ウイニー王国のワガママ姫
復讐と真実 4
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朦朧とする意識の中、男達の会話が聞こえる。
『おい、確かにこいつで合ってるのか?もう1人女が居たようだが』
『ああ、間違いない。ビセットの娘だ』
重い瞼を何とか開くと、何人か居る男達の影が目に入る。
視界がボヤけてその姿はよく見えないけど、向かい合って話している様子が辛うじて判った。
「う……」
ズキズキとこめかみの辺りに鈍痛が走る。胸の辺りはムカムカと吐き気を感じ、今にも吐きそうな位気分が悪かった。
「おい、気がついたみたいだぞ」
男の1人が私の方を向く。
「構うな。どうせ起き上がれない。それより謝礼がまだだ。まさか公爵家の娘に前金だけで済ませるなんて言わないだろうな?こっちは全てコイツに奪われてんだ。それ相応の額を用意してもらわなければ引き渡せないぞ」
そう言いながら向かい合ったもう1人の男が私の髪を乱暴に引っ張り上げ、私の顔を相手に向けさせる。
「痛い」と声を上げることすら出来ずに、男にされるがまま頭の鈍痛と胸の吐き気に必死に耐える。
「解ってるさ。こっちもそのお姫さんに掛かってんだ。おい!金を持ってこい!」
男がそう言うと男の後方から大きな荷台が近づいてくる。
私の髪を掴んでいた男はその手をまた乱暴に離すと、他のものには目もくれず慌てて荷台に駆け寄った。
中を確認すると男は「いいだろう」と言って頷き荷台を受け取る。
「わかっていると思うが他言無用だからな」
と、荷台を渡した男が私を抱えてニヤリと笑う。
「ふん。当たり前だ。バレたら俺もただじゃ済まない。この金であんたらの国にでも逃げるさ」
霞んでいた視界が徐々に慣れてき始めた頃、荷馬車に乗った男の姿が徐々にはっきりとしてくる。
最後に男が嘲笑しながら私を見て捨てゼリフを吐いた。
「呪うなら自分を呪うんだな。お前の所為で俺のは全てを失ったんだ。殺してやりたいくらいだがこれで俺をコケにした連中に報いることが出来るなら喜んでお前を売り渡してやる!」
そう言って高らかに嗤う男の顔を見て愕然とする。
頬は痩せこけ、無精髭が乱雑に生え、その様相は幼い頃に会った男の姿とはかなりかけ離れて居た。
しかし、その面影は残っており、その男が誰なのか私にはハッキリと解ってしまった。
「ガレリー・サロ・リンドブル…伯爵……?」
リンドブル伯はフンと鼻で笑うと「元だ」と言い私に蔑視を向けてくる。
「連れて行くならとっとと連れて行け。勢い余って俺がその娘を殺さないうちにな」
「それは困るな。おい!急ぐぞ!どの道夜が明ける前に進まなければ追ってがくる!馬車の準備は出来てるな?」
男はそう言って私を馬車に詰め込むと御者に向かって馬を走らせる。
立派な馬車の窓のカーテンの隙間からリンドブル元伯爵が振り返りもせずに荷馬車を出す姿が目に映った。
ゆっくりと走り出す馬車の中に横たわり、私は置かれている状況を把握しようと思考を巡らせる。
私は宿屋に駆け込んできた男性に騙されて小屋で何か薬の臭いを嗅いで意識が途切れた。
そして次に目を覚ました時、リンドブル元伯爵が何者かに私を売り渡して、今この馬車に乗ってる。
私は一体誰の所に売り飛ばされたの?
見るからに立派な馬車だけど、公爵家や王家が使うもの程では無いわ。
ウイニーの貴族達が使う一般的な辻馬車かしら?
だとしたら今の時点で特定は難しいかも…
(何より今は気持ち悪くて仕方ない…)
揺れる馬車が更に拍車をかけているみたいでこれ以上何かを考える事なんて出来そうに無かった。
薬は傷薬しか抱えてこなかったし、その傷薬もあの小屋で全てぶちまけてしまった筈だ。
迂闊だった…と、目を閉じながら後悔する。
町の中で毒が蔓延してたんだから関係がないわけがない。犯人がまだ潜伏してて当然だったのに。
この吐き気もおそらく同じものだ。
腰にあったショートソードはないし、あの時落としたのは多分テディの懐中時計だ…
「紅蓮の大熱…」
今使えるのは魔法だけ…呟いて、私はまた眠りにつく。
(少しでも体力を戻しておかなければ…)
そう思ったものの、揺れる馬車に体調不良で熟睡することは出来なかった。
どれくらい進んだのだろうか、日が高く上った頃に馬車が停車し、先程の男が私を降ろそうと馬車に乗り込んで手を伸ばしてきた。
「あちっ!」
と、男は驚いた顔で手を引っ込める。
尋常じゃない熱さに目を見開いて男は他の仲間を呼び相談し始めた。
すると仲間の1人が私を覗き込んで、
「おい!これは病気じゃないぞ!魔法がかかってやがる!」
と、忌々しそうに私を睨みつけた。
男は私にナイフを突きつけると物凄い剣幕で私に怒声を浴びせた。
「姑息な真似しやがって、綺麗なその顔に傷跡を付けたくなかったらとっとと魔法を解きやがれ!」
ツーっと軽く頬をナイフの刃が滑る。小さな傷からジワリと熱い滴が痛みとともに染み出してきた。おそらくすぐに治る程度の軽い傷。激しい痛みは感じない。それでも十分に恐怖は襲いかかってきた。
私は身を竦ませてしまいそうになる自分の体を叱咤しながら、キッと男を睨みつける。
「好きなだけそのナイフで傷つけるといいわ!貴方の雇い主が誰だかは判らないけれど、私に何かあって困るのは貴方達がじゃないのかしら?」
私が死ぬと困ると言った上で、立派な馬車に乗せてロープで体を結びつけるような事もしない。
という事は、私に何かあっては困るという事何じゃ無いだろうか?
一か八かでハッタリを言って見たけど、どうやら当たりだったようで男は苦虫を噛み潰した様な顔で「ッチ!」と舌打ちをして馬車の外へ降りて行った。
ホッと息をついていると今度は別の男がナイフを持った男に耳打ちをして、ニヤリと笑うと別の男に指示を出した。
訝しんで男を見ていると、指示を受けた男が小さな男の子を伴ってこちらに近づいて来るのが判った。
男の子は不思議そうに男達を見上げている。
ナイフを持った男がその子にナイフを突き付けて私に向かって冷笑を浮かべた。
「あんたみたいな姫さんはこういうのが一番堪えるんだよなぁ?素直にその魔法といた方がこの可哀想なガキのためだと思うぜ?」
「!!」
ナイフの肌が男の子の頬をスルリと撫でる。
まだ小さな男の子は何をされているのか判っていないようで、冷たそうに目をつぶって無邪気に笑っていた。
「やめて!!」
男がナイフを突き立てようとした所で思わず私は叫んだ。
「言う通りにするから…離して上げて」
「そっちが先だ」
と、男は言う。
私は言われた通り魔法を解くと、男は他の男に指示を出して私を抱き抱えた。
男の子が解放されてホッと息をついていると、
「これ以上舐めた真似をするなよ?これはその教訓だ!」
トボトボと歩き始めた男の子の背中めがけて男はナイフを振り下ろした。
「やめてーーー!!」
小さな男の子の背中から真っ赤な血が噴き出す。
何が起こったのか判らないまま男の子がドサリと地面に倒れこみ、辺りにその子の血が広がっていった。
「どうして!魔法を解いたら助けてくれるって!」
ボロボロと涙を零しながら男を睨み付けると、男はニヤニヤと笑みを浮かべたままナイフを愛おしそうに見つめながら私に言った。
「俺は可哀想なガキの為とは言ったが助けてやるだなんて一言も言ってないぜ。よかったな?ひと思いに痛みを感じる間も無く死ぬことが出来たぜ」
ゲラゲラと下品な大きな笑い声が周囲に響き渡る。
男達の仲間も同じように男と共に笑い声を上げる。
信じられないような出来事に吐き気が酷くなり視界が歪む。
(ごめんなさい…)
と、もう取り戻せない小さな命に向かって何度も何度も謝り続けた。
朦朧とする意識の中、男達の会話が聞こえる。
『おい、確かにこいつで合ってるのか?もう1人女が居たようだが』
『ああ、間違いない。ビセットの娘だ』
重い瞼を何とか開くと、何人か居る男達の影が目に入る。
視界がボヤけてその姿はよく見えないけど、向かい合って話している様子が辛うじて判った。
「う……」
ズキズキとこめかみの辺りに鈍痛が走る。胸の辺りはムカムカと吐き気を感じ、今にも吐きそうな位気分が悪かった。
「おい、気がついたみたいだぞ」
男の1人が私の方を向く。
「構うな。どうせ起き上がれない。それより謝礼がまだだ。まさか公爵家の娘に前金だけで済ませるなんて言わないだろうな?こっちは全てコイツに奪われてんだ。それ相応の額を用意してもらわなければ引き渡せないぞ」
そう言いながら向かい合ったもう1人の男が私の髪を乱暴に引っ張り上げ、私の顔を相手に向けさせる。
「痛い」と声を上げることすら出来ずに、男にされるがまま頭の鈍痛と胸の吐き気に必死に耐える。
「解ってるさ。こっちもそのお姫さんに掛かってんだ。おい!金を持ってこい!」
男がそう言うと男の後方から大きな荷台が近づいてくる。
私の髪を掴んでいた男はその手をまた乱暴に離すと、他のものには目もくれず慌てて荷台に駆け寄った。
中を確認すると男は「いいだろう」と言って頷き荷台を受け取る。
「わかっていると思うが他言無用だからな」
と、荷台を渡した男が私を抱えてニヤリと笑う。
「ふん。当たり前だ。バレたら俺もただじゃ済まない。この金であんたらの国にでも逃げるさ」
霞んでいた視界が徐々に慣れてき始めた頃、荷馬車に乗った男の姿が徐々にはっきりとしてくる。
最後に男が嘲笑しながら私を見て捨てゼリフを吐いた。
「呪うなら自分を呪うんだな。お前の所為で俺のは全てを失ったんだ。殺してやりたいくらいだがこれで俺をコケにした連中に報いることが出来るなら喜んでお前を売り渡してやる!」
そう言って高らかに嗤う男の顔を見て愕然とする。
頬は痩せこけ、無精髭が乱雑に生え、その様相は幼い頃に会った男の姿とはかなりかけ離れて居た。
しかし、その面影は残っており、その男が誰なのか私にはハッキリと解ってしまった。
「ガレリー・サロ・リンドブル…伯爵……?」
リンドブル伯はフンと鼻で笑うと「元だ」と言い私に蔑視を向けてくる。
「連れて行くならとっとと連れて行け。勢い余って俺がその娘を殺さないうちにな」
「それは困るな。おい!急ぐぞ!どの道夜が明ける前に進まなければ追ってがくる!馬車の準備は出来てるな?」
男はそう言って私を馬車に詰め込むと御者に向かって馬を走らせる。
立派な馬車の窓のカーテンの隙間からリンドブル元伯爵が振り返りもせずに荷馬車を出す姿が目に映った。
ゆっくりと走り出す馬車の中に横たわり、私は置かれている状況を把握しようと思考を巡らせる。
私は宿屋に駆け込んできた男性に騙されて小屋で何か薬の臭いを嗅いで意識が途切れた。
そして次に目を覚ました時、リンドブル元伯爵が何者かに私を売り渡して、今この馬車に乗ってる。
私は一体誰の所に売り飛ばされたの?
見るからに立派な馬車だけど、公爵家や王家が使うもの程では無いわ。
ウイニーの貴族達が使う一般的な辻馬車かしら?
だとしたら今の時点で特定は難しいかも…
(何より今は気持ち悪くて仕方ない…)
揺れる馬車が更に拍車をかけているみたいでこれ以上何かを考える事なんて出来そうに無かった。
薬は傷薬しか抱えてこなかったし、その傷薬もあの小屋で全てぶちまけてしまった筈だ。
迂闊だった…と、目を閉じながら後悔する。
町の中で毒が蔓延してたんだから関係がないわけがない。犯人がまだ潜伏してて当然だったのに。
この吐き気もおそらく同じものだ。
腰にあったショートソードはないし、あの時落としたのは多分テディの懐中時計だ…
「紅蓮の大熱…」
今使えるのは魔法だけ…呟いて、私はまた眠りにつく。
(少しでも体力を戻しておかなければ…)
そう思ったものの、揺れる馬車に体調不良で熟睡することは出来なかった。
どれくらい進んだのだろうか、日が高く上った頃に馬車が停車し、先程の男が私を降ろそうと馬車に乗り込んで手を伸ばしてきた。
「あちっ!」
と、男は驚いた顔で手を引っ込める。
尋常じゃない熱さに目を見開いて男は他の仲間を呼び相談し始めた。
すると仲間の1人が私を覗き込んで、
「おい!これは病気じゃないぞ!魔法がかかってやがる!」
と、忌々しそうに私を睨みつけた。
男は私にナイフを突きつけると物凄い剣幕で私に怒声を浴びせた。
「姑息な真似しやがって、綺麗なその顔に傷跡を付けたくなかったらとっとと魔法を解きやがれ!」
ツーっと軽く頬をナイフの刃が滑る。小さな傷からジワリと熱い滴が痛みとともに染み出してきた。おそらくすぐに治る程度の軽い傷。激しい痛みは感じない。それでも十分に恐怖は襲いかかってきた。
私は身を竦ませてしまいそうになる自分の体を叱咤しながら、キッと男を睨みつける。
「好きなだけそのナイフで傷つけるといいわ!貴方の雇い主が誰だかは判らないけれど、私に何かあって困るのは貴方達がじゃないのかしら?」
私が死ぬと困ると言った上で、立派な馬車に乗せてロープで体を結びつけるような事もしない。
という事は、私に何かあっては困るという事何じゃ無いだろうか?
一か八かでハッタリを言って見たけど、どうやら当たりだったようで男は苦虫を噛み潰した様な顔で「ッチ!」と舌打ちをして馬車の外へ降りて行った。
ホッと息をついていると今度は別の男がナイフを持った男に耳打ちをして、ニヤリと笑うと別の男に指示を出した。
訝しんで男を見ていると、指示を受けた男が小さな男の子を伴ってこちらに近づいて来るのが判った。
男の子は不思議そうに男達を見上げている。
ナイフを持った男がその子にナイフを突き付けて私に向かって冷笑を浮かべた。
「あんたみたいな姫さんはこういうのが一番堪えるんだよなぁ?素直にその魔法といた方がこの可哀想なガキのためだと思うぜ?」
「!!」
ナイフの肌が男の子の頬をスルリと撫でる。
まだ小さな男の子は何をされているのか判っていないようで、冷たそうに目をつぶって無邪気に笑っていた。
「やめて!!」
男がナイフを突き立てようとした所で思わず私は叫んだ。
「言う通りにするから…離して上げて」
「そっちが先だ」
と、男は言う。
私は言われた通り魔法を解くと、男は他の男に指示を出して私を抱き抱えた。
男の子が解放されてホッと息をついていると、
「これ以上舐めた真似をするなよ?これはその教訓だ!」
トボトボと歩き始めた男の子の背中めがけて男はナイフを振り下ろした。
「やめてーーー!!」
小さな男の子の背中から真っ赤な血が噴き出す。
何が起こったのか判らないまま男の子がドサリと地面に倒れこみ、辺りにその子の血が広がっていった。
「どうして!魔法を解いたら助けてくれるって!」
ボロボロと涙を零しながら男を睨み付けると、男はニヤニヤと笑みを浮かべたままナイフを愛おしそうに見つめながら私に言った。
「俺は可哀想なガキの為とは言ったが助けてやるだなんて一言も言ってないぜ。よかったな?ひと思いに痛みを感じる間も無く死ぬことが出来たぜ」
ゲラゲラと下品な大きな笑い声が周囲に響き渡る。
男達の仲間も同じように男と共に笑い声を上げる。
信じられないような出来事に吐き気が酷くなり視界が歪む。
(ごめんなさい…)
と、もう取り戻せない小さな命に向かって何度も何度も謝り続けた。
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