初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
107話
──時刻は、土御門と破闇が《激流を司る魔獣》と戦っている時まで遡る。
「うふふふっ──!」
「がぁ──ッ!」
縦横無尽に迫る八本の触手を捌き、火鈴が力強く地面を踏み込む。
衝撃で地面が捲れ上がり──カッと、砂煙の向こうで何かが白く光った。
直後──砂煙を貫き、純白の光線がビアルドに迫る。
「あらあら──」
触手を素早く引き戻し──遠く離れた所へ、二本の触手を突き刺す。
そのまま触手に引っ張られるようにその場を飛び退き──火鈴の熱線は不発に終わった。
「全く〜……! チョロチョロしないでよね〜……!」
「あなた、強いわねぇ。うふふふふっ! まさか魔王様に造られてすぐに、こんなに強い娘と戦えるなんて! うふっ、うふふふふっ!」
「な〜にをヘラヘラ笑ってるのかな〜……!」
「うふふっ! だって、楽しいもの! 久しぶりに思いっきり戦えて楽しいわ! ねぇ、あなたもそうでしょう?」
「残念だけど、あたしはそういう趣味はないかな〜……! とっととあなたをぶっ殺して、聡ちゃんの所に行きたいからね〜……!」
「あらあらあら。フラれちゃったわ……うっふふふふふ!」
笑うビアルドが触手を放ち──火鈴を八つ裂きにせんと迫る。
対する火鈴は──腰を落として、右半身を前にして構えた。
「……は、ぁ──ッ!」
「あら──?」
──火鈴の姿が消えた。
否、違う──ビアルドの目の前にいる。
予備動作が全くないのに急加速したため、姿が消えたと認識してしまったのだ。
「──しッ!」
「あぐっ?!」
突っ込む勢いを利用して、火鈴は短く息を吐いて拳を放った。
拳はビアルドの顔面を打ち抜き──予想外の衝撃に、ビアルドが数歩後退る。
── 箭疾歩。
八極拳で使われる、予備動作なしで一気に飛び込む歩法だ。
顔面を押さえてよろめくビアルド──その鳩尾に、火鈴の肘が突き刺さった。
「裡門頂肘ッ!」
「うあッ──?!」
「発勁ッ、鉄山靠ッ!」
「うぐッ、がはッ?!」
モロに肘を食らい、痛みで思わずビアルドの頭の位置が下がった。
その顔面を打ち上げるようにして、火鈴が発勁を放つ。
鼻血を撒き散らしながら、ビアルドが空を見上げるような体勢になり──素早く距離を詰め、火鈴が背中で体当たり。
全身を貫く衝撃に、ビアルドの体が吹き飛ばされ──それを火鈴は見逃さない。
「ふぅ── 猛虎硬爬山ッッ!!」
「がッ、ぐふッ──……!」
火鈴の右拳が、ビアルドの鳩尾にねじ込まれ──動きが止まったビアルドの顔面を、同じく右拳が打ち抜いた。
「う、うぐぅ……?!」
「……何休んでるのかな〜? ほら、とっとと掛かってきなよ〜? ──戦い、好きなんでしょ〜?」
痛みに呻くビアルドへバカにしたような視線を向け、火鈴は掛かって来いと言わんばかりに人差し指をクイクイと動かした。
──今、何が起きた……?!
為す術なく一方的に攻撃されたビアルドは、今まで感じた事のない痛みに困惑していた。
あり得ない……こんな一方的にやられるなんて……何か、何かがおかしい……?!
「……うん、やっぱりね〜」
拳を握ったり開いたりしていた火鈴が、納得したような表情を見せた。
「あなた、戦い慣れしてないでしょ〜? それに、痛みにも慣れてないよね〜。触手の威力と速度はスゴいけど、あなた自身はそこまで強くないかな〜」
「な、にを……?!」
「あなたは強くない。強力な武器を持っているだけの、ただのザコ。その武器も使いこなせていないし、あなた自身の経験も足りない──最初はほっぺに一撃食らっちゃったけど、速度に慣れてしまったらなんて事ない。正直、ポーフィの方が厄介だったかもね」
甘ったるい口調が消える火鈴──その姿に恐怖を覚えたのか、ビアルドは顔を引き攣らせた。
「な、舐めないで欲しいわぁ──ッ!」
凄まじい速度で放たれる触手が、火鈴を斬り裂かんと迫るが──
「──同じ事を言わせないでくれる?」
火鈴が剛爪を振り抜き──何かが、地面に落ちた。
それはビクビクと地面の上で震え──やがて力尽きたように動かなくなる。
「速度に慣れてしまったら、なんて事ないんだってば」
「あっ──ああああああああッ?!」
地面に落ちていたのは──ビアルドの触手の先端だった。
それも、一つだけではない。
三本の触手の先端が、地面に落ちて動かなくなっていた。
「い、いだッ、痛いぃいいいいいいッ?!」
「ほんと、痛がりだね〜」
激痛に悶えるビアルドに、火鈴が歩み寄る。
このままだと殺される──危険を感じ取ったのか、ビアルドが身構えた。
だが──動かない。
否──動けないのだ。
──どうすればいい?
死にたくない。まだ造られたばかりだ。もっと生きたい。
なら、逃げる?
──逃げる? 一体、どうやって?
背中を向けた瞬間に殺される。かと言って、前を向いたまま逃げるなんて無理。
だったら、戦う?
それこそ無理だ。戦う手段が残ってない。一方的にやられて終わりだ。
どうすればいい? どうすれば──
「──ねぇ」
「ひっ──」
いつの間に目の前まで来ていたのか、火鈴が至近距離でビアルドを見上げた。
──即死の間合い。
肌を刺すような『死』の気配を前にして、ビアルドの体は硬直した。
思い切って逃走するよりも、触手で攻撃するよりも──火鈴がビアルドを殺す方が早い。
動かないビアルドを冷たく一瞥し──火鈴がビアルドの背中から生える触手を両手でそれぞれ掴んだ。
そして──力任せに引きちぎった。
「あっ──があああああああッッ?!」
ポイと投げ捨てられる触手がビチビチと地面の上で跳ね──やがて動かなくなる。
「やめ、ろぉ──ッッ!!」
火鈴を惨殺せんと、ビアルドが残る三本の触手を操り──
──ブチッと、ビアルドの背中から何かが引き抜かれる感覚。
迫る触手を全て掴んだ火鈴が、先ほどと同様に引き抜いたのだ。
「あ、がぁ……ッ!」
「ねぇ」
武器を失ったビアルドを見上げ、火鈴はニッコリと微笑んだ。
「──楽しい?」
──背筋が凍った。
何なんだ、この少女。
一体、何者なんだ、この少女。
ただの『人類族』が、なんでここまで残酷になれるのか──?!
「これが楽しいんだよね? 思い切り戦えるのが戦えるのが楽しいって言ってたよね?」
「ひ、ひぃっ……?!」
「ねぇ、どうなの? 今も楽しいの? あたしは、全く楽しくないんだけど。戦いが楽しいとか、これから先も絶対に思えないんだけど……あなたはこれが楽しいんだよね?」
ビアルドの右腕を掴み──火鈴が前蹴りを放つ。
衝撃でビアルドが吹き飛ばされ──またも、ブチッという感覚がビアルドの体を襲った。
「……うん……やっぱり、楽しくない」
血塗れの右腕を放り捨て、火鈴がビアルドに近づく。
「なっ──なんでこんな事をするの?! どうしてここまで残酷な事ができるのよ?! あなたには、人の心がないの?!」
「人の……心……? ──あはっ」
ビアルドの言葉を聞いた──瞬間、火鈴の口から乾いた笑い声が弾けた。
──冷たく冷え切った、能面のような笑顔。
触れてはいけない部分に触れてしまった──その事に気付いたのか、ビアルドの体から完全に自由が奪われた。
「──あたしの心は、聡ちゃんに捧げてる。ここに聡ちゃんがいないなら、今のあたしに心なんてない。聡ちゃんの隣にいるのに人の心が邪魔になるなら、あたしは人の心なんて要らない。それに……化物のあなたに、人の心なんて言われたくない。その言葉、そっくりそのままお返しするよ。【部分竜化“厄災竜”】」
火鈴の右腕が膨張し──巨大な竜腕へと変化。
その手でビアルドを掴み──ギリギリと力を込める。
「ぁ、かッ……!」
「あなたの敗因は一つ。圧倒的な経験不足。それが無ければ、もう少し戦いにはなったかもね……何か、言い残した事はある?」
力を緩める事なく、淡々と問い掛ける。
苦しそうに酸素を求めるビアルドが、火鈴に視線を向けた。
──恐怖。
今のビアルドは、火鈴に怯え切っている。
火鈴とビアルドの視線が交差し合い──やがて、ビアルドの口から掠れた空気が漏れた。
「こ、の……化、物……!」
「お互い様だよ」
──ボギボギボギッッ!!
ビアルドの体から骨が折れる歪な音が響き──火鈴がビアルドを握り潰していた手を開いた。
全身の骨を粉々に砕かれたビアルド──その瞳には光がなく、死んでいる事は明らかだ。
「……思いの外、楽勝な相手だったね〜。剣ヶ崎くんの方は──っと……」
絶命したビアルドから視線を逸らし、剣ヶ崎に目を向けた。
──身体中から血を流すグロウスに、剣ヶ崎が聖剣を突き付けている。
そして──聖剣が閃き、グロウスの体を深々と斬り裂いた。
完全にグロウスの体から力が抜け──動かなくなった。
「剣ヶ崎くん、終わった〜?」
「ああ、今終わったよ。キミの方は?」
「こっちも今終わったよ〜」
無傷の剣ヶ崎が、聖剣を納めて火鈴と向かい合う。
「全く……趣味の悪い怪物だ。攻撃している時に身体中に付いてる顔が泣き始めて、やりにくかったよ」
「それは嫌だね〜」
「だけど……なんて言うかな……そう、動きがぎこちなかった。まるで、自分の体の動かし方を理解してないみたいな……」
「剣ヶ崎くんの方もそうだったんだね〜」
「って事は……そっちも?」
「うん。経験不足って感じだったね〜。強力な攻撃手段を持ってるのに、使いこなせてないって感じだよ〜」
「そうだったんだね……とにかく、無事でよかったよ」
難なく化物を討伐した火鈴と剣ヶ崎は、『イマゴール王国』へと引き返し始めた。
《絶望を呼ぶ番外魔獣》及び《破滅を招く番外魔獣》──討伐。
「うふふふっ──!」
「がぁ──ッ!」
縦横無尽に迫る八本の触手を捌き、火鈴が力強く地面を踏み込む。
衝撃で地面が捲れ上がり──カッと、砂煙の向こうで何かが白く光った。
直後──砂煙を貫き、純白の光線がビアルドに迫る。
「あらあら──」
触手を素早く引き戻し──遠く離れた所へ、二本の触手を突き刺す。
そのまま触手に引っ張られるようにその場を飛び退き──火鈴の熱線は不発に終わった。
「全く〜……! チョロチョロしないでよね〜……!」
「あなた、強いわねぇ。うふふふふっ! まさか魔王様に造られてすぐに、こんなに強い娘と戦えるなんて! うふっ、うふふふふっ!」
「な〜にをヘラヘラ笑ってるのかな〜……!」
「うふふっ! だって、楽しいもの! 久しぶりに思いっきり戦えて楽しいわ! ねぇ、あなたもそうでしょう?」
「残念だけど、あたしはそういう趣味はないかな〜……! とっととあなたをぶっ殺して、聡ちゃんの所に行きたいからね〜……!」
「あらあらあら。フラれちゃったわ……うっふふふふふ!」
笑うビアルドが触手を放ち──火鈴を八つ裂きにせんと迫る。
対する火鈴は──腰を落として、右半身を前にして構えた。
「……は、ぁ──ッ!」
「あら──?」
──火鈴の姿が消えた。
否、違う──ビアルドの目の前にいる。
予備動作が全くないのに急加速したため、姿が消えたと認識してしまったのだ。
「──しッ!」
「あぐっ?!」
突っ込む勢いを利用して、火鈴は短く息を吐いて拳を放った。
拳はビアルドの顔面を打ち抜き──予想外の衝撃に、ビアルドが数歩後退る。
── 箭疾歩。
八極拳で使われる、予備動作なしで一気に飛び込む歩法だ。
顔面を押さえてよろめくビアルド──その鳩尾に、火鈴の肘が突き刺さった。
「裡門頂肘ッ!」
「うあッ──?!」
「発勁ッ、鉄山靠ッ!」
「うぐッ、がはッ?!」
モロに肘を食らい、痛みで思わずビアルドの頭の位置が下がった。
その顔面を打ち上げるようにして、火鈴が発勁を放つ。
鼻血を撒き散らしながら、ビアルドが空を見上げるような体勢になり──素早く距離を詰め、火鈴が背中で体当たり。
全身を貫く衝撃に、ビアルドの体が吹き飛ばされ──それを火鈴は見逃さない。
「ふぅ── 猛虎硬爬山ッッ!!」
「がッ、ぐふッ──……!」
火鈴の右拳が、ビアルドの鳩尾にねじ込まれ──動きが止まったビアルドの顔面を、同じく右拳が打ち抜いた。
「う、うぐぅ……?!」
「……何休んでるのかな〜? ほら、とっとと掛かってきなよ〜? ──戦い、好きなんでしょ〜?」
痛みに呻くビアルドへバカにしたような視線を向け、火鈴は掛かって来いと言わんばかりに人差し指をクイクイと動かした。
──今、何が起きた……?!
為す術なく一方的に攻撃されたビアルドは、今まで感じた事のない痛みに困惑していた。
あり得ない……こんな一方的にやられるなんて……何か、何かがおかしい……?!
「……うん、やっぱりね〜」
拳を握ったり開いたりしていた火鈴が、納得したような表情を見せた。
「あなた、戦い慣れしてないでしょ〜? それに、痛みにも慣れてないよね〜。触手の威力と速度はスゴいけど、あなた自身はそこまで強くないかな〜」
「な、にを……?!」
「あなたは強くない。強力な武器を持っているだけの、ただのザコ。その武器も使いこなせていないし、あなた自身の経験も足りない──最初はほっぺに一撃食らっちゃったけど、速度に慣れてしまったらなんて事ない。正直、ポーフィの方が厄介だったかもね」
甘ったるい口調が消える火鈴──その姿に恐怖を覚えたのか、ビアルドは顔を引き攣らせた。
「な、舐めないで欲しいわぁ──ッ!」
凄まじい速度で放たれる触手が、火鈴を斬り裂かんと迫るが──
「──同じ事を言わせないでくれる?」
火鈴が剛爪を振り抜き──何かが、地面に落ちた。
それはビクビクと地面の上で震え──やがて力尽きたように動かなくなる。
「速度に慣れてしまったら、なんて事ないんだってば」
「あっ──ああああああああッ?!」
地面に落ちていたのは──ビアルドの触手の先端だった。
それも、一つだけではない。
三本の触手の先端が、地面に落ちて動かなくなっていた。
「い、いだッ、痛いぃいいいいいいッ?!」
「ほんと、痛がりだね〜」
激痛に悶えるビアルドに、火鈴が歩み寄る。
このままだと殺される──危険を感じ取ったのか、ビアルドが身構えた。
だが──動かない。
否──動けないのだ。
──どうすればいい?
死にたくない。まだ造られたばかりだ。もっと生きたい。
なら、逃げる?
──逃げる? 一体、どうやって?
背中を向けた瞬間に殺される。かと言って、前を向いたまま逃げるなんて無理。
だったら、戦う?
それこそ無理だ。戦う手段が残ってない。一方的にやられて終わりだ。
どうすればいい? どうすれば──
「──ねぇ」
「ひっ──」
いつの間に目の前まで来ていたのか、火鈴が至近距離でビアルドを見上げた。
──即死の間合い。
肌を刺すような『死』の気配を前にして、ビアルドの体は硬直した。
思い切って逃走するよりも、触手で攻撃するよりも──火鈴がビアルドを殺す方が早い。
動かないビアルドを冷たく一瞥し──火鈴がビアルドの背中から生える触手を両手でそれぞれ掴んだ。
そして──力任せに引きちぎった。
「あっ──があああああああッッ?!」
ポイと投げ捨てられる触手がビチビチと地面の上で跳ね──やがて動かなくなる。
「やめ、ろぉ──ッッ!!」
火鈴を惨殺せんと、ビアルドが残る三本の触手を操り──
──ブチッと、ビアルドの背中から何かが引き抜かれる感覚。
迫る触手を全て掴んだ火鈴が、先ほどと同様に引き抜いたのだ。
「あ、がぁ……ッ!」
「ねぇ」
武器を失ったビアルドを見上げ、火鈴はニッコリと微笑んだ。
「──楽しい?」
──背筋が凍った。
何なんだ、この少女。
一体、何者なんだ、この少女。
ただの『人類族』が、なんでここまで残酷になれるのか──?!
「これが楽しいんだよね? 思い切り戦えるのが戦えるのが楽しいって言ってたよね?」
「ひ、ひぃっ……?!」
「ねぇ、どうなの? 今も楽しいの? あたしは、全く楽しくないんだけど。戦いが楽しいとか、これから先も絶対に思えないんだけど……あなたはこれが楽しいんだよね?」
ビアルドの右腕を掴み──火鈴が前蹴りを放つ。
衝撃でビアルドが吹き飛ばされ──またも、ブチッという感覚がビアルドの体を襲った。
「……うん……やっぱり、楽しくない」
血塗れの右腕を放り捨て、火鈴がビアルドに近づく。
「なっ──なんでこんな事をするの?! どうしてここまで残酷な事ができるのよ?! あなたには、人の心がないの?!」
「人の……心……? ──あはっ」
ビアルドの言葉を聞いた──瞬間、火鈴の口から乾いた笑い声が弾けた。
──冷たく冷え切った、能面のような笑顔。
触れてはいけない部分に触れてしまった──その事に気付いたのか、ビアルドの体から完全に自由が奪われた。
「──あたしの心は、聡ちゃんに捧げてる。ここに聡ちゃんがいないなら、今のあたしに心なんてない。聡ちゃんの隣にいるのに人の心が邪魔になるなら、あたしは人の心なんて要らない。それに……化物のあなたに、人の心なんて言われたくない。その言葉、そっくりそのままお返しするよ。【部分竜化“厄災竜”】」
火鈴の右腕が膨張し──巨大な竜腕へと変化。
その手でビアルドを掴み──ギリギリと力を込める。
「ぁ、かッ……!」
「あなたの敗因は一つ。圧倒的な経験不足。それが無ければ、もう少し戦いにはなったかもね……何か、言い残した事はある?」
力を緩める事なく、淡々と問い掛ける。
苦しそうに酸素を求めるビアルドが、火鈴に視線を向けた。
──恐怖。
今のビアルドは、火鈴に怯え切っている。
火鈴とビアルドの視線が交差し合い──やがて、ビアルドの口から掠れた空気が漏れた。
「こ、の……化、物……!」
「お互い様だよ」
──ボギボギボギッッ!!
ビアルドの体から骨が折れる歪な音が響き──火鈴がビアルドを握り潰していた手を開いた。
全身の骨を粉々に砕かれたビアルド──その瞳には光がなく、死んでいる事は明らかだ。
「……思いの外、楽勝な相手だったね〜。剣ヶ崎くんの方は──っと……」
絶命したビアルドから視線を逸らし、剣ヶ崎に目を向けた。
──身体中から血を流すグロウスに、剣ヶ崎が聖剣を突き付けている。
そして──聖剣が閃き、グロウスの体を深々と斬り裂いた。
完全にグロウスの体から力が抜け──動かなくなった。
「剣ヶ崎くん、終わった〜?」
「ああ、今終わったよ。キミの方は?」
「こっちも今終わったよ〜」
無傷の剣ヶ崎が、聖剣を納めて火鈴と向かい合う。
「全く……趣味の悪い怪物だ。攻撃している時に身体中に付いてる顔が泣き始めて、やりにくかったよ」
「それは嫌だね〜」
「だけど……なんて言うかな……そう、動きがぎこちなかった。まるで、自分の体の動かし方を理解してないみたいな……」
「剣ヶ崎くんの方もそうだったんだね〜」
「って事は……そっちも?」
「うん。経験不足って感じだったね〜。強力な攻撃手段を持ってるのに、使いこなせてないって感じだよ〜」
「そうだったんだね……とにかく、無事でよかったよ」
難なく化物を討伐した火鈴と剣ヶ崎は、『イマゴール王国』へと引き返し始めた。
《絶望を呼ぶ番外魔獣》及び《破滅を招く番外魔獣》──討伐。
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