初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
69話
「ヴァ、『吸血族』……?!」
目の前に現れた『吸血族』──アルマクスの姿に、聡太が驚愕の声を漏らす。
──『吸血族』の生き残りだと?
『吸血族』は《死を運ぶ魔獣》によって滅ぼされた種族。
グローリアやセシル隊長に聞いた話では、『吸血族』は一匹残らず絶滅させられたと聞いていたが──
「……質問に答えてくれませんかぁ? アナタたち、ボクの国で何をしているんですぅ?」
不機嫌そうに血色の瞳を細め──アルマクスの周りに、紅色の魔法陣が浮かび上がる。
このアルマクスという『吸血族』──間違いなく強い。
『十二魔獣』がいる状況で、新たな敵を増やすのは──極力避けたい。
「『付属獄炎』解除……いきなり入国して悪かった。俺らは──」
「──────ッッッ!!!」
『憤怒のお面』を外し、聡太がアルマクスの警戒を解こうと──した所で、ハルバルドの嘶きが聡太の声を搔き消した。
──ギロッと、聡太の赤い瞳がハルバルドを睨み付けた。
「てめぇ……俺が話してる最中だろうが──ッ!」
地面が割れるほど力強く踏み込み──ハルバルドとの距離を一気に詰める。
ハルバルドが放電で聡太を迎撃する──前に聡太が刀を振り下ろした。
放電を中断し、ハルバルドが角を振り──聡太の刀を受け止める。
「『三重詠唱・剛力』ッッ!!」
力任せに刀を真横に振り──ハルバルドが建物に突っ込んでいく。
そんな聡太の姿を見て、アルマクスが驚いたように目を見開いた。
「魔法の三重強化……へぇ……『人類族』のクセに、『複数術士』なんですねぇ」
「……はぁ……続きだ。俺の名前は古河 聡太。『十二魔獣』を殺すために異世界から召喚された、十二人の勇者の一人だ」
「……『十二魔獣』を殺すために召喚された……勇者……?」
眉を寄せ、アルマクスが首を傾げる。
「まあ、いきなりそんな事を言われても困惑するのはわかる。けど、俺はお前の敵じゃない。それだけは理解してくれ」
「……アナタが今戦っている、そのモンスターはぁ?」
「『十二魔獣』の《天駆ける魔獣》だ」
「『十二魔獣』……そのモンスターが、『十二魔獣』である根拠はあるんですぅ?」
「ミリア……俺の仲間が、そういう【技能】を持っていてな」
チラッと視線を動かし、アルマクスがミリアに目を向けた。
鋭い視線を受け、思わずミリアが背筋を伸ばす。
「……ふぅん……そんな便利な【技能】があるんですねぇ……」
「ど、どうも……」
少しは警戒が解けたのか、アルマクスは聡太たちから視線を逸らし──ハルバルドの吹き飛んで行った方向へ向けた。
「……『十二魔獣』……あはっ」
──ゾクッ。
邪悪な笑みを浮かべるアルマクス──地獄の底から溢れ出ているかのような黒い殺気を感じ、聡太の背中に寒気が走った。
「なるほどぉ……ソウタ、って言いましたねぇ?」
「な、なんだ?」
「ボクと手を組みませんかぁ?」
予想外の展開に、聡太が一瞬固まった。
「手を……組む……?」
「はいぃ。すでに知ってると思いますけどぉ、ボク以外の『吸血族』は、ヘルムートという『十二魔獣』に殺されてるんですよぉ」
「あ、ああ……」
「まあそういう感じで、ボクは『十二魔獣』に恨みがあるんですぅ……アナタの目的は、『十二魔獣』を殺す事なんですよねぇ? なら、目的は一致してますし、手を組んで『十二魔獣』を殺しましょうよぉ。ボクには『十二魔獣』だと見抜く【技能】もありませんしぃ……ねぇ? どうですぅ?」
そう言って、怪しく笑うアルマクス。
数秒ほど、聡太が悩むような仕草を見せ──辺りに、大きな咆哮が轟いた。
「……まあ、話はあの『十二魔獣』を殺してから、ですねぇ」
アルマクスの血瞳が、近づいて来るハルバルドの姿を捉えた。
「……火鈴、【大罪技能】だ。一気に攻めるぞ」
「ん〜……わかったよ〜」
火鈴が瞳を閉じ、集中を深めていく──と。
──ドクン、ドクンッ、ドグンッ、ドグンッ! ドッグンッ!
火鈴の体から脈打つ音が聞こえ始め──火鈴の体を覆っていた赤色の竜鱗が、茶色へと変化。
全身に茶色の線のような紋様が浮かび上がり、赤と黒の色違いの瞳が茶色に染まった。
そして──腹部に刻まれている『大罪人』の模様が、明るく輝き始める。
「──ふぅ……!」
「大丈夫そうだな……アルマクス、お前と手を組むかどうかは、この戦いを見てから決める。お前の実力に問題はないか、お前は信用に足る人物か……見定めさせてもらうぞ」
「あはっ。それじゃあ、いつもより頑張りますかねぇ」
パチンッとアルマクスが指を鳴らし──虚空に、無数の紅い魔法陣が浮かび上がる。
「──『血結晶技巧』、『紅弾』」
魔法陣から、紅い結晶で作られた弾丸が一斉に射出される。
対するハルバルドは全身から電撃を放ち──迫る弾丸を相殺した。
いや──相殺だけでは止まらず、その先にいた聡太たちに迫る。
「『第三重反射結界』っ!」
聡太の前に赤色の結界が現れ──迫る電撃を受け止め、跳ね返した。
跳ね返ってきた電撃を飛んで回避し、ハルバルドが空を走り始める。
──『迷子の浮遊大陸』で見せた、あの突進が来る。
「チッ──ちょこまかしてんじゃねぇよ。『三重詠唱・黒重』ッ!」
「────ッ! ──────ッッ!!」
「なっ……?!」
三重強化の『黒重』を発動した──瞬間、ハルバルドが聡太たちに向かって突進を始めた。
その勢いは──ハルバルドの速度と、『黒重』による落下の速度が合わさり、尋常ならざる速さへと昇華している。
咄嗟に『黒重』を解除するが──遅い。
光速のハルバルドが、聡太に突っ込み──
「──『二重・針山』」
「──────ッッ?!」
──地面から現れた紅結晶の針が、ハルバルドを真下から貫いた。
その光景を見た聡太が連想したのは──地獄にあるとされる、針山地獄だ。
「むぅ……急所は外してしまいましたねぇ」
アルマクスがそう言った──瞬間、ハルバルドが電撃を放ち、針山を粉砕した。
体の至る所から血を流しながら──だが力強く咆哮を上げ、聡太たちを睨みつける。
「……すまん、助かった」
「いえいえ、あのままだとボクまで殺られてましたからねぇ」
「火鈴、行くぞ」
「うん」
「『三重詠唱・剛力』」
聡太と火鈴が駆け出し──瞬く間にハルバルドの前に躍り出た。
──先ほどよりも早い。
スッと瞳を細めるアルマクスは、聡太の速度を見てそう思った。
あの『人類族』は……多分、まだ実力を隠している。
おそらく、アルマクスを警戒して、手の内を隠しているのだろう。
アルマクスの提案をすぐに飲まなかった事と言い、どこまでも用心深い奴だ──と、アルマクスは心の中で密かに舌打ちした。
だが……ボクと手を組むのならば、そのぐらい用心深く注意深い人物の方が良い。
「あ、アルマクスさん!」
「……なんですぅ?」
「その……アルマクスさんの魔法で、ハルバルドの動きを止める事は可能ですか?」
ミリアの質問に、アルマクスは聡太とハルバルドを交互に見て……ゆっくりと頷いた。
「で、でしたら──」
「ただし、条件がありますよぉ」
「条件……?」
「はいぃ──この中で一番強いのは、誰ですぅ?」
「えっ……ソータ様だと、思いますけど……」
意図のわからぬ質問に、ミリアが首を傾げる。
──と、ハルバルドが全身から電撃を放ち、聡太と火鈴がそれに合わせて大きく飛び退いた。
放電されると、近付く事ができない──舌打ちする聡太に、アルマクスが声を掛ける。
「ソウタ」
「あ?」
「──ちょっとチクッとしますよぉ」
「は──?」
何をするつもりだ? と聡太が聞く前に、アルマクスが聡太の背中に飛び付いた。
そして──赤黒い紋様の浮かび上がる首元に牙を突き立て、吸血を始める。
「おっ──はぁ?!」
「ちょ、ちょっと?! いきなり何してるの?!」
「あふっ、ふっ……申ひ訳ありまふぇんが、少しの間『十二魔獣』の相手をお任せしまふぅ……」
「おま、お前?! 何やってんだ離れろッ!」
「十秒っ、十秒だけでふよぉ……」
「チッ……! 意味わかんねぇ……! 火鈴、ハピィ! 少しの間、ハルバルドの相手を任せる!」
アルマクスから吸血される聡太が、心底気持ち悪そうに顔を歪める。
──よくわからないが、何か考えがあるのだろう。
そう判断し、火鈴とハルピュイアはハルバルドへ向かって駆け出した。
「ふっ、あふっ……」
「う、く……!」
「そ、ソータ様? 大丈夫ですか……?」
体から血が抜けていく感覚に、聡太が思わず膝を突いた。
それに構わず、アルマクスがちゅーちゅーと吸血を続ける。
「お、前……! そろそろ、十秒経つぞ……!」
聡太がそう言うのと同時──アルマクスが、聡太の首元から牙を抜いた。
そして──ギラギラと輝く血色の瞳で、ハルバルドを睨み付ける。
「ソウタ、あの二人に『十二魔獣』から離れるように言ってくださいぃ」
「……ああ。火鈴、ハピィ! 戻って来い!」
ハルバルドと戦っていた火鈴とハルピュイアが、ハルバルドの近くから離れた──瞬間。
「ふぅ──『血結晶技巧』、『四重・鉄鎖』」
ハルバルドの周りに、紅い魔法陣が浮かび上がる。
身の危険を察知したハルバルドが、慌ててその場を離れようとするが──その前に、魔法陣から紅色の鎖が放たれた。
鎖と鎖が複雑に絡まり合い──ハルバルドの体が、厳重に拘束される。
──と、アルマクスがその場に座り込んだ。
息は乱れ、顔は青白い……一目で魔力不足だとわかる。
「うっ、ふぅ……! 何をボケッとしているんですぅ?! 今がチャンスですよぉ!」
「あ、ああ! 『三重詠唱・蒼熱線』ッッ!!」
紅い鎖を壊そうと、ハルバルドが必死になって暴れるが──それよりも、聡太が攻撃する方が早い。
聡太がハルバルドに手を向け──蒼色の魔法陣が浮かび上がり、複雑な紋様を描き始めた。
──次の瞬間、魔法陣から蒼い熱線が放たれる。
螺旋状に渦巻きながら放たれた極太の熱線は、そのまま真っ直ぐにハルバルドへと迫り──蒼い熱線がハルバルドのいた所を覆い隠し、その先にあった建物を焼き飛ばした。
やがて熱線が消えた時……そこに、ハルバルドの姿はなかった。
「……ふぅ……」
小さく息を吐き、聡太が【大罪技能】を解いた。
四匹目の魔獣、《天を駆ける魔獣》──討伐。
目の前に現れた『吸血族』──アルマクスの姿に、聡太が驚愕の声を漏らす。
──『吸血族』の生き残りだと?
『吸血族』は《死を運ぶ魔獣》によって滅ぼされた種族。
グローリアやセシル隊長に聞いた話では、『吸血族』は一匹残らず絶滅させられたと聞いていたが──
「……質問に答えてくれませんかぁ? アナタたち、ボクの国で何をしているんですぅ?」
不機嫌そうに血色の瞳を細め──アルマクスの周りに、紅色の魔法陣が浮かび上がる。
このアルマクスという『吸血族』──間違いなく強い。
『十二魔獣』がいる状況で、新たな敵を増やすのは──極力避けたい。
「『付属獄炎』解除……いきなり入国して悪かった。俺らは──」
「──────ッッッ!!!」
『憤怒のお面』を外し、聡太がアルマクスの警戒を解こうと──した所で、ハルバルドの嘶きが聡太の声を搔き消した。
──ギロッと、聡太の赤い瞳がハルバルドを睨み付けた。
「てめぇ……俺が話してる最中だろうが──ッ!」
地面が割れるほど力強く踏み込み──ハルバルドとの距離を一気に詰める。
ハルバルドが放電で聡太を迎撃する──前に聡太が刀を振り下ろした。
放電を中断し、ハルバルドが角を振り──聡太の刀を受け止める。
「『三重詠唱・剛力』ッッ!!」
力任せに刀を真横に振り──ハルバルドが建物に突っ込んでいく。
そんな聡太の姿を見て、アルマクスが驚いたように目を見開いた。
「魔法の三重強化……へぇ……『人類族』のクセに、『複数術士』なんですねぇ」
「……はぁ……続きだ。俺の名前は古河 聡太。『十二魔獣』を殺すために異世界から召喚された、十二人の勇者の一人だ」
「……『十二魔獣』を殺すために召喚された……勇者……?」
眉を寄せ、アルマクスが首を傾げる。
「まあ、いきなりそんな事を言われても困惑するのはわかる。けど、俺はお前の敵じゃない。それだけは理解してくれ」
「……アナタが今戦っている、そのモンスターはぁ?」
「『十二魔獣』の《天駆ける魔獣》だ」
「『十二魔獣』……そのモンスターが、『十二魔獣』である根拠はあるんですぅ?」
「ミリア……俺の仲間が、そういう【技能】を持っていてな」
チラッと視線を動かし、アルマクスがミリアに目を向けた。
鋭い視線を受け、思わずミリアが背筋を伸ばす。
「……ふぅん……そんな便利な【技能】があるんですねぇ……」
「ど、どうも……」
少しは警戒が解けたのか、アルマクスは聡太たちから視線を逸らし──ハルバルドの吹き飛んで行った方向へ向けた。
「……『十二魔獣』……あはっ」
──ゾクッ。
邪悪な笑みを浮かべるアルマクス──地獄の底から溢れ出ているかのような黒い殺気を感じ、聡太の背中に寒気が走った。
「なるほどぉ……ソウタ、って言いましたねぇ?」
「な、なんだ?」
「ボクと手を組みませんかぁ?」
予想外の展開に、聡太が一瞬固まった。
「手を……組む……?」
「はいぃ。すでに知ってると思いますけどぉ、ボク以外の『吸血族』は、ヘルムートという『十二魔獣』に殺されてるんですよぉ」
「あ、ああ……」
「まあそういう感じで、ボクは『十二魔獣』に恨みがあるんですぅ……アナタの目的は、『十二魔獣』を殺す事なんですよねぇ? なら、目的は一致してますし、手を組んで『十二魔獣』を殺しましょうよぉ。ボクには『十二魔獣』だと見抜く【技能】もありませんしぃ……ねぇ? どうですぅ?」
そう言って、怪しく笑うアルマクス。
数秒ほど、聡太が悩むような仕草を見せ──辺りに、大きな咆哮が轟いた。
「……まあ、話はあの『十二魔獣』を殺してから、ですねぇ」
アルマクスの血瞳が、近づいて来るハルバルドの姿を捉えた。
「……火鈴、【大罪技能】だ。一気に攻めるぞ」
「ん〜……わかったよ〜」
火鈴が瞳を閉じ、集中を深めていく──と。
──ドクン、ドクンッ、ドグンッ、ドグンッ! ドッグンッ!
火鈴の体から脈打つ音が聞こえ始め──火鈴の体を覆っていた赤色の竜鱗が、茶色へと変化。
全身に茶色の線のような紋様が浮かび上がり、赤と黒の色違いの瞳が茶色に染まった。
そして──腹部に刻まれている『大罪人』の模様が、明るく輝き始める。
「──ふぅ……!」
「大丈夫そうだな……アルマクス、お前と手を組むかどうかは、この戦いを見てから決める。お前の実力に問題はないか、お前は信用に足る人物か……見定めさせてもらうぞ」
「あはっ。それじゃあ、いつもより頑張りますかねぇ」
パチンッとアルマクスが指を鳴らし──虚空に、無数の紅い魔法陣が浮かび上がる。
「──『血結晶技巧』、『紅弾』」
魔法陣から、紅い結晶で作られた弾丸が一斉に射出される。
対するハルバルドは全身から電撃を放ち──迫る弾丸を相殺した。
いや──相殺だけでは止まらず、その先にいた聡太たちに迫る。
「『第三重反射結界』っ!」
聡太の前に赤色の結界が現れ──迫る電撃を受け止め、跳ね返した。
跳ね返ってきた電撃を飛んで回避し、ハルバルドが空を走り始める。
──『迷子の浮遊大陸』で見せた、あの突進が来る。
「チッ──ちょこまかしてんじゃねぇよ。『三重詠唱・黒重』ッ!」
「────ッ! ──────ッッ!!」
「なっ……?!」
三重強化の『黒重』を発動した──瞬間、ハルバルドが聡太たちに向かって突進を始めた。
その勢いは──ハルバルドの速度と、『黒重』による落下の速度が合わさり、尋常ならざる速さへと昇華している。
咄嗟に『黒重』を解除するが──遅い。
光速のハルバルドが、聡太に突っ込み──
「──『二重・針山』」
「──────ッッ?!」
──地面から現れた紅結晶の針が、ハルバルドを真下から貫いた。
その光景を見た聡太が連想したのは──地獄にあるとされる、針山地獄だ。
「むぅ……急所は外してしまいましたねぇ」
アルマクスがそう言った──瞬間、ハルバルドが電撃を放ち、針山を粉砕した。
体の至る所から血を流しながら──だが力強く咆哮を上げ、聡太たちを睨みつける。
「……すまん、助かった」
「いえいえ、あのままだとボクまで殺られてましたからねぇ」
「火鈴、行くぞ」
「うん」
「『三重詠唱・剛力』」
聡太と火鈴が駆け出し──瞬く間にハルバルドの前に躍り出た。
──先ほどよりも早い。
スッと瞳を細めるアルマクスは、聡太の速度を見てそう思った。
あの『人類族』は……多分、まだ実力を隠している。
おそらく、アルマクスを警戒して、手の内を隠しているのだろう。
アルマクスの提案をすぐに飲まなかった事と言い、どこまでも用心深い奴だ──と、アルマクスは心の中で密かに舌打ちした。
だが……ボクと手を組むのならば、そのぐらい用心深く注意深い人物の方が良い。
「あ、アルマクスさん!」
「……なんですぅ?」
「その……アルマクスさんの魔法で、ハルバルドの動きを止める事は可能ですか?」
ミリアの質問に、アルマクスは聡太とハルバルドを交互に見て……ゆっくりと頷いた。
「で、でしたら──」
「ただし、条件がありますよぉ」
「条件……?」
「はいぃ──この中で一番強いのは、誰ですぅ?」
「えっ……ソータ様だと、思いますけど……」
意図のわからぬ質問に、ミリアが首を傾げる。
──と、ハルバルドが全身から電撃を放ち、聡太と火鈴がそれに合わせて大きく飛び退いた。
放電されると、近付く事ができない──舌打ちする聡太に、アルマクスが声を掛ける。
「ソウタ」
「あ?」
「──ちょっとチクッとしますよぉ」
「は──?」
何をするつもりだ? と聡太が聞く前に、アルマクスが聡太の背中に飛び付いた。
そして──赤黒い紋様の浮かび上がる首元に牙を突き立て、吸血を始める。
「おっ──はぁ?!」
「ちょ、ちょっと?! いきなり何してるの?!」
「あふっ、ふっ……申ひ訳ありまふぇんが、少しの間『十二魔獣』の相手をお任せしまふぅ……」
「おま、お前?! 何やってんだ離れろッ!」
「十秒っ、十秒だけでふよぉ……」
「チッ……! 意味わかんねぇ……! 火鈴、ハピィ! 少しの間、ハルバルドの相手を任せる!」
アルマクスから吸血される聡太が、心底気持ち悪そうに顔を歪める。
──よくわからないが、何か考えがあるのだろう。
そう判断し、火鈴とハルピュイアはハルバルドへ向かって駆け出した。
「ふっ、あふっ……」
「う、く……!」
「そ、ソータ様? 大丈夫ですか……?」
体から血が抜けていく感覚に、聡太が思わず膝を突いた。
それに構わず、アルマクスがちゅーちゅーと吸血を続ける。
「お、前……! そろそろ、十秒経つぞ……!」
聡太がそう言うのと同時──アルマクスが、聡太の首元から牙を抜いた。
そして──ギラギラと輝く血色の瞳で、ハルバルドを睨み付ける。
「ソウタ、あの二人に『十二魔獣』から離れるように言ってくださいぃ」
「……ああ。火鈴、ハピィ! 戻って来い!」
ハルバルドと戦っていた火鈴とハルピュイアが、ハルバルドの近くから離れた──瞬間。
「ふぅ──『血結晶技巧』、『四重・鉄鎖』」
ハルバルドの周りに、紅い魔法陣が浮かび上がる。
身の危険を察知したハルバルドが、慌ててその場を離れようとするが──その前に、魔法陣から紅色の鎖が放たれた。
鎖と鎖が複雑に絡まり合い──ハルバルドの体が、厳重に拘束される。
──と、アルマクスがその場に座り込んだ。
息は乱れ、顔は青白い……一目で魔力不足だとわかる。
「うっ、ふぅ……! 何をボケッとしているんですぅ?! 今がチャンスですよぉ!」
「あ、ああ! 『三重詠唱・蒼熱線』ッッ!!」
紅い鎖を壊そうと、ハルバルドが必死になって暴れるが──それよりも、聡太が攻撃する方が早い。
聡太がハルバルドに手を向け──蒼色の魔法陣が浮かび上がり、複雑な紋様を描き始めた。
──次の瞬間、魔法陣から蒼い熱線が放たれる。
螺旋状に渦巻きながら放たれた極太の熱線は、そのまま真っ直ぐにハルバルドへと迫り──蒼い熱線がハルバルドのいた所を覆い隠し、その先にあった建物を焼き飛ばした。
やがて熱線が消えた時……そこに、ハルバルドの姿はなかった。
「……ふぅ……」
小さく息を吐き、聡太が【大罪技能】を解いた。
四匹目の魔獣、《天を駆ける魔獣》──討伐。
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