ウイニー王国のワガママ姫
交差する道 6
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宿屋に着くと、部屋を二つ取って荷物を置いてからテディとメルが私達の部屋に集まった。
ピアは2人が入ってくると私の後ろに隠れるようにしてスカートの裾をギュッと掴んだ。
男の人に追い掛けられてたから、もしかして男の人が怖いのかしら。
「ピア?2人とも貴女に何も酷い事はしないわ。大丈夫だから。ほら、怖いならこうしとこっか」
そう言って私はベッドに座ると、ピアを私の膝の上に座らせて抱きかかえた。
ピアの緊張が少しだけ解れ、ホッと背中を預けてきたのがわかった。
頭を撫でてあげるとピクピクとくすぐったそうに蒼く透き通った長い耳が動く。
(カワイイわ!妹がいたらこんな感じなのかしら?)
目を輝かせながらそんな事を考えていたら、コホンとテディが咳払いをした。
そちらを見るとチョット複雑そうなテディの顔。
あ、いけない。話を聞かないとだわ。
「ごめんなさい」と口をパクパクさせると、テディはニコッと笑ってくれた。
「ねぇ、ピア。ピアはどうしてあの人達に追いかけられていたの?」
怖がらせないようになるべく優しく語りかける。
それでもピアは余程怖かったのか、またピクッと身体を少し硬直させた。
「わかんない…私逃げて来たの。大人の人に捕まって…ママが私を庇って逃げなさいってずっと走ってここまで来たの。そしたら、あのおじさん達が町に入った所で追いかけて来て」
ブルブルとピアは震え出す。
私はテディやメルと顔を見合わせると、今度はメルがピアの前にしゃがみこんで宥めるように話し掛けた。
「逃げてきたってどこから逃げて来たの?君のお家は?」
ピアはおずおずと私を振り返る。私はにっこり頷くと、ホッとしてピアはメルに俯きながら答えた。
「ずっと前はノートウォルドの町外れに住んでたの。でも、町から人がいっぱい来て、近所に住んでたお友達も皆何処かに連れて行かれちゃったの。だからママと色んな所に隠れてたの。でもすぐに見つかっちゃって…ママ……」
「ピア…ごめんね。辛いこと思い出させちゃったね」
ポロポロと泣き出してしまったピアをギュッと抱きしめて優しく頭を撫でた。
この話は間違いなく人身売買の話だわ。
もしかしたらピアのお母さんももう海の向こうに…
グッと唇を噛みしめて、テディに目を向ける。
始終のやりとりを見て何か考える仕草をしていたテディは、私の泣きそうな視線に気がつくと少し苦笑して頷いてみせた。
「ピアさんはその人達に1度捕まったんですよね?その後お母さんにそこから逃がしてもらった。それであってます?」
テディの問いにピアはコクリと頷いた。
「では、その連れて行かれた場所が何処にあったかは覚えてますか?」
ピアは1度テディをジッと見つめた後、フルフルと首を横に振った。
「いっぱい走って逃げたからよく覚えてない。町もあんまり行ったことが無かったから。ごめんなさい」
俯いたまま答えたピアにテディはニッコリ微笑んで、
「いえ、仕方ないことです。気にしないで下さい」
と答えた。ただ、テディの目は笑ってる様には見えなかった。
偶にするテディのあの顔って何か意味があるのかしら?
まるで何かを覆い隠そうとしてるみたいな…
首を傾げてテディを見ていると私の視線に気がついたテディは「ん?」といつもの笑顔で首を傾げて見せた。
私は首を横に振って答える。
「危険だとは思うんだけど、やっぱりノートウォルドに行ってみない事には何もわからないと思うの。でも、ピアはどうしたらいいかしら」
半獣族を捕まえて売り捌いているだけにピアを連れて行く何て事出来るはずがない。
かと言ってここに1人残して行くわけにも…
「勿論彼女も連れて行きますよ?町を歩いている間に思い出すかもしれませんし」
テディのらしからぬ発言に私もメルも目を見開く。
「そんな!危険です!彼らは半獣族の子供や女性を狙ってるんですよ?この子を危ない目に合わせるなんて酷いです!」
「メルの言う通りよ!小さな女の子を危険な目に合わせるなんて!テディらしくないわ!」
私とメルがテディに抗議すると、テディは苦笑しながら肩を竦めた。
「僕らしく無い、ですか?うーん。僕は常に最善の方法を導き出しているつもりですが…仮にここにピアさんと誰かが残ったとして、追っ手が来ないとも限らないと思うんですよ。そうなった時メルさんやレティ1人で彼女を守れますか?僕は約束があるのでここに残る事は出来ませんし」
テディの言葉に私もメルも言葉を詰まらせる。
流石に追っ手が来るかもしれないなんて事まで考えていなかった。
「どっちにしろピアにとって危険な事には変わりないって事ですか?」
メルはおそるおそるテディに声を掛ける。
「隣町ですからね。さっきの一連の騒動で気付かれてもなんら不思議ではないと思いますし。それなら僕達と一緒にいる方がピアさんはまだ安全だと思いませんか?」
確かに、あれだけ派手に男達達が武器を持って女の子を…しかも半獣族の子を追いかけ回していたんだから噂になっていても可笑しくないわね。
テディらしく無いなんて私酷いこと言ってしまったわ。
テディはちゃんと色んな事を考えて導き出した結果なのに。
私は自分の放った言葉に後悔してテディに頭を下げる。
「ごめんなさいテディ。テディはいろいろ考えた上で提案してくれたのにテディらしくないなんて酷いことを言ってしまったわ。ピアを連れて行くのはまだ少し不安だけど…他にいい案私には思い浮かびそうに無いわ」
テディはギョッとして頭をブンブン振りながら私に両手を振ってみせる。
「いやっ、そんな、謝らないで下さい!確かにレティやメルさんが言う通り危険な事には変わりないんですから。ただ、出来うる限り守らせて頂きますから安心して下さい。ピアさん、戻るのは怖いと思いますが、貴女のお母さんを助ける為と思って申し訳無いですが我慢して頂けませんか?僕達どうしてもノートウォルドに行かなければならないんです」
ピアはテディにチラッと視線を移すと、ギュッと私の腕を掴んでから小さく頷いてポツリポツリと小さな声で答えた。
「ママを助けてくれるなら、私も我慢する」
「大丈夫だよ、君のママも助けるし、君の事も守ってあげるからね」
メルはそう言ってピアの頭を優しく撫でる。
メルはきっと以前セグで助けられなかった半獣族の事を思い出しているんだろう。
それに孤児だったメルにとって人身売買は他人事の話ではないのだ。
かつて私を助けてくれた時、初めてじゃないからと言っていた。メルの容姿は人を惹きつける。
彼は自分の事をあまり話さないけど、きっと私に会う前から似たような目にあっていたのだと思う。
ピアを抱きしめる腕を強く握り締めると、私は笑顔で語り掛けた。
「そうね、大丈夫よ。ピアは私達が守るしお母様だって助けるわ!それにテディは凄く強いんだから。ね?」
私がテディに振り返ると、テディは少しだけ困った顔で「あまり買い被らないで下さい」と何故だか何処か寂しげに呟いた。
宿屋に着くと、部屋を二つ取って荷物を置いてからテディとメルが私達の部屋に集まった。
ピアは2人が入ってくると私の後ろに隠れるようにしてスカートの裾をギュッと掴んだ。
男の人に追い掛けられてたから、もしかして男の人が怖いのかしら。
「ピア?2人とも貴女に何も酷い事はしないわ。大丈夫だから。ほら、怖いならこうしとこっか」
そう言って私はベッドに座ると、ピアを私の膝の上に座らせて抱きかかえた。
ピアの緊張が少しだけ解れ、ホッと背中を預けてきたのがわかった。
頭を撫でてあげるとピクピクとくすぐったそうに蒼く透き通った長い耳が動く。
(カワイイわ!妹がいたらこんな感じなのかしら?)
目を輝かせながらそんな事を考えていたら、コホンとテディが咳払いをした。
そちらを見るとチョット複雑そうなテディの顔。
あ、いけない。話を聞かないとだわ。
「ごめんなさい」と口をパクパクさせると、テディはニコッと笑ってくれた。
「ねぇ、ピア。ピアはどうしてあの人達に追いかけられていたの?」
怖がらせないようになるべく優しく語りかける。
それでもピアは余程怖かったのか、またピクッと身体を少し硬直させた。
「わかんない…私逃げて来たの。大人の人に捕まって…ママが私を庇って逃げなさいってずっと走ってここまで来たの。そしたら、あのおじさん達が町に入った所で追いかけて来て」
ブルブルとピアは震え出す。
私はテディやメルと顔を見合わせると、今度はメルがピアの前にしゃがみこんで宥めるように話し掛けた。
「逃げてきたってどこから逃げて来たの?君のお家は?」
ピアはおずおずと私を振り返る。私はにっこり頷くと、ホッとしてピアはメルに俯きながら答えた。
「ずっと前はノートウォルドの町外れに住んでたの。でも、町から人がいっぱい来て、近所に住んでたお友達も皆何処かに連れて行かれちゃったの。だからママと色んな所に隠れてたの。でもすぐに見つかっちゃって…ママ……」
「ピア…ごめんね。辛いこと思い出させちゃったね」
ポロポロと泣き出してしまったピアをギュッと抱きしめて優しく頭を撫でた。
この話は間違いなく人身売買の話だわ。
もしかしたらピアのお母さんももう海の向こうに…
グッと唇を噛みしめて、テディに目を向ける。
始終のやりとりを見て何か考える仕草をしていたテディは、私の泣きそうな視線に気がつくと少し苦笑して頷いてみせた。
「ピアさんはその人達に1度捕まったんですよね?その後お母さんにそこから逃がしてもらった。それであってます?」
テディの問いにピアはコクリと頷いた。
「では、その連れて行かれた場所が何処にあったかは覚えてますか?」
ピアは1度テディをジッと見つめた後、フルフルと首を横に振った。
「いっぱい走って逃げたからよく覚えてない。町もあんまり行ったことが無かったから。ごめんなさい」
俯いたまま答えたピアにテディはニッコリ微笑んで、
「いえ、仕方ないことです。気にしないで下さい」
と答えた。ただ、テディの目は笑ってる様には見えなかった。
偶にするテディのあの顔って何か意味があるのかしら?
まるで何かを覆い隠そうとしてるみたいな…
首を傾げてテディを見ていると私の視線に気がついたテディは「ん?」といつもの笑顔で首を傾げて見せた。
私は首を横に振って答える。
「危険だとは思うんだけど、やっぱりノートウォルドに行ってみない事には何もわからないと思うの。でも、ピアはどうしたらいいかしら」
半獣族を捕まえて売り捌いているだけにピアを連れて行く何て事出来るはずがない。
かと言ってここに1人残して行くわけにも…
「勿論彼女も連れて行きますよ?町を歩いている間に思い出すかもしれませんし」
テディのらしからぬ発言に私もメルも目を見開く。
「そんな!危険です!彼らは半獣族の子供や女性を狙ってるんですよ?この子を危ない目に合わせるなんて酷いです!」
「メルの言う通りよ!小さな女の子を危険な目に合わせるなんて!テディらしくないわ!」
私とメルがテディに抗議すると、テディは苦笑しながら肩を竦めた。
「僕らしく無い、ですか?うーん。僕は常に最善の方法を導き出しているつもりですが…仮にここにピアさんと誰かが残ったとして、追っ手が来ないとも限らないと思うんですよ。そうなった時メルさんやレティ1人で彼女を守れますか?僕は約束があるのでここに残る事は出来ませんし」
テディの言葉に私もメルも言葉を詰まらせる。
流石に追っ手が来るかもしれないなんて事まで考えていなかった。
「どっちにしろピアにとって危険な事には変わりないって事ですか?」
メルはおそるおそるテディに声を掛ける。
「隣町ですからね。さっきの一連の騒動で気付かれてもなんら不思議ではないと思いますし。それなら僕達と一緒にいる方がピアさんはまだ安全だと思いませんか?」
確かに、あれだけ派手に男達達が武器を持って女の子を…しかも半獣族の子を追いかけ回していたんだから噂になっていても可笑しくないわね。
テディらしく無いなんて私酷いこと言ってしまったわ。
テディはちゃんと色んな事を考えて導き出した結果なのに。
私は自分の放った言葉に後悔してテディに頭を下げる。
「ごめんなさいテディ。テディはいろいろ考えた上で提案してくれたのにテディらしくないなんて酷いことを言ってしまったわ。ピアを連れて行くのはまだ少し不安だけど…他にいい案私には思い浮かびそうに無いわ」
テディはギョッとして頭をブンブン振りながら私に両手を振ってみせる。
「いやっ、そんな、謝らないで下さい!確かにレティやメルさんが言う通り危険な事には変わりないんですから。ただ、出来うる限り守らせて頂きますから安心して下さい。ピアさん、戻るのは怖いと思いますが、貴女のお母さんを助ける為と思って申し訳無いですが我慢して頂けませんか?僕達どうしてもノートウォルドに行かなければならないんです」
ピアはテディにチラッと視線を移すと、ギュッと私の腕を掴んでから小さく頷いてポツリポツリと小さな声で答えた。
「ママを助けてくれるなら、私も我慢する」
「大丈夫だよ、君のママも助けるし、君の事も守ってあげるからね」
メルはそう言ってピアの頭を優しく撫でる。
メルはきっと以前セグで助けられなかった半獣族の事を思い出しているんだろう。
それに孤児だったメルにとって人身売買は他人事の話ではないのだ。
かつて私を助けてくれた時、初めてじゃないからと言っていた。メルの容姿は人を惹きつける。
彼は自分の事をあまり話さないけど、きっと私に会う前から似たような目にあっていたのだと思う。
ピアを抱きしめる腕を強く握り締めると、私は笑顔で語り掛けた。
「そうね、大丈夫よ。ピアは私達が守るしお母様だって助けるわ!それにテディは凄く強いんだから。ね?」
私がテディに振り返ると、テディは少しだけ困った顔で「あまり買い被らないで下さい」と何故だか何処か寂しげに呟いた。
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