モンスターたちのための知恵の神になろう!! ~戦闘力皆無のスピリットに転生したので配下を知識強化したのに、コイツら俺を表舞台に引っ張り出そうとします!!~
動け動け動け!
俺の目の前には、生前、本当に死ぬ間際まで使用していた愛用のPCがあった。
一回り世間の流行からは後れているものの、中身のスペックは仕事をするにも、そして何か書くにしても、十分使用に耐えるものだった。
コップを落とした際に付けてしまった右上にある傷や、未だに剥がさず置いてあるせいで少しめくれてきたメーカーのシール。
そして何より、起動された際の待ち受け画面には、自分が設定した、大好きなキャラクターの画像が、そこにはあった。
間違いなく、自分のものだと、そう確信できた。
「うっわぁぁぁぁ!!」
柄にもなく、一人で盛り上がる。
さっきまでの沈んでいたテンションなどすべて忘れてしまったと言わんばかりに、俺ははしゃいでいた。
だってそうだろう!?
この世界に来て、全く自分を認識されず。
世界で本当に独りぼっちになった気分を味わっていた。
そんな中、自己のアイデンティティを確認できるものが、目の前に出てきたのである。
高揚せずにはいられまい。
興奮した俺は自分の体でそれに触れようとする。
だが――
「あっ……」
自己のPCをも、この体はすり抜けてしまった。
高まった熱が、一瞬にして冷めてしまう。
……はぁ。
「使えないんじゃ意味ないじゃねぇかよ……」
そう独り言ちながらも、何とかならないものかとうんうんと唸っていた。
もうこれができなければ絶望の谷の底へとまっしぐらである。
上げて落とすんだもん、それくらいの気持ちだった。
色々と試していると、一瞬だけ、画面上のポインター、つまりクリックなどをする際に使う矢印が動いた。
おや?
俺はその際、もう単に念じていた。
動け、動け、動け! 動け、動いてよ!
今動かなきゃ、何にもならないんだよ、と初号機(一台目)に必死に念じていた。
俺の思いが通じたのか、それとも精神年齢の低さがシンクロ率を引き上げてくれたのか。
兎に角、ただ矢印に向かって動いてくださいお願いしますと念じていたのだ。
俺はもう一度、同じようにむむむっ、と念力を送り込むようにして動けと命令する。
すると、やはり矢印は、少しだけ先ほどとは違う位置へと移動していた。
「ふぅむ……なるほど」
どうやら俺の思考が関係しているようだ。
俺の意思によって、多分操作はできる。
ただ動く幅が俺の労力に比して、明らかに小さい。
これじゃあ一つクリックへと持っていくだけでも日を跨いでしまう。
俺は今度はそれを改善しようと、目を閉じて自分の生前の体を頭に思い浮かべる。
俺の意思が関係しているなら、それは想像次第で改善できるということだ。
移動幅が小さかったのも、ただ漠然と『動け!!』としか念じなかったから。
とすると、もっと具体的にこの矢印を動かしている様子を想像すれば……。
生前と同様に、俺が机の前に座り、無線のマウスを持つ――そんな俺を、頭の中に思い浮かべる。
そのマウスの横には、今も目の前にある俺のPC。
何かの球技の格言みたいに、マウスは、手を添えるだけ。
そしてマウスを左にずらす。
すると、それにつられるようにして、画面上の矢印も――動く。
クワッ!!と目を見開く。
なんか武道の師範代が「喝っ!!」とか言うみたいに。
すると、現実のPCの画面は――
「ぉぉぉ!」
俺は喉の奥から、感嘆の声を上げた。
動いている。
しっかりと、矢印が。
俺は同じ要領でマウスを上に下にと何度も動かした。
そして慣れてくると、今度は目をつぶらないでも、物語を読むときみたいに、頭の中でその光景を想像しながら、矢印を動かすことができるようになってきた。
よしよし!!
この世界に来て初めての成功体験。
これぞ異世界転生の醍醐味!!
普通の人間の俺であってはできない体験に気をよくする。
……まあ、これが何の役に立つかと聞かれたら困るけれども。
クリックやダブルクリックも苦なく習得し、気分は差し詰め、電化製品という難敵を前に、操作方法を覚えたおじいちゃんのようだ。
フフフッ、現代文明の利器、なんするものぞ!!
その後、俺は前と変わらない自分のPCを、過去を懐かしむようにして操作した。
つい先ほど、死ぬ間際まで使用していたのに、なんだかこれを使うのが随分久しぶりにすら感じた。
会社で使う資料を纏めて保存したファイルや、あるいは大学時代のレポートなどのためのファイルなどが変わらず閲覧できた。
あるいは誰に対してのカモフラージュかはわからんが、単に『資料』とだけ名打った、秘蔵のファイルなども。
まあこれで死後、両親に遺品整理で『資料』が発掘され、何とも言えない空気になることを防ぐことができる。
神様、そこはグッジョブ!!
そういえば……。
これは、そもそもあの生前の世界にあったPCそのものなのだろうか。
何故か日本語と併記されるようにして、多分この国の言語?も書かれていたが、それが【プラットフォーム】の能力なのだろうか。
俺はそこら辺のことが気になり、他にもショートカットとして残しておいたインターネットのアイコンや、セキュリティのためのものなども、同じようにクリックしてみた。
しかし、『ネットワークに接続していません』となるか、あるいは『エラー』となる。
色々試してみたが、どうやら所謂オフライン状態と同様の仕様になっているらしい。
まあそこは当たり前っちゃあ当たり前なんだがな。
なので、ネットワークに接続していなくても使えるような機能・アプリ、つまりテキストファイルやフォルダの作成などは普通にできるが、それ以外はダメだった。
まあ使えるだけ、出現してくれるだけ良しとしよう。
これがあれば、少なくとも、自分を見失わないでいられる。
そんな気がした。
――で、だ。
『資料』程には開けるのを躊躇わないが、かといって何の心の準備もなしに開くのは躊躇われる――そんなファイルが一つあった。
『書いたやつ』との名前を付けたのは勿論、俺自身。
そこに至るまでに、ちょっと勇気がいるかな、と思って他を優先していたが。
俺は意を決して、そのファイルを開き、テキストの形で保存されていたものの一番上をダブルクリックする。
「あぁぁ……書いたな、確か、こんな話」
そこには、人気の小説投稿サイトにて面白い小説を読んだ後、その熱に急かされるようにして書いた、自身の小説と呼ぶのも烏滸がましい文章が。
これもまた、俺は勿論日本語にて記していたはずだが、それの上にルビが振られるようにして見たことない言語も書かれていた。
ただそれも、俺自身は何故か読めるわけだが。
書いたのは、ファンタジーの世界に突然転移したボッチの青年が、転移特典などなくとも、何とかひねり出した知恵と、勇気をもって、色んな人を助けていく――そんな話だ。
勿論最終的にはどんどん強くなっていくし、色んな女性にも好かれたり、勇者や魔王たちからはその存在を無視できないものとして常に警戒されたり。
そんな、まあ、どこにでもあるような、でも自分にとっては、唯一つの作品で。
俺はそれを横に移動させ、他のテキストファイルも次々と開いていく。
主人公が主体となって戦っていくものだけでなく、転生した先の国を、軍師となって勝利へと導いていくものや、あるいは青少年たちが異能力に目覚めた現実世界でラブコメを展開するお話、他には、ちょっと犯人をでっちあげることによって問題を解決する探偵もの――色々あった。
改めて見ると、これだけ色んなものを書いているのは、それだけ沢山の素敵な作品に出会って、それだけ影響を受けた、ということの裏返しだった。
「本当に……俺も、投稿してみればよかった」
返す返すはそこに尽きる。
書いたはいいが、忙しさを理由にして、返ってくる反応を恐れて中々投稿しようと思えなかった。
どんなものでもいい、自分が書いたものが一体どんな反応をもらえるのか、見てみたかったな……。
「――ん?」
開いた小説を整理して並べていると、画面の見づらい位置に、俺が見たことがないショートカットのアイコンが表示されていた。
そのアイコンは、楕円がいくつか重なっており、天辺と底辺から線が伸びていた。
そしてその名称がアイコンの下に表示されている。
そこには“スキル【プラットフォーム】”と書かれてあった。
……勿論、俺は生前こんなショートカットを作った覚えはない。
そして、自分の持っているスキルから、これがそのスキルと密接にかかわってくることが分かる。
……自分の知らない間に、知らないアイコンがあるってだけで、ウイルスにかかってしまったみたいに一瞬ビビってしまった。
あれだ、迷惑メールが来た時とか、そんな驚きがあった。
ある意味懐かしい感覚といえなくもない。
「――ピギュィィ!!」
うぉっ、な、なんだ!?
そんな感傷に浸っていた俺の耳に、突如として何かの叫び声が届いた。
一回り世間の流行からは後れているものの、中身のスペックは仕事をするにも、そして何か書くにしても、十分使用に耐えるものだった。
コップを落とした際に付けてしまった右上にある傷や、未だに剥がさず置いてあるせいで少しめくれてきたメーカーのシール。
そして何より、起動された際の待ち受け画面には、自分が設定した、大好きなキャラクターの画像が、そこにはあった。
間違いなく、自分のものだと、そう確信できた。
「うっわぁぁぁぁ!!」
柄にもなく、一人で盛り上がる。
さっきまでの沈んでいたテンションなどすべて忘れてしまったと言わんばかりに、俺ははしゃいでいた。
だってそうだろう!?
この世界に来て、全く自分を認識されず。
世界で本当に独りぼっちになった気分を味わっていた。
そんな中、自己のアイデンティティを確認できるものが、目の前に出てきたのである。
高揚せずにはいられまい。
興奮した俺は自分の体でそれに触れようとする。
だが――
「あっ……」
自己のPCをも、この体はすり抜けてしまった。
高まった熱が、一瞬にして冷めてしまう。
……はぁ。
「使えないんじゃ意味ないじゃねぇかよ……」
そう独り言ちながらも、何とかならないものかとうんうんと唸っていた。
もうこれができなければ絶望の谷の底へとまっしぐらである。
上げて落とすんだもん、それくらいの気持ちだった。
色々と試していると、一瞬だけ、画面上のポインター、つまりクリックなどをする際に使う矢印が動いた。
おや?
俺はその際、もう単に念じていた。
動け、動け、動け! 動け、動いてよ!
今動かなきゃ、何にもならないんだよ、と初号機(一台目)に必死に念じていた。
俺の思いが通じたのか、それとも精神年齢の低さがシンクロ率を引き上げてくれたのか。
兎に角、ただ矢印に向かって動いてくださいお願いしますと念じていたのだ。
俺はもう一度、同じようにむむむっ、と念力を送り込むようにして動けと命令する。
すると、やはり矢印は、少しだけ先ほどとは違う位置へと移動していた。
「ふぅむ……なるほど」
どうやら俺の思考が関係しているようだ。
俺の意思によって、多分操作はできる。
ただ動く幅が俺の労力に比して、明らかに小さい。
これじゃあ一つクリックへと持っていくだけでも日を跨いでしまう。
俺は今度はそれを改善しようと、目を閉じて自分の生前の体を頭に思い浮かべる。
俺の意思が関係しているなら、それは想像次第で改善できるということだ。
移動幅が小さかったのも、ただ漠然と『動け!!』としか念じなかったから。
とすると、もっと具体的にこの矢印を動かしている様子を想像すれば……。
生前と同様に、俺が机の前に座り、無線のマウスを持つ――そんな俺を、頭の中に思い浮かべる。
そのマウスの横には、今も目の前にある俺のPC。
何かの球技の格言みたいに、マウスは、手を添えるだけ。
そしてマウスを左にずらす。
すると、それにつられるようにして、画面上の矢印も――動く。
クワッ!!と目を見開く。
なんか武道の師範代が「喝っ!!」とか言うみたいに。
すると、現実のPCの画面は――
「ぉぉぉ!」
俺は喉の奥から、感嘆の声を上げた。
動いている。
しっかりと、矢印が。
俺は同じ要領でマウスを上に下にと何度も動かした。
そして慣れてくると、今度は目をつぶらないでも、物語を読むときみたいに、頭の中でその光景を想像しながら、矢印を動かすことができるようになってきた。
よしよし!!
この世界に来て初めての成功体験。
これぞ異世界転生の醍醐味!!
普通の人間の俺であってはできない体験に気をよくする。
……まあ、これが何の役に立つかと聞かれたら困るけれども。
クリックやダブルクリックも苦なく習得し、気分は差し詰め、電化製品という難敵を前に、操作方法を覚えたおじいちゃんのようだ。
フフフッ、現代文明の利器、なんするものぞ!!
その後、俺は前と変わらない自分のPCを、過去を懐かしむようにして操作した。
つい先ほど、死ぬ間際まで使用していたのに、なんだかこれを使うのが随分久しぶりにすら感じた。
会社で使う資料を纏めて保存したファイルや、あるいは大学時代のレポートなどのためのファイルなどが変わらず閲覧できた。
あるいは誰に対してのカモフラージュかはわからんが、単に『資料』とだけ名打った、秘蔵のファイルなども。
まあこれで死後、両親に遺品整理で『資料』が発掘され、何とも言えない空気になることを防ぐことができる。
神様、そこはグッジョブ!!
そういえば……。
これは、そもそもあの生前の世界にあったPCそのものなのだろうか。
何故か日本語と併記されるようにして、多分この国の言語?も書かれていたが、それが【プラットフォーム】の能力なのだろうか。
俺はそこら辺のことが気になり、他にもショートカットとして残しておいたインターネットのアイコンや、セキュリティのためのものなども、同じようにクリックしてみた。
しかし、『ネットワークに接続していません』となるか、あるいは『エラー』となる。
色々試してみたが、どうやら所謂オフライン状態と同様の仕様になっているらしい。
まあそこは当たり前っちゃあ当たり前なんだがな。
なので、ネットワークに接続していなくても使えるような機能・アプリ、つまりテキストファイルやフォルダの作成などは普通にできるが、それ以外はダメだった。
まあ使えるだけ、出現してくれるだけ良しとしよう。
これがあれば、少なくとも、自分を見失わないでいられる。
そんな気がした。
――で、だ。
『資料』程には開けるのを躊躇わないが、かといって何の心の準備もなしに開くのは躊躇われる――そんなファイルが一つあった。
『書いたやつ』との名前を付けたのは勿論、俺自身。
そこに至るまでに、ちょっと勇気がいるかな、と思って他を優先していたが。
俺は意を決して、そのファイルを開き、テキストの形で保存されていたものの一番上をダブルクリックする。
「あぁぁ……書いたな、確か、こんな話」
そこには、人気の小説投稿サイトにて面白い小説を読んだ後、その熱に急かされるようにして書いた、自身の小説と呼ぶのも烏滸がましい文章が。
これもまた、俺は勿論日本語にて記していたはずだが、それの上にルビが振られるようにして見たことない言語も書かれていた。
ただそれも、俺自身は何故か読めるわけだが。
書いたのは、ファンタジーの世界に突然転移したボッチの青年が、転移特典などなくとも、何とかひねり出した知恵と、勇気をもって、色んな人を助けていく――そんな話だ。
勿論最終的にはどんどん強くなっていくし、色んな女性にも好かれたり、勇者や魔王たちからはその存在を無視できないものとして常に警戒されたり。
そんな、まあ、どこにでもあるような、でも自分にとっては、唯一つの作品で。
俺はそれを横に移動させ、他のテキストファイルも次々と開いていく。
主人公が主体となって戦っていくものだけでなく、転生した先の国を、軍師となって勝利へと導いていくものや、あるいは青少年たちが異能力に目覚めた現実世界でラブコメを展開するお話、他には、ちょっと犯人をでっちあげることによって問題を解決する探偵もの――色々あった。
改めて見ると、これだけ色んなものを書いているのは、それだけ沢山の素敵な作品に出会って、それだけ影響を受けた、ということの裏返しだった。
「本当に……俺も、投稿してみればよかった」
返す返すはそこに尽きる。
書いたはいいが、忙しさを理由にして、返ってくる反応を恐れて中々投稿しようと思えなかった。
どんなものでもいい、自分が書いたものが一体どんな反応をもらえるのか、見てみたかったな……。
「――ん?」
開いた小説を整理して並べていると、画面の見づらい位置に、俺が見たことがないショートカットのアイコンが表示されていた。
そのアイコンは、楕円がいくつか重なっており、天辺と底辺から線が伸びていた。
そしてその名称がアイコンの下に表示されている。
そこには“スキル【プラットフォーム】”と書かれてあった。
……勿論、俺は生前こんなショートカットを作った覚えはない。
そして、自分の持っているスキルから、これがそのスキルと密接にかかわってくることが分かる。
……自分の知らない間に、知らないアイコンがあるってだけで、ウイルスにかかってしまったみたいに一瞬ビビってしまった。
あれだ、迷惑メールが来た時とか、そんな驚きがあった。
ある意味懐かしい感覚といえなくもない。
「――ピギュィィ!!」
うぉっ、な、なんだ!?
そんな感傷に浸っていた俺の耳に、突如として何かの叫び声が届いた。
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