初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが
番外編
現在、vs『十二魔獣』や『大罪迷宮』攻略の書き溜めをしております。
本編の続きは、もう少々お待ちください。
──《月に吼える魔獣》を討伐し、『シャイタン大峡谷』へ向かう道中の話。
「……フルカワ・ソータ……」
深夜。見張りをしていたミリアは……バックパックを枕にして眠る少年を見て、ポツリとその名前を呼んだ。
──フルカワ・ソータ。
何度聞いても、不思議な名前だ。彼の暮らしていた世界では、普通の名前なのだろうか。
「……フルカワ様……」
聡太の名字を呼び、ミリアが恥ずかしそうに頬を紅潮させた。
──この世界では、名前・家名の順で自分の名を名乗る。
ミリア・オルヴェルグ。ハルピュイア・イリス──このように、名前が先で、家名を後に名乗るのだ。
今のミリアは──フルカワ・ソータという名前を、フルカワが名前でソータが家名だと思っている。
「……いつか、名前で……」
もっと仲良くなって。もっともっと仲良くなって。
いつか──彼の名を呼びたい。
────────────────────
「うし……今日はこの辺で野宿するか」
「はい!」
「おー!」
聡太の指示に従って、ミリアとハルピュイアが野宿の準備を始める。
「さて……『嵐壁』」
聡太が小さく詠唱し──辺りに暴風が吹き荒れる。
暴風は、地面に転がっていた石ころや草を吹き飛ばし──やがて風が止んだ時、辺りからは石や草が消えていた。
「んで──『黒重』」
不可視の重圧が辺りを覆い──デコボコだった地面が、重力によって平らに整えられる。
【特殊魔法】を贅沢に使った整地──【無限魔力】を有する聡太にしかできない、ムダに洗練された技術だ。
「ソータ様。火をお願いします」
「ん。“燃えろ炎。我が望むは暗闇を照らす灯り”──『フレア・ライト』」
地面に置かれた鉄製の鍋──その下に、赤色の魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣から炎が現れ……鍋の中に入れられていた食材が、熱によりグツグツと煮え始める。
「ハピィ。私のバックパックから食器を取ってください」
「はーい!」
「ありがとうございます」
鍋の中身が煮えるまで待ち──数分ほど経った後、ミリアが鍋の中身を木製の食器に移し始めた。
「どうぞ、ハピィ」
「おー! ありがとー!」
ハルピュイアに夕食を渡し、そのままの流れで聡太にも料理を渡そうと──して、ミリアが動きを止めた。
「…………?」
どうしたのか? と怪訝そうに眉を寄せる聡太。
そんな聡太の顔と、木製の食器を交互に見て──意を決したように、ミリアが聡太に料理を差し出した。
「ど、どうぞ! フルカワ様!」
「え……? あ、ああ……ありがとう……」
一瞬、不思議そうに目を開くが……何事もなかったように、ミリアから料理を受け取った。
ようやく名前(ミリアの勘違い)で呼べたのが嬉しいのか、それとも恥ずかしいのか、ミリアは顔を俯かせて頬を真っ赤に染めている。
「……………」
──俺、何かミリアに嫌われる事をしたか?
いきなり名字で呼ばれ、さらに顔を合わせてくれないミリアに、聡太は内心困惑していた。
もし仮に、聡太がミリアを怒らせたのだとしたら──ミリアほどの優しい人物が怒るような、よっぽどの事をやらかしたのだろう。
だが……心当たりは全くない。
というか、先ほどまでは普通だったのだ。こんないきなり怒るなんて……何が原因だ?
「ソーター? ミリアー? どうしたのー?」
夕食を受け取った状態で固まる聡太と、顔を俯かせているミリアを見て、ハルピュイアが不思議そうに問い掛ける。
だが──今の聡太の耳には届かない。
──考えろ。頭を回転させろ。
俺に『フレア・ライト』を頼むまではいつも通りだったんだ。俺に夕食を渡す時に、ミリアの様子が変わった。
……名字……名前…………家名?
「……ミリア」
「は、はい!」
「……俺の家名は?」
「え? ソータ様ですけど……」
「俺の名前は?」
「フルカワ様……ですよね?」
ああ……そういう事か。
観察眼に長け、人の表情を読む事を得意とする聡太は──何故ミリアが、聡太の事をいきなり名字で呼んだのか理解した。
「あのな……俺の名前は聡太だ。んで、家名が古河だ」
「えっと……どういう事ですか?」
「お前ら的に言うと、俺の名前はソータ・フルカワになるんだよ」
数秒ほど、ミリアが考え込むような表情を見せ──聡太の言っている事を理解したのか、表情を一変させた。
「え……ソータが名前で、フルカワが家名なんですか……?」
「ああ。俺らの世界では、家名の後に名前を名乗るんだよ。この世界とは逆の順番で名乗るから、勘違いしてたんだろ?」
「あ、え……? という事は、つまり……私は、初対面の方を、いきなり下の名前で呼んでたって事ですか……?」
「まあ、そういう事だろうな」
再び顔を俯かせ、耳の先まで真っ赤に染める。
「そこまで恥ずかしがるような事か? 俺だってミリアの事を名前で呼んでるし、今さらだろ?」
「そ、それはそうですけど……」
初対面の相手をいきなり下の名前で、さらには様を付けて呼んでいた。
勘違いをしていたと認識した瞬間、ミリアの頭は羞恥に支配される。
「は、ハピィは知っていましたか? ソータが名前で、フルカワが家名だって……」
「んー? 知らないよー? でも、フルカワってなんか変じゃなーい?」
「……試しに、ソータ様の事を家名で呼んでみてくれませんか?」
「フルカワー!」
「なんか違和感がスゴいな」
ハルピュイアから名字を呼ばれ、思わず聡太が苦笑を浮かべた。
「そ、ソータ様」
「ん、なんだ?」
「その……嫌じゃなかったですか?」
恐る恐るといった感じで、ミリアが不安そうに問い掛ける。
「嫌って……何がだ?」
「初対面の相手から、ずっと名前で呼ばれてて……」
「……別に、嫌じゃないから安心しろ」
暗い様子のミリアの頭を乱暴に撫で回し、聡太が──珍しく、優しい笑みを見せた。
「もし嫌な事があったら、俺はちゃんと言葉で『嫌だ』って言う。今まで俺が、お前らに『嫌だ』って言った事あるか?」
「それは……ありませんけど……」
「なら安心しろ」
言いながら、聡太が持っていた食器をミリアに差し出した。
中身は入っているし、一度も手を付けてない。
だが──聡太の態度で察したのか、ミリアが聡太から中身の入った食器を受け取った。
そして──
「さあどうぞ、ソータ様っ!」
再び夕食を手渡し、ミリアが美しい笑みを見せた。
本編の続きは、もう少々お待ちください。
──《月に吼える魔獣》を討伐し、『シャイタン大峡谷』へ向かう道中の話。
「……フルカワ・ソータ……」
深夜。見張りをしていたミリアは……バックパックを枕にして眠る少年を見て、ポツリとその名前を呼んだ。
──フルカワ・ソータ。
何度聞いても、不思議な名前だ。彼の暮らしていた世界では、普通の名前なのだろうか。
「……フルカワ様……」
聡太の名字を呼び、ミリアが恥ずかしそうに頬を紅潮させた。
──この世界では、名前・家名の順で自分の名を名乗る。
ミリア・オルヴェルグ。ハルピュイア・イリス──このように、名前が先で、家名を後に名乗るのだ。
今のミリアは──フルカワ・ソータという名前を、フルカワが名前でソータが家名だと思っている。
「……いつか、名前で……」
もっと仲良くなって。もっともっと仲良くなって。
いつか──彼の名を呼びたい。
────────────────────
「うし……今日はこの辺で野宿するか」
「はい!」
「おー!」
聡太の指示に従って、ミリアとハルピュイアが野宿の準備を始める。
「さて……『嵐壁』」
聡太が小さく詠唱し──辺りに暴風が吹き荒れる。
暴風は、地面に転がっていた石ころや草を吹き飛ばし──やがて風が止んだ時、辺りからは石や草が消えていた。
「んで──『黒重』」
不可視の重圧が辺りを覆い──デコボコだった地面が、重力によって平らに整えられる。
【特殊魔法】を贅沢に使った整地──【無限魔力】を有する聡太にしかできない、ムダに洗練された技術だ。
「ソータ様。火をお願いします」
「ん。“燃えろ炎。我が望むは暗闇を照らす灯り”──『フレア・ライト』」
地面に置かれた鉄製の鍋──その下に、赤色の魔法陣が浮かび上がった。
魔法陣から炎が現れ……鍋の中に入れられていた食材が、熱によりグツグツと煮え始める。
「ハピィ。私のバックパックから食器を取ってください」
「はーい!」
「ありがとうございます」
鍋の中身が煮えるまで待ち──数分ほど経った後、ミリアが鍋の中身を木製の食器に移し始めた。
「どうぞ、ハピィ」
「おー! ありがとー!」
ハルピュイアに夕食を渡し、そのままの流れで聡太にも料理を渡そうと──して、ミリアが動きを止めた。
「…………?」
どうしたのか? と怪訝そうに眉を寄せる聡太。
そんな聡太の顔と、木製の食器を交互に見て──意を決したように、ミリアが聡太に料理を差し出した。
「ど、どうぞ! フルカワ様!」
「え……? あ、ああ……ありがとう……」
一瞬、不思議そうに目を開くが……何事もなかったように、ミリアから料理を受け取った。
ようやく名前(ミリアの勘違い)で呼べたのが嬉しいのか、それとも恥ずかしいのか、ミリアは顔を俯かせて頬を真っ赤に染めている。
「……………」
──俺、何かミリアに嫌われる事をしたか?
いきなり名字で呼ばれ、さらに顔を合わせてくれないミリアに、聡太は内心困惑していた。
もし仮に、聡太がミリアを怒らせたのだとしたら──ミリアほどの優しい人物が怒るような、よっぽどの事をやらかしたのだろう。
だが……心当たりは全くない。
というか、先ほどまでは普通だったのだ。こんないきなり怒るなんて……何が原因だ?
「ソーター? ミリアー? どうしたのー?」
夕食を受け取った状態で固まる聡太と、顔を俯かせているミリアを見て、ハルピュイアが不思議そうに問い掛ける。
だが──今の聡太の耳には届かない。
──考えろ。頭を回転させろ。
俺に『フレア・ライト』を頼むまではいつも通りだったんだ。俺に夕食を渡す時に、ミリアの様子が変わった。
……名字……名前…………家名?
「……ミリア」
「は、はい!」
「……俺の家名は?」
「え? ソータ様ですけど……」
「俺の名前は?」
「フルカワ様……ですよね?」
ああ……そういう事か。
観察眼に長け、人の表情を読む事を得意とする聡太は──何故ミリアが、聡太の事をいきなり名字で呼んだのか理解した。
「あのな……俺の名前は聡太だ。んで、家名が古河だ」
「えっと……どういう事ですか?」
「お前ら的に言うと、俺の名前はソータ・フルカワになるんだよ」
数秒ほど、ミリアが考え込むような表情を見せ──聡太の言っている事を理解したのか、表情を一変させた。
「え……ソータが名前で、フルカワが家名なんですか……?」
「ああ。俺らの世界では、家名の後に名前を名乗るんだよ。この世界とは逆の順番で名乗るから、勘違いしてたんだろ?」
「あ、え……? という事は、つまり……私は、初対面の方を、いきなり下の名前で呼んでたって事ですか……?」
「まあ、そういう事だろうな」
再び顔を俯かせ、耳の先まで真っ赤に染める。
「そこまで恥ずかしがるような事か? 俺だってミリアの事を名前で呼んでるし、今さらだろ?」
「そ、それはそうですけど……」
初対面の相手をいきなり下の名前で、さらには様を付けて呼んでいた。
勘違いをしていたと認識した瞬間、ミリアの頭は羞恥に支配される。
「は、ハピィは知っていましたか? ソータが名前で、フルカワが家名だって……」
「んー? 知らないよー? でも、フルカワってなんか変じゃなーい?」
「……試しに、ソータ様の事を家名で呼んでみてくれませんか?」
「フルカワー!」
「なんか違和感がスゴいな」
ハルピュイアから名字を呼ばれ、思わず聡太が苦笑を浮かべた。
「そ、ソータ様」
「ん、なんだ?」
「その……嫌じゃなかったですか?」
恐る恐るといった感じで、ミリアが不安そうに問い掛ける。
「嫌って……何がだ?」
「初対面の相手から、ずっと名前で呼ばれてて……」
「……別に、嫌じゃないから安心しろ」
暗い様子のミリアの頭を乱暴に撫で回し、聡太が──珍しく、優しい笑みを見せた。
「もし嫌な事があったら、俺はちゃんと言葉で『嫌だ』って言う。今まで俺が、お前らに『嫌だ』って言った事あるか?」
「それは……ありませんけど……」
「なら安心しろ」
言いながら、聡太が持っていた食器をミリアに差し出した。
中身は入っているし、一度も手を付けてない。
だが──聡太の態度で察したのか、ミリアが聡太から中身の入った食器を受け取った。
そして──
「さあどうぞ、ソータ様っ!」
再び夕食を手渡し、ミリアが美しい笑みを見せた。
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