初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
79話
「チッ……! すぐに戻って来っからなァッ!」
セシル隊長を背負い、土御門が小鳥遊の方へと走って行く。
その姿をレオーニオが見つめ、無防備な背中に飛び掛かろうとするが──
「──どこ見てるのッ!」
「ガルル──ッ!」
レオーニオとの距離を詰め、火鈴が剛爪を振り抜いた。
咄嗟に身を捻り、ギリギリの所で剛爪を回避し──レオーニオが火鈴に剛爪を振るった。
「はぁ──ッ!」
迫る剛爪をはたき落とし、火鈴の蹴りがレオーニオの頭を撃ち抜いた。
簡単に一撃を入れた事に、勇輝が声を上げるが──火鈴は、スッと眉を寄せた。
──軽い。
レオーニオの頭を蹴った火鈴は、妙な違和感を感じていた。
まるで、攻撃が受け流されたような──
「──ガルルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「うわ──?!」
簡単に体勢を立て直したレオーニオが、凶悪な剛爪を突き出した。
ギリギリで竜鱗の上を滑らせるようにして剛爪を回避し、火鈴がレオーニオの腹部に前蹴りを入れた。
大きく後ろへと飛んでいくレオーニオ──だが、火鈴は再び違和感を覚えた。
──今の蹴りも、当たった感じが軽い。
「……あ〜、そういう事〜……」
すぐに違和感の正体に気づいたのか、火鈴が納得したような表情を見せる。
──スリッピング・アウェー。
ボクシングに使われる防御テクニックだ。
本来なら、パンチが伸びる方向へと顔を向ける事で衝撃を受け流す技だ。
レオーニオはそれをパンチではなく、火鈴の蹴りでもやってみせたという事だ。
その後の前蹴りも、スリッピング・アウェーの要領と同じ。
自分から後ろに飛ぶ事で、前蹴りの衝撃を上手く受け流したのだ。
「随分と上手だね〜……『十二魔獣』って力任せに戦う奴しかいないと思ってたけど、認識を改めないとね〜」
何故火鈴がスリッピング・アウェーなどという言葉を知っているのか。
理由は単純。
火鈴がボクシングをやっていたからだ。
というか火鈴は、ほとんどのスポーツや習い事を経験している。
その全ては──聡太が原因なのだが。
「ガルル……!」
厄介だ。確かに厄介だ。
力だけではなく、技を持つ『十二魔獣』。なるほど、これまでにないほど厄介だ。
だが──厄介なだけだ。
別に強いとも、負けるかも知れないとも思えない。
「……その程度の技が通用するんなら、あたしがとっくに使ってるっての〜」
そう──それらの技が通用するのは、あくまでスポーツの範囲の中でのみだ。
もちろん、戦いで使用できる技もあるが──魔法や【技能】、さらにはモンスターが存在する世界で使用できる技など、せいぜい料理の腕ぐらいだ。
それだったら、土御門のケンカ慣れの方がよっぽどこの世界で通用する。
故に──怖くない。恐くない。負ける気がしない。
「ふぅッ──はぁぁぁぁ……!」
──ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
火鈴の体から、何かが脈打つような音が聞こえ始める。
脈打つ音に反応し、火鈴の体に茶色の紋様が浮かび上がった。
赤と黒の色違いの瞳が茶色に染まり、赤色の竜鱗が茶色へと変色。
そして──火鈴の腹部に刻まれている茶色の模様が、明るく輝き始めた。
「ガァァ……!」
豹変する雰囲気に、レオーニオが気圧されたように声を漏らす。
そんなレオーニオを冷たい瞳で捉え──火鈴が掛かって来いと人差し指を動かした。
「おいで──その伸びきった鼻、へし折ってあげるよ〜」
「ルルル……ガァアアアアアアッッ!!」
言葉は理解できなくても、挑発されている事は理解できたのか、レオーニオが大きく吼えて火鈴に飛び掛かった。
剛爪を振りかぶり、火鈴の顔面を引き裂こうとする──が。
「──しッ!」
「ルボッ──?!」
剛爪を避けた火鈴が、レオーニオの腕と交差するようにして右拳を放った。
──クロスカウンター。
レオーニオの顔面に火鈴の拳が迫り──再びレオーニオが首を捻り、拳撃の衝撃を受け流そうとする。
「──二度も通用すると思わないで」
それを見逃す火鈴ではない。
素早く右拳を戻し、入れ替わりに左の拳を放つ。
左拳がレオーニオの顔を打ち──左拳を引き戻すと同時、今度は右ストレートをレオーニオの顔面に放った。
鮮やかなワンツー。
衝撃を受け流せず、モロに攻撃を食らったレオーニオが剛爪を構え直す──よりも早く、火鈴が次なる攻撃を仕掛けた。
「はあッ!」
無防備な腹に向けて、火鈴が膝を放った。
膝撃がレオーニオの腹部に叩き込まれる寸前、レオーニオが後ろに飛ぶ事で衝撃を受け流そうとするが──後ろに飛べない。
足元を見ると──火鈴の尻尾がレオーニオの足に巻き付き、足の自由を奪っていた。
「ルォッ──ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッッ!!」
膝を喰らい、レオーニオが吹き飛んだ。
──今度は受け流されていない。
怒りの雄叫びを上げるレオーニオを見て、火鈴は笑みを浮かべた。
「ガァァァァァァァ……! アアァ! アァッ! ルァアアアアアアアッッ!!」
レオーニオが狂ったように雄叫びを上げ──自分の顔面を殴った。
何をしているのか? と警戒と共に身構える火鈴。
何度も何度も自分の顔面を殴り──何かが地面に落ちた。
「ルオ……オオオ……!」
地面に落ちたのは──レオーニオの目元を覆っていた拘束具だ。
「……気持ち悪い見た目だね〜」
レオーニオの目を見て、火鈴が目を細めた。
白く輝く瞳、その数──合計八個。
八つの瞳を煌々と輝かせ──レオーニオが火鈴に飛び掛かった。
「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「はああああああああああああああッ!」
突っ込むレオーニオに合わせ、火鈴が剛爪を振り下ろした。
だが──レオーニオが虚空を蹴り、火鈴の爪撃を回避。
しかし──今の火鈴には、通用しない。
「後ろ──!」
尋常ならざる反応速度で振り向き、その勢いで剛爪を横薙ぎに振るう。
──レオーニオの口が、大きく開かれている。
その事を不思議に思いながらも、火鈴は躊躇する事なく剛爪を振り抜こうと──して。
「逃げろッ、獄炎ッ!」
「ガァァ──オオオオオオオオオオオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
レオーニオの口から、凄まじい衝撃波が放たれる。
衝撃波は火鈴の体を貫き──ゴブッ、と口から血を吐きながら、火鈴が吹き飛ばされた。
「やべぇぞ、モロに食らっちまった……! 剣ヶ崎! 獄炎を頼む!」
火鈴を剣ヶ崎に任せ、小鳥遊の所まで退く時間を少しでも稼ぐために、勇輝がレオーニオに向かって駆け出す──と。
……何故か、剣ヶ崎から返事がない。
「オイ、剣ヶ崎?! ボーっとしてる暇はねぇぞ?! オレらじゃあの『十二魔獣』には勝てねぇ! 獄炎に復帰してもらわねぇと!」
声を荒らげ、勇輝が剣ヶ崎に掴みかかる。
だが──剣ヶ崎から返事はない。
「ガルルルルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「『第四重絶対結界』っ!」
地面に倒れる火鈴に止め刺さんと、レオーニオが火鈴に飛び掛かる──寸前、黄色の結界がレオーニオを囲った。
「行ってください! ここは私が抑えます!」
「……悪い! すぐに戻って来る!」
勇輝が火鈴を担ぎ上げ、森の奥へと駆けていく。
その姿を見届け、レオーニオを逃さないために魔力を込め直す──と。
「……? あなた、何をしているのです?! 早く行ってください! そこにいても、邪魔にしかなりません!」
「……………」
棒立ちのまま動かない剣ヶ崎に、ミリアが鋭い声を発した。
だが──剣ヶ崎は動かない。
「…………──……」
ボソリと、剣ヶ崎が何かを呟いた。
「……────………………──……!」
何と言っているのか聞こえない。
レオーニオから視線を逸らし、ミリアが剣ヶ崎へ視線を向け──
「……─ク……だっ─…………」
──バッと、剣ヶ崎が顔を上げた。
「──ボク、だって……! ボクッ、だって──ッッ!!」
大声を上げる剣ヶ崎──その次の瞬間だった。
──ドクン。
何かが脈打つような音が聞こえた。
……聡太も火鈴もこの場にいない。この場にいるのはミリアとレオーニオ、そして──
「オオおッ、あァあアアアああああああああアアアアああアあああああッッ!!」
──ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
剣ヶ崎の体から、何かが脈打つような音が響く。
脈打つ音がどんどん強くなっていく──と、剣ヶ崎の体に、紫色の紋様が浮かび上がった。
体を、手を、足を、顔を──やがて、全身に紫色の紋様が浮かび上がる。
そして──剣ヶ崎の瞳が、紫色に染まった。
「こ、れは……?!」
剣ヶ崎の左腕に刻まれている『大罪人』の模様が、眩い光を放ち始めた。
劇的な変化を遂げる剣ヶ崎──その姿を【鑑定の魔眼】で『視』たミリアは、驚愕した。
──【嫉妬に狂う猛き者】という【技能】が、剣ヶ崎に発動している。
「ルガ──アアアアアアアアアッッ!!」
それと同時、ガラスが砕け散るような音が響いた。
剛爪で結界を砕いたレオーニオ──その八つの瞳は、剣ヶ崎を睨んでいた。
「まさか……ソータ様やカリンと同じ、感情で発動する【技能】……?!」
「あアああッ! アアアあアアアアアアアアアぁあアアアアアアアアッッ!!」
真っ暗な『フェアリーフォレスト』に、剣ヶ崎の咆哮が響き渡った──
セシル隊長を背負い、土御門が小鳥遊の方へと走って行く。
その姿をレオーニオが見つめ、無防備な背中に飛び掛かろうとするが──
「──どこ見てるのッ!」
「ガルル──ッ!」
レオーニオとの距離を詰め、火鈴が剛爪を振り抜いた。
咄嗟に身を捻り、ギリギリの所で剛爪を回避し──レオーニオが火鈴に剛爪を振るった。
「はぁ──ッ!」
迫る剛爪をはたき落とし、火鈴の蹴りがレオーニオの頭を撃ち抜いた。
簡単に一撃を入れた事に、勇輝が声を上げるが──火鈴は、スッと眉を寄せた。
──軽い。
レオーニオの頭を蹴った火鈴は、妙な違和感を感じていた。
まるで、攻撃が受け流されたような──
「──ガルルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「うわ──?!」
簡単に体勢を立て直したレオーニオが、凶悪な剛爪を突き出した。
ギリギリで竜鱗の上を滑らせるようにして剛爪を回避し、火鈴がレオーニオの腹部に前蹴りを入れた。
大きく後ろへと飛んでいくレオーニオ──だが、火鈴は再び違和感を覚えた。
──今の蹴りも、当たった感じが軽い。
「……あ〜、そういう事〜……」
すぐに違和感の正体に気づいたのか、火鈴が納得したような表情を見せる。
──スリッピング・アウェー。
ボクシングに使われる防御テクニックだ。
本来なら、パンチが伸びる方向へと顔を向ける事で衝撃を受け流す技だ。
レオーニオはそれをパンチではなく、火鈴の蹴りでもやってみせたという事だ。
その後の前蹴りも、スリッピング・アウェーの要領と同じ。
自分から後ろに飛ぶ事で、前蹴りの衝撃を上手く受け流したのだ。
「随分と上手だね〜……『十二魔獣』って力任せに戦う奴しかいないと思ってたけど、認識を改めないとね〜」
何故火鈴がスリッピング・アウェーなどという言葉を知っているのか。
理由は単純。
火鈴がボクシングをやっていたからだ。
というか火鈴は、ほとんどのスポーツや習い事を経験している。
その全ては──聡太が原因なのだが。
「ガルル……!」
厄介だ。確かに厄介だ。
力だけではなく、技を持つ『十二魔獣』。なるほど、これまでにないほど厄介だ。
だが──厄介なだけだ。
別に強いとも、負けるかも知れないとも思えない。
「……その程度の技が通用するんなら、あたしがとっくに使ってるっての〜」
そう──それらの技が通用するのは、あくまでスポーツの範囲の中でのみだ。
もちろん、戦いで使用できる技もあるが──魔法や【技能】、さらにはモンスターが存在する世界で使用できる技など、せいぜい料理の腕ぐらいだ。
それだったら、土御門のケンカ慣れの方がよっぽどこの世界で通用する。
故に──怖くない。恐くない。負ける気がしない。
「ふぅッ──はぁぁぁぁ……!」
──ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
火鈴の体から、何かが脈打つような音が聞こえ始める。
脈打つ音に反応し、火鈴の体に茶色の紋様が浮かび上がった。
赤と黒の色違いの瞳が茶色に染まり、赤色の竜鱗が茶色へと変色。
そして──火鈴の腹部に刻まれている茶色の模様が、明るく輝き始めた。
「ガァァ……!」
豹変する雰囲気に、レオーニオが気圧されたように声を漏らす。
そんなレオーニオを冷たい瞳で捉え──火鈴が掛かって来いと人差し指を動かした。
「おいで──その伸びきった鼻、へし折ってあげるよ〜」
「ルルル……ガァアアアアアアッッ!!」
言葉は理解できなくても、挑発されている事は理解できたのか、レオーニオが大きく吼えて火鈴に飛び掛かった。
剛爪を振りかぶり、火鈴の顔面を引き裂こうとする──が。
「──しッ!」
「ルボッ──?!」
剛爪を避けた火鈴が、レオーニオの腕と交差するようにして右拳を放った。
──クロスカウンター。
レオーニオの顔面に火鈴の拳が迫り──再びレオーニオが首を捻り、拳撃の衝撃を受け流そうとする。
「──二度も通用すると思わないで」
それを見逃す火鈴ではない。
素早く右拳を戻し、入れ替わりに左の拳を放つ。
左拳がレオーニオの顔を打ち──左拳を引き戻すと同時、今度は右ストレートをレオーニオの顔面に放った。
鮮やかなワンツー。
衝撃を受け流せず、モロに攻撃を食らったレオーニオが剛爪を構え直す──よりも早く、火鈴が次なる攻撃を仕掛けた。
「はあッ!」
無防備な腹に向けて、火鈴が膝を放った。
膝撃がレオーニオの腹部に叩き込まれる寸前、レオーニオが後ろに飛ぶ事で衝撃を受け流そうとするが──後ろに飛べない。
足元を見ると──火鈴の尻尾がレオーニオの足に巻き付き、足の自由を奪っていた。
「ルォッ──ォォォォォォォォオオオオオオオオオオオオッッ!!」
膝を喰らい、レオーニオが吹き飛んだ。
──今度は受け流されていない。
怒りの雄叫びを上げるレオーニオを見て、火鈴は笑みを浮かべた。
「ガァァァァァァァ……! アアァ! アァッ! ルァアアアアアアアッッ!!」
レオーニオが狂ったように雄叫びを上げ──自分の顔面を殴った。
何をしているのか? と警戒と共に身構える火鈴。
何度も何度も自分の顔面を殴り──何かが地面に落ちた。
「ルオ……オオオ……!」
地面に落ちたのは──レオーニオの目元を覆っていた拘束具だ。
「……気持ち悪い見た目だね〜」
レオーニオの目を見て、火鈴が目を細めた。
白く輝く瞳、その数──合計八個。
八つの瞳を煌々と輝かせ──レオーニオが火鈴に飛び掛かった。
「ガァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「はああああああああああああああッ!」
突っ込むレオーニオに合わせ、火鈴が剛爪を振り下ろした。
だが──レオーニオが虚空を蹴り、火鈴の爪撃を回避。
しかし──今の火鈴には、通用しない。
「後ろ──!」
尋常ならざる反応速度で振り向き、その勢いで剛爪を横薙ぎに振るう。
──レオーニオの口が、大きく開かれている。
その事を不思議に思いながらも、火鈴は躊躇する事なく剛爪を振り抜こうと──して。
「逃げろッ、獄炎ッ!」
「ガァァ──オオオオオオオオオオオァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!」
レオーニオの口から、凄まじい衝撃波が放たれる。
衝撃波は火鈴の体を貫き──ゴブッ、と口から血を吐きながら、火鈴が吹き飛ばされた。
「やべぇぞ、モロに食らっちまった……! 剣ヶ崎! 獄炎を頼む!」
火鈴を剣ヶ崎に任せ、小鳥遊の所まで退く時間を少しでも稼ぐために、勇輝がレオーニオに向かって駆け出す──と。
……何故か、剣ヶ崎から返事がない。
「オイ、剣ヶ崎?! ボーっとしてる暇はねぇぞ?! オレらじゃあの『十二魔獣』には勝てねぇ! 獄炎に復帰してもらわねぇと!」
声を荒らげ、勇輝が剣ヶ崎に掴みかかる。
だが──剣ヶ崎から返事はない。
「ガルルルルァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
「『第四重絶対結界』っ!」
地面に倒れる火鈴に止め刺さんと、レオーニオが火鈴に飛び掛かる──寸前、黄色の結界がレオーニオを囲った。
「行ってください! ここは私が抑えます!」
「……悪い! すぐに戻って来る!」
勇輝が火鈴を担ぎ上げ、森の奥へと駆けていく。
その姿を見届け、レオーニオを逃さないために魔力を込め直す──と。
「……? あなた、何をしているのです?! 早く行ってください! そこにいても、邪魔にしかなりません!」
「……………」
棒立ちのまま動かない剣ヶ崎に、ミリアが鋭い声を発した。
だが──剣ヶ崎は動かない。
「…………──……」
ボソリと、剣ヶ崎が何かを呟いた。
「……────………………──……!」
何と言っているのか聞こえない。
レオーニオから視線を逸らし、ミリアが剣ヶ崎へ視線を向け──
「……─ク……だっ─…………」
──バッと、剣ヶ崎が顔を上げた。
「──ボク、だって……! ボクッ、だって──ッッ!!」
大声を上げる剣ヶ崎──その次の瞬間だった。
──ドクン。
何かが脈打つような音が聞こえた。
……聡太も火鈴もこの場にいない。この場にいるのはミリアとレオーニオ、そして──
「オオおッ、あァあアアアああああああああアアアアああアあああああッッ!!」
──ドクンッ! ドクンッ! ドクンッ!
剣ヶ崎の体から、何かが脈打つような音が響く。
脈打つ音がどんどん強くなっていく──と、剣ヶ崎の体に、紫色の紋様が浮かび上がった。
体を、手を、足を、顔を──やがて、全身に紫色の紋様が浮かび上がる。
そして──剣ヶ崎の瞳が、紫色に染まった。
「こ、れは……?!」
剣ヶ崎の左腕に刻まれている『大罪人』の模様が、眩い光を放ち始めた。
劇的な変化を遂げる剣ヶ崎──その姿を【鑑定の魔眼】で『視』たミリアは、驚愕した。
──【嫉妬に狂う猛き者】という【技能】が、剣ヶ崎に発動している。
「ルガ──アアアアアアアアアッッ!!」
それと同時、ガラスが砕け散るような音が響いた。
剛爪で結界を砕いたレオーニオ──その八つの瞳は、剣ヶ崎を睨んでいた。
「まさか……ソータ様やカリンと同じ、感情で発動する【技能】……?!」
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