ウイニー王国のワガママ姫
Coffee Break : 恋敵
ダニエル・ペペスことダニエル・ジェイ・トレンスはレティアーナを客間に案内した後、彼女が入って行った扉をジッと見つめて見張りついでに考え事をしていた。
皇太子殿下の命令でノートウォルドの地図を完成させ、その後に下された命はダニエルにとってこの上なく幸運な指令だったと言える。ハニエルに再会した瞬間を何度となく想い描き、どのように自分をアピールしよう?いやその前にお礼を言って…といった感じで考えてあぐね、今度という今度は逃がさないと心に決めていた。
ところがどうだろう。ハニエルを見つけ、裏路地まで引っ張って来たまではよかった。
彼女が振り返って自分を見上げた瞬間にお礼の言葉はもとより、幾つも考えていた甘い言葉などすっかり頭の中から消え去ってしまったではないか。
目の前にいたのは2年前船上で化粧をした時の彼女そのものだった。
気の利いたセリフどころか話のペースは相変わらずハニエルのペースで、彼女が自分に好意を抱いている様子など全く持って進展してる気がしなかった。
更に最悪な事に殿下曰く、他国からの客人リオ様の弟君でテディと呼ばれた青年がどうもハニエルと親しい間柄の様なのだ。
部屋に閉じ込められ、解放された直後に見た光景に愕然とした。
ハニエル曰く友達らしいのだが、見るからに自分に接するそれと態度が違う。
過去の自分の印象が彼女の中で最悪なのは重々承知だが、かといってメルに接する態度と同等かと考えた時でも、やはり何かが違うと嫌な胸騒ぎが警告を発する。
少なからず、テディと呼ばれたあの男はハニエルに対して自分と同じ感情を抱いていると確信出来る。
ハニエルが奴に触れる手や奴がハニエルに触れる行為をありありと思い出し、ムカムカと気がつけば扉を険しい顔で睨みつけていた。
これからハニエルと奴と2人だけで船に乗り込むという事実が焦燥感に拍車がかかっていた。
不意にギシギシと、木製の階段を上ってくる音が近づいてくる。
そちらを向けば手に見覚えのある肩掛け鞄をもった黒髪の女性が立っていた。
パッとみれば女性だが、その顔は今とても見たくない顔であるのは確かだ。
ダニエルに気がついたその女ーーテディは冷ややかな視線で彼に話しかけた。
「女性の部屋の前で一体何をしているんです?感心出来ませんね」
ダニエルは「はんっ!」と悪態をつくと、負けじとテディを睨みつけた。
「ハニーに悪い虫がつかないように見張ってんだ!そういうあんたこそ、その手に持ってるのは何だ。ハニーの鞄じゃないのか?人の物を勝手に持ち歩くのは非常識だと思うが?」
「宿に置きっ放しの荷物を取りに行ってただけですよ。そもそもココに見張りなんて要らないでしょう。悪い虫というのは一体誰の事を指すのでしょうね?」
不穏な空気を放ちながら、お互い一歩も引かずに睨み合いを続ける。
近くを通りかかった兵士が思わず「ひっ」と悲鳴を上げて元来た道へ引き返して行く程その場は冷えに冷え切っていた。
「この際だからハッキリしとこうじゃねぇか」
と、ダニエルは言う。
「ハニーと俺は身分こそ釣り合わないが将来を約束した仲だ。下手に手ぇだそうなんてすんじゃねぇぞ!」
テディはそんな牽制にも動じることなく、しかし殺気を強めて冷笑を浮かべダニエルに対抗する。
「っふ…それは嘘だな。僕の所にはほぼ毎日の様にレティから手紙が届くんだ。確かにお前の事が手紙に書かれていた時期もあったが好意的な内容とはとても言い難かったのをよく覚えている」
その言葉にダニエルは目を見開く。
毎日だと?!俺の所には極偶にしかこないってのに!……いや、こいつもハッタリをかましているだけに違いない。
ここで動揺して見せたら負けだ!
と思いつつも、ヒクリと頬が引きつった状態でダニエルは笑みを浮かべる。
「ッハ!照れ隠しって言葉を知らないのか?ハニーは言いたいことははっきり言うが恋愛に関しては照れ屋だからな。俺がキスをした時なんて真っ赤になって可愛いもんだったぜ!」
「なっ、嘘だっ!彼女がそんな事お前に許すわけがない!!」
「ふん、だったらハニーに聞いてみればいい。同じように真っ赤になって頷くさ」
嘘は言っていない。ギリギリ口ではなかったのが悔やまれるが。
ダニエルの思惑通り、キスと聞いてテディは激しい動揺を見せた。
青くなって愕然とするテディをダニエルは晴れ晴れした気分で眺めニヤリと笑う。
不穏な空気は重みを増してテディの足元はグラグラと今にも崩れ落ちそうな錯覚を覚えていた。
そんな空気を救うかの様に、ダニエルの目の前の扉がガチャリと開く。
中からテディと同じ格好の黒髪のレティアーナが驚いた顔で出てきた。
「2人とも、こんな所で何しているの?あ、テディ、私の鞄持ってきてくれたんだ?ありがとう。服を変えたから薬の入ったバンダナ縫い付け直したくって裁縫道具が欲しかったのよ………って、テディ?どうしたの?顔色悪いけど大丈夫?」
テディの額に手を当てて熱を確認する仕草にこれまたダニエルは苛立ちを覚えたが、ダニエルが口を開く前に青い顔のまま何処か遠くを見るような目でテディはレティアーナにポツリと問いかけた。
「レティは…そこの男の事が好きなんですか……?」
「っは?」
今にも泣き出しそうな顔でテディはゆらゆらと鳶色の瞳を揺らしている。
レティアーナは突拍子もない質問に耳を疑い、言葉の意味を理解すると同時に慌ててそれを全力で否定した。
「ないないないない!絶対にないわ!努力は認めるけどそういう感情は彼には抱けないから!」
ブンブンと思い切り首を横に振るレティアーナを見て、今度はダニエルの背中から心臓にかけてぐさりと鋭い何かが突き刺さった。
「絶対にって……酷くないか…?」
その呟きは小さ過ぎて幸か不幸か慌てたレティアーナの耳には届いていなかった。
全力否定するレティアーナの様子に幾分かテディは気を取り直し、
「ですが、彼はレティと将来の約束をして…その、キスも………した、と……」
と、訝しげにおずおずと尋ねた。
ここまで全力で否定していたんだからこれも嘘だろうとテディは少し安心していた。
が、レティアーナの直後の反応を見て再び絶望に落とされた。
「なっ!ななな……何て事を言うの貴方は!!」
真っ赤な顔でレティアーナはダニエルに振り返りぐいいっとダニエルの頬っぺたをつねって訴える。
「いてててて、なんだよ。本当の事だろうが!俺はお前にキスをしたし、お前は観念すると確かに言ったぞ!」
「あっ、貴方ねぇ!いい加減その自分の都合に良い様に解釈する癖辞めてくれないかしら?!私は良い人が見つからなければ観念するとはいったけど、貴方と将来を誓うと言った覚えはないわ!そ、それに!キスは……貴方の不意打ちじゃない!」
「本当にしたんですか?!キスを?!」
一際大きな声でテディは頭を抱え後ろによろよろとよろけてしまう。
その悲痛な叫びがあまりに大きくて、レティアーナもダニエルも驚いてテディに振り向いた。
「えっ、あのっ、ち、ちがうのよ?キ、キスって言っても唇じゃないし…あ……近かった…かもしれないけど…とにかく違うから!不意打ちだったし、別に彼が好きとかそういうのじゃないから!」
真っ赤になったり青くなったりするレティアーナの後ろで、憮然としながらダニエルは、
「ハニーだって俺にしてくれたじゃないか」
などとさらに誤解を招く様な事をいう。
「だからなんでそういう事を言うのよ!アレはおでこだったし、親愛以上でも以下でも無いわよ!私の大事な友達に妙な事を吹き込むのはやめて!」
2人の言い合いをヘナヘナとその場に座り込んで茫然と見つめていたテディはポツリと、
「ユニコーンに頼んだ意味がない……」
と頭を抱え、帰ったらダニエル・ペペス著書の本は全て閲覧禁止にして領地にある本は全て回収して燃やしてしまおうと固く誓ったのだった。
皇太子殿下の命令でノートウォルドの地図を完成させ、その後に下された命はダニエルにとってこの上なく幸運な指令だったと言える。ハニエルに再会した瞬間を何度となく想い描き、どのように自分をアピールしよう?いやその前にお礼を言って…といった感じで考えてあぐね、今度という今度は逃がさないと心に決めていた。
ところがどうだろう。ハニエルを見つけ、裏路地まで引っ張って来たまではよかった。
彼女が振り返って自分を見上げた瞬間にお礼の言葉はもとより、幾つも考えていた甘い言葉などすっかり頭の中から消え去ってしまったではないか。
目の前にいたのは2年前船上で化粧をした時の彼女そのものだった。
気の利いたセリフどころか話のペースは相変わらずハニエルのペースで、彼女が自分に好意を抱いている様子など全く持って進展してる気がしなかった。
更に最悪な事に殿下曰く、他国からの客人リオ様の弟君でテディと呼ばれた青年がどうもハニエルと親しい間柄の様なのだ。
部屋に閉じ込められ、解放された直後に見た光景に愕然とした。
ハニエル曰く友達らしいのだが、見るからに自分に接するそれと態度が違う。
過去の自分の印象が彼女の中で最悪なのは重々承知だが、かといってメルに接する態度と同等かと考えた時でも、やはり何かが違うと嫌な胸騒ぎが警告を発する。
少なからず、テディと呼ばれたあの男はハニエルに対して自分と同じ感情を抱いていると確信出来る。
ハニエルが奴に触れる手や奴がハニエルに触れる行為をありありと思い出し、ムカムカと気がつけば扉を険しい顔で睨みつけていた。
これからハニエルと奴と2人だけで船に乗り込むという事実が焦燥感に拍車がかかっていた。
不意にギシギシと、木製の階段を上ってくる音が近づいてくる。
そちらを向けば手に見覚えのある肩掛け鞄をもった黒髪の女性が立っていた。
パッとみれば女性だが、その顔は今とても見たくない顔であるのは確かだ。
ダニエルに気がついたその女ーーテディは冷ややかな視線で彼に話しかけた。
「女性の部屋の前で一体何をしているんです?感心出来ませんね」
ダニエルは「はんっ!」と悪態をつくと、負けじとテディを睨みつけた。
「ハニーに悪い虫がつかないように見張ってんだ!そういうあんたこそ、その手に持ってるのは何だ。ハニーの鞄じゃないのか?人の物を勝手に持ち歩くのは非常識だと思うが?」
「宿に置きっ放しの荷物を取りに行ってただけですよ。そもそもココに見張りなんて要らないでしょう。悪い虫というのは一体誰の事を指すのでしょうね?」
不穏な空気を放ちながら、お互い一歩も引かずに睨み合いを続ける。
近くを通りかかった兵士が思わず「ひっ」と悲鳴を上げて元来た道へ引き返して行く程その場は冷えに冷え切っていた。
「この際だからハッキリしとこうじゃねぇか」
と、ダニエルは言う。
「ハニーと俺は身分こそ釣り合わないが将来を約束した仲だ。下手に手ぇだそうなんてすんじゃねぇぞ!」
テディはそんな牽制にも動じることなく、しかし殺気を強めて冷笑を浮かべダニエルに対抗する。
「っふ…それは嘘だな。僕の所にはほぼ毎日の様にレティから手紙が届くんだ。確かにお前の事が手紙に書かれていた時期もあったが好意的な内容とはとても言い難かったのをよく覚えている」
その言葉にダニエルは目を見開く。
毎日だと?!俺の所には極偶にしかこないってのに!……いや、こいつもハッタリをかましているだけに違いない。
ここで動揺して見せたら負けだ!
と思いつつも、ヒクリと頬が引きつった状態でダニエルは笑みを浮かべる。
「ッハ!照れ隠しって言葉を知らないのか?ハニーは言いたいことははっきり言うが恋愛に関しては照れ屋だからな。俺がキスをした時なんて真っ赤になって可愛いもんだったぜ!」
「なっ、嘘だっ!彼女がそんな事お前に許すわけがない!!」
「ふん、だったらハニーに聞いてみればいい。同じように真っ赤になって頷くさ」
嘘は言っていない。ギリギリ口ではなかったのが悔やまれるが。
ダニエルの思惑通り、キスと聞いてテディは激しい動揺を見せた。
青くなって愕然とするテディをダニエルは晴れ晴れした気分で眺めニヤリと笑う。
不穏な空気は重みを増してテディの足元はグラグラと今にも崩れ落ちそうな錯覚を覚えていた。
そんな空気を救うかの様に、ダニエルの目の前の扉がガチャリと開く。
中からテディと同じ格好の黒髪のレティアーナが驚いた顔で出てきた。
「2人とも、こんな所で何しているの?あ、テディ、私の鞄持ってきてくれたんだ?ありがとう。服を変えたから薬の入ったバンダナ縫い付け直したくって裁縫道具が欲しかったのよ………って、テディ?どうしたの?顔色悪いけど大丈夫?」
テディの額に手を当てて熱を確認する仕草にこれまたダニエルは苛立ちを覚えたが、ダニエルが口を開く前に青い顔のまま何処か遠くを見るような目でテディはレティアーナにポツリと問いかけた。
「レティは…そこの男の事が好きなんですか……?」
「っは?」
今にも泣き出しそうな顔でテディはゆらゆらと鳶色の瞳を揺らしている。
レティアーナは突拍子もない質問に耳を疑い、言葉の意味を理解すると同時に慌ててそれを全力で否定した。
「ないないないない!絶対にないわ!努力は認めるけどそういう感情は彼には抱けないから!」
ブンブンと思い切り首を横に振るレティアーナを見て、今度はダニエルの背中から心臓にかけてぐさりと鋭い何かが突き刺さった。
「絶対にって……酷くないか…?」
その呟きは小さ過ぎて幸か不幸か慌てたレティアーナの耳には届いていなかった。
全力否定するレティアーナの様子に幾分かテディは気を取り直し、
「ですが、彼はレティと将来の約束をして…その、キスも………した、と……」
と、訝しげにおずおずと尋ねた。
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「本当にしたんですか?!キスを?!」
一際大きな声でテディは頭を抱え後ろによろよろとよろけてしまう。
その悲痛な叫びがあまりに大きくて、レティアーナもダニエルも驚いてテディに振り向いた。
「えっ、あのっ、ち、ちがうのよ?キ、キスって言っても唇じゃないし…あ……近かった…かもしれないけど…とにかく違うから!不意打ちだったし、別に彼が好きとかそういうのじゃないから!」
真っ赤になったり青くなったりするレティアーナの後ろで、憮然としながらダニエルは、
「ハニーだって俺にしてくれたじゃないか」
などとさらに誤解を招く様な事をいう。
「だからなんでそういう事を言うのよ!アレはおでこだったし、親愛以上でも以下でも無いわよ!私の大事な友達に妙な事を吹き込むのはやめて!」
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