気がついたら魔属学校で青春送ってます!?

ちゃまめ(量産型)

灯台もと暗しと大正デモクラシーは違うから!しかも関係ないから!!

「始め。」
ラボラ先生の笛と共に皆は一斉に森に向かって走り出した。ミャムラも僕の事をグイグイと引っ張って森の中へと誘う。
森の中は薄暗かった。それでも点々と木々の間に灯籠が設けてあり、そこだけは明るかった。
「…もっと奥行く。ここだとノーマルしか出ない。」
僕が薄暗い森に臆して灯籠の側で固まっていると、ミャムラは鋭い目を向ける。
「怖いの?」
ミャムラは意地悪な顔をして笑った。弱味でも握ったつもりなのか。
僕は怖さと好奇心が入り混じり
「灯籠が素晴らしかったからな。家に欲しい。」
と雑な言い訳をした。ミャムラは不信感を抱いたようで眉をひそめたが、追求することは無くすたすたと先を歩いていった。
「まっ、待ってくれ!」
尻尾を地面に打ち付けながらも、「早く」と怖い声を出しても。ミャムラは僕が隣に来るまで待ってくれた。

甲高い笛の音が遠くから聞こえた。ミャムラが歩きながら舌打ちをする。
「一番手は恐らくベルファゴール。アイツ嫌い。横暴で協調性無い。なのに名門で天才。ムカつく。」
異界も異界で大変なんだなぁ。
そういえば、と僕は声をあげる。この授業について詳しくは教えてもらっていない。
「ここには野生の魔物、いっぱい。二学期になると下僕を持つこと、許される。強いと成績、上がるから。皆が頑張る。」
へえ~…そうなんだ。え、てか人間もそういうの持てるのかな…?
「早くしないとアブノーマル、捕られる。急ぐよ。」
「あ、おう。」
足場の悪い道なき道を駆け出したミャムラの後を追い、途中躓きながらも森の最深部へと向かった。

奥へ進む最中も笛の音が鳴り続ける。その都度ミャムラは舌打ちをして歩くスピードを上げた。完全に僕の事を忘れている。
「痛っ…?」
前方から小石が飛んできて頬をかすめた。突然僕が声を出した為ミャムラが急ブレーキをかけてこちらを見る。
「小石が飛んできて…悪い。声をあげる程では無かったな。」
「分かってるならいいよ。」
…イライラしていらっしゃる。
このまま無言が続くといけない気がする。僕は思いきってミャムラとの会話を試みた。
「もし同じ魔物に首輪を付けたらどうなるんだ?」
「知らない。そんな馬鹿、聞いたことない。」

「な、ならこの森で一番強い魔物ってなんだ?」
「さあ。毎年変わる。」
……
「じゃ、じゃあ…今までで一番優秀だったのは?」
ミャムラが立ち止まって振り向いた。どうやらこの話題には食いついたらしい。
「君のお兄さんだよ。」
絶句した。生徒会長と言うからには凄いという事は分かっていたが、まさか過去一で優秀な人物だったとは…
「生徒会長の下僕、ノーマルエルフだった。けど血の契約、したら時を統べるものザ・タイムズになった。」
「ザ・タイムズ…?」
僕が首を傾げるとミャムラは驚いたような顔をした。
「見たことないの?凄いんだよ。とっても。」
弟に見せるとかしないんだな…やら小声でぶつぶつ言いながらミャムラはまた歩き出した。

最深部は広く、暗く、光の届かない野原のようだった。見たことのない花が咲き乱れ、不可解な足跡や鳴き声がする。
「やっぱもう居ない。皆も居ない。」
「ぼ、俺の所為だ…悪い。」
寂しげなミャムラの声に、危うく僕と言ってしまうとこだった。
あぶないあぶない…
落胆しているミャムラの背を擦ってやっていると、背後から物音がした。
それは二人の男の叫び声と笑い声、獣の鳴き声だった。頭が二つある竜が二人を鬼の形相で追いかけている。
「やっぱ首が二つでも一匹換算なんだなぁ~!」
「いやいや、これはお前が尻尾踏んだ所為だから!!」
この状況でなにやら揉めているようだ。二人と一匹はどんどんとこちらへ向かって走ってくる。
…これってまずいよね?
「何してんの、避けて!」
ミャムラに襟首を捕まれ、投げ飛ばされた。間一髪で突進から免れる。だが
「そこのお二方~!止めてくんなぁ~い??」
茶髪の男が方向転換して駆け寄ってきた。つられて竜も向きを変え、迫ってくる。
「何したの!」
「いやぁ、二首竜って一匹なのか二匹なのか気になって~首輪をそれぞれに付けた訳!そしたら混乱状態になったらしくて~」
爆走しながらゆっくりとした口調で、しかも反省などしていない様子で己の失態を話す男。後ろからは片割れの絶叫と怒号が聞こえる。
くだらない騒動に巻き込まれたミャムラは虫の居所が悪いようだ。
ミャムラは走りながら後方に跳躍し、暴れる二首竜にまたがった。そのまま片方の首に付けられた黒い首輪に向け爪を伸ばし、切り裂いた。
「あ、あーー!!俺の首輪ぁ…」
茶髪の男が悲痛な声をあげた。
突然止まった二首竜の背から飛び、くるりと中で回り見事な着地をみせる。
ミャムラ君強い…。
皆は肩で息をしながら倒れこんだり、二首竜から距離をとったりした。
「いやぁ、助かった…あ?あんたって生徒会長の弟様だよな?」
座り込んでいたら黒毛長髪の男が話しかけてきた。疲れと恐怖で声が出せず、返事の代わりに一度こくんと頷いた。
「だよなぁ!ケガとかしてねぇよな?大丈夫か?」
何を言われるかと思えば、怪我の心配だった。だがそれだけではなく
「あの二首竜、俺らの後ついてきてたみたいでよぉ!何だっけそういうの、大正デモクラシー?」
違う、灯台もと暗し。てかそれでもない気がするな、この騒ぎは…
ニヨニヨへらへらと笑う男に困惑していると
「早く、馬鹿の相手、いいから。行くよ。」
僕はイライラしているミャムラに無理矢理立たされ、連行されていった。

「隠してるみたいだったけど…弟様サン手にケガしてたぜ?」
黒髪の男が片割れに苦い顔で告げる。
「マジかよ…まあバレなきゃいいさ。」
茶髪の男はちぎれた首輪を放り捨てて言った。


「…俺コイツにするわ。」
僕の腕には舌を出しっぱなしの小型犬もどきがすっぽりとおさまっていた。
「クレイドッグ?…いいんじゃない。」
なんか歯切れが悪いなぁ…。
ちなみにこのクレイドッグはミャムラと僕がどんな下僕が欲しいかサイズを手で現していた時に、自ら腕の中に入ってきたのだ。
「魔物になつかれる、珍しい。首輪、早く付けたら。」
ミャムラに言われ、首輪の存在を思い出す。クレイドッグを抱えたまま、なんとか尻ポケットから首輪を取り出した。
首輪はすんなりとついた。かちりと音がしたかと思えば、クレイドッグは嬉しそうに下手くそな遠吠えをした。
「…ぼくも早くする。待ってて。」
クレイドッグと戯れる僕を見て、ミャムラは一人でどこかに消えた。
十分後。ミャムラは何も持たずに帰ってきた。僕が聞くと「大丈夫」の一点張りで、何も教えてくれなかった。


「お帰りぃ…おら、捕まえた下僕見せてみろ。」
もう空は茜色に染まっていた。森の中だと空が見えない為、時間が狂う。僕はチャカチャカと陽気な足音をたてて着いてくるクレイドッグを指差した。
「クレイドッグぅ??……あー、いいんじゃねぇの。スティーダラもそんなんだったか……」
やはり歯切れが悪い。何だ、なんなんだ…?
「それでミャムラ、お前は…?」
ラボラ先生が何も持たないミャムラに怪訝な声をかける。
「コイツ。」
ミャムラが地面を示すと、影から半スライム状の人が出てきた。
「シェイドか!よく見つけたなぁ…流石千里眼、加点だな。」
情報が多くてよく分からなかったがミャムラには何かしら能力があって、それを用いて捕まえたらしい。
「おら、帰れ帰れぇ。…と、アイ。」
あ、僕の事か。
「はい。」
「オニイサマがお呼びだぞ。応接室で待ってるらしいから…応接室は2階な。」
ラボラ先生は丁寧に場所まで教えてくれた。朝に比べたら別人だった。
「分かりました。」
僕は一言お礼を言って、この場をクレイドッグと共に後にした。


こんにちは、茶豆です
クレイドッグが下僕の主人公…
ちなみにサイズ感はふくらはぎの下半分くらいです
これからどう成長するのか…お楽しみに

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