初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

87話

「──ソータ様、何か言う事はありますか?」

 床に正座させられる聡太に、ミリアが冷え切った声で問いかける。

「……いや、普通アイツが女だとは思わないだろ。最初から女だってわかってたら、こんな事には──」
「でも、見たんですよね?」
「だから──」
「見たんですよね?」

 ──これ以上言い訳するのは、なんか嫌な予感がする。
 いつになく冷たい表情のミリアの言葉に、聡太は大人しく頷いた。

「……それで、どう思いましたか?」
「は?」
「ですから、女の人の体を見て……どう思いましたか?」

 真剣そうな表情で聞いてくるミリアに、聡太は首を傾げた。

「どうって言われても……別に、としか言えないんだが」
「……へぇぇぇ……? 乙女の体を見た感想がそれなんですねぇ? いい度胸してますぅ」

 ミリアの隣に立つアルマクスが、聡太の感想を聞いて殺気を放ち始める。

「んだよ。お前の体を見て俺が興奮したとでも思ってんのか?」
「何だかすっごいムカつくんですけどぉ? 一発殴らせてくれませんかぁ?」

 アルマクスの放つ殺気が、さらに濃くなった。

「意味わかんねぇ……じゃあ何て言って欲しいんだよ……」

 興奮したと言えば、間違いなくロリコンだと言われる。
 興奮していないと言えば、何故かムカつくと言われる。
 一体、聡太にどうしろと言うのか。

「はぁ……これがキッカケで、ソータ様が異性に興味を持つかと思ったんですが……」
「ま〜しょうがないよ〜。少しずつ頑張ろ〜?」
「……はい」

 落ち込んだようにため息を吐くミリアの肩に、火鈴がポンと手を乗せる。
 コイツら、いつの間にそんなに仲良くなったんだ──聡太がそう問い掛ける前に、今度は別の質問が飛んだ。

「では、次ですね──アルマ、あなたにはソータ様が加勢に来ないように頼んでいたと思いますが、どうしてソータ様が『フェアリーフォレスト』に来たんですか?」

 話の矛先がアルマクスに向けられ、ミリアが灰色の瞳を細める。

「『フェアリーフォレスト』でも言いませんでしたっけぇ? ハピィに足止めされて、ソウタを引き止める事ができなかったんですよぉ」
「……ソータ様、本当ですか?」
「……ああ。俺がハピィにアルマの足止めを頼んで、その間に『フェアリーフォレスト』に──」
「嘘ですね」

 聡太の言葉をぶった斬り、ミリアが聡太に視線を向けた。

「ソータ様、嘘をかないでください。私、そろそろ本気で怒りますよ」

 ──え、なんかミリアがめちゃくちゃ怖いんだけど。一人で『大罪迷宮』の深下層に落ちた時と同じくらい怖いんだけど。
 ってか、なんで嘘ってわかるんだ? コイツ、なんかそういう【技能】でも持ってるのか?

「……いや、その……」
「いいですか、ソータ様。次はありません。もしも嘘を吐いたら……」

 そこで言葉を中断し、ミリアが聡太からの返答を待つ。
 ──え、なに? 嘘を吐いたらどうなるんだ?

「……はぁ……わかった、正直に言う」

 観念したように目を閉じ、聡太が正直に話し始めた。

「……アルマに頼んで、『フェアリーフォレスト』に行った。それだけだ」
「……アルマ、なんで行かせたんですか」
「別に、深い理由はないですよぉ。ソウタの人生ですから、ソウタの好きなようにやればいいって思っただけですぅ。人の言う事を聞いて生き続けるより、自分が後悔しない選択をして死ぬ方が、よっぽど幸せに死ねますよぉ? まあ、それだけの理由ですぅ」

 アルマクスの言い分も、理解できる。
 大切な仲間を見捨てて生き延びるのと、自分が危険な目に遭ってでも助けに行くのと……どちらが後悔しないのかなんて、今の聡太には決まっている。
 いや……聡太やアルマクスだけではない。
 ミリアも、ハルピュイアも、火鈴も──同じ状況になれば、無理矢理にでも助けに行こうとするだろう。
 その事に気づいたのか、ミリアと火鈴が表情を曇らせた。

「体調不良の聡太が、仲間を助けるために行動するのを否定するって事はぁ……アナタたちは、同じ状況になっても仲間を見捨てるって事ですかぁ?」

 イタズラっぽく笑うアルマクスに、ミリアと火鈴は顔を見合わせ──仕方がないと肩を落とした。

「ねー。もう難しい話は終わったのー? だったらハピィ、外に行きたーい!」
「そうだな……そろそろ食料の買い出しに行くか」
「わーい!」

 立ち上がる聡太の腹部に抱き付き、ハルピュイアが嬉しそうに笑顔を見せる。
 そんなハルピュイアの頭を撫で……聡太は、バックパックを手に取った。

「んじゃ、行くか」

────────────────────

「──ソーター! 早く早くー!」

 元気に走るハルピュイアが、聡太にブンブンと手を振る。
 ──買い出しに来ているのは、聡太とハルピュイアの二人だけだ。
 ミリアと火鈴が、何故か留守番をすると言い始め……巻き込まれるようにして、アルマクスまで留守番する事になった。

「……にしても……」

 国の中を見回して、聡太が感嘆のため息を漏らした。
 ……スゴく綺麗な国だ。
 国の至る所に木が生えており、その木が明るく発光している。
 ユグルの『大罪迷宮』にあった、発光石はっこうせきのような感じだろうか。

「ソータ遅ーい!」
「少し落ち着け。転ぶぞ」
「転ばないよー! もー、子ども扱いしないでー!」

 怒ったように頬を膨らませるハルピュイアが、青色の翼をバタつかせる──と。

「──あっ?!」
「きゃ?!」

 ハルピュイアの背中に、幼い『妖精族フェアリー』がぶつかった。
 かなりの勢いがあったのだろう。ぶつかった少年が地面に尻餅をついた。
 素早く体勢を立て直すハルピュイアが、尻餅をつく少年に手を差し出した。

「ごめんねー? 大丈夫ー?」
「う、うん……ぼくの方こそ、ごめんなさい……」

 立ち上がる少年が頭を下げ、再び駆け出した。
 ハルピュイアの横を通り過ぎ、聡太の横を走り抜ける──寸前。

「──待て」
「っ?!」

 声を低くする聡太が、少年の前に立ち塞がった。

「な、なんですか……?」
「ソーター? 怒ってるのー?」
「お前……ふところに入れた『ステータスプレート』を出せ」
「え……?」

 聡太の言葉を聞き、ハルピュイアが尻ポケットに手を当てた。

「あ、あれー?! ハピィの『ステータスプレート』がないよー?!」
「盗られたって言ってるだろうが……随分ずいぶんと手慣れた様子だったな? その様子だと……他種族を狙ってやってる感じか」
「ぐっ──!」

 聡太の横を抜けるのは無理と判断したのか、少年が建物と建物の間に逃げ込んだ。

「綺麗なのは見た目だけか……ハピィ、追うぞ。どうやら、この国もなかなか腐ってるみたいだ」
「お、おー!」

 少年を追って、聡太とハルピュイアが建物の間に入り込んだ。
 ──狭い。それに、迷路のように複雑な道だ。
 迷いなくここに逃げ込んだ所といい、あの少年──かなり犯罪慣れしている。

「──俺からも逃げられるとでも思ってんなら、残念だったな」

 【気配感知“広域”】には、まだ少年の反応がある。
 『剛力』を使って一気に追いついてもいいが──そうすると、別の住民に被害が出るだろう。
 そうなると、聡太まで犯罪者扱いされる可能性がある。

「あ──ソータっ!」

 ハルピュイアの鋭い声に、聡太は上空へと視線を向けた。
 ──空から、刃物が降ってきている。あの少年が仕掛けた罠だろう。

「──舐めんな」

 後ろ腰から『白桜』と『黒曜石の短刀』を抜き、逆手に持つ。
 そして──雨のように降る刃物を、一瞬で弾き飛ばした。

「……殺す気満々か……んなら、俺も躊躇ちゅうちょする必要ないな」

 細い路地を駆け抜け──出た所は、見覚えのない大通りだった。

「チッ……」

 人が多い。
 【気配感知“広域”】のおかげで、どこにいるのかは何となくわかるが──人が邪魔で、走る事ができない。

「──おっ……聡太! 何してんだ?」

 聞き慣れた声に、聡太はそちらに目を向けた。

「勇輝……それに、剣ヶ崎か」
「古河、どうかしたのか?」
「……別に、大した事じゃ──」
「おー! ハピィの『ステータスプレート』が盗まれたのー!」
「な、何だって?!」
「お前ハピィ……!」

 剣ヶ崎に言ったら、ボクも手伝うよ! とか言って付いてくる思ったから、説明しないで行こうとしたのに──

「それは大変だ。よし、ボクも手伝うよ!」

 ほら言った。
 鼻息を荒くする剣ヶ崎と、面倒な事に巻き込まれたなと頬を掻く勇輝──二人から視線を外し、聡太が少年の気配のある方へと顔を向けた。

「好きにしろ。ただし、邪魔だけはするな」
「もちろんだ!」
「あー……ドンマイだな、聡太」
「おっしゃー! 追いかけよー!」

 気合十分なハルピュイアの声を聞き、聡太が【気配感知“広域”】をフル発動して少年を追った。

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