ウイニー王国のワガママ姫

みすみ蓮華

絶望の城 5【フィオ編@リオ】

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 雪狐の言ったとおり東の裏庭の噴水の底に螺旋階段が存在した。
 但し、既に水が抜かれ階段が出現した状態だった。


「この先に2人ともいる…急いだ方がいいわよぅ」
 震えながらに言う雪狐の言葉を聞き、皆顔を合わせると頷き急いで階段を降りる。
 地下は頑丈な石壁に覆われ、曲がりくねってはいたものの殆ど一本道でやがて大きな広間へとたどり着いた。


「兄上!フィオ!!」
 広間の中央では腕を押さえ立つのがやっとという状態の兄上と、物凄い形相の血塗れのフィオが睨み合っていた。
 追い詰められている筈の兄上は不敵な笑みを浮かべ、余裕さえ見せていた。


「っふ…役者が揃ったというわけか。リオネス、お前はフィオディールがか様な弟だと知っていたのか?」
「兄上…」
 か様なと言われ返す言葉が見つからない。確かに二面性はあったが、今のフィオは俺が知っているフィオとはかなりかけ離れていたからだ。


「兄上、もう逃げ場はありません。貴方の負けです。大人しく投降して下さい。フィオ、国王は然るべき場所で処刑を行うべきだ。それ以上手を出すなよ」
 俺の声が耳に届いているのか判らないが、フィオはピクリと肩を反応させた。
「見逃してやった時に大人しく逃げていれば良かったものを…逃げ場がないと本気で言っているのか?それはこちらのセリフだぞリオネス。お前達は今俺の手中にある」
「何?」
「俺が何の手立てもなく追い詰められていたと思うか?もう間もなくだ…もう間もなくでウイニーより援軍が来るぞ……鯨波の兵から姫君を保護した・・・・という知らせが入っているからな。俺を殺してしまえばお前達はウイニーの敵という事になる。お前達にウイニーが倒せるのか?」


 クククと兄上はさもおかしそうに腹を抱える。
「ウイニーの姫君だと…?」
 そう呼ばれるに値する人間は一人しかいない…保護だと?あり得ない!レティは国境付近に居たがリン・プ・リエンに来るような理由は一つもない。兄上の言う保護は拉致以外の何物でもない筈だ!


「残念ですがそれは叶いませんよ陛下。姫君なら私が……保護いたしましたので…」
「ゲイリー!」
「なんだと!?貴様っ…」


 歯噛みする兄上は先程とは打って変わって顔色を真っ青に変えていた。しかしそれ以上に俺はゲイリーと雪狐の様子が何処かおかしい事が気になった。
 保護したと言う割にその顔色はあまり良くなかったからだ。


「ゲイリー、本当ですか?レティは、レティは無事なんですね…?」
「殿下…それは……」
 言い淀むゲイリーの様子に嫌な予感を覚え、額から汗がじわりと滲み出る。
「ゲイリー、雪狐、まさかレティに何かあったのか?」
「あの子は…その……」
「何故言い淀む!!レティは無事だとはっきり言え!!」


 苛立つフィオの怒声にゲイリーも雪狐も顔を背け俯く。その様子を呆然と見ていた兄上が、次第に肩を揺らしながら声を上げて笑い出した。


「ックックック…これは愉快だな。お前達とんでもない事をしでかしたようだ!大方姫を連れた艦船を襲撃して誤って姫を殺してしまったという所か?ウイニーからは援軍どころかお前ら諸共報復を受けると言う訳だ!終いだ。リン・プ・リエンはお前らの所為で今日限りだ!」
「……エルネストおおぉぉぉ!!」


 フィオがこれまでにない怒号を放つと、フィオの全身から切り裂くような突風が出現する。
「何!?」
「よくも!よくもレティを!!許さない…楽に死ねると思うなぁっ!!」
「フィオ!!止めろっ!!」


 完全に我を忘れてしまったフィオは兄上に飛び掛かる。
 応戦しようとした兄上の肩を、膝を、胸を、背中を、ものすごいスピードで切り裂いて行く。


「ぐ…ぁ……」


 声にならない悲鳴を上げる兄上の口からは血が滴り落ち、苦痛の表情よりも先に驚愕の表情を浮かべていた。
「ふふふ……あははははははは!!」


 フィオの高笑いが部屋中に響き渡る。兄上が倒れる事を許さないとでも言うように様々な方向から斬り傷が生まれる。
 信じられない光景に俺達はただ立ち尽くす事しかできずにいた。


「まさか…殿下はご存知だったのか…?」
 不意にゲイリーが呟いた。振り向けば膝を付いた状態のゲイリーが口元を押さえ顔を青くしていた。
「知ってるって何をだ?まさか本当に…?」


 先程兄上が言った言葉が脳裏によぎる。誤ってレティを殺したのではと…
 するとゲイリーは茫然自失で座り込んでしまった雪狐の姿を確認すると、流石に俺も聞きたくない内容を口にした。


「先日、我々は鯨波の戦艦と出くわしました。その中に乗っておられたんです…ウイニーの姫君が……変わり果てた姿で」
「嘘だろ…?」


 愕然として俺がゲイリーに問えば、雪狐がポツリと呟いた。
「あの子…だからあんなに怒ってたんだわ……ユニコーンの主だもの…きっと知ってたのよ………」

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