史上最強の魔法剣士、Fランク冒険者に転生する ~剣聖と魔帝、2つの前世を持った男の英雄譚~

柑橘ゆすら

VS ゴブリンロード



「忌々しい侵入者が! 我々の城に入ってくるとは良い度胸ではないか!」


 もちろん俺は悪気があって、忍び込んだわけではない。

 気が付くと、この家のガレキの下に埋まっていたのだ。

 だが、当然のように対話による解決が望める雰囲気ではなさそうだった。

 やはり戦いは避けて通れそうにない。

 問題はどうやって、目の前の敵を倒すかである。


「ふんっ。もしかして、我々と戦う気か? そんな丸腰の状態で一体何ができる?」


 ふむ。武器か。

 またまた少し思い出した。

 どうやら前世の俺は《剣聖》と呼ばれて、様々な武器を駆使して戦っていたみたいである。

 おお。

 よくよく見ると、こんなところに良いものが落ちているじゃないか。

 俺は目の前に落ちていた木の棒を手に取ってみる。


【スキル:剣術(初級)を獲得しました】

【スキル:剣術(中級)を獲得しました】

【スキル:剣術(上級)を獲得しました】


 武器を手にしたことで、前世の記憶の一部が戻ったのだろうか?

 なんだから知らないうちに、色々なスキルを入手したようだ。
 

「かかれ! お前たち!」


 ゴブリンロードが声を上げると、近くにいたゴブリンの1匹が飛び掛かってくる。


「ギョブッ!?」


 その瞬間、部屋の中にカエルの潰れたような声が響き渡る。

 俺の手にした木の棒は、ゴブリンの喉元に突き刺さり、肉を抉るようにして食い込んでいた。


「あれ……?」


 おかしいな。今、勝手に体が動いたような気がするぞ。

 事情はよく分からないが、体に染み込んだ『癖』が自動的にゴブリンを迎撃したように思える。


「ギョッ!?」「フグッ!?」「ブワッ!?」
 

 続く第二陣についても同じだった。

 体の捌き。迫り来る敵の気配。武器の活かし方。

 必要な戦闘知識は、全て前世の《剣聖》だった頃の記憶が教えてくれる。

 なんとなくだが、コツを掴んできた。

 この調子でいけば、この場を切り抜けることができるかもしれない。


「な、何なんだ……。この男は……!?」


 まさか丸腰の男から、これほどの反撃を受けるとは思わなかったのだろう。

 指揮官であるゴブリンロードは、何が起きたのか分からずに唖然としていた。


「クソッ! 一旦退却だ! 体制を立て直すぞ!」


 このまま敵を逃がすわけにはいかない。

 前世の記憶がそう言っている。

 地の利が相手側にある以上、バラバラになって逃げられると不利を強いられることになりそうだ。

 
「――逃がすか!」


 だから俺は逃げる敵将を目掛けて、大きく一歩、踏み出した。


「なっ!」


 思い出した。

 この技はたしか《剣聖》時代に俺が良く使っていたやつだ。


 名前はたしか《縮地》とか呼ばれていたような気がする。


 どんなに修行を積んでも、完全な集中状態を持続することは不可能である。

 一定の間隔で相手に生じる『意識の隙』を突いて、背後に移動するこの技は、前世の俺が重宝していた移動術だ。

 ゴブリンロードの背後を取った俺は、すかさず、木の枝に魔力を込めて、背部から心臓にかけての部分を貫くことにした。


「ガハッ……!」


 会心の一撃。
 意識の外から致命的なダメージを与えられたゴブリンロードは、そのまま地面に倒れ込むことになる。

 
「「「キキッー!?」」」


 リーダーが倒れた後は悲惨であった。

 ゴブリンたちは我先にと蜘蛛の子を散らすように敗走を始めていく。

 だが、決して気を緩めてはいけない。

 こういう時に1匹でも逃がすと仲間を呼ばれて、後々に面倒な事態を招いたりするものなのだ。

 俺は逃げるゴブリンたちを背後から切り付けて、手当たり次第に討伐を続けていく。


「ふう。まあ、こんなもんかな」


 結果、俺はこの廃墟の中で、短時間のうちに30匹近いゴブリンを討伐することになっていた。

 一息を吐いたところで、俺は自分のステータスを確認してみる。


 アイザワ・ユーリ

 固有能力   魔帝の記憶 剣聖の記憶
 スキル    剣術(上級) 


 魔帝の記憶 等級 SSS
(魔法スキルの習得速度100倍)

 剣聖の記憶 等級 SSS
(剣術スキルの習得速度100倍)


 なるほど。

 木の棒を握っただけで剣術(上級)のスキルを獲得できたのは、固有能力《剣聖の記憶》が関係していたのか。

 またまた少し思い出した。

 どうやら俺の前世は《剣聖》で、前々世では、魔法を極めた《魔帝》と呼ばれる存在だったらしい。

 ん。待てよ。

 もしかしたら《剣聖》と《魔帝》の2つの記憶を持っている俺は、この世界では凄く珍しい存在なんじゃないだろうか?

 辛くもデビュ―戦を切り抜けた俺は、そんなことを思うのだった。

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