初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
88話
「チッ──!」
足元の縄を飛び越え、壁から突き出してくる木の槍を躱し、空から降ってくる短剣の雨を弾き返す。
──どんだけ罠を仕掛けてるんだ?!
これだけの量を、国の至る所に仕掛けるなんて──あの少年一人では無理だ。
つまり──
「他にも、仲間がいる……!」
「うわ──?!」
「な、何をしているんだ鬼龍院!」
縄に足を引っ掛け、勇輝が派手に転ぶ──と、縄に何らかの仕掛けがあったのか、再び空から短剣が降り注ぐ。
「何やってんだあの筋肉ダルマ──!」
『黒曜石の短刀』と『白桜』を逆手に持ち、迫る短剣を撃ち返す。
聡太の後ろにいるハルピュイアも、【硬質化】で短剣の雨をやり過ごしたようだ。
「おい勇輝! 足手まといはいらねぇぞ?!」
「わ、悪ぃ! 気を付ける!」
【気配感知】の反応を頼りに、逃げた少年を追い掛ける。
──どこに向かってるんだ?
随分と遠くに来たが……少年の気配は、なかなか止まらない。
「ん──」
ようやく、少年の気配が止まった。
建物と建物の間を縫うように駆け抜け──やがて、広い空間に出た。
「ここは……」
「廃墟……かな?」
目の前の光景に、剣ヶ崎がそんな言葉を漏らした。
──ボロボロの建物が、この広い空間に何個か置かれている。
先ほどまでの美しい光景とは真逆──まるで、スラムのような場所だ。
「──あ?!」
「見つけたぞ……大人しく『ステータスプレート』を返せ」
建物の前にいた少年が、現れた聡太たちを見て怯えたように顔を引き攣らせる。
二本の短刀を鞘に収め、聡太が少年に近づこうと──して。
──少年の近くにあった建物の入口が爆発。
何が起きたのか理解する前に──建物から勢いよく飛び出した女性が、聡太に大剣を振り下ろした。
「はあああああああああッッ!!」
「チッ──『剛力』ッ!」
『紅桜』を抜き、そのまま大剣を受け止める。
──ズドッッオオオオオンンンッッ!!
衝撃で地面に亀裂が走り──思わず聡太が膝を突いた。
「聡太?!」
「この──【斬撃】ッ!」
剣ヶ崎が聖剣を抜き、斬撃を放った。
女性を斬り裂かんと真っ直ぐに迫るそれは──だが簡単に避けられ、女性が聡太たちから距離を取る。
──なんて力だ?!
一瞬で距離を詰めた事と言い、あり得ないサイズの大剣を軽々と扱っている事と言い、剣ヶ崎の【斬撃】を簡単に避けた事と言い──あの女性、間違いなく強い。
「……何者だ、お前」
「それはこっちのセリフなんだけど? 許可なしにウチたちの住処に入って……何が目的?」
そう言って、歪な大剣を聡太たちに向けてくる。
──褐色の肌に、短い金髪。
金色の瞳には強い戦意が宿っており、身長は聡太よりも少し高い。
その手に持っている歪な大剣は……まるで、ノコギリのような形だ。
服装は火鈴にそっくりで、正直目のやり場に困る──そんな女性が、聡太たちを睨み付けている。
「『妖精族』……じゃ、ない……?」
「ああ。多分、『褐女種』だな」
──『褐女種』。
『人類族』の一種で、性別が女しか存在しない種だ。
特徴として、『褐女種』から産まれるのは、必ず『褐女種』として産まれる。
そして、最大の特徴は──より強い子どもを作るために、自分よりも強い男を求める所だろう。
「『褐女種』……って、なんだ?」
「『人類族』の一種だ。『イマゴール王国』にもかなりいたぞ」
「……オレら、基本的に王宮か訓練所にしかいねぇからなぁ……」
騒ぎを聞き付けたのか、建物の中から『妖精族』が続々と姿を現す。
──どの『妖精族』も、まだまだ子どもだ。先ほどの少年と変わらない。
「だ、誰……?」
「侵入者よ。隠れてなさい」
大剣を両手で握り、女性が聡太たちを──否。聡太を真っ直ぐに見据える。
「へぇ──」
全く隙のない構えに、聡太がどこか感心したように声を漏らし──
──ゾクッと、鋭利な刃物で直接肌を撫で回されているような感覚。
聡太の体から、尋常ならざる殺気が放たれている──これまでに感じた事のない殺気に、女性が思わず大剣を強く握り直した。
「お、落ち着け聡太! ほら、小さい子どもたちも見てるぞ!」
「……勇輝」
「な、なんだ?」
「あの女と戦ってる途中に、『妖精族』のガキ共が近づいてきたら……もしかしたら、間違って斬るかも知れん」
「子どもたちを近づけるなって言いたいんだな?! 回りくどいんだよお前は! 剣ヶ崎、手を貸してくれ! あの子どもたちを聡太に近づけさせるな!」
「あ、ああ!」
「ハピィ、お前も勇輝に付いて行け。あの女は俺に任せろ」
「……おー!」
『妖精族』の子どもたちを保護するために、勇輝たちが駆け出した。
それと同時──『褐女種』が勇輝たちに向かって飛び掛かる。
「──どこ見てんだよ」
『剛力』を発動したままだった聡太が、一瞬で女性の前に移動した。
尋常ならざる速さに、女性は驚愕する──事なく、大剣を真横に振り抜いた。
「ふんッ!」
「──【増強】、【剛腕】、【筋力強化】ッ!」
聡太が『紅桜』で大剣を受け止める──直前、女性が三つの【技能】を連続で発動。
そして、聡太の『紅桜』と『褐女種』の大剣がぶつかり──聡太が吹き飛ばされた。
「【豪脚】──ッ!」
さらに【技能】を発動し、吹き飛んでいく聡太に向かって跳んだ。
瞬間──聡太の真横に、女性が現れる。
「はあ──ッ!」
女性が大剣を振り下ろし──轟音。
地面にヒビが入り、辺りに暴風が吹き荒れる。
思わず三人が走るのを止め、聡太に目を向け──
「──スゴいな」
「ッ?!」
背後から聞こえた声に、女性はバッと勢いよく振り返った。
そこには──無傷の聡太が。
「ア、ンタ……いつの間に……?!」
別に難しい事はしていない。
吹き飛んでいる時に二重強化の『剛力』を発動し、女性の大剣が聡太に当たる──前に地面を蹴り、大剣を躱した。
そのまま女性の背後に回り込み──というわけだ。
「……一つだけ言っておくぞ。俺はあの『妖精族』に物を盗られた。その後を追って、ここに来た。理解できるな?」
「……えぇ、理解できるわ」
「なら──」
「けど、盗られるアンタが悪い。この世は弱肉強食。弱い者は、強い者に食われる。あんたの注意が散漫だったから、物を盗られたのよ。わかる?」
ここの管理者だと思い、事情を話そうとしたが──なるほど。責任はこちらにあると来たか。
「……そうか」
「えぇ、そうよ」
「なら、今ここで俺に殺されても文句はないな? お前が弱いから、俺に殺される──これも、お前の言う弱肉強食だろ?」
獰猛に笑う聡太が、『紅桜』の切っ先を女性に向ける。
女性が腰を落として大剣を構え、対する聡太も刀を両手で持つ──と。
「──うおおおおおおおおおッ!」
「でりゃあああああああッ!」
上から聞こえた雄叫びに、聡太はその場を飛び退いた。
瞬間──先ほどまで聡太が立っていた所に、二人の女性が降り立った。
「クソ、外した……!」
「……また『褐女種』か……」
新たに現れた二人の『褐女種』を見て、聡太がため息を吐いた。
そして──先ほどよりも濃い殺気を放ち始める。
「フォルテ、あの『人類族』は?」
「侵入者よ。アバンに何かを盗られたみたい。アンタたちは、子どもたちをお願い」
「……わかった」
現れた二人の『褐女種』が、勇輝たちの方へと走っていく。
残されたフォルテと呼ばれた『褐女種』が、大剣を構えて聡太を睨み付けた。
「……はぁ……もうめんどくせぇ」
「なに? 諦めて帰る気になった?」
「──遠慮はしないって言ったんだ」
手を上に掲げ──聡太が詠唱した。
「『剛力』解除──『二重詠唱・黒重』」
「んなっ──うぐっ?!」
不可視の重力が辺りを襲い──フォルテが地面に膝を突いた。
「うっ、ぐぁ──あああああああッッ!!」
「……マジかよ」
フォルテが雄叫びを上げ──立ち上がった。
──どうなっている? ただの『褐女種』が、二重強化の『黒重』を受けて立ち上がるだと?
「いい、わね……! アンタ、かなりいいわよ……!」
「……こりゃ、本気で戦らないとダメみたいだな」
『黒重』を解除し、聡太がフォルテと正面から向かい合った。
「があ──ッッ!!」
フォルテが地面を踏み込み──次の瞬間、聡太の前に移動。
大剣を振り上げ、思い切り振り下ろした。
「舐めんな──ッ!」
振り下ろされる大剣に刀の切っ先を合わせ──大剣の軌道が逸れた。
聡太の真横に大剣が振り下ろされ──予想外の出来事に、フォルテが驚愕に固まった。
「しッ──!」
「あぐっ?!」
聡太が蹴りを放ち──フォルテの頭を撃ち抜いた。
フォルテが地面を転がり、聡太が追い討ちを狙って刀を構え──
「──しゃあッ!」
「うおっ──?!」
足を振り回して体勢を整え、遠心力を利用して蹴りを放った。
ギリギリで蹴りを躱し──フォルテの頭を掴んで、顔面を思い切り地面に叩き付ける。
「あ、ぐぁ……!」
「──動くな」
フォルテが立ち上がる──前に、聡太がフォルテの背中に乗った。
「この……!」
「動くなと言った」
「あっ──があああああああッ?!」
関節を極められ、フォルテが痛みに絶叫を上げる。
どんどん力を入れ、フォルテの腕を折る──寸前。
「そこまでにしとけ、聡太」
ポンと聡太の肩に手を置いた勇輝が、どこか咎めるような視線を向ける。
数秒ほど、フォルテの関節を極めたまま沈黙し──聡太がフォルテの背中から立ち上がった。
「ハピィの『ステータスプレート』は?」
「返してもらったぞ。返すからフォルテさんに酷い事しないで! って言われたんだからな?」
「俺に言われても……戦らなきゃ殺られるんだから、しょうがないだろ」
「待ち、なさい……!」
腕を押さえるフォルテが、聡太を睨み付ける。
「……なんだ? まだ戦る気か?」
「違う……アンタ、何者なの……?」
「……『十二魔獣』を討伐するために召喚された異世界人だ。これに懲りたなら、黒髪黒目の奴らには関わるなよ」
ヒラヒラと手を振り、聡太がその場を後にする。
慌てたような様子で、ハルピュイアたちがその後を追った。
「……『十二魔獣』を……討伐する……」
「フォルテ! 大丈夫?!」
「……アンタは?」
「めちゃくちゃ手加減されて相手された。あの優男……スゴく強かったよ」
どこか恍惚とした顔で、『褐女種』が先ほどの戦いを思い出す。
「ホントにスゴかったのよ? 一方的に負けるなんて、初めてかも……」
『褐女種』は、自分よりも強い異性を求める。
この『褐女種』は──剣ヶ崎の強さに、魅力を感じているらしい。
「それより、フォルテが戦ってた奴は? 見た感じ、あの『人類族』も強そうだったけど……」
「えぇ……ようやく見つけたわよ」
「見つけたって……何を?」
首を傾げる『褐女種』に、フォルテはどこか興奮したように言った。
「──この腐った世界を変えてくれる、救世主よ」
足元の縄を飛び越え、壁から突き出してくる木の槍を躱し、空から降ってくる短剣の雨を弾き返す。
──どんだけ罠を仕掛けてるんだ?!
これだけの量を、国の至る所に仕掛けるなんて──あの少年一人では無理だ。
つまり──
「他にも、仲間がいる……!」
「うわ──?!」
「な、何をしているんだ鬼龍院!」
縄に足を引っ掛け、勇輝が派手に転ぶ──と、縄に何らかの仕掛けがあったのか、再び空から短剣が降り注ぐ。
「何やってんだあの筋肉ダルマ──!」
『黒曜石の短刀』と『白桜』を逆手に持ち、迫る短剣を撃ち返す。
聡太の後ろにいるハルピュイアも、【硬質化】で短剣の雨をやり過ごしたようだ。
「おい勇輝! 足手まといはいらねぇぞ?!」
「わ、悪ぃ! 気を付ける!」
【気配感知】の反応を頼りに、逃げた少年を追い掛ける。
──どこに向かってるんだ?
随分と遠くに来たが……少年の気配は、なかなか止まらない。
「ん──」
ようやく、少年の気配が止まった。
建物と建物の間を縫うように駆け抜け──やがて、広い空間に出た。
「ここは……」
「廃墟……かな?」
目の前の光景に、剣ヶ崎がそんな言葉を漏らした。
──ボロボロの建物が、この広い空間に何個か置かれている。
先ほどまでの美しい光景とは真逆──まるで、スラムのような場所だ。
「──あ?!」
「見つけたぞ……大人しく『ステータスプレート』を返せ」
建物の前にいた少年が、現れた聡太たちを見て怯えたように顔を引き攣らせる。
二本の短刀を鞘に収め、聡太が少年に近づこうと──して。
──少年の近くにあった建物の入口が爆発。
何が起きたのか理解する前に──建物から勢いよく飛び出した女性が、聡太に大剣を振り下ろした。
「はあああああああああッッ!!」
「チッ──『剛力』ッ!」
『紅桜』を抜き、そのまま大剣を受け止める。
──ズドッッオオオオオンンンッッ!!
衝撃で地面に亀裂が走り──思わず聡太が膝を突いた。
「聡太?!」
「この──【斬撃】ッ!」
剣ヶ崎が聖剣を抜き、斬撃を放った。
女性を斬り裂かんと真っ直ぐに迫るそれは──だが簡単に避けられ、女性が聡太たちから距離を取る。
──なんて力だ?!
一瞬で距離を詰めた事と言い、あり得ないサイズの大剣を軽々と扱っている事と言い、剣ヶ崎の【斬撃】を簡単に避けた事と言い──あの女性、間違いなく強い。
「……何者だ、お前」
「それはこっちのセリフなんだけど? 許可なしにウチたちの住処に入って……何が目的?」
そう言って、歪な大剣を聡太たちに向けてくる。
──褐色の肌に、短い金髪。
金色の瞳には強い戦意が宿っており、身長は聡太よりも少し高い。
その手に持っている歪な大剣は……まるで、ノコギリのような形だ。
服装は火鈴にそっくりで、正直目のやり場に困る──そんな女性が、聡太たちを睨み付けている。
「『妖精族』……じゃ、ない……?」
「ああ。多分、『褐女種』だな」
──『褐女種』。
『人類族』の一種で、性別が女しか存在しない種だ。
特徴として、『褐女種』から産まれるのは、必ず『褐女種』として産まれる。
そして、最大の特徴は──より強い子どもを作るために、自分よりも強い男を求める所だろう。
「『褐女種』……って、なんだ?」
「『人類族』の一種だ。『イマゴール王国』にもかなりいたぞ」
「……オレら、基本的に王宮か訓練所にしかいねぇからなぁ……」
騒ぎを聞き付けたのか、建物の中から『妖精族』が続々と姿を現す。
──どの『妖精族』も、まだまだ子どもだ。先ほどの少年と変わらない。
「だ、誰……?」
「侵入者よ。隠れてなさい」
大剣を両手で握り、女性が聡太たちを──否。聡太を真っ直ぐに見据える。
「へぇ──」
全く隙のない構えに、聡太がどこか感心したように声を漏らし──
──ゾクッと、鋭利な刃物で直接肌を撫で回されているような感覚。
聡太の体から、尋常ならざる殺気が放たれている──これまでに感じた事のない殺気に、女性が思わず大剣を強く握り直した。
「お、落ち着け聡太! ほら、小さい子どもたちも見てるぞ!」
「……勇輝」
「な、なんだ?」
「あの女と戦ってる途中に、『妖精族』のガキ共が近づいてきたら……もしかしたら、間違って斬るかも知れん」
「子どもたちを近づけるなって言いたいんだな?! 回りくどいんだよお前は! 剣ヶ崎、手を貸してくれ! あの子どもたちを聡太に近づけさせるな!」
「あ、ああ!」
「ハピィ、お前も勇輝に付いて行け。あの女は俺に任せろ」
「……おー!」
『妖精族』の子どもたちを保護するために、勇輝たちが駆け出した。
それと同時──『褐女種』が勇輝たちに向かって飛び掛かる。
「──どこ見てんだよ」
『剛力』を発動したままだった聡太が、一瞬で女性の前に移動した。
尋常ならざる速さに、女性は驚愕する──事なく、大剣を真横に振り抜いた。
「ふんッ!」
「──【増強】、【剛腕】、【筋力強化】ッ!」
聡太が『紅桜』で大剣を受け止める──直前、女性が三つの【技能】を連続で発動。
そして、聡太の『紅桜』と『褐女種』の大剣がぶつかり──聡太が吹き飛ばされた。
「【豪脚】──ッ!」
さらに【技能】を発動し、吹き飛んでいく聡太に向かって跳んだ。
瞬間──聡太の真横に、女性が現れる。
「はあ──ッ!」
女性が大剣を振り下ろし──轟音。
地面にヒビが入り、辺りに暴風が吹き荒れる。
思わず三人が走るのを止め、聡太に目を向け──
「──スゴいな」
「ッ?!」
背後から聞こえた声に、女性はバッと勢いよく振り返った。
そこには──無傷の聡太が。
「ア、ンタ……いつの間に……?!」
別に難しい事はしていない。
吹き飛んでいる時に二重強化の『剛力』を発動し、女性の大剣が聡太に当たる──前に地面を蹴り、大剣を躱した。
そのまま女性の背後に回り込み──というわけだ。
「……一つだけ言っておくぞ。俺はあの『妖精族』に物を盗られた。その後を追って、ここに来た。理解できるな?」
「……えぇ、理解できるわ」
「なら──」
「けど、盗られるアンタが悪い。この世は弱肉強食。弱い者は、強い者に食われる。あんたの注意が散漫だったから、物を盗られたのよ。わかる?」
ここの管理者だと思い、事情を話そうとしたが──なるほど。責任はこちらにあると来たか。
「……そうか」
「えぇ、そうよ」
「なら、今ここで俺に殺されても文句はないな? お前が弱いから、俺に殺される──これも、お前の言う弱肉強食だろ?」
獰猛に笑う聡太が、『紅桜』の切っ先を女性に向ける。
女性が腰を落として大剣を構え、対する聡太も刀を両手で持つ──と。
「──うおおおおおおおおおッ!」
「でりゃあああああああッ!」
上から聞こえた雄叫びに、聡太はその場を飛び退いた。
瞬間──先ほどまで聡太が立っていた所に、二人の女性が降り立った。
「クソ、外した……!」
「……また『褐女種』か……」
新たに現れた二人の『褐女種』を見て、聡太がため息を吐いた。
そして──先ほどよりも濃い殺気を放ち始める。
「フォルテ、あの『人類族』は?」
「侵入者よ。アバンに何かを盗られたみたい。アンタたちは、子どもたちをお願い」
「……わかった」
現れた二人の『褐女種』が、勇輝たちの方へと走っていく。
残されたフォルテと呼ばれた『褐女種』が、大剣を構えて聡太を睨み付けた。
「……はぁ……もうめんどくせぇ」
「なに? 諦めて帰る気になった?」
「──遠慮はしないって言ったんだ」
手を上に掲げ──聡太が詠唱した。
「『剛力』解除──『二重詠唱・黒重』」
「んなっ──うぐっ?!」
不可視の重力が辺りを襲い──フォルテが地面に膝を突いた。
「うっ、ぐぁ──あああああああッッ!!」
「……マジかよ」
フォルテが雄叫びを上げ──立ち上がった。
──どうなっている? ただの『褐女種』が、二重強化の『黒重』を受けて立ち上がるだと?
「いい、わね……! アンタ、かなりいいわよ……!」
「……こりゃ、本気で戦らないとダメみたいだな」
『黒重』を解除し、聡太がフォルテと正面から向かい合った。
「があ──ッッ!!」
フォルテが地面を踏み込み──次の瞬間、聡太の前に移動。
大剣を振り上げ、思い切り振り下ろした。
「舐めんな──ッ!」
振り下ろされる大剣に刀の切っ先を合わせ──大剣の軌道が逸れた。
聡太の真横に大剣が振り下ろされ──予想外の出来事に、フォルテが驚愕に固まった。
「しッ──!」
「あぐっ?!」
聡太が蹴りを放ち──フォルテの頭を撃ち抜いた。
フォルテが地面を転がり、聡太が追い討ちを狙って刀を構え──
「──しゃあッ!」
「うおっ──?!」
足を振り回して体勢を整え、遠心力を利用して蹴りを放った。
ギリギリで蹴りを躱し──フォルテの頭を掴んで、顔面を思い切り地面に叩き付ける。
「あ、ぐぁ……!」
「──動くな」
フォルテが立ち上がる──前に、聡太がフォルテの背中に乗った。
「この……!」
「動くなと言った」
「あっ──があああああああッ?!」
関節を極められ、フォルテが痛みに絶叫を上げる。
どんどん力を入れ、フォルテの腕を折る──寸前。
「そこまでにしとけ、聡太」
ポンと聡太の肩に手を置いた勇輝が、どこか咎めるような視線を向ける。
数秒ほど、フォルテの関節を極めたまま沈黙し──聡太がフォルテの背中から立ち上がった。
「ハピィの『ステータスプレート』は?」
「返してもらったぞ。返すからフォルテさんに酷い事しないで! って言われたんだからな?」
「俺に言われても……戦らなきゃ殺られるんだから、しょうがないだろ」
「待ち、なさい……!」
腕を押さえるフォルテが、聡太を睨み付ける。
「……なんだ? まだ戦る気か?」
「違う……アンタ、何者なの……?」
「……『十二魔獣』を討伐するために召喚された異世界人だ。これに懲りたなら、黒髪黒目の奴らには関わるなよ」
ヒラヒラと手を振り、聡太がその場を後にする。
慌てたような様子で、ハルピュイアたちがその後を追った。
「……『十二魔獣』を……討伐する……」
「フォルテ! 大丈夫?!」
「……アンタは?」
「めちゃくちゃ手加減されて相手された。あの優男……スゴく強かったよ」
どこか恍惚とした顔で、『褐女種』が先ほどの戦いを思い出す。
「ホントにスゴかったのよ? 一方的に負けるなんて、初めてかも……」
『褐女種』は、自分よりも強い異性を求める。
この『褐女種』は──剣ヶ崎の強さに、魅力を感じているらしい。
「それより、フォルテが戦ってた奴は? 見た感じ、あの『人類族』も強そうだったけど……」
「えぇ……ようやく見つけたわよ」
「見つけたって……何を?」
首を傾げる『褐女種』に、フォルテはどこか興奮したように言った。
「──この腐った世界を変えてくれる、救世主よ」
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