気がついたら魔属学校で青春送ってます!?

ちゃまめ(量産型)

異世界の生徒会長と僕

み、皆さんこんにちは。僕の名前は 会藍斗あいあいとって言います。えーと、あだ名は『アイアイ』です...
ところで皆さんは気がついたら異世界に居た...なんてことはありますか?
あっ、ふ、普通無いですよね すみません...で、でもこれから僕が話すことは本当にあったんです!夢なんかじゃないんです!
このピアスが証拠なんですけど、ある人とペアで買ったもので...に、にやけてないです!
とにかく!僕がこうやって人前で話せるようになったのは『彼』のお陰であって...もし皆さんがひょんな事から異世界の学校に転入することになってしまっても生き延びる事が出来るように、そして楽しく過ごせるように!僕の体験したことを話そうと思いますので...暖かい目で見守ってください!

十字架を象った銀のピアスは壇上で勢いよく礼をする少年を励ますように彼の耳元で光って見せた。少年は顔を上げると一度深く息を吐いた。次に見せた表情は先程までの情けない風貌の少年がするものではない凛々しいもので、誰もが違う人間に見えてしまったのは仕方のない事である。

それでは、これから話すのは『私』が『彼』に出会った日の話です。


あ、頭いたい。凄く痛い…
確か体育の授業中にいじめっ子の投げたボール(恐らくバスケットボール)が後頭部に直撃して意識を失ったから…
真っ先に視界へと侵入してきた天井からすると僕は保健室に運ばれ、ベッドへと寝かされたらしい。
誰が運んでくれたんだろうか、ありがたい。後でお礼を言わなくちゃ…
そんなことを考えながら寝返りをうつ。まだ痛む頭に顔を歪ませながらフローラルないい匂いのする布団に潜る。思わずうっとりとしてしまったのは秘密だ。
何の洗剤だろ…いい匂い………ん?
ふとベッドと部屋との仕切りであるカーテンの向こう側から物音がした。…気がした。
え、先生居たのかな?でもさっきまで気配も何もしなかったのに…?
僕は疑問に思い頭を押さえながらも起き上がってみた。僕が寝ていたベッドがギシりと大きく軋む。

「…起きたか。」

あれ、ちょっと待って?僕の知ってる先生の声じゃない…男の人?
僕は動揺してカーテンの方へと近付いてしまった。カーテンは勢いよく開け放たれ、僕の目と鼻の先に端正な顔つきの青年が現れた。
「……!?、!??!?」
「落ち着け。そんなに慌てるな…」
慌てて後退りベッドから落ちそうになった僕をイケメンの青年は僕の襟首を強引に掴んで引き上げてくれた…
「ぐぇっ!?」
「ああすまない。人間は脆いのだったな。」
かと思えば何か小さく呟いて手をすかさず離した。痛いっ!無様にも尻から着地し青年を見上げる形になった。

「初めまして。人間。私はスティーダラ・ルシフだ。」

その青年は桃色の瞳をしていた。長い睫毛はディ●ニーに出てくるプリンセスの様で、髪の毛は透き通った灰色。おとぎ話に出てくる王子様にしか見えない。
「…お前、何か変なことを考えていないか?」
バレた。顔を見すぎたかな…(汗)
「特に、何も、別にぃ……」
「そうか。なら良い。」
淡白な返しをされて少しの間妙な沈黙が流れた。何を聞いたら良いのか。青年は何者なのか。疑問が頭のなかで渦となり、ぐるぐると回る。先に口を開いたのは謎の青年だった。
「今日からお前はここで暮らすのだ。ここは全寮制の魔属学校。赤子から年老いた者まで居る。良かったな、お前のことを拾ったのがこの俺で。」
青年は真顔でゲームの設定のような事を話し出した。
暮らす?魔属学校??拾ったのがこの俺で???訳が分からない…
「分からないのも無理はない。お前は転生したんだろうな。」
…転生ってほら、よく小説とか漫画とかで見かける…アレ?
「分かっているではないか。なら話が早い。お前は何らかのきっかけでコッチの世界へと転生したのだろう。」
神妙な顔つきで言うのだから、つい信じてしまいそうになる。だが僕はここで騙されるような人間ではない。青年のことを押し退けて保健室の窓から外を覗いてみた。
「…信用したか?」
「う、嘘だ…」
目の前に広がる景色は紫の空、そびえ立つ真っ黒な山々。そして走り回っている頭や尻やら背中やらから何かしら生えている生き物がいた。それも大勢。
「ここは私立魔属学校。魔物がそこら中に居る。そしてお前はただの人間。気を付けろ、悪魔や獣は人を喰らう。」
背後から青年の声がする。僕は窓から目を背けることが出来なかった。怖かった、動揺した。でもそれ以上にとある感情が芽生えていたんだ。
「……本当にあるんだ、魔物が暮らす世界は…!!」
それは興奮だった。僕は昔からファンタジー小説や幻獣図鑑といったものを見るのが大好きで、憧れを抱いていたのだ。いつか会ってみたい、行ってみたい…!それが今、叶っているのだ。
「怖くはないのか?」
「怖いよ!でも僕は来てみたかったんだ、人間の居ないところへ…!」
青年が僕の近くまで来て共に窓を覗く。
「…あそこで火を吐いているのは炎の化身イフリュート。あの小柄なネズミ男はポット。その隣で爪を研いでいるのが悪魔のベータ。」
「おお… 」
青年は興奮状態の僕を見て楽しんでいるようだった。彼はひたすら視界に入ってくる魔物の種族と名前を僕に教えてくれる。どれくらいの時間が過ぎただろうか、予令と思われる黒板に爪を立てたような音がスピーカーから大音量で流れた。青年は僕に何かを被せて腕を引っ張って一言
「行くぞ。」
とだけ言って僕のことを保健室から連れ出した(誘拐)。
え、待って?本当にどこ行くの!?
僕が被せられた布を肩まで下ろすと
「お似合いで御座います。」
いつの間にか隣には頭にモモイロペリカンのような羽の生えた人が歩いていて、何故か褒められた。
「こいつは睡魔のスリーパス・ティム。名前で呼ばれるのを嫌うからティムと呼んでやれ。」
「違いますよ生徒会長。私は貴方が嫌いなだけですから。」
…睡魔。言われてみるとそんな気もする。目元はトロンとしていてどこか眠たげな表情だ。
あ、あくびもした。
「よろしくね、人間君。」
にこりと微笑まれ、僕も反射的に笑みを返す。
…待てよ、何で僕が人間だって知ってるんだ?く、喰われる!?
「安心しろ。少なくとも生徒会はお前の味方だ。俺は生徒会長、こいつは書記。…お前の帰り道を見つける為に全力を尽くそう。」
そ、そうなの?なら安心かな……?
会話を繰り返す間もひたすら僕は青年、もとい生徒会長に連れられて歩き続ける。上って曲がって下りて、また下りて…。辿り着いたのは
「よ、用具室?」
「体育館のステージ裏と繋がっている。俺の合図で出てこい。いいな?」
「そっ、そんなこと突然言われても…
「い い な ?」
「…ふぁい。」
僕が情けない返事をすると彼は頷き、颯爽と姿を消した。取り残された僕とティムさんはただ何をするわけでもなく突っ立っていた。遠くからマイクで誰かが話す声がする。
「……生徒会長が拾ってくれて良かったね。」
「えっ、あ、はい…?」
ティムさんは僕の目をしっかりと捉えて話しかけてくる。
「彼、ああ見えて人間オタクでね。君を見つけたときのはしゃぎっぷりはクリスマスの小学生以下だったよ。」
にこやかな顔で凄いこと言う人だな…小学生以下って……。
僕が苦い顔をすると、ティムさんは言葉を継いで
「大丈夫。彼がいる限り君が死ぬことはない。…認めたくは無いけど、彼は強い。」
語尾を強めて僕に宣言した。
「…ティムさん。」
「スリーパスでいいよ。…これからよろしく。」
ティムさんの手は温かかった。ここに来て初めてぬくもりを感じた。
「…よし、そろそろかな?」
「え、そろそろとは…うぇ!?」
一人センチメンタルに浸っていた中、ティムさんは僕に何かを振りかけた。
「香水。人間だってバレたら大変だからね…私のを貸すから感謝してくださいね。」
香水?確かにいい匂いがする…
僕が鼻を鳴らしているとティムさんが背中をぐいぐいと押してきた。されるがまま用具室の奥まで来る。
「はい、ここに乗って?」
ティムさんの指し示した床には魔方陣が刻まれていた。
…乗るの?
「えっ!?乗るの!?」
「そうだよ。そうしないと行けねぇんだよ。」
おや?ティムさん口調が…
「早くしろや。はい、ごー。よんー。さんー…」
カウントダウンまで始まった!?
「にー、いーち。おら行ってこいや!」
ティムさん。あなたが僕の背中を蹴った時の楽しそうな表情を忘れることはないと思います…。

「…あ。名前聞くの忘れてた。」
スリーパス・ティムは少年が去った後、ストラップだらけの携帯を取り出してメールを打った。
『名前を聞きそびれました。彼を拾った際に見つけた名札をご確認ください。』
スリーパスはぱちんと携帯を閉じて大きく息を吸った。
「猿みたいにデカイ目してたな…アイツ。アイアイじゃん。」
スリーパスはクスクスと笑いながら用具室をあとにした。
これが後に彼のあだ名だという奇跡的な事実を知り、耐えきれず膝から崩れ落ちるのはまた別の話。

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