初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

72話

「ソータ様、次はどこに向かわれるんですか?」

 ──早朝。
 どこへ向かうか知らないミリアが、聡太にそう問い掛けた。

「ん。とりあえず『妖精国』か『水鱗国すいりんこく』に向かおうかと思っている」
「『妖精族フェアリー』と『水鱗族マーメイド』の国に……?」

 今の所、遭遇した『十二魔獣』は国か『大罪迷宮』に向かって行動している。
 今の所、まだ訪れていないのは──『妖精国』と『水鱗国』。
 『水鱗国』は『リーン大海』という海の中に存在するのだとか。
 ユグルは、『リーン大海』に『大罪迷宮』があると言っていた。
 なら、向かうべきは──『リーン大海』だ。

「……『リーン大海』に向かう途中に、『妖精国』に寄ればいいしな」

 『リーン大海』に向かう途中で、『妖精族フェアリー』の国を通過する。
 『妖精国』には、その時に寄ればいいだろう。

「……アルマクス。それで構わないよな?」
「別にいいですよぉ……あ、それと、ボクの事はアルマって呼んでほしいって言ったはずですけどぉ」
「はいはいアルマアルマ……火鈴、お前はどう思う?」
「えっ? ん、ん〜……うん。いいと思うよ〜」
「お前、まさか自分に話を振られると思ってなかっただろ?」

 それとなく返事を返す火鈴に、聡太がジト目を向ける。

「ミリア。『リーン大海』への道中に『妖精国』を通る。『妖精国』で『十二魔獣』の情報を集めて、そのまま『リーン大海』へ向かう……これでいいか?」
「な、なんで私に聞くんですか?」
「頭を使うのは俺よりお前の方が優れてるからだ。それで、どうだ?」
「…………はい。『妖精国』は『フェアリーフォレスト』という森の中にあります。もしかしたら、その『フェアリーフォレスト』の中に『十二魔獣』が隠れている可能性もありますし、ソータ様の考えで良いと思われます」

 ミリアに肯定されると、自分の考えに自信が持てる。
 無意識の内に、ミリアからの肯定を欲していた聡太は──その事に気づき、わざとらしく咳払いをした。

「……さて、んじゃ──行くか」

────────────────────

 ──時は、少々さかのぼる。
 聡太たちが『イマゴール王国』を出た──次の日に、勇輝たち十人の『勇者』とセシル隊長は、『妖精国 ティターニア』に向けて出発していた。
 そして現在──勇者一行は、『フェアリーフォレスト』の前にいる。

「ふむ……ここからは徒歩だ。馬車を降りるぞ」

 『妖精国 ティターニア』は、『フェアリーフォレスト』の中にある。
 馬車で行くには、道が悪すぎるのだ。

「全員降りたな? では行くぞ」

 セシル隊長が先を歩き、その後を勇者が追いかける。
 ──聡太が言うには、『十二魔獣』は国や『大罪迷宮』を襲撃する可能性が高いと言っていた。
 その根拠は教えてくれなかったが……『十二魔獣』を三匹も討伐した者の助言だ。信じられる。
 そのため、セシル隊長は『妖精国』へと向かっていたのだ。

「よいしょ……」
「川上先生、大丈夫ですか?」
「もちろんですよ! こう見えても、大学生の頃は山岳部に所属してたので、体力には自信があるんです! それに……先生より、小鳥遊さんや遠藤君の心配をしてあげてください」

 体力のない小鳥遊や遠藤は、すでにへばっている。
 そんな姿を見て、川上先生が苦笑を浮かべた。

「お、おっと……あ、危な──」

 危なっかしく歩く氷室が、木の幹に足を引っ掛けた。
 バランスを崩し、そのまま地面に転ぶ──

「よっと……大丈夫か、氷室?」
「あ……えぇ……」

 ──事なく、咄嗟に勇輝が氷室を受け止めた。

「気を付けろよ? ここら辺、足場が悪いからな」
「……えぇ、ありがとう」
「鬼龍院、モンスターだ!」
「おう!」

 メリケンサックのような武器──『アレスナックル』を両拳に付け、勇輝が駆け出した。

「行くぜ──【増強】ッ!」

 腕力を底上げし、巨大なアリみたいなモンスター──キラーアントに殴りかかる。

「雪乃……! 援護、しよ……!」
「え、えぇ!」

 水面が激流の渦を、氷室が氷で作られた槍を放ち、近寄るキラーアントを吹き飛ばした。

「はっ──はァッ!」

 大虎の腕を振り回す土御門が、キラーアントの群れを一方的に蹂躙する。
 土御門や勇輝に続き、剣ヶ崎が聖剣を抜いて戦闘に参加。
 戦力差を理解したのか、残っているキラーアントが逃げ去って行く。
 まるで通り過ぎる嵐のように、圧倒的な力を見せ付けた勇者一行──と、大虎の腕から元の腕に戻した土御門が、眉を寄せながら正面を睨み付けた。

「……オイ、なンか来っぞォ」
「なんかって?」
「わかンねェがァ……来るぞォ──ッ!」

 木々を薙ぎ倒しながら──ソイツは、のっそりとした動きで姿を現した。
 頭から生える二本の歪に湾曲した角。身長は二メートルを超えており、体には鎧のような筋肉が付いている。
 その手には──鉄塊とも言える巨大な大剣が握られていた。
 ──ミノタウロス。それも、一匹だけではない。

「ブモッ……オォッ……」
「ブモォォォォォ……!」
「オォッ! オオオオオオオオンンッッ!!」
「ブモァアアアアアアアアアアアッッ!」

 ミノタウロスの数──合計、四匹。
 獲物の姿を捉えた瞬間、ミノタウロスが口々に雄叫びを上げ始める。

「ミノタウロス……! 一か所に固まるなッ! 散れッ!」

 セシル隊長の鋭い声に、全員がその場を離脱。
 だが……ただ一人、状況に付いて行けていない女性がいる。

「あ、ぁ……え……?」
「ブモォォォォォオオオオオオオオオンンッッ!!」
「カワカミ殿!」

 一人呆然と固まる川上先生に、ミノタウロスが咆哮を上げた。
 その内の一匹が、鉄塊とも言える巨大な大剣を振り上げ、川上先生に向かって走り出す。
 残り数歩で完全にゼロ距離になる──寸前、セシル隊長が剣を抜いてミノタウロスと向かい合った。

「はぁ──【増強】ッ!」
「ォォォォォオオオオンンッッ!!」

 セシル隊長の振り上げた白銀の剣と、ミノタウロスの振り下ろした巨大な大剣がぶつかり合い──凄まじい衝撃音が辺りに響き渡る。

「ぐ、ぉ……!」
「セシルさん!」
「川上先生! 早くこっちに来てください!」

 破闇の声を聞き、川上先生が悩むような仕草を見せ……意を決したように駆け出した。

「セシル隊長、手伝うぜッ!」
「えぇ、援護は任せて!」

 勇輝と氷室がこの場に残り、セシル隊長の援護に入る。

「行くぞ、星矢」
「う、うん……【自動追尾】……!」

 遠藤が弓の弦を引き──魔力で作られた矢が補充される。
 放たれた矢がミノタウロスに迫るが──簡単に弾かれ、一匹のミノタウロスが宵闇と遠藤に視線を向けた。

「はっはァ! 【部分獣化】ァッ!」
「虎之介……! こっち、来て……!」
「ブモッ──ァアアアアアアアアアアアッッ!!」

 剛爪を振るう土御門が、ミノタウロスの皮膚を引き裂いた。
 そのまま水面を連れて、森の奥へと走って行く。
 体に傷を付けられたミノタウロスが、怒りの咆哮を上げて土御門の後を追った。

「──お前の相手は、ボクだ」

 残っている一匹が、セシル隊長と戦っているミノタウロスの加勢に行こうと──した所で、声を掛けられた。
 見ると、聖剣を抜いた剣ヶ崎が、凄まじい覇気を放ちながらミノタウロスを睨み付けていた。

「光、優子。川上先生を守ってくれ」
「もちろんよ。けど……討魔は?」
「コイツを倒す」
「……討魔くん。無理しちゃダメだからね?」
「ああ、わかってるよ」

 左手で聖剣を握り、右手で聖盾を構え、体を聖鎧で覆っている。
 まさに勇者と呼ばれるに相応しい剣ヶ崎が、聖剣の切っ先をミノタウロスに向けた。

「さあ──来いッ!」

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