初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

67話

「……また、この感じか……」

 扉を開けた先は──ユグル・オルテールの隠れ家と同じ造りの小部屋だった。
 白色の鉱石で作られた円形の部屋……その入口に、緑色の魔法陣が描かれている。

「お前ら、魔法陣の上に乗れ」
「魔法陣に、ですか? ……わかりました」

 四人が魔法陣の上に乗った──瞬間、緑色の魔法陣が淡く輝き始めた。

「おっ、おお〜? これ、小鳥遊ちゃんの【回復魔法】と同じ効果があるんだね〜」
「ああ……んで、あそこの人が大罪人だな」

 部屋の奥──そこにある椅子に腰掛けるガイコツに聡太が歩み寄る。
 ガイコツの横には机が置いてあり、そこには手帳のような物が置かれていた。

「……『色欲』の『大罪人』、リーシア……」

 ここにいた『大罪人』の名を口にし、聡太は手帳を手に取る。
 内容に素早く目を通し──スッと瞳を細めた。
 リーシアの手記には──こう書かれている。

『初めまして、名も知らぬ強者。

 私の名前はリーシア・ファーマ。『色欲』の『大罪人』って言った方がわかりやすいかな。

 この手記を見ているという事は、私の用意した試練を乗り越えたという事だね。

 では、この手記を読んでいるキミが善人である事を祈って、私が作り出した魔法を教えるよ。

 詠唱を必要としない魔法だけど、魔力の消費が激しいから、魔力切れには注意して使ってね。

 『聖天せいてん』──応急処置程度の【回復魔法】。傷口を塞いだりする事はできるけど、骨折などを治すのは難しいかも。

 『侵傷しんしょう』──【回復魔法】の誤った使い方により生まれた魔法。自分が相手に与えた傷を悪化させる事ができる。ただし、ちょっとした切り傷を致命傷にしたりする事はできない。あくまで、少しだけ悪化させるだけ。

 『飛翔ひしょう』──【重力魔法】の応用により作られた魔法。空を飛ぶ事ができる。

 『引球いんきゅう』──【重力魔法】の応用により作られた魔法。全てを吸い込む重力の球を作り出す。魔法でも、人でも、何でも吸い込むよ。自分も吸い込まれるから、使い方には充分注意してね。

 『凍絶とうぜつ』──【氷魔法】から生まれた魔法。足元から氷を走らせ、対象を凍らせる事ができるよ。

 これらの魔法は全て、魔力の調節によって出力が変わるよ。

 私からキミに残せるのは、この五つの魔法だけ。

 ユグルの所に行ったら、攻撃特化の魔法を知る事ができるから、気が向いたら行ってみてね。

 魔王の情報は、私とユグル以外の『大罪人』が残しているだろうから、知りたいならそこに行くように。

 では、顔も知らぬあなたの人生が、幸福に満ちたものである事を祈って』

 ……手記は、これで終わっている。

「五つの【特殊魔法】……」
「ソーター、なんて書いてあったのー?」
「ん。俺の使える魔法が五個ほど増えた」
「お〜。やったね〜」

 部屋を見て回っていた火鈴が、ニコニコと嬉しそうに笑う。
 リーシアの手記を懐に入れた聡太は──ゆっくりと室内を見回した。
 ……ユグルの隠れ家には、地上へ帰還するための魔法陣があったが……リーシアの隠れ家には無いのだろうか?

「ん〜? 聡ちゃん、どうしたの〜?」
「んや……ちょっと待っててくれ」

 ガイコツの座っている椅子の横──眉を寄せる聡太が、白い壁に触れた。
 瞬間──パリィンとガラスが割れるような音が響き、石製の扉が現れる。

「やっぱり……ユグルの隠れ家と同じだったか……」
「そ、ソータ様、なんでわかったんですか?」
「この部屋の造りが、一番最初に攻略した『大罪迷宮』にそっくりでな。まあ、ほとんどカンだったんだが……」

 石造りの扉を開き──狭い空間へと足を踏み入れる。
 その空間の中央に──白色の魔法陣が描かれていた。
 魔法陣の模様は……ユグルの隠れ家にあった魔法陣と同じ模様だ。

「……ユグルと一緒だと考えるのなら、地上への魔法陣と考えられるが……」
「おー? 何これー?」
「あ、おい待て──」

 無警戒に魔法陣の上に乗るハルピュイアを見て、聡太が慌てて止めようとするが──遅い。
 ハルピュイアが魔法陣の上に乗った──瞬間、魔法陣が輝き始めた。
 前回の魔法陣の効果から考えると──転移の対象は、室内全体だろう。

「このバカ! どこに転移するかわからないんだぞ?!」
「ご、ごめんなさーい!」
「チッ……! ミリア、火鈴! こっちに来てくれ!」
「は、はい!」
「ん〜……これ、大丈夫なの〜?」

 ミリアと火鈴が隠し部屋に入った──瞬間、眩い閃光が四人の視界を覆い隠した。

────────────────────

「──お……おお……?」

 一瞬で眼前の光景が切り替わる。
 『大罪人』の隠れ家から、爽やかな風の吹き抜ける草原へ。
 太陽の光の眩しさに、思わず聡太が目を細め──ふと、違和感を感じた。

「……聡ちゃん」
「……ああ、近いな」

 そう──雲が近い。
 まるで──聡太たちが高い場所にいるかのようだ。

「ソータ様、どうされますか?」
「ちょっと待ってろ。辺りの様子を見てくる」
「わかりました。お気をつけて」

 三人を置いて、聡太が草原を歩き続け──やがて、崖に辿り着いた。
 ……否。崖ではない。
 もう一歩踏み出した先は──空だった。

「……まさか、ここは──」

 空を漂う、独立した大陸。
 この場所の名前を──聡太は、直感的に理解した。

「──『迷子の浮遊大陸』」

 『迷子の浮遊大陸』。
 『暴食』の『大罪人』の『大罪迷宮』があるとされている場所だ。
 だが……この世界について調べている中で、新たに知った事がある。
 それは──『迷子の浮遊大陸』というのは、いくつも存在しているという事だ。
 聡太たちのいる『迷子の浮遊大陸』は──『大罪迷宮』のない『迷子の浮遊大陸』だろう。

「……『大罪迷宮』がないなら、ここに残る意味はないな……」

 きびすを返し、ミリアたちのいる場所へ引き返そうと──して。
 バッと、聡太が振り返った。
 ──【気配感知】に反応がある。
 移動速度はかなり早い。しかも、真っ直ぐこちらに向かって来ている。
 この感じだと──敵。

「チッ……!」

 遭遇まで──残り、三十秒ほど。
 迫る強者の気配に、聡太はミリアたちの元へ駆け出した。

「あ、ソータ様──」
「構えろ! 何か来るぞ!」

 聡太の言葉に、三人の表情が引き締まる。
 火鈴が【竜人化】を発動し、鋭い牙を剥き出しにして身構えた。
 ミリアがいつでも魔法を使えるように魔法陣を浮かべ、ハルピュイアが【硬質化】を発動して獰猛な覇気を放ち始める。

 そして──ソイツは、雷鳴と共に姿を現した。
 ユニコーンとペガサスが融合しているかのような神々しい外見。
 その体は美しい純白。角の色も、翼の色も純白だ。
 金色に輝いている瞳は、雷を宿しているかのように美しい。
 神様が動物を飼っているのなら、この生き物を飼っているのだろう──そう感じてしまうほど、美しく神々しい。
 ソイツの体から金色の雷が発せられている事も、神々しいと感じてしまう原因だろう。

「……ミリア!」
「はい──【鑑定の魔眼】」

 ミリアの瞳に幾何学的な模様が浮かび上がり──警戒を深め、ソイツの名を口にした。

「──《天駆ける魔獣ハルバルド》……! 『十二魔獣』です……!」

 ミリアが正体を口にするのと同時、ハルバルドが大きくいなないた。
 美しい鐘の音のような鳴き声──と、聡太が『紅桜』を抜き、『憤怒のお面』を顔に付けた。

「クソ──やるぞッ!」
「うん!」
「はい!」
「おー!」

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