初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

25話

「──『蒼熱線そうねっせん』」

 聡太が左手を地面と平行に持ち上げ──手の前に蒼い魔法陣が浮かび上がり、そこから蒼い熱線が放たれる。
 螺旋状に渦巻く熱線は──直線上にいたモンスター全てを焼き殺した。

「ガォッ、ガォォォォッッ!!」
「ガァァァァァァッッ!!」
「うるさいぞ。『雷斬らいざん』」

 ゆっくりと『桜花』を抜いて、小さな声で詠唱し──『桜花』の刃部分がバチバチと放電し始める。
 雄叫びを上げるコボルトが、聡太を殺そうと駆けて来るが──遅い。
 聡太が横薙ぎに刀を振るい──雷の斬撃が放たれ、近づくコボルトを真っ二つした。

「ソータ様、大丈夫ですか?」
「ああ、全然余裕だ。だが……」

 自分たちを取り囲むコボルトの群れを見て、聡太は小さく舌打ちをする。
 数が多い。聡太とミリアなら傷1つ負う事なく勝てるだろうが、こうしてちまちま戦っていては時間が掛かる。

「……めんどくせぇ。ミリア、俺の近くに来い」
「はい、わかりました」

 ミリアが自分の近くに来るのを確認して、聡太は──左手を真上にかかげた。

「──『黒重こくじゅう』」

 聡太の足元に黒い魔法陣が浮かび上がり──聡太たちを取り囲んでいたコボルトの群れが、まるで何かに押し潰されたように地面に沈んだ。

「……潰れろ」
「ギャァ──」
「ガォッ──」

 何が起きているのか理解できていない様子のミリアとコボルト──聡太が魔力を多く込めた瞬間、コボルトの全身から血が噴き出した。コボルトの体が、重力に耐えられなくなったのだろう。

「……最初から、こうしておけば早かったのでは?」
「魔法の練習だ。まだ使い慣れてないから、こういうザコモンスターで練習しとかないと……」

 周りにモンスターの姿は見えないが……聡太が刀を収めようとしない。
 どうしたんだ? とミリアが首を傾げ──ぐちゃぐちゃになったコボルトの死体に、聡太が刀を振るった。
 原形をとどめていない死体がバラバラに斬り分けられ、慣れた様子で一ヶ所に集められる。

「さて──“燃えろ炎。われが望むは暗闇を照らす灯り”『フレア・ライト』」

 死体の山の下に、赤い魔法陣が現れ──ボウッ! とコボルトの死体が燃え上がった。
 今まで感じた事のない悪臭に、思わずミリアが鼻を覆うが……聡太は気にした様子もなく、死体の山が燃えるのを刀に付いた血を拭きながら見ている。

「……そろそろいいか」
「えっ、え? 何がです?」
「何がって……腹減らないのか?」
「まあ、それなりには……って、モンスターを食べる気ですか?!」
「でも……食料とか持ってないだろ?」
「干し肉や食べられる草ならあります! もうっ。ここは『大罪迷宮』の中じゃないんですよ? ソータ様がモンスターを食べる必要はないんです!」

 ミリアがバックパックを下ろし、中から草で包まれた干し肉を取り出した。

「……いや、俺はコイツらの肉でいい。無駄に食料を消費しない方がいいだろ」
「でも……」
「いいんだ。俺が殺したんだから、俺が食う」
「……わかりました。お腹を壊さないように気を付けてくださいね?」
「ああ」

 ドカッとその場に座り込み、焦げ臭い肉を手に取った。
 固く筋っぽい肉を必死に食いちぎり、咀嚼して無理矢理飲み込む。

「──はぁ! ……はぁ……相変わらずクソまずいな……」
「ほ、本当に大丈夫ですか? 無理に食べない方が……」
「ばか野郎。こっから近くの国に着くまで何日掛かるかわからないんだぞ? 無駄に食料を消費したら、後が大変に──」

 ピタッと。聡太が喋るのを止めた。
 手に持っていた肉を地面に放り投げ、両手でミリアの手を握る。
 突然の行為に、ミリアが驚きに身を固め──

「──『剛力』」

────────────────────

「おし……見えてきたな」

 聡太が見つめる先──そこに、小さな国が見える。
 『人類族ウィズダム』が暮らす国、『人国じんこく エルミーナ』だ。

「あ、ふぅ……?」

 聡太に抱えられるミリアが、プランプランと揺れながら間の抜けた声を漏らす。

「最初っから『剛力』使って走れば早かったんだな」

 ミリアをゆっくりと下ろし、『人国 エルミーナ』に視線を向ける。
 ……門番が立っている。それに、入国料も払わなければならないようだ。

「ミリア。お前、お金とか持ってるか?」
「お金……ですか? すみません。持ってないです」
「だよな……クソ、どうするかな……」

 今の聡太の持ち物は──『桜花』『黒曜石の短刀』『憤怒のお面』……それに、ユグル・オルテールの手記と『ステータスプレート』だけだ。
 そんな聡太の隣で、ミリアはバックパックの中から売れそうな物を探している。
 バックパックの中から出てくるのは……モンスターの牙やら、森で採ったような草やら、よくわからない物ばかりだ。

「うーん…………あ」
「どうした。何かあったか?」

 ミリアがバックパックから取り出したのは──美しい装飾の施されたペンダントだった。
 あまり装飾品に詳しくない聡太の目でも、かなり高価だとわかる。

「…………ソータ様。このペンダント、いくらになると思いますか?」
「さあな。高いんじゃないか?」

 ジッとペンダントを見つめ……やがて決心したように、聡太を見上げた。

「ソータ様。あの門番にこのペンダントを売りましょう」
「いやお前、それかなり大切な物じゃないのか?」
「……そう、ですけど……でも、お金がないと国には入れませんよ?」
「大切な物はちゃんと持っとけ。とりあえず、入国料を聞いてから考えるぞ」

 言いながら、聡太が着ていた白いローブを脱いでミリアに手渡した。

「……? これは?」
「お前が『黒森精族ダークエルフ』だってバレたら面倒だろ。フードを被って耳を隠しとけ」

 聡太に言われて、ミリアはイソイソとローブを羽織った。
 ……やはり、ミリアには大きすぎるようだ。
 仕方がない。聡太でサイズがぴったりだったのだから。

「よし。行くぞ」
「はい!」

 ズルズルとローブのすそを引きりながら歩くミリアと共に、聡太は『エルミーナ』の門番へと近づいた。

「──む。そこで止まれ。身分証明ができる物を」
「身分証明……『ステータスプレート』でもいいか?」
「ああ」

 ふところから『ステータスプレート』を取り出し、門番として立っていた騎士に手渡した。
 ──『ステータスプレート』には隠蔽機能がある。
 簡単に説明するならば、見せたくない情報を隠す事ができるのだ。
 だが、名前と職業だけは隠す事ができない。
 よって、聡太の『ステータスプレート』を見ている門番は、聡太の名前と職業しか見れていないはずだ。

「この……お前の名前は、偽名ではないんだよな?」
「当たり前だろ」
「そうか……この『勇者』というのはなんだ?」
「……『イマゴール王国』で新しく作られた、高難易度なモンスターの討伐を中心に活動してる奴の職業だ。最近作られたから、こっちにまで伝わってないのかもな」

 男の問い掛けに、聡太は適当にそれっぽい事を言って誤魔化ごまかす。
 その答えに納得したのか、男は聡太に『ステータスプレート』を返した。
 そして──男の視線がミリアに向いた。

「悪いな。コイツには身分証明できる物がないんだ」
「それは別に構わない。我らの国『エルミーナ』では、二人以上が入国する場合、代表の者が身分証明をすれば入国できるからな」
「そうなのか……それで、入国料は?」
「一人銀貨五枚だ」

 ──この世界の通貨は、大きく分けて六種類存在する。
 銅貨、銀貨、魔銀貨、金貨、魔金貨、聖金貨の六種類だ。
 銅貨百枚で銀貨一枚の扱い、銀貨百枚で魔銀貨一枚の扱いになる。
 今この門番が言った銀貨五枚というのは……銅貨五百枚という事。

「銀貨五枚か……ミリア、あの浄化草ってのを出してくれ」
「はい!」

 フードが外れないように注意しながら、ミリアがバックパックから草を取り出した。
 浄化草──聡太のローブに付いた血を落とす時に使った、洗浄効果のある草である。

「今俺たち金が無いからさ、代わりに浄化草で通してくれないか?」
「たったそれだけの浄化草だけで、入国を許可しろと?」
「不満なら、もっと数を増やしてもいいんだが?」

 聡太がそう言うのと同時、ミリアがバックパックからさらに浄化草を取り出した。

「これだけ浄化草があれば、銀貨五枚以上の価値はあるだろ。まだ足りないか?」
「……ふん。いいだろう。ただし、次からは金を用意して来る事だな。他の騎士たちが俺のように融通を利かせられると思うなよ?」

 浄化草を懐に入れる門番の隣を通り抜け、聡太たちは──『エルミーナ』へ足を踏み入れた。

「ソータ様、これからどうされますか?」
「……ミリア。お前のバックパックの中に、モンスターの牙とか『フォルスト大森林』で採った草とかが入ってるよな?」
「え? はい、入ってますけど……」
「……よし。それを売って金にするぞ」
「売るって言っても……どこで売るんですか?」

 ちょこちょこと聡太の後を追い掛けながら、不思議そうに問い掛ける。
 問い掛けを受けた聡太は、ハデな旗がかかげてある大きな建物に視線を向けて答えた。

「──ギルドだ」

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