初心者スキル【言語理解】の横に“極致”と載ってるんだが

ibis

13話

「──なあ聡太、さっきから何読んでるんだ?」
「魔法書だ。読んだ事ないのか?」

 ガタガタと揺れる馬車の中。聡太の読んでいる本が気になったのか、勇輝が聡太に声を掛けた。
 ゆっくりと顔を上げ、持っていた魔法書を勇輝に手渡し……何が書いてあるのかわからないのか、勇輝が首を傾げる。

「わけわからん。なんだこりゃ?」
「だから魔法書だって。魔法の詠唱とか効果とかが書いてあるんだが……やっぱり勇輝には理解できないか」
「やっぱりってなんだよやっぱりって!」

 騒がしい親友の姿から目を逸らし、聡太は外に視線を向けた。
 ──現在、馬車で『大罪迷宮』に向かう途中である。
 男子、女子、セシル隊長を含む騎士隊で馬車が別れており、聡太たち6人はガタガタと馬車に揺られていた。
 だが……この世界には娯楽が少ない。聡太のように本を読むか、土御門のように居眠りをする以外、退屈を紛らわす方法がないのだ。

「にしても退屈だな……聡太、なんかねぇのか?」
「あるわけないだろ。俺は新しい魔法を覚えなきゃいけないんだから」
「だ、だったら……その……これ、持ってきたんだけど……」

 聡太と勇輝の話を聞いて、遠藤が何やら紙の束を2つほど取り出した。
 よく見れば、その紙には模様が書いてある。
 騎士やら姫やら盗賊やら。もう一方の束には武器やら建物やら文字やら書いてあるが……これは……?

「ろ、『ロール・カード』っていう……か、カードゲームだよ」
「……なんだそりゃ。つーかどっからそんなの……」
「面白そうじゃないか! 遠藤はボクたちが馬車の中で退屈になる事を想定して、そのカードゲームを持ってきてくれたんだな!」

 剣ヶ崎もよっぽど暇だったのだろう。いつもなら遊んでいる暇なんてない! とか言ってそうだが、今回は遠藤の言葉に食い付いた。

「はぁ……まあいいや。それで? それはどうやって遊ぶんだ?」
「う、うん。か、影人もおいでよ。一緒に遊ぼう?」
「……仕方がない」

 窓の外に目を向けていた宵闇も、顔だけをこちらに向けてくる。

「え、えっとね。このカードゲームは……その……2枚のカードで役を作って、その役の強さで戦う……ゲームなんだ」
「へぇ……どのカードにも役があるのか?」
「う、うん。例えばこれ。騎士と狂気だったら、狂った反逆者っていう役になるんだ」

 他にも色々と役を説明する遠藤。
 話半分で聞いていた聡太は……ふと目に付いたカードを見て問い掛けた。

「なぁ。この人間ってカードと憤怒ってカードだったらどうなるんだ?」
「あ、うん。人間ってカードは一番弱いんだ。どんな武器を持たせても、建物を付けても弱いんだ。だけど……最も弱い人間ってカードと、他のカードには何の影響もない感情のカードを組み合わせると……一番強い役になるみたいなんだ」

 人間のカードと、7枚の感情のカードを取り出し、遠藤が続けた。

「人間と嫉妬なら、嫉妬に狂う猛き者。暴食なら、暴食に囚われし飢える者。色欲なら、色欲に染まりし癒す者。傲慢なら、傲慢に溺れし卑怯者。怠惰なら、怠惰に嵌まり嘆く者。強欲なら、強欲に魅入られし未熟者」

 そして──

「人間と憤怒なら、憤怒に燃えし愚か者……って役になるんだ」
「へぇ……とりあえずやってみようぜ!」
「そうだな!」
「俺はパスだ。新しい魔法を覚えるからな」

 ざわざわと楽しそうな雰囲気を聞きながら、聡太は新たな魔法を覚えるべく集中を深めていった。

────────────────────

「……聡太。オイ、聡太?」
「………………ん、あ? どうした勇輝」
「着いたぞ……『大罪迷宮』に」

 勇輝に言われて、聡太は魔法書を読むのを中断し、馬車から降りた。
 ……洞窟……と言えばいいのだろうか。
 洞窟の奥をよく見れば、下へと続く階段がある。それ以外は何もない。

「……用意はいいな? ……では行くぞ」

 セシル隊長の言葉に、全員が緊張した面持ちで頷いた。
 セシル隊長に続いて洞窟へ足を踏み入れ……中の暗さに、思わず勇輝が呻く。

「暗いな……聡太、気を付け──」
「“光よ宿れ。われが望むは見通す力”『ライト・インサイト』」

 聡太の瞳に幾何学的な模様が浮かび上がり──消えた。
 何が起きたのか? と首を傾げる勇輝を置いて、聡太は足早にセシル隊長を追いかける。
 その足取りには一切の迷いがなく──まるで、洞窟内が見えているかのようだ。

「お、オイ聡太?」
「暗視効果のある魔法を使った。つーかさっき覚えた」
「は?! 覚えた?! さっき?!」
「お前らが楽しくカードゲームしてる間に覚えたってんだよ。迷宮って言うぐらいだから、暗い場所だと思っていたが……ビンゴだったな」

 何度も『大罪迷宮』に来た事があるのか、セシル隊長はスイスイと先に進んでいく。
 その後を追い掛けながら、聡太は小鳥遊と剣ヶ崎に声を掛けた。

「小鳥遊、お前確か【光魔法適性】の【技能】を持ってたよな? ならお前も『ライト・インサイト』っていう暗視の魔法が使えるはずだが……」
「う、うん! 『ライト・インサイト』!」
「剣ヶ崎もだ。お前も暗視の魔法を掛けとけ。【全魔法適性】とかふざけた【技能】があるんだ。それぐらいできるだろ」
「あ、ああ、そうだな。『ライト・インサイト』」

 小鳥遊と剣ヶ崎の瞳に幾何学的な模様が浮かび上がり──暗い所が見えるようになったのか、先ほどよりもしっかりとした足取りで進み始める。

「火鈴。俺とお前で灯りを点けるぞ」
「わかったよ~。『フレア・ライト』」
「“燃えろ炎。われが望むは暗闇を照らす灯り”『フレア・ライト』」

 聡太と火鈴の手の上に赤い魔法陣が浮かび上がり、そこから現れる炎が迷宮内を明るく照らし出す。
 手際よく指示を出すその姿は、まるで迷宮に来るのが初めてではないように思える。

「なぁ聡太。お前、本当にここに来るの初めてなのか?」
「なんでだ?」
「いや。初めてにしては慣れすぎだなって……」
「んー……別に、これが普通じゃねぇの? 暗いから灯りを点けて、死にたくないから暗視の魔法を覚えて、生きて帰るために策をる……これが普通だろ。そこ、大きな石があるから気を付けろ」
「お、おう」

 足元を照らす聡太を見て、セシル隊長が驚いたように目を見開いた。

「む……?! ソータ、お前、魔法を……?!」
「あ?」
「『複数術士マルチ・ソーサラー』だと……?! お前は一体、どこまで規格外なんだ……?!」

 ──『複数術士マルチ・ソーサラー』。
 一度に2種類以上の魔法を使う事のできる者はそう呼ばれるのだ。
 聡太は今、『ライト・インサイト』を発動したまま『フレア・ライト』を使った。
 完全に無意識であったが……聡太は『複数術士マルチ・ソーサラー』としての才能に目覚めたのだ。

「……よくわからんが……珍しいのか?」
「……国王側近の魔術士でさえ、『複数術士マルチ・ソーサラー』ができるのは2、3人程度だ」
「そうなのか……別にそこまで難しくはないけどな」
「オイ、お喋りはその辺にしときなァ。【気配感知】になンか引っかかったぜェ」

 ──土御門の【気配感知】は、【獣化】の【技能】により【気配感知“広域”】へと昇華している。
 土御門の言葉に、全員が下へと続く階段に目を向けた。

「ォ……ォォ、オ……」 
「ア、ォ……アア……」

 低く呻くような声と共に、ソイツは姿を現した。
 一言で言い表すならば、ガイコツだ。手には様々な武器を持っている。

「……セシル隊長」
「ああ。来るぞ」

 そう言って、セシル隊長が剣を構える──と同時、ガイコツがそれぞれの武器を持って突っ込んできた。

「──ふッ!」
「うらぁッ!」

 聡太が刀を振るい、ガイコツの頭部を斬り離した。
 隣では勇輝が拳を放ち、ガイコツの胸部を粉砕している。
 簡単に粉々になったガイコツの胸部を見て、勇輝が不思議そうに首を傾げた。

「なんだ、思ったよりもろいな」
「いや──かがめ勇輝ッ!」
「うおっ──?!」

 勇輝の服の襟元を掴み、思い切り後ろに引っ張る──次の瞬間、先ほどまで勇輝が立っていた所に、ガイコツが持っていた剣を振るった。
 聡太が引っ張らなければ、今頃勇輝は……

「な、なんだコイツ?! 不死身か?!」
「なわけねぇだろ。俺のったガイコツをよく見ろ。動いてないだろうが」
「……た、確かに……」
「セシル隊長の殺したガイコツも動いてない所を見ると、弱点は頭部か……勇輝、ガイコツの持つ武器に注意して頭をぶっ潰せ」
「おうよ!」

 雑に振るわれる剣を刀で受け流し、返す刃でガイコツの頭部を真っ二つにする。
 倒れ込む体を蹴り飛ばし、聡太は背後に視線を向けた。
 ──聡太たち前衛組の働きにより、後衛組にはモンスターが寄っていない。
 ただ、問題は──

「うわっ?! わ、わわっ、ふわぁー?!」

 ごろごろと地面を転がり、火鈴が情けない悲鳴を上げながらガイコツの攻撃を回避している。というか、ふわぁー?! ってなんだ。

「──しッ!」

 火鈴に襲いかかろうとするガイコツの頭部を斬り裂き、さらに近くにいたガイコツに突きを放つ。
 的確にガイコツの額を貫き──崩れ落ちるガイコツを一瞥いちべつして、座り込む火鈴に手を差し出した。

「いつまで座ってるつもりだ? 早よ立て」
「あ、あはは……もう少し優しい言葉だったら嬉しかったのにな〜……」
「んな余裕ねぇよ。おら、立てや」

 火鈴の手を掴み、無理矢理立ち上がらせる。

「さて……片付いたな」
「うむ。それでは、二層に向かおうか」

 下の階へと降りて行くセシル隊長と共に、聡太たちも二層へと足を踏み入れた。

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