気との差に高揚感が一気に沈んでいくのがわかるほど。
「衛生的にも悪そうだし…悪い人を捕まえるための場所…なんだよね」
チャリン
静かな空気に金属の擦れる音が鳴り響く
「だ、誰!?誰かいますか??」
牢の中にすでに先客がいたようだった。黒く、それも吸い込まれてしまうような漆黒の長髪。
硬く重厚な胸当ての中に傷だらけの屈強な身体。鎖で繋がれた箇所は擦れて赤くなっており痛々しさを物語っている。
そして強く光る眼光、黒い瞳に不思議な魅力と同時に畏怖さえも感じさせる美しさがあった。ずいぶんと長く放置されているのかわからないが衰弱しているように見えるけれど、その瞳は決して光を失っていなかった。
「捕まっているのですか…?」
「……………」
男性は喋ろうともせず私をずっと見ている。
いや喋ることが出来ないのかもしれない。これだけの不摂生な環境で見たところ食事も満足に摂っていない状態で長らくここに置かれているとなるとこうなるのも無理はない。
不気味にも思えたけれど何故だが放ってはおけないという気持ちとどうにかして意思疎通をしたいという衝動に駆られた私は『彼』に戻ってくると言い残し地下の出口を探し始めた。
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