モンスターたちのための知恵の神になろう!! ~戦闘力皆無のスピリットに転生したので配下を知識強化したのに、コイツら俺を表舞台に引っ張り出そうとします!!~
まだ何者でもなかったスライムが、何者かになるための日を迎える。
そのスライムが、生涯を賭して仕えると誓った、主に出会う前のこと。
そのスライムは、突如として体が大きくなった。
何か前触れがあったわけでも、予兆を感じていたわけでもない。
突然のことに驚いたが、スライムはそれを自らの生物的な進化・成長であるとして、喜んで受け入れた。
――その日から、スライムの世界は変わった。
体が物理的に大きくなり、物理的に見える視界は格段に広くなった。
それだけではない。
スライム達の間では里と認識されている所に、いろんな場所から拾ったものが集められている場所がある。
そこにある、人間の書物。
これを読むことができた。
スライムにとっては衝撃の連続だった。
人は、こんなにも効率的なやり方で、多岐にわたる情報を後世へと伝えているのか。
これは勝てないはずだ。
人間は総じて強くない。
それなのに、人はあっと驚く方法で自分たちや他の生物に勝ってきたのだ。
そして書物の中には自分たちのことも記してあった。
そもそも自分たちのことを、人間は魔物・モンスターと呼称するらしい。
もっとも、これは魔王様や魔人様方など、知能のある者にとっては既知のこと。
ということは、自分たちみたいに知能のないモンスターだけが知らなかっただけのことなのか。
学ばなければいけない、沢山のことを。
そしてスライムにとって最も衝撃的だったのは、人間は心躍る物語を書く、ということだった。
初めて読んだ日の、あの気持ちは、今でも忘れられない。
そもそも“気持ち”という概念を理解したのが、あの日だったのかもしれない。
純粋にそのお話を通じて、自分たちモンスターにはない、人間の考え方を学ぶことができた。
そして凄いのは、お話の中には成功談だけでなく、失敗談も沢山含まれているということ。
人間は学ぶ。
成功からどういうことをすれば次もまた成功できるか。
そして、失敗から、なぜ失敗したのか、どうすれば次は成功へと導けるのか。
モンスターは学ばない。
仮に学んだとしても、成功のことしか、なかなか頭に残らない。
人間との差は、明確だった。
そうしたことを学べる物語に、スライムは夢中になった。
色んな場所へと仲間を連れては、書物が捨てられていないか探した。
休む暇もなく里にある書物を何度も何度も読み明かした。
勿論、単純な好奇心という意味もあった。
しかし、自分の中にある、その知識を仲間の役に立てたいのだという思いも、本物だった。
おかげで、人間の言葉も覚えた。
でも、仲間たちにとっては、あまり面白くないことだったようだ。
近頃、東の山脈の向こう側――魔王様の領地に、どうやら勇者がやってきたらしい。
勝敗がどうなったかは分からない。
まだ続いているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
ただ、一つ分かることがある。
それはとても壮絶で、苛烈を究める戦いだったこと。
そしてそれは同時に、弱者にとっては耐えうるようなものではない、ということを意味する。
――つまり、その戦いにとてもではないが参加できないようなモンスター達が東の山脈を越えて、こちら側にやってきたのだ。
そうすると、新たな縄張り争いが勃発する。
今まで100の数でやってきた森の中に、新たに20、30とやってくるのだ。
そうなることは必然と言えた。
そこで、話が戻る。
そのスライムにも、戦うことを求められた。
群れの一員として、戦え、と。
でも、自分は戦力にはならない。
知識を得た今だからこそ、わかる。
自分の体は張りぼてだ。
でかいだけで、全く強くなんてない。
それを伝えても、分かってもらえなかった。
寂しい。
進化して、自分の気持ちが芽生えることをあんなにも喜んだ後だからこそ。
気づいてしまう。
自分の気持ちを分かってもらえないことが、こんなにも辛いだなんて。
そして、自分は追い出されてしまった。
独りになって、また、気づく。
今まで、仲間たちが周りにいたことが当たり前だった。
でも、今は独り。
ただ独りで、森を進んだ。
――すると、何だか不思議なものを見つけた。
光っていた。
薄い箱のようで、表面が光っている。
そしてその光っている部分には、沢山の文字が表示されていた。
スライムは驚いた。
驚いて飛び掛かり、ぶつかってしまった。
ぶつかっても、箱はびくともしなかった。
当たり前だ、とスライムは思う。
自分のこの体は見せかけなんだから。
体当りしても大した威力はない。
箱に何もないことを確認し、胸をなでおろす。
そうして画面を見直すと、先ほどはなかった文字が映し出されていた。
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
スライムはしばし、この文章の意味を考えた。
“ ”とは、多分自分のことだ。
今、自分がぶつかって、この文章が初めて出てきたのだ。
なら、この申請の主体は自分と考えるのが自然。
では、“誰に”申請したのか。
この箱の所有者が他にいるのか。
でも、周りには誰もいなかった。
スライムは画面全体を見渡せるようにする。
中央付近は、新たな文章が次々に上に重なるようにして表示されており、殆どが読めなくなっている。
画面の右端に視線を移す。
別の文章があった。
これも右端に寄せてあり、全文を読むことができるわけではない。
しかし、これだけは、『何かの物語を書いたものである』ということが、分かった。
――読みたい。
ただ、それだけを思った。
この不思議な箱に文章が収められている仕組み、それ自体も勿論、気にはなった。
しかし、そんな不思議な箱に収められるほどの物語とは一体どんな内容なのか。
スライムの関心は直ぐにそれだけで一杯になった。
知りたい。
それに、それを知れば、もしかしたら、仲間達の役に、立てるようになるかもしれない。
何とかして読めないものかと、正面に位置していた自分の場所を、少し左に移動して、対角線から覗けないか試してみたり。
あるいは、跳ねてみたら、何か見え方が変わるんじゃないかと飛んでみたり。
それでも読める部分は一切変わらない。
痺れを切らして、意味がないと分かっていても不思議な箱に体当たりした。
それを繰り返していると、変化が起こった。
箱の光る表面に、真っ白な四角が突如、表れた。
さっきまでの〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕という文章が書かれたものではない。
何も写さず、しかしこれから何でも写すことができるような色だった。
その白に、何もペンなどなくとも、文字が一字一字書き込まれていく。
そして――
『……そんなに読みたいか?』
スライムは驚くと同時に歓喜した。
多分、この箱の所有者だ。
自分の求めに応じてくれた。
読みたい、その気持ちを、理解してくれた。
今もその所有者がどこにいるか、分からないけれども、スライムはその瞬間、感じた。
理解してもらえた、その温かさを。
そしてその読みたいという気持ちをきちんと伝えた。
すると更に反応があった。
『……その熱意に負けたぜ』
その文字を見た瞬間、文字通り飛び跳ねた。
自分の想いが通じる、というのが、こんなにも嬉しいことなのか。
未だ本来の目的――物語を読むことは始まっていないはずなのに。
この先新しい物語を読んだら、自分はどうなってしまうのだろう。
そんな興奮が、スライムを満たした。
自分の分からない仕組みで動く箱を使い、自分に新しい世界を見せてくれる――それだけで、スライムが、その相手を神だと思うのには十分だった。
「あり、がとう、ございます、神、様!!」
スライムは、感謝を述べた。
見えはしなくても、多分、自分のことを見てくださっているんだ。
その神様が見ている世界を、自分にも見せてくださる。
スライムは、心して、その興奮の熱を、物語を読むことへと傾けたのだった。
そのスライムは、突如として体が大きくなった。
何か前触れがあったわけでも、予兆を感じていたわけでもない。
突然のことに驚いたが、スライムはそれを自らの生物的な進化・成長であるとして、喜んで受け入れた。
――その日から、スライムの世界は変わった。
体が物理的に大きくなり、物理的に見える視界は格段に広くなった。
それだけではない。
スライム達の間では里と認識されている所に、いろんな場所から拾ったものが集められている場所がある。
そこにある、人間の書物。
これを読むことができた。
スライムにとっては衝撃の連続だった。
人は、こんなにも効率的なやり方で、多岐にわたる情報を後世へと伝えているのか。
これは勝てないはずだ。
人間は総じて強くない。
それなのに、人はあっと驚く方法で自分たちや他の生物に勝ってきたのだ。
そして書物の中には自分たちのことも記してあった。
そもそも自分たちのことを、人間は魔物・モンスターと呼称するらしい。
もっとも、これは魔王様や魔人様方など、知能のある者にとっては既知のこと。
ということは、自分たちみたいに知能のないモンスターだけが知らなかっただけのことなのか。
学ばなければいけない、沢山のことを。
そしてスライムにとって最も衝撃的だったのは、人間は心躍る物語を書く、ということだった。
初めて読んだ日の、あの気持ちは、今でも忘れられない。
そもそも“気持ち”という概念を理解したのが、あの日だったのかもしれない。
純粋にそのお話を通じて、自分たちモンスターにはない、人間の考え方を学ぶことができた。
そして凄いのは、お話の中には成功談だけでなく、失敗談も沢山含まれているということ。
人間は学ぶ。
成功からどういうことをすれば次もまた成功できるか。
そして、失敗から、なぜ失敗したのか、どうすれば次は成功へと導けるのか。
モンスターは学ばない。
仮に学んだとしても、成功のことしか、なかなか頭に残らない。
人間との差は、明確だった。
そうしたことを学べる物語に、スライムは夢中になった。
色んな場所へと仲間を連れては、書物が捨てられていないか探した。
休む暇もなく里にある書物を何度も何度も読み明かした。
勿論、単純な好奇心という意味もあった。
しかし、自分の中にある、その知識を仲間の役に立てたいのだという思いも、本物だった。
おかげで、人間の言葉も覚えた。
でも、仲間たちにとっては、あまり面白くないことだったようだ。
近頃、東の山脈の向こう側――魔王様の領地に、どうやら勇者がやってきたらしい。
勝敗がどうなったかは分からない。
まだ続いているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
ただ、一つ分かることがある。
それはとても壮絶で、苛烈を究める戦いだったこと。
そしてそれは同時に、弱者にとっては耐えうるようなものではない、ということを意味する。
――つまり、その戦いにとてもではないが参加できないようなモンスター達が東の山脈を越えて、こちら側にやってきたのだ。
そうすると、新たな縄張り争いが勃発する。
今まで100の数でやってきた森の中に、新たに20、30とやってくるのだ。
そうなることは必然と言えた。
そこで、話が戻る。
そのスライムにも、戦うことを求められた。
群れの一員として、戦え、と。
でも、自分は戦力にはならない。
知識を得た今だからこそ、わかる。
自分の体は張りぼてだ。
でかいだけで、全く強くなんてない。
それを伝えても、分かってもらえなかった。
寂しい。
進化して、自分の気持ちが芽生えることをあんなにも喜んだ後だからこそ。
気づいてしまう。
自分の気持ちを分かってもらえないことが、こんなにも辛いだなんて。
そして、自分は追い出されてしまった。
独りになって、また、気づく。
今まで、仲間たちが周りにいたことが当たり前だった。
でも、今は独り。
ただ独りで、森を進んだ。
――すると、何だか不思議なものを見つけた。
光っていた。
薄い箱のようで、表面が光っている。
そしてその光っている部分には、沢山の文字が表示されていた。
スライムは驚いた。
驚いて飛び掛かり、ぶつかってしまった。
ぶつかっても、箱はびくともしなかった。
当たり前だ、とスライムは思う。
自分のこの体は見せかけなんだから。
体当りしても大した威力はない。
箱に何もないことを確認し、胸をなでおろす。
そうして画面を見直すと、先ほどはなかった文字が映し出されていた。
〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕
スライムはしばし、この文章の意味を考えた。
“ ”とは、多分自分のことだ。
今、自分がぶつかって、この文章が初めて出てきたのだ。
なら、この申請の主体は自分と考えるのが自然。
では、“誰に”申請したのか。
この箱の所有者が他にいるのか。
でも、周りには誰もいなかった。
スライムは画面全体を見渡せるようにする。
中央付近は、新たな文章が次々に上に重なるようにして表示されており、殆どが読めなくなっている。
画面の右端に視線を移す。
別の文章があった。
これも右端に寄せてあり、全文を読むことができるわけではない。
しかし、これだけは、『何かの物語を書いたものである』ということが、分かった。
――読みたい。
ただ、それだけを思った。
この不思議な箱に文章が収められている仕組み、それ自体も勿論、気にはなった。
しかし、そんな不思議な箱に収められるほどの物語とは一体どんな内容なのか。
スライムの関心は直ぐにそれだけで一杯になった。
知りたい。
それに、それを知れば、もしかしたら、仲間達の役に、立てるようになるかもしれない。
何とかして読めないものかと、正面に位置していた自分の場所を、少し左に移動して、対角線から覗けないか試してみたり。
あるいは、跳ねてみたら、何か見え方が変わるんじゃないかと飛んでみたり。
それでも読める部分は一切変わらない。
痺れを切らして、意味がないと分かっていても不思議な箱に体当たりした。
それを繰り返していると、変化が起こった。
箱の光る表面に、真っ白な四角が突如、表れた。
さっきまでの〔“ ”から、【プラットフォーム】へのアクセス許可申請を受けました。 許可、しますか?〕という文章が書かれたものではない。
何も写さず、しかしこれから何でも写すことができるような色だった。
その白に、何もペンなどなくとも、文字が一字一字書き込まれていく。
そして――
『……そんなに読みたいか?』
スライムは驚くと同時に歓喜した。
多分、この箱の所有者だ。
自分の求めに応じてくれた。
読みたい、その気持ちを、理解してくれた。
今もその所有者がどこにいるか、分からないけれども、スライムはその瞬間、感じた。
理解してもらえた、その温かさを。
そしてその読みたいという気持ちをきちんと伝えた。
すると更に反応があった。
『……その熱意に負けたぜ』
その文字を見た瞬間、文字通り飛び跳ねた。
自分の想いが通じる、というのが、こんなにも嬉しいことなのか。
未だ本来の目的――物語を読むことは始まっていないはずなのに。
この先新しい物語を読んだら、自分はどうなってしまうのだろう。
そんな興奮が、スライムを満たした。
自分の分からない仕組みで動く箱を使い、自分に新しい世界を見せてくれる――それだけで、スライムが、その相手を神だと思うのには十分だった。
「あり、がとう、ございます、神、様!!」
スライムは、感謝を述べた。
見えはしなくても、多分、自分のことを見てくださっているんだ。
その神様が見ている世界を、自分にも見せてくださる。
スライムは、心して、その興奮の熱を、物語を読むことへと傾けたのだった。
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