初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

47話

「──ソータ様っ、ご無事ですか?!」

 『アーダンディルグ』の近くに戻る──と、一人で『地精族ドワーフ』を守っていたミリアが、聡太を見つけてすぐに駆け寄ってきた。

「大丈夫だ。ケガしてねぇよ」

 『憤怒のお面』を外し、心配そうな表情のミリアに苦笑を見せる。

「──ひっひひひひひひひひっ! ヤベェなぁオイオイオイ! ボウズぅ、お前スッゲェなぁ! あのモンスターの大群がぁ、こんな一瞬で全滅すんのかよぉ!」

 三ツ又の槍を持つエルグボルグが、腹を抱えて独特の笑い声を上げる。

「……ソータ様。ずっと思ってたのですが、あの方は?」
「俺の防具を作ってくれた鍛冶職人だ。ちょっとヤバそうに見えるけど、そこまで悪い人じゃない」
「ひっひひ! ひでぇ言い方だなぁ……まぁ、とりあえずよぉ」

 笑うのを止め、正面から聡太を見据える。

「……ありがとなぁ、ボウズぅ。お前のおかげでぇ、寿命が伸びたぜぇ」
「どういたしまして……って言っても、黒幕には逃げられたから、もしかしたら今後もモンスターの大群が襲ってくる可能性はあるがな」
「黒幕……ですか?」
「ああ──あのモンスターの大群を操ってたのは、『十二魔獣』だった」

 ざわめく『地精族ドワーフ』を無視して、聡太はミリアに続ける。

「正直、俺より強かった。うまく油断させて、騙し討ちみたいな攻撃ができたからよかったが……アイツが最初っから俺を殺す気で戦ってたら、ヤバかったかも知れない」
「……ソータ様、よく『十二魔獣』とわかりましたね?」
「言語を話してたんだよ。それに……自分の事を『上位魔獣』とか言ってたな」

 まあ、とりあえず──

「モンスターの大群を全滅させたし、『イマゴール王国』に向かうぞ……この短期間で四回も『十二魔獣』に遭遇して、さすがにアイツらの事が心配になってきた」
「……ソータ様と同じ、勇者ですか?」
「ああ……アイツらは強いけど、『十二魔獣』が相手だと……正直、殺される可能性の方が高いしな」

 エルレッドとエルグボルグに礼を言って、『アーダンディルグ』を後にしようと──して、エルレッドの姿がない事に気づく。

「エルグボルグ、エルレッドはどこだ? さっきまでいたよな?」
「あぁ。ボウズがモンスターの大群に突っ込んでちょっとしてぇ、『アーダンディルグ』に走ってったなぁ」
「そうか……ま、避難したならしょうがない──」
「オイオイオイ、アニキぁ別に避難したわけじゃぁねぇよぉ……っとぉ、噂をすりゃぁなんとやら、ってなぁ」

 そこまで話して──エルグボルグが『アーダンディルグ』の方を向いた。

「──は、ぁ……? ……まさか、もう終わったのか……?」
おせぇぞアニキぃ。何しに行ってたんだぁ?」

 全身汗まみれのエルレッドが、白いローブを返り血に染める聡太を見て動きを止めた。
 その手には──何やら、鍔の付いていない、白い鞘に収まった短刀が。

「……それは?」
「本当はもう少し早く作るつもりだったのだが……一週間で刀と短刀を作るのは無理があるな」

 言いながら、持っていた短刀を聡太に差し出してくる。
 首を傾げながら、聡太はエルレッドから短刀を受け取り……鞘から短刀を抜いた。
 ──白色の柄に、白銀の刀身。全てが白一色の短刀だ。

「……これって、まさか……」
「『白桜はくおう』……お前さんが使っていた刀を、短刀に打ち直した。今度はもっと丁寧に使ってやれよ」

 聡太の『桜花』を利用して打ち直した短刀──その名を、『白桜はくおう』。

「い、いいのか? 金は?」
「……そもそも、お前さんがワシに金を渡しすぎなのだ。普通、刀一本打つのに、魔金貨を二十五枚も渡さないぞ? いくらオリハルコンを使うと言ってもな」

 苦笑するエルレッドが、エルグボルグの方に目を向けた。

「ワシらは鍛冶職人だ。金を貰っている以上、下手な仕事はしない。これは、ワシなりの鍛冶職人の在り方だと思ってくれ」
「……マジメだな、あんた」

 『黒曜石の短刀』とクロスさせるようにして『白桜』を後ろ腰に付ける。

「ひひひひひっ! この短期間でそんだけの業物を二本も打てるなんてなぁ! さすがアニキだぜぇ」
「……悪いな。色々と世話になった」
「なぁに言ってんだよぉ。おれらぁ鍛冶職人だぜぇ? 客を喜ばせるのがぁ仕事なんだよぉ」
「うむ。エルグの言う通りだ」

 うんうんと頷き合う二人の『地精族ドワーフ』を見て、ミリアが聡太の顔を見上げた。
 ──鍛冶職人って、みんなこうなんですか?
 どこか困ったような表情のミリアに、思わず聡太が苦笑を浮かべた。

「さて……んじゃ、『アーダンディルグ』で食料を買ってくるか」
「もう出発されますか?」
「ああ。さっきも言ったけど、俺と同じ世界の奴らが心配になってきた。俺が戻ってきたらすぐに行くぞ」
「わかりました」
「いいのか、若造? ウチに泊める事もできるんだぞ?」

 ありがたい申し出に対し、だが聡太は首を横に振った。

「いや……ミリアが一緒に泊まれるんなら考えるけど、さすがに『黒森精族ダークエルフ』を国に入れるのはヤバいだろ?」
「それは……そうだが……」
「さて……ミリア、ハピィの事を任せる」
「はい!」

────────────────────

「……ケツいてぇな」

 ガタガタと揺れる馬車の中、聡太が眉を寄せてそんな事を呟いた。

「仕方がありませんよ。馬車なんですから」
「おー! スゴいスゴーい!」

 馬車に乗るのが初めてなのか、ハルピュイアが楽しそうに外の景色に目を向けている。
 ──国を救ってくれた礼がしたいと言う『地精族ドワーフ』が、馬車と御者を貸してくれた。
 タイミングよく『イマゴール王国』に行く用事があったらしく、『地精族ドワーフ』の女性は快く御者を引き受けてくれた。

「……ソータ様。『イマゴール王国』に着いた後はどうするんですか?」
「どうするって……何がだ?」
「ソータ様と同じ勇者の方々は、とてもスゴい【技能】を持っているんですよね?」
「まあ……そうだな」
「ソータ様と目的が同じなら、勇者の方々の目的は『十二魔獣』を討伐する事……なら、勇者の方々も連れて旅をするんですか?」

 なるほど。ミリアがそこに疑問を持つのも納得できる。
 聡太はこの世界を平和にするために召喚された勇者の一人だ。
 他にも勇者がいるし、【技能】だけなら優秀な勇者も多い。
 それに、勇者の目的は全員共通なのだ。早く『十二魔獣』を討伐したいと思うのなら──勇者全員を連れて旅をした方がいい。
 そうミリアが思うのも当然だ。
 だが──

「いや。アイツらは連れて行かない」
「そうなんですか? てっきり、連れて行くのかと思ってました」
「……多分、連れて行っても邪魔になる」

 今の聡太は──【無限魔力】の力で、【特殊魔法】を魔力切れを起こす事なく使う事ができる。
 さらに【憤怒に燃えし愚か者】の発現により、【刀術】が“極致”に、【気配感知】が“広域”になっている。
 正直な話、他の勇者を連れて行っても……邪魔なだけだろう。

「なら……顔を出すだけ、って事ですか?」
「ああ。アイツらを連れて『十二魔獣』を討伐するなんて無理だ。俺の【特殊魔法】に巻き込む可能性もあるしな」

 そこまで言って──ふと、ミリアが聡太の顔を見つめている事に気づいた。

「どうした?」
「……本当は、他の勇者の方々を危険な目に遭わせたくないから、連れて行かないんですよね?」

 こちらの心の中を覗き込むようにして、ミリアがそう問い掛けてくる。

「……俺がそこまで良い人に見えるか?」
「はい。私、わかってます。ソータ様、本当は優しいですよね?」
「………………はぁ……?」

 ミリアの言葉に、聡太の口から思わず間の抜けた声が漏れる。

「連れて行って邪魔になる、なんて言ってますけど……本当は、他の勇者を危険な目に遭わせないためですよね?」
「……お前は俺を美化しすぎだ。俺が他人の事を考えて行動するような人間に見えるか?」
「命を懸けて『地精族ドワーフ』を守った人は、少なくとも悪人には思えませんけど……」
「それはエルレッドとエルグボルグへの礼だ。期待以上の武器と防具を作ってくれたからな」
「って事はつまり、二人の『地精族ドワーフ』のために戦ったんですよね?」

 いつにも増してグイグイ来るミリアに、聡太が面倒臭そうにため息を吐いた。

「……そう思うのは勝手だ。好きにしろ」

 そう言って、聡太がミリアから視線を逸らす。

「待ってください! まだ話は──」
「【気配感知】にモンスターの気配が引っ掛かった。戦闘の準備をしておけ」

 低い声でミリアの言葉をさえぎる聡太。
 その顔は──複雑に歪んでいた。

「ハピィ、モンスターが来る。戦う準備だ」
「おー! 任せろー!」
「おい、馬車を止めろ! モンスターが来るぞ!」
「は、はい!」

 聡太の鋭い声に、『地精族ドワーフ』の御者は慌てて馬車を止める。
 荷馬車から飛び降り──聡太は、頭の中でミリアに言われた事を何度も繰り返していた。

 ──俺が、良い人だと?
 笑わせるな。俺は人と関わるのが大嫌いなんだ。
 それに、この世界の奴らはクソだ。ミリアやハルピュイア、エルレッドとエルグボルグ、それとセシル隊長とグローリアなどの例外はいるが……その他の奴らは、救う価値もない。
 俺の進む先に立ち塞がる奴は『敵』。それがモンスターだろうと『十二魔獣』だろうと、異世界人だろうと──

「俺の邪魔をする『敵』は、殺す」

 そうだ。俺は誓ったんだ。
 『フォルスト大森林』を抜けた時、俺はミリアに言ったんだ。
 『十二魔獣』を討伐して、元の世界に帰ると。異世界人が大嫌いで、敬う気も関わる気もないと。
 絶対に、元の世界に帰るんだ。
 だから、俺は──










 ──もう、殺すのを躊躇ためらわない。

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