モンスターたちのための知恵の神になろう!! ~戦闘力皆無のスピリットに転生したので配下を知識強化したのに、コイツら俺を表舞台に引っ張り出そうとします!!~

歩谷健介

ねえ〇イド、名前を付けてよ? みんなの木の名前!! ――よし、決めた!! この木の名前は――

 神秘的な輝きを放った後、光は収束する。
 そしてそこには、先ほどまでのスライムとは全くの別人がいて――

 ――そう、別“人”と表現するほどに、上半身が、人のそれに似通っていた。
 腕があり、手には指が揃っていて。
 そして頭部もあり、人の髪型まで似せてある。

 美しい女性の容姿をしていて、思わず見惚れそうになった。

 ただ胴より下が、土に根を張るために広がる木の幹の下部のように、青いジェル状が広がっている。
 なので、目の前の存在がスライムであるということは確信が持てた。


 しかし、先程までいたスライム(大)と同一個体なのかと聞かれると正直わからない。
 ただ、明らかに存在感は増した。

 大きさという点で言えばそこまで変わっていないはずなのに。
 目の前にいるだけで、威圧感というか、無視できない圧迫感を与えるような。

 そんな感じがする。

 ……胸部にも、無視できない威圧感を感じるが、まあそこはいい。


 そうして目の前で起きた事象にどう判断を付けるべきか、困惑していると。


 ――スライムが、俺の方を向いた。


「――ああ……このような、お姿をされていたのですね!!」


 スライムは、感動に打ち震えるような声を出し、頬に手を当て、うっとりとした。
 ……そう、まるで人のような表情を再現していることは今はいい。

 今の俺にとって、問題は、そこではなかった。



 ――俺の漂っている、正にその場所に、視線を、固定している!



「お前……俺が、見えるのか?」


 目の前のスライムは、しっかりと、頷く。 


「はい……しかと、この目で」

 両手の人差し指に当たる部分を持っていき、ちゃんと自分の目を指し示した。
 このやり取りそのものが、俺のことを、認識できている、その証だった。

 異世界へと転生して、今まで。
 誰にも、その存在を認識してもらうことができなかった。
 けど、ここにきて、ようやく、自分の姿を認めてもらえた。











 俺は、その場で震える――













 うわぁぁぁぁ!!
 恥ずかしい!!


 だって、生涯に渡って(一度死んでるが)、こんなセリフを吐く日が来るとは思ってないじゃん!!
 俺も流石に予想だにしていなかった。 

 いや、勿論嬉しいよ!?
 でもさ、もっと、なんかこう、あるじゃん!!
 カッコいい登場の仕方とか、認識のされ方とかさ!!

 なのに!!
 認識された第一声が!!
『お前……俺が、見えるのか?』って!!

 何かバカ丸出しな聞き方だったじゃん!!



 マジかぁぁぁ。
 恥ずい、恥ず過ぎる。



「――あの……」

「うぉっ!? な、なんだ?」

 恥ずかしさに悶えていた俺に、スライムが遠慮がちに話しかけてきた。


「ご挨拶などもさせていただきたいのですが、何よりもまずお礼を」

「ん? 礼? 何の?」

 何のこっちゃと俺は無い首を傾げる。
 俺の書いた物語を読むようにしたこと、かな?
 でもそれは別に大したことじゃない。

 ってか、そう言ってくるってことは、やっぱりこのスライムはあのスライム(大)と同一個体で良いらしい。


「このような機会を頂いたこと全てに対してです――この度は、本当に、ありがとうございました」 

 そう言って、恭しく頭を下げた。
 それこそ目上の人に対して行うかのように。

「大変、感動いたしましたと共に、恐れ多くも感じました」

 感動したといってくれて、何というか、凄くこう、こそばゆい。
『恐れ多く』ってのは何かわからんが、まあ楽しんでくれたってことかな?

「……まあ、気にすんな。俺も俺で、嬉しかったしな」

 初めて自分で書いたものを誰かに読んでもらって、そうして感動してくれたのだ。
 目の前でそうした反応を見られただけでも、十分こちらとしては良い対価を貰ったようなものだしな。

「……やはり。良かった……私は、そのお眼鏡に適うことができたのですね」

 スライムは俺の“嬉しかった”という言葉に、何だか納得した、というような表情をする。
 それとともに、心底安堵した、というような顔にも。

 ? どういうことだろう。



「――ところで、神様」


「……ん? それ、もしかして、俺のこと?」


「はい。あなたの他に、いようはずがありません」


 スライムの確信に満ちた頷きに、俺は少し気圧される。
 ってか、このスライム、ちょいちょい言葉が大げさだったり、用法を誤解してないか?

 多分……“神様”ってのも、あれだろ?

 野球で凄い活躍した選手に対して「神ってる!!」とか。
 あるいは、忘れ物して大変な時に、それを補う物を差し出してくれた相手を見て「あなたが神か!?」って言うとか。


 要するに、大げさなのだ、表現が。

 ま、それはいい。


「差し出がましい申し出ですが、“名前”を、いただけませんか?」  

「はぁ、名前……」


 あれか、所謂ネームドモンスターになりたいと。
 あれって、どうなんだろう?

 滅多に名前持ちのモンスターなんてないし、その分だけ名付け親の魔力が持ってかれる、みたいな。

 まあ勿論他の物語の世界の話で、この世界でそれが通用するかっていうと別だが……。



「まあ、分かった――っと、その前に」


「?」


(恐らく)彼女の名前を付けることにより、名付けがどういうものかを知ることができる。
 それの前に――

「俺自身も、この世界での名前がないんだ」

「ああなるほど――」

 スライムは納得したようにうなずく。

 名前を付けて欲しいと願ったのだ。
 相手が名無しよりかは、せめて、誰に名前を付けて貰ったのかを分かる方が、より意味あるものになると思う。


 折角、俺の書いた物を読んで、ちゃんと感動してくれたんだ。
 少しでも、意味あるものにしてあげたい

「名前、名前、名前……」

 名前ねぇ……。

 スピリットにそもそも名前なんて本来必要なのかどうか。
 それに、元の人間の名前を名乗るのもなんか変だし。

 勿論その名前に愛着はあるが、わざわざこの世界でも名乗るものでもないだろう。
 自分が知っていて、忘れなければ、それでいい。


 となると……。


「…………」


 まずは俺自身の名前なのに、なぜか物凄く期待したような表情で待つスライムを見やる。
 ……。

「よし、俺はそもそもスピリットというモンスターらしい」

「はい」

 俺は確認するように、考えを纏めるように、そう呟いていく。
 そして、元気に返事してくれたスライムを、視界に入れる。

「そのスピリットが、初めに出会ったモンスター――スライムという種族に、縁を感じて、だ」

「!! はい、はい!!」

「それらからとって、俺はこれから、“スピラ”と名乗るよ」

 さぁ、どうだ!?

「スピラ様……はい!! とても素敵な、お似合いのお名前です!! よろしくお願いします、スピラ様!!」

 …………。

「お、おう」

 特におかしな反応はなかった。
 それに、何か自分の体に異変が起こるとかもなし。

 良かった……『えっ、スピ、ラ? マジで? ダサッ……』とか言われないで。 
 異変が無かったのも、もしかしたら、単に自分で自分に名前を付けたからなのかもしれない。

「――よし!! では、“スピラ”として初の名付けです」

「はい!!」

 目の前でスライムは、ワクワクしている様子を隠そうともせず、本当に子どもみたいに期待の目でこちらを見てくる。

 うぅ……プレッシャーが。




 うーん……。


「では、君はこれから“ライズ”だ」

「ライズ……ですか」

 あっ、やべ……ポカーンとしてる。
 意味が伝わってこないけど、変な態度もできないし――みたいな感じだ。

「え、えっとだな……俺のところの言葉で“ウィズダム”という言葉と、“スライム”という言葉を掛けている」

 俺が慌てて元の意味を説明し始めると、慌てて傾聴の姿勢に。
 一言一句聞き漏らすまいという表情だ。

 ……君、まるで人みたいに表情豊かだね。

「“ウィズダム”――知恵を意味している。つまり、ライズには知恵を持つ、知者になって欲しいという意味を込めている」

「“知恵”……“知恵”……“知恵”」

 彼女は何度も何度もその単語を反芻する。
 俺が言った意味を、体全てに刻み込むように。

「そして、掛け合わせたライズ――君の名前には、“上昇”だったり“上がる”という意味がある」

 俺は一つ間を置く。
 彼女がついてきているか確かめる。

「……つまり、ライズには、常に“知識”“知恵”を身に着ける向上心を持って、頑張ってもらいたい――そういう願いが込められているんだ」

 俺は何とか頭の中で考えた言葉を吐き出し切った。
 ふぅぅ……。

「ライズ……ライズ……――わかりました」

 ライズは、顔を上げる。
 その表情は、意味を、願いを、そして名前自体を全て受け入れた――そんな満足感に溢れたものだった。


「うん! これから、よろしく」

「はい!! 全てをスピラ様に捧げます。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」

「…………」

 何か、ちょいちょい、この子、言葉が。 
 ま、まあいいか。

 元の世界で言う、嫁入りの女性が使うような、そんなニュアンスではなくて。
 多分、普通にこれからシクヨロー的な意味なんだろう。






〔“ライズ”からの【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を許可しました〕



――ライズの体の中心が、小さく光りだした。


 淡い光は、緑に変わり、ゆっくりと俺に向かって飛んできた。
 そしてその光が俺に入ってくる。

 温かい熱を帯びた風が触れた――そんな感触だった。

「お、おおっ!?」


 何か知らんが、光が入ってきた瞬間から、凄い力が湧いてくるような気がする!!
 何だ、これはあれか、魔力か!?



――そして、今度は逆に、俺の体が小さく熱を帯びた。
 体から、何か力の源の一部が抜け出るような感覚を認識する。
 すると、先ほどライズから出てきたよりも小さな赤い光が、今度はライズに入っていった。


「どうやら……契約が成された、見たいですね?」


 一度目を瞑り、そして開いたライズがそう口にした。

「契約? 許可、しただけ、だよな?」

 先ほどの音声を聞いた限りではそうだった。
 だが、ライズが何か嘘を言っている感じでもない。

 ってかそもそも契約って……何? 
 どういうことを指して契約って言うの?





 そんな混乱している俺達のところに、予期せぬ出来事が――







「――キャッ」


「――ふっふっふ、鬼ごっこはここまでですか、姫」



 何か2匹のモンスター(?)がいきなり駆けてきた。
 そのうちの1体はライズのように、見る分にはかなり人っぽくて、少女のような外見をしている。
 髪が長く、耳が少し尖っている。

 もう一方は、相対的にモンスターっぽさというか、野生っぽさが強い。
 何となく見た目としては、どんなモンスターかが分かる外観。

 その幼い少女のようなモンスターがもう一方に追われていて、躓いて転んでしまう。


「ゴブリン、ですか……」


 ライズが口にしたその種族名に、俺も思い当たっていた。

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